第61話:【頼れる大人】と過去の遺物。
間の悪い事に私は無明にいるのでここから地元に帰るのにはそれなりに時間がかかる。
私はみんなに詫びを入れて一人電車へ飛び乗った。
電車に揺られている間、どうしたものかといろいろ考えてみたけれど答えは出ない。
だって結局は他所の家の話なのだ。
親が決めたお見合い、政略結婚なんてこのご時世あり得ないし糞くらえと思うけれど、部外者の私が口を出せる問題じゃない。
それでも……私はやっぱり許せない。
うさこの親がどんな人物なのか分からないのに一方的に敵視するのは申し訳ない気もするけれど、それだけの事をしているのだから仕方ないだろう。
大事な友達が望まぬ結婚をさせられようとしている、なんて我慢できるか。
「次は~沼袋~沼袋~」
もやもやと色んな事を考えているうちになんとか近場まで帰って来た。
うさこの父親の会社は確か沼袋にあるのだが、きっとこの辺りにはいないだろう。
灯台下暗し、という言葉もあるがわざわざそんな危険を冒す必要が無い。
それよりも捜索の手が入りにくい場所……私には一つだけ心当たりがあった。
沼袋から乗り換えて大川へ。そして私達の学校……大川高等学校へと向かう。
休みとはいえ部活なんかもあるだろうから校舎の鍵は開いてるかと思ったんだけど、どうやら閉まっているらしかった。
既に部活動の連中も一通り帰ってしまったのだろう。
でも私はこういう時にどうすればいいかを知っている。
校舎の壁沿いに歩き、保健室の前まで移動して、一番右側の窓枠を掴むと、カタカタと揺らした。
それを何度か繰り返しているとガチャっという音がして窓がスライドしていく。
ここの窓だけ鍵が緩いので何度も揺らしていると少しずつ動いて鍵が開いてしまうのだ。
これを知っているのは私と咲耶ちゃん、そしてごく一部の生徒のみ。
そしてそのごく一部の中にうさこも含まれている。
周りに人の目が無い事を確認してから靴を脱ぎ、片手で靴を持った状態で壁際のベッドの上へダイブ。
「ぐえっ……!」
「うわぁっ!!」
誰か居たっ!!
鍵が閉まってる校舎の中、保健室のベッドで寝てるとか意味が分からん!
一瞬、さっそくうさこを発見したかと思ったがどうやら違うようだ。
「ぐおぉぉ……あたしの安眠を、妨げる腐れ外道はどこのどいつだぁぁぁ……」
それはだらしない事にパンツ一枚、キャミソール一枚で頭ボサボサ。目の下にはいつも以上に濃いクマが浮き上がっていた。
「ま、待って咲耶ちゃん! 話せば分かる!」
「……なんだお前か。いったいこんな時間、休日の学校に何の用だ? こんな所から忍び込みやがって……あたしじゃあるまいし」
咲耶ちゃんも忍び込んでたのかよ……。
「咲耶ちゃん、話は後だ。うさこを探しに来たんだよ」
咲耶ちゃんはその言葉に片眉を釣り上げた。
「……まさかあいつを探してる奴ってのはお前の事……じゃあないよな?」
「あぁ……そういう事か」
咲耶ちゃんの態度を見て大体事情を把握した。
「やっぱりうさこはここに来てたんだな。どうせ女子トイレの個室にでも閉じこもってたんだろ?」
「それの返事をするのはあたしの問いに答えてからだ」
咲耶ちゃんの眼が鋭くなる。
凄い圧力を感じるんだけど、頭とお腹をばりぼり掻きながらだから全く威厳って物を感じない。
「うさこは親が差し向けた連中に追われてるんだよ。私は保護しに来ただけだ」
「……ま、そんな所だろうな」
咲耶ちゃんがため息を吐いて私への威嚇をやめた。
しかしこの暴力教師の謎の圧はなんなんだ……普段とことん適当だしやる気なさそうなのにこういう時にはしっかり絡んでくる。
奈那の時も、うさこの時も。
そう言えばプールに行った時うさこは咲耶ちゃんと一緒に来たんだったか。もしかしたら二人は個人的に交友があるのかもしれない。
「お前の考えた通りあいつはここのトイレに閉じこもっていたよ。そこから私にポケベルで連絡して来た」
「ポケベル……って、何?」
連絡取るなら電話で良い気がするけど……。
「おいおいマジかよ……今時の若い奴はポケベルも知らんのか……カルチャーショックだな」
咲耶ちゃんの説明によるとポケベルっていうのは電話がスマホではなくガラケーだった時代よりも更に前、暗号のような数字で相手に言葉を伝える為の機械だとかなんとか。
「でもそんな昔の……ポケベル? をなんでうさこが持ってたんだ? それに今でもサービスが続いてるっていうのが不思議なんだけど」
「普通のポケベルなんかとっくにサービス終了してて使えなくなってるよ。私と翔子が使ってるのは御伽の特別製で……ってそんな事はどうでもいい。とにかく連絡が来てあたしが先に保護しておいた」
御伽っていうと……プールの時会った金髪縦ロールの女の人か。
御伽は日本で有数の大企業……そしてうさこの親の会社ドットラビットは御伽のグループ会社だった筈だ。
「うさこの見合いの件は御伽も一枚噛んでるの?」
「いや、それは誓って違う」
咲耶ちゃんはあの女の人を悪く言うのは許さないといった様子で即否定した。
「そもそも翔子が見合いさせられる予定の相手も御伽のグループ会社の御曹司なんだが、グループ会社だからと言って御伽の言う事をなんでも聞かなきゃならない訳でもない。奴隷じゃないからな」
「それであの縦ロールの人は口出しできないってわけ?」
「縦ロール……? あぁ、有栖の事か。その認識で合ってるよ。下部会社とはいえ御伽側からそんな見合いやめろとは言えないだろうさ。その代わり裏でバレない程度に力を貸してくれてるってわけだ」
……そっか。私が動かなくてもうさこには頼れる人達がちゃんと居たんだな。
少しだけ寂しさはあるものの、私なんかよりも余程頼りがいのある後ろ盾がある以上、余計な心配というやつだろう。
その時、脱ぎ棄てられている咲耶ちゃんの白衣の方から電子音が聞こえた。
「……翔子からの連絡だな」
咲耶ちゃんは白衣をバタバタ振り、ポケットに入っていたポケベルとかいう小さい黒いのを取り出して表示されている文字だか数字だかを読み上げた。
「なになに……? わ、た、し、お、み、あ、い……私お見合いしますだぁ!? あんの馬鹿野郎が!」
……どうやらすんなり終わる事はなさそうだ。
うさこに会って本心を聞き出さなければ。
何故絵菜はうさこの居場所が分かったのか(既に移動済みでしたが)そしてうさこの真意とは?
そのあたりも次回以降明らかになります♪





