第65話:うさこと一緒の【お風呂回】。
「おまっ、ほんといい加減にしろよ! 放り出されたいのか!?」
「ごめんなさい……だって、あまりにおねーさまが魅力的だから……」
「お前さぁ……なんでそんなに私に拘るんだ? そんなに好かれるような事したか?」
それが不思議で仕方ないんだよなぁ。いつの間にか私はうさこに付きまとわれるようになっていて、別に嫌ではなかったから放置してたらどんどんエスカレートしていって……。
気が付いたらコレである。
まさかパンツを奪われる日が来るとは。そして人が履いているパンツを剥ぎ取る日が来るとは思わなかった。
うさこは私の質問をスルーしてスカートをパタパタとさせる。見えそう。
「なんだかスースーしますわ」
「自分の履いとけっ!」
「一度脱いだら使用済みなんですの。さすがにもう一度履く気にはなれませんわ」
なんだそのよく分からない謎理論は……。
「じゃあお前は今日一日下着履かずにいるつもりか? というか今後どうするんだよ」
「それもそうですわね……おねーさま」
「却下だ」
「まだ何も言ってませんのに……」
どうせしばらく私の下着を貸してくれとか言い出すに決まってる。
「分かった、一応聞いてやる」
「しばらくおねーさまの下着を」
「分かったもういい」
「貸して下さるんですの!?」
「どうしてそうなった」
ほんと分からん。こいつの思考回路が全然分かんねぇ……。
「助けて……貰いましたの」
「……あ? なんだって?」
「だから、私昔おねーさまに助けて貰ったんですの。その時からずっと憧れていたんですわ。それで一生懸命調べて、おねーさまの通ってる学校を……」
「ちょっと待って」
「はいですの」
……こいつと私は以前どこかで会った事があるという事だろうか? それで私を追って今の高校に入学した?
「その顔を見るとやっぱり覚えていないみたいですわね。でも仕方ありませんの。私その時名乗っていませんし、もっと見た目地味でしたから」
……今より地味な見た目で、うさこが入学してくる以前の話で、誰かを助けた事……なんかあったっけ?
いや、人助けなんてつもりは無いけれどいくつか心当たりは無い訳じゃない。
弁天なんて物騒なところに所属していたら妙なトラブルに巻き込まれる事もあるし。
「うさこ、お前弁天って知ってるか?」
「弁天様ですの?」
一瞬ドキリとしたが、多分こいつの言ってる弁天様は神様の方だろう。
「あー、いや。気にしなくていい」
というかこいつ自分の兄貴が所属してる所も知らんのか? ……いや、ジョージもわざわざそんな事話さないか。トラブルに巻き込みたくないだろうしな。
だとするといったいどれだ?
弁天絡みじゃないとすると……一つだけ心当たりはある。
もしかしてアレか……?
「そろそろお風呂入っちゃいなさーい」
階下から聞こえたお母さんの声で我に返る。
別にうさことの出会いなんて今ここでハッキリさせる必要はないか。
「うさこ先に風呂入っていいぞ」
「私はおねーさまの後がいいですの」
一応お客さんだし先に入ってもらう方が湯舟が綺麗でいいと思ったんだが、うさこは断固として私の後がいいと言い張った。
「しょうがないなぁ……じゃあ私先に入ってくるからちょっと待ってて。言っておくけど部屋をあちこち勝手に触ったら殴るからな」
「分かりましたの♪」
返事が良すぎて不安になるんだが……。
とりあえずうさこに更に釘を刺して一階へ行き、風呂場へ行って服を脱ぐ。
脱いだ服を一通り洗濯機に放り込んで浴室に入り、頭を洗っていた時だ。
ガラララッ。
「お母さん? ちょうど良かった。ボディーソープ切れてるの忘れてたから棚から取ってくれる?」
「……」
「聞いてる?」
頭を洗いながらもう一度聞くと、無言で私の横にボディーソープを置く気配がした。
目を瞑って洗ってるので様子は分からないけど、なんだかしゃこしゃこと音がする。
「何してるの? シャワーかかっても知らないよ?」
手探りでシャワーヘッドを掴み、シャンプーを流していると、突然私の背中にお母さんがへばりついてきた。
……いや、ここまで来たらさすがに私でも分かるよ。
「お前、何しに来たの?」
「お母様に一緒に入ったら? って言われまして♪ お背中でも流そうかと☆」
「……背中ねぇ。じゃあなんでお前はさっきから私の胸を揉みしだいてんだよ」
「うへ……うへへへ……おねーさま、おねーさまのやわはだ……!」
私は無視してシャンプーを流し切り、鼻息を荒くしたうさこの様子を見てむしろ関心してしまった。
よくもまぁここまで誰かに固執できるもんだ。
私だってルキヤの事は好きだしムカつくから陥れてやろうと思っていろいろ作戦立てたりしたけどさ。
ここまで直接的な好意を誰かに向ける事ができるのって凄い事だと思う。
下着屋の時と違って別になんとも思わんしこのくらいなら構わんけど、さすがに胸のアレを摘ままれた時は背後のうさこに肘打ちを入れた。
「ば、馬鹿野郎! 追い出されたくなかったら風呂くらいおとなしくしてろ!」
「そ、それはおとなしくしていれば一緒に入ってもいいと……!」
はぁ。なんでだろうな。ちょっと可愛いなこいつって思ってしまっている自分がいる。
多分こんなに露骨に好意を寄せられる事が無いから私も悪い気がしないだけだとは思うけれど。
奈那も私に好意を寄せてくれてるけれど、奈那はもっと恥らいって物を知ってるからな。
「まぁいいよそれくらい。その代わり次変な事したらほんとに裸で家の外に放り出すからな」
「はいですの♪ 一緒にお風呂に入れるだけでも眼福眼福ですわっ! これで奈那さんを一歩リードですのっ!」
何を張り合ってるんだか。馬鹿らしい。
私はうさこがわしゃわしゃと洗ってくれた泡をシャワーで流し、湯舟につかりながら頭を洗っているうさこをぼけーっと眺めた。
細い手足。健康的で標準的な肌の色。幼く見えるが整った顔立ち。幼児体形。きっと可愛らしい服が似合う事だろう。
少し羨ましい。
「なんだかおねーさまの視線を感じて恥ずかしいですの。もしかして私の身体に興味があるんですの?」
私をからかうようにそんな事を言いだすので私もつい意地悪をしたくなってしまった。
「まぁね。かわいいなって思ってさ」
「ぶぼっ」
突然惨劇が起きた。
風呂場はいきなり噴き出したうさこの血に染まる。
何か酷い病気で、吐血でもしたのかと思ったらただの鼻血だった。マジで紛らわしいからやめてほしい。
「おい、大丈夫か?」
さすがに結構な量の血が出ていたので心配になって抱え起こすと、「お、おねーさまに……かわいいって……」とか、朦朧とした意識で呟いていた。
「……本当に可愛い奴だなお前は」
飼い主に飛びついてくるベタベタな犬みたいな感じ。そんなん可愛いに決まってる。





