第69話:【奥の手】は皆殺し。
あんの馬鹿野郎……いったいどこ行きやがった?
見合いの日にちは明後日だぞ……? 今うろうろして見つかったらどうする気なんだ。
私はすぐに家を飛び出した。まだそんなに遠くには行ってないはずだから。すぐに見つけて連れ帰る。
そうじゃなきゃ杏子さんの作戦が全部無駄になっちゃうじゃないか。
杏子さんはうまい事やれば玉の輿だって喜んでたけどアレは絶対本心じゃ無いと思う。
うさこを庇って……だから彼女の気持ちを無駄にしてはいけない。
……違う。
そうか、うさこも私と同じ事を思ったのかもしれない。
或いは、とっくにそうだと確信していたか。
だとしたら、うさこは逃げ回るどころかお見合い会場に直接乗り込む可能性すらある。
最後の最後に私と一緒にいる時間を思い出にでもするつもりで……?
畜生。そこまで思いつめてたなんて全く気付かなかった。
いつもあっけらかんとしたその態度に、私は油断していたのかもしれない。
あの子の境遇に私が勝手に怒ったりイライラしたりして、許せないと憤って……自己満足していたんだ。
あの子はとっくに覚悟を決めていて、私なんかが一人やきもきしていたって何も変わらないのがちゃんと分っていて、自分を犠牲にする事を受け入れていて……。
それで最後の思い出作りに来たんだ。
勿論それすら私の勝手な妄想だけれど、きっとそうなんだろうという妙な確信がある。
今思えばうさこは一緒に居る間普段よりも更にぶっとんだ要求をしてきた。
私にどう思われるかよりも、少しでも踏み込んだ記憶が欲しかったのかもしれない。
私は馬鹿だ。
それなら、もしあの子がそんな覚悟をしていたのだとしたら。
奈々を見送った後キスの一つもしてやれば良かったんだ。
それを呑気に風呂に入って……。
……結局、いくら探してもうさこは見つからなかった。
自分の不甲斐なさと、肝心な所を打ち明けてくれなかったうさこへのもやもやが募りに募って私は完全にぷっつん来てしまった。
こうなったらやるだけやってやるよ。どうなったって後の事なんて知った事か。
でも出来る限りの手は打ちたい。
例えば弁天全員でカチコミ……いや、さすがに相手は大企業。警察呼ばれて全員掴まって終わりだろう。
それじゃあ意味がない。
仮に私がそこで邪魔者を全員ねじ伏せた所で私が逮捕されて終わりだ。それでは手も足もでなくなってしまう。
いろいろ悩んだ結果、私が頼れるような相手は少なかった。
「咲耶ちゃん、うさこが消えた。また匿ったりしてない?」
「あー、なるほどなぁ」
電話越しの咲耶ちゃんの声は若干の諦めと、やっぱりそうなったか。という予感めいた物を感じた。
「こうなるって分ってたの?」
「分かるかよ。あたしはエスパーじゃねぇんだ」
超能力じゃないにしても普通じゃないのは確かだけどな。
「ただ……杏子がな、あの馬鹿親父さんに確保されて即正体がバレたらしくってな」
「……あぁ、なるほどなぁ」
今度は私がさっきの咲耶ちゃんと同じ言葉を漏らしていた。
あの変装には無理があると思ってたけれど、やっぱりバレたか。
ほとんど交流のない親だったとしてもうさこコスしてる杏子さんみたらおかしいって思うよなぁ。
あの人の無駄な自信はなんだったんだろう。
「咲耶ちゃん」
「先に言っておくが余計な事は考えるなよ」
「あはは……さすが教師」
「お褒めに与り光栄だね。言って聞く相手だったもっと良かったんだけどな」
「よく分かってるじゃん」
ほんと、私って人間をよく理解してる。というかこの人も同じような思考回路してるだけかもしれないけど。
「本気なのか?」
「勿論」
「大事になってもしらねぇぞ」
「出来るだけ迷惑はかけない」
「本気なんだな?」
「うん」
咲耶ちゃんはそこで少し悩んだのか言葉に詰まる。そして、一分ほど無言が続いた後……。
「分かった。しょうがねぇな協力してやんよ」
「え、ちょっとまって皆殺しはまずいって」
「てめぇあたしを何だと思ってんだ……」
今のはさすがに冗談だが、この人ならやりかねねぇなとは思ってる。
「まぁ、本当にどうにもならなかったらそれもアリだよな」
「嘘でしょ……?」
「あのな、目撃者が誰も居なくなればそれは無かった事になるんだぜ?」
「ソッカーソレハシラナカッタワ」
「お前今あたしをそこはかとなく馬鹿にしただろ」
「……」
「なんか言えやコラ」
電話越しの声で殺されそうな勢いだ。
「でも咲耶ちゃんは教師でしょ? 問題起こしたら……」
「アホか。いい歳こいた大人が問題起こしたって自己責任で済むがガキが問題起こしたら結局大人のせいなんだよ。どうせ私のせいになるならやらなきゃソンソンってやつだ」
ダメだ、この人の言ってる事がよく分からないぞ……。
「それに心配しなくていいぞ。私が暴れるのは本当に最終手段だから」
その言葉を聞いてほんの少しだけど安心した。
「その前に、お前に暴れてもらうからな」
「……はい?」
この教師の言葉に安心なんかした私が馬鹿だった。絶対今電話の向こうでは悪魔のような笑顔をしてるに違いない。
「こんな事もあろうかと会場の場所は杏子から聞いてるし、この場合のプランも考えてある。それにはお前にも手伝って貰わなきゃならないところだったからそっちからヤる気になってくれたのは好都合だぜ」
やる気、のニュアンスが不自然だったのは気のせいだろうか。
「見合い、ぶっ壊すぞ。最後にもう一度だけ聞いてやる。覚悟は出来てるんだな?」
本当に嫌だなぁと思うものの、この人と目的が合ってしまうのだから仕方ない。もうどうにでもなれ。
「私は……何をすればいい?」





