第67話:深夜の侵入者と【貞操の危機】。
大騒ぎになって収拾がつかなくなったのでやむを得ず一度ルミナを部屋の外に出し、ルキヤにさっさと着替えてもらった。
ウィッグについては今回うちに置いて行く訳にいかないだろうから外に出てからこっそり外して自宅に帰るつもりらしい。
ルミナは終始ニコニコしていてご満悦だった。
まぁ、気持ちは分る。とても良い。
やっぱりルキヤは叩けば叩いただけいい音がするタイプなんだよなぁ。
「じゃあボク……そろそろ帰るね」
「くれぐれも隣の家に入っていく所をうさこに見られるなよ」
ルキヤに小声で注意を促す。
「も、勿論だよ……というかボクはルミナにバレる方が恐ろしいんだってば……」
安心しろ。それはとっくにバレてるから。
とは言えない。
「とりあえずうさことルミナの注意はこっちで引き付けておくからさっさと帰れ」
「分かった」
ルキヤは二人に挨拶して部屋を出ていく。一応約束したのでしばらくの間二人と雑談をして注意を引きつけていたのだが、ほどなくしてルミナも帰宅するとの事。
「様子見に来ただけだったけどおもしろかったー♪ あ、奈那さんにも一応メールしておいてあげてよ? すっごく心配してたから」
「ああ、そうだな……ありがと」
ルミナを家の外まで見送って、スマホを確認してみると……。
「うげ……メッセがニ十件くらい溜まってんじゃんよ」
会長からの連絡が一通、他はほとんど奈那からの心配メッセだった。
「連絡遅くなってすまない。こっちは大丈夫だよ……っと。これでよし」
返事を送信すると、即スマホが鳴る。
家の中に入り階段を登りながらそれを確認すると……。
【あいたいな】
……まるで恋人同士みたいなメッセだなぁ。なんて微笑ましく思ったんだけど、よく考えたら恋人同士なんだった。
【すぐにまた会えるよ】
返事を送信してから、なんてクサい事を言ってしまったんだろうと恥ずかしくなる。
そうこうしているうちに部屋に到着し、中に入ると「顔が赤いですけれどどうかされたんですの?」だってさ。観察眼鋭すぎ。
「なんでもねぇよ。それより今日はさすがに疲れたな……私も寝るわ」
時計を見ると夜の十時半。いろんな事があったからもっと時間が経過していると思ったけど、こんなものか。
それだけ密度の高い一日だった……。
「あの、おねーさま」
「んあ? どうした?」
「ひとつ、お願いが……」
うさこがベッドの上で女の子座りしながら枕を胸の前で抱えてこっちを上目遣いで見てくる。
こうしてるとほんとに可愛いなこいつ。
「なんだ? 今日は特別に大体の事はしてやるぞ」
こいつもかなり精神的に追い詰められていただろうからな。
「ほ、本当ですの!?」
……食いつきが凄すぎて不安になってきた。
「欲望垂れ流しのお願いじゃ無ければな」
「……えっと……じゃあ、やめておきますの。ごめんなさい」
欲望垂れ流しのお願いをする気だったのかこいつ。
しゅんと肩を落として布団に潜り込もうとするうさこを見てるとまるで私が悪者みたいな気分になってくる。
「なんだよ。一応言ってみろ」
「でも……」
「いいから。聞いてから考える」
「……それなら、その、一緒に……一緒に寝てくれませんか?」
……うさこの真意を測ろうとじっと見つめていると、「や、やっぱりいいですごめんなさい」とか言って布団に潜り込んでしまった。
ふぅ、仕方無い奴だなぁ。
「変な事したらベッドから蹴り落とすからな」
「えっ、それじゃあ……」
「私だってベッドで寝たいんだよ。ほれ、ど真ん中陣取ってないでもうちょっと場所開けろ」
「はいですの♪」
とびっきりの笑顔が帰ってきた。
ちょっと眩しすぎるくらいのやつ。
私はこういうストレートな好意に弱いらしい。奈那の時もそうだったけれど、押しに弱いタイプなんだろうか……。
というか私と奈那は一応付き合ってる事になってるわけで、これって浮気になったりしない?
今更少し不安になって来た。
別に私としては女同士で同じ布団で寝た所で大した問題はないんだけど、奈那からしたら浮気に見えるのかな?
悲しませるのは嫌だなぁ……。
そんな事を考えていたら隣りから寝息が聞こえてきた。
こいつもやっぱり疲れてるんだろう。
あれこれ考えていてもこうなっちまってるんだからしょうがない。
どうするかは後で考えるとして、今日のところは私もさっさと寝よ。
目を瞑ると、今日起きた事が頭を駆け巡ってきて、今後の事を少し考えておかないとなぁって思ったんだけど……。
余程疲れていたのかいつの間にか意識は途切れていた。
翌朝。
妙に頬がくすぐったい。
なんだかサラサラとした髪の毛が私の頬にかかっているような感じ。
寝ぼけながらそれを払いのけようとして、違和感に気付く。
右腕にうさこがひっついていて腕が動かせない。
……いや、問題なのはそこじゃない。
位置的に私の顔にかかっているのがうさこの髪じゃないという事だ。
一気に目が覚めた。
うさことは反対側に振り向いた私の視界いっぱいに広がったのは、とてもサラサラとして、窓から差し込む日光を浴びてキラキラ輝く長い金髪。
「……ッ!? えっ!? はぁっ!?」
あまりの出来事に飛び起きた。正確には飛び起きようとした。
右腕はうさこに抱き着かれていて、左腕は別の重みがくっついてて思ったような挙動にならなかった。
せいぜい、両脇の人々を起こしただけである。
「おねーさま……? おはようございますわ」
「むにゃ……絵菜ちゃん……あと五分……」
なんだこれ。なんだこれなんだこれ!
なんで私がベッドの上でうさこと奈那に挟まれてるんだ!?
「奈那! お前なんでここに居るっ!?」
「うわわわ……大きな声ださないでぇ……頭に響くよう」
「いいからっ! この状況をっ、説明っ、してくれっ!」
心臓がばっくんばっくん。息もうまく吐き出せない。
「あれ、おねーさまもしかして気付いてなかったんですの?」
「……は? うさこは知ってたのか?」
あくびをしながらうさこが首を縦に振る。
どういう事かと奈那の方へもう一度振り向くと、彼女は眠い目を擦りながら「きちゃった」と呟いた。
「きちゃったってお前……いつ?」
「んー? 夜の十一時過ぎくらい?」
「どうやって?」
「普通に家に来たら一階電気ついてたからインターホン鳴らして、お母さんが出たから少しお話してたら遅いから泊まっていきなさいって」
……夜の十一時とかに急に押しかけてくるのもどうかと思うが娘の承諾もなくその時間に家に人をあげるのもどうかと思う。
「でね、声かけたんだけど返事なくって、部屋を開けたら二人で気持ちよさそうに寝てるでしょ? 羨ましくなっちゃって」
「そこで私も一度起きましたの。事情を聞けば奈那さんすっごくおねーさまの事心配してて、これは幸せシェアしないと! って思いましたの」
思いましたのってお前……。
「という訳で布団に潜らせてもらったんだ♪ 絵菜ちゃんって寝ると全然起きないんだね。ねーうさこちゃん♪」
不穏な空気を感じてうさこの方を見ると、うさこは額に汗を浮かべながら目を逸らしていた。
「……おい、二人で寝てる私に何をした……!」
「な、ななな何もしてませんわっ!!」
「ちょっとおっぱい触ったくらいだよ」
「奈那さん何暴露してるんですのーっ!!」
「ダメなの? いいじゃんそれくらい」
「えっ、いいんですの!?」
「ダメに決まってんだろーっ!!!」





