第70話:【命】と【大金】と【はした金】。★
「本当にこれでうまく行くのか?」
「うまくいくかどうかじゃねぇんだよ。なんとかしろ」
無茶ぶりがすぎる……。
あの後私は咲耶ちゃんの昔馴染みとかいうお嬢様と引き合わされた。
以前遊びに行ったホテルの経営者であり、日本有数というか最大の財閥、御伽のトップなのだそうだ。
なんというかもうオーラが凄かった。
物凄い豪邸に連れていかれて沢山のメイドに出迎えられ、ザ・執事って感じのおじいさんとか、とても使用人には見えないようないかつい外人さんとかがいて私の場違い感半端なかった。
私を見るなり御伽……有栖さんというのだが、有栖さんは「この子は使えますわ」と言ってメイドに指示を出し、私は別室で無理矢理ひん剥かれた。
で、現在うさこのお見合い会場前まで来ている。
「結局私は何をすればいいのさ」
「おいおいちゃんと打ち合わせしただろ? 頼むぜズゥオムー」
ズゥオムー・フゥイツァイ。
ややこしい上に発音しにくいが、どうやらこれが私に与えられた名前らしい。
佐々木絵菜、を無理矢理中国っぽい名前に読み替えているらしいんだけど真偽のほどは私には分からなかった。
つまり、今私は中国人なのだ。
しかも性別まで男という事にされている。
「ここからはお前の迫力が全てだからな? うまい事やれよ」
どう考えても頭の悪い作戦なのだが……これ本当に有栖さんが考えたのだろうか?
もしそれが本当ならあの人結構適当というか、茶目っ気があるというか……うーん、ダメだいくら言葉を選んでもしっくりこない。
馬鹿なのでは……?
本当に失礼極まりないがこの言葉が一番しっくりくる。
今の私の風貌と言えば、白のタキシードと白いハットに身を包み、完全にこの状況から浮きまくっている。
「いい加減覚悟決めろ」
「分かってる。今から気持ち入れるから……準備くらいさせろって」
「私だって付き合ってやるんだから安心しろよ。万が一の時は……」
「だから皆殺しはダメだって」
「そうならないように頑張れ」
おぉ……責任が重すぎる。私の行動にいったい何人の命がかかっているのやら……。
でも、最悪の場合……本当に最悪の展開になるけれどうさこを助け出す事だけはできるという安心感は持てた。
この人に任せておけば本当にやってしまいそうっていう確信がある。
そうはならないように努力はするけれど。
「そろそろ見合いが始まる時間だ。もう少ししたら突入するぞ」
ついにこの時が来た。気持ちを入れ替えろ。役に入り込め。
私はチャイニーズマフィア私はチャイニーズマフィア。
「……よし、じゃあ行こうか」
「オーケー、ボス」
私には一生縁の無さそうな高級料亭へと踏み込む。
「お客様、本日は貸し切りとなっておりまして……」
「……中に少し用があってね。迷惑をかけるかもしれないが許してくれ」
綺麗なお姉さんが慌てて私を止めに来たので、その場に膝をつき彼女の掌にキスをしてこちらの誠意を伝える。
「あっ、そ、その……わかりました……どうぞ」
と簡単に道を開けてくれた。
「ありがとう。素敵なレディ」
「チャイニーズマフィアじゃなくてただの女ったらしじゃねぇか……」
咲耶ちゃんがボソリとそんな事を呟いていたが気にしない。
そもそもチャイニーズマフィアっぽくするのってどうやるんだよ。
私は私の中のマフィア像を再現するしかない。
ジェントルで、優しく、しかし時には獰猛な牙を光らせ、躊躇と迷いは存在しない。
敵だと判断したらそこに慈悲は無い。やるなら徹底的に。
それが私のマフィア像である。
かなり偏ったイメージだと我ながら思うが、多分昔見た漫画とか映画とかに影響されてるんだろう。
何故だか分からないけれど、廊下を進んでいく毎に心臓は落ち着いていく。
頭も冴えていく。
廊下の奥の部屋。どの部屋も障子で仕切られているような場所で何故すぐに分かったかといえば、障子の前にサングラスで黒スーツに身を包んだ男の人が二人、見張っていたからだった。
やがてその二人がこちらに気付く。
「失礼、どちら様ですか? 今この中で重要なお見合いをしておりまして、申し訳ありませんがお通しする訳にはいきません」
「右に同じ」
あぁ、一流企業ともなると見張りすら品がいいな。
「残念だけれど君達が何を言ったとしても僕は押し通るよ。怪我をしたくなければさがれ」
「そういう訳には参りません。そもそも貴方がたはいったい誰なっ……」
男はその先を口にする事が出来なかった。
通す気が無いというのだからどうなったっていいのだろう。こちらは先に忠告しているんだし。
「な、何をするんです!?」
「おめーも寝てな」
咲耶ちゃんがもう一人をサクっと落としてくれた。
私も咲耶ちゃんもみぞおちに一発。
人間の意識を刈り取るっていうのは意外と難しくて、お腹殴られたくらいで意識を失うっていうのは相当だ。
現に、私が殴った方は泡噴いて痙攣してるだけだけど咲耶ちゃんがやった方は完全に意識が無くなって寝てるみたい。
いつも思うけれどこの人はいったいなんなんだろう?
「ほれ、行くぞボス」
「あ、あぁ」
余計な事を悩んでいる暇は無い。
ガララっ! 勢いよく障子戸を開け放つと、そこには有栖さん、そして着物を着ておしとやかそうにしているうさこ、見合いの相手だろう人物……そして、うさこの父親っぽいおっさんが居た。
「なんだお前達は……外に居た二人はどうした?」
「あぁ、見張りなら寝てるよ」
うさこは私の顔を見て驚き、今にも叫びそうになったので、私は口の前に人差し指を当て、静かに、と意思を伝える。
「け、警察を!」
父親らしき人物がスマホを取り出すが、一瞬でそのスマホがバギャンという音を立てて砕け散る。
「動くな」
咲耶ちゃんが小石を指で弾いてスマホを打ち抜いたようだ。パッと見、銃で撃たれたようにしか思えないだろうな。やっぱり人間じゃねぇ。
「ひっ、だ、誰か! 警察を呼んでくれ!」
「やめた方がいいですわよ」
慌てふためくおっさんに有栖さんが冷ややかに言う。
ちなみに見合い相手は料理が並べられている机の下に隠れてしまった。
「お、御伽さん、こいつが誰なのかご存知なのですか?」
「その筋では有名な人です。死にたくなければ大人しくすべきですわ」
「な、何者……」
有栖さんが私に目配せしてきた。自己紹介は自分でやれって事だろう。
「僕の名前はズゥオムー・フゥイツァイ。君達にも分かりやすく言うなら、そうだね……マフィアってところかな?」
「マフィアだって……? な、なぜそんな奴がこの見合いに……!?」
この親父なかなか肝が据わっている。怯えては居るものの、屈しないという姿勢が見て取れた。
「僕はね、ただ自分の女を取り戻しに来ただけだよ。少なくともテーブルの下で震えているようなガキにくれてやる訳にはいかないね……こちらへおいで、翔子」
「なっ!?」
親父がうさこへ勢いよく振り返る。
「お、お前……この、この男と……!?」
見つめてくるうさこに微笑みながら頷いてやると、意を決したように彼女もうなずいた。
「ええ、お父様ごめんなさい。やっぱり私はあの方を忘れられません。このお見合いは……なかった事にさせて頂きます」
「ふざけるなっ! この見合い、この結婚にいったいどれだけの金額がかかっていると思ってるんだ!!」
「翔子、こちらへおいで。時に翔子の父上よ、一つ聞くがこの結婚が上手く言ったらいったいいくらの【はした金】が動くと?」
親父は口をあんぐりと開けて固まる。
「は、はした……金?」
「そうさ。無理を通してこの見合いを成功させ、僕を敵に回す。君はいったいいくらの【はした金】を得る為に【大金】と【命】を捨てるつもりだい?」





