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第77話:少女と【巨大ザメ】。

 

「あ、絵菜ちゃーんこっちこっちー早くきてーっ!」


 ルキヤ……もとい、あこと皆を追いかけると奈那がやたらとテンション高めにこちらに手を振ってくる。

 可愛いのだけれど他のお客さんも居るんだからあまり大声は出すんじゃないぞー?


「はいはいどーした?」

「見て見て凄いよおっきなサメ!」


「……おー、ほんとにめっちゃでっけーサメだな。……ん? ちょっと待てアレって……」


 詳しくないから何ていうサメなのかは分からないけどとにかく巨大ザメが泳いでいる水槽の中に、ぼちゃん、と何かが落下してきた。


 というか上から飛び込んだのか?


「おねーさま、あれ人じゃありません?」

「おいおい嘘だろ何やってんだあいつ」


 うさこの言葉に反応したのは私ではなく咲耶ちゃん。

 そりゃいきなりサメの水槽に飛び込むなんてどうかしてる。


「絵菜ちゃん、あの子……私服みたいだけどもしかして落ちちゃったのかな?」


 私にひそひそ話をするように背後からルキヤが呟いた。


「……いやいや、さすがに違うだろ」


 そもそもバックヤードになんであんな子供がいるんだよ。……って、子供?


 見るからに小さい子供だ。

 ダイバーとかそんな感じでもないし水族館関係者じゃなさそうだ。

 バックヤードに迷い込んで水槽に落ちた?

 ……ってヤバすぎだろ!


 しかも何故だか知らんがその子供は水槽の魚に配るようの餌バケツを抱えていたらしくそれが一緒にぶちまけられている。


 つまり。


「おねーさま! サメが子供に向かってますわ!」

「おいおいしゃれにならねーって!」


 とはいえ分厚い水槽越しじゃ私達に出来る事なんて何もない。

 ヒヤヒヤしながら見守るしかない。


 後ろから私の脇腹あたりをルキヤが掴み、その手に力が入る。

 左に奈那、右にうさこがしがみ付く。


「おいおいマジか……あたしだってサメとはやった事ねぇぜ」


「咲耶ちゃん、今それどころじゃ……」


 水槽に落ちた子供はしばらくジタバタ手足を動かしてもがくようにしていたが、サメが自分に向かってくるのに気付くと、むしろサメに向かって体勢を整えだした。


「あの子供いったい何を……早く逃げてくれよ」


 このままじゃ大変な事に……!


 周りの客も異常事態に気付き、あちこちで悲鳴があがる。


 サメが本格的に、落ちてきた餌ではなく子供に向かって猛スピードで突進し、誰もが【もうだめだ】と諦めかけた時、その場に一人だけ。


 一人だけケラケラ笑いながら声援を送る人物がいた。


「いけーっ! そこだ! やっちまえーっ!」


 その場にいた人々が皆、その声の主に注目する。

 そりゃそうだろう。非常識にも程がある。

 だけど、私は。

 私だけは咲耶ちゃんの言葉を無視して子供の方を見ていた。


 だって、サメが向かってくるのに一切怯えていなかったから。


 その子供、その少女は向かってくる巨大なサメを前に、むしろ笑っていたのだ。


 皆の視線が咲耶ちゃんに集中しているその一瞬。

 水中とは思えない速さでその少女が拳を振り抜いた。


「よっしよくやったッ!」


 咲耶ちゃんの歓声に、皆が子供へ視線を戻した時には既に、巨大なサメは腹を上に……ひっくり返る形で意識を失っていた。


「え、絵菜ちゃん……今、何がおきたの?」


 ルキヤの言葉すぐ返事が出来なかった。


「……嘘でしょ?」


 私は見た。

 少女が、迫りくるサメの鼻先を思い切り殴りつけた。

 それだけだった。


 確かサメとかの鼻先にはロレなんとかいう器官があって、襲われたらそこを叩けとかなんとかいうけど、別にそこを的確に打ちつけたからとかそんなもんじゃない。


 私は見た。

 殴りつけられたサメが物凄い勢いでその場でぐるぐると回転して意識を失ったのを。


 水中であの巨体を殴りつけてあれだけの勢いで回転させるって、ただ事ではない。


 私にできるかと聞かれたら百パーセントでノーだ。

 もしかしたら咲耶ちゃんなら出来るのかもしれないけど。


「あーっ、いいなぁ~っ! サメとタイマンしてみてぇーっ!」


 咲耶ちゃんは最初から一切動揺してなかった。

 まるであの子供がサメに食べられてしまう可能性なんて全く無いと分かり切っているような態度だった。


「咲耶ちゃん、あれ誰……? 知り合い?」


「ん~? なんて言うかなぁ、簡単に言うとあたしの元カレにぞっこんラブな馬鹿弟子……ってとこかな」

「ちょっと待って情報が渋滞してる」


 咲耶ちゃんの元カレとかいうパワーワードもさることながらその人に夢中な咲耶ちゃんの弟子??


「まぁあいつの事は心配いらないだろ。一通り見て回ったら紹介してやるからとりあえず水族館を楽しもうぜ」


 そう言って何事も無かったように咲耶ちゃんは足取りを弾ませて先に行ってしまった。


 水槽を見るともうあの少女の姿は無い。



「さっきの子は大丈夫……だったんだよね?」


 心配そうにしてる奈那の頭を撫でて「大丈夫だよ」と言うと、しばらくこちらをじっと見つめてから、緊張が解けたらしくよろよろと私に身体を預けてきた。


「おっと、しっかりしろって。まだまだ見る所は沢山あるぞ?」

「……うん、そうだね♪」

「おねーさま! 私もなでなでしてほしーですわ」

「はいはいおーよしよし」



 チラリと振り返るとあの阿呆は柱の陰に隠れてこちらを盗み見ては目をバッキバキに見開いてて怖かった。




 はぁ、それにしても……世の中、人外って咲耶ちゃんだけじゃないんだなぁ……。







前回からとんでもない時間が経過してしまいました。

諸事情でいろいろあったり手が回らなかったりいろいろありまして、更新が滞り続けていましたが完結させずに終了する気は今の所、というか今でもありませんので、まだ追ってくれている方は本当に気を長く間って頂けると助かりますm(__)m

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