第60話:【トラブル】は祭りの後に。
「おっ疲れ様ーっ♪ みんな協力してくれて助かったわ。って事で、かんぱーい!」
「ほ、ほんとに……疲れた……」
会長の言葉にへとへと顔で答えたのは私ではなくルキヤだった。
多分こいつが消耗したのは最後のコスプレが全てだと思うけど。
「ま、これもいい人生経験だから諦めろ」
「自分だけコスしなかったから元気そうだね」
「その言い方はないだろ。もともと私もやる予定だったらしいからな……ルミナが居てくれたおかげで助かったけど」
「それが一番疲れの原因なんだよ……」
ルキヤが珍しく本当に疲れ切り、肩を落としながらため息。
私達は今コミバ会場付近のファミレスで打ち上げ中なのだが、会長はドリンクバーで乾杯の合図をした後戦利品とやらのチェックを始めてしまい完全に無言になってしまった。
何故かルミナもそれに付き合って二人で黙々と薄い本を読んでいる。
そもそも会長はいつの間にこんな沢山の本を買い込んだのだろう?
そんな暇があったようには思えないんだけどなぁ。
「絵菜ちゃん、今日は楽しかったねー♪」
奈那がフライドポテトにフォークを突き刺しながら笑う。
「奈那もお疲れ様。最後の方カメコに取り囲まれて大変だったな」
「ほんとだよー。あんな事になるなんて思ってなかったからびっくりしちゃった。でもあこちゃんとルミナちゃんの二人も凄かったね♪」
確かにあの二人は物凄い人気だったな……そう言えばROMを出すとかなんとか……きっといつかコスプレ写真を撮影する為に再び会長に呼び出されるんだろう。願わくば私はそのリストから除外して頂きたいところだ。
ある程度本を読み終えたのか、何やらルミナが会長とひそひそ話をしながらこちらをチラチラ見てくる。
きっとルミナの事だからコスROMには乗り気だろうし、そのあたりの打ち合わせなどを勝手に進めているのだろう。
知らん。もうなるようにしかならない。
「ボクね、今日はいろんな意味で大変な思いもしたけれど、来て良かった。絵菜ちゃんと一緒じゃ無かったらこんな機会無かったと思うから……ありがとね」
奈那がドリンクバーのおかわりを取りに席を立ったタイミングでルキヤがそんな事を言いだした。
「なんだよ急に……。そもそもお前が居たから会長がぱふぱふゆりえっち先生だって分かったんだし私は何もしてないよ」
「それでも、だよ。今のボクはあこだけど……こんな事になっちゃってからいろんな事があったでしょ? 最初は嫌々だったし今でも抵抗が無い訳じゃないんだけど、あこだから経験出来た事が沢山あるから、結果的にこうなって良かったって思ってる。だから絵菜ちゃんにありがとうって言いたくて」
……やば、普通に嬉しい。
でもよく考えたらルキヤが現状に満足しちゃダメじゃないか?
この状況を嫌々受け入れさせるのが面白かった訳で、まさか感謝の言葉が出てくるとは思ってなかったから返答に詰まってしまった。
「わ、私は……」
「おまたせーっ♪ はい絵菜ちゃんには奈那特製ブレンドジュースだよっ☆彡」
とんっと私の目の前に濁ったなんとも言えない色のドリンクが置かれる。
「奈那……こういうのは小学生で卒業しなきゃダメだろ……」
「えへへ……ごめんね♪」
まったく、おっそろしい色した飲み物を生み出しやがって……これでまったく飲めない味だったらどうしてくれるんだ。
子供みたいに無邪気に笑いやがって……。
「まぁ、可愛いからいいか」
「えっ」
「ん?」
「今可愛いって……」
「え、嘘、声に出てた??」
「出てた……って事は本当に可愛いって思ってくれたって事だよね……?」
顔を真っ赤にして俯いてしまった奈那のしぐさがとにかく可愛かった。
別に私は今でも自分の事をノーマルだと思ってるし、奈那との関係については悩ましい所なんだけど、奈那の事を可愛いと思うのはただの友達だった頃から変わってない。
私はずっと奈那の事を可愛いし天使だと思ってる。
……それが今や私の彼女か……随分遠い所まで来てしまったものだ。
しかも私が好きな男は今女の子になりきって私と奈那の様子を血走った目で見つめている訳だよ。
そしてそれをルミナがニヤつきながら凝視する。
この歪んだ関係をどうにかすべきなんだろうけれど、何故だか終わらせる気にはなれなかった。
今の関係が心地よいから、なんだろうとは思うけれど、私は自分の本心って物がよく分からなくなっている。
どれが建前でどれが本音なんだろう?
実は奈那との関係を壊したくなくて、奈那との恋人関係を終わらせたくなくて現状維持を続けているだけなのでは?
その可能性はあるだろうか? 分からない。
分からないけど、これだけ可愛い彼女が居たらもう男とか女とかどうでもよくなってくる感じは確かにある。
ただ、今の関係より先に進んだ場合私はそれを当たり前と受け入れられるのだろうか?
これがただのお遊びなら何も気にしなくていいけれど、本気の恋愛だというのならそういう訳にはいかない。
必ずその先へ進む時はやって来る。それまでに私は答えを出さなければいけない。
そんな事に頭を悩ませていると、私のスマホが震えた。どうやら誰かから電話らしい。
手に取り表示を見てみると……。
「もしもし。お前が私に電話なんて珍しいな。でも悪いな、今はみんなで一緒に出掛けてるんだ」
「そ、そうなんですかい。そのみんな、の中に妹は……翔子はいますか?」
電話の主はジョージだった。
うさこが一緒にいるかって確認をしたかったらしい。
「うさこなら居ないぞ? 何かあったのか?」
まさかまたドールズの奴等が何かしたんじゃないだろうな? だとしたら今度こそあのケイジとかいうリーダーぼっこぼこに……。
「翔子のやつ親父に呼び出されてるのにどっかいっちまって見つからないんですよ」
……あぁ、確かうさこは親とめんどくせぇ事になってるんだっけな。
親から呼び出されて逃げるなんてよっぽどだぞ。
「親父の奴今回はかなり本気みたいで、どこぞの会社の息子と見合いをさせるつもりらしいんですよ。それで親父の命令でかなりの人数が動いてて……」
おいおい、雲行きが怪しくなってきやがった。
「お前はどっちだ? ジョージ」
「お、俺は翔子の味方です。だから、他の連中より先に見つけてかくまってやりたいんです」
……正直、他所の家庭の話に首を突っ込むのは間違ってるだろう。それは分かってる。
だとしても。
「うさこの行きそうな場所に心当たりがある。私に任せろ。うさこを誰よりも先に見つけて保護すりゃいいんだな?」
「姐さん……! すまねぇ……」
「お前の為じゃねぇよ。私が友達の為に勝手に動くだけだ」
電話を切り、うさこの潜伏先を考える。
……まぁ、あそこだろうな。
「……行くの?」
「何かあったんだね」
隣に居たルキヤと奈那はなんとなく何かがあったって事を察したらしい。
「みんな、ちょっと聞いて。私急用ができちゃったから先に帰るわ。完全に個人的な理由だから気にせずゆっくりしてて」
「そう? 残念ね。急ぎの用事?」
会長とルミナが不思議そうにこちらを見ている。ルキヤと奈那は諦めたように肩をすくめた。
「ちょっと友達助けに行ってくるわ」
今回かなり間が空いてしまい申し訳ありません(;´∀`)
新作の書き溜めやってたら気が付けばこんなに日数が経ってしまってました……(´;ω;`)
次回からはうさこ編です!
果たして忘れ去られている姉の出番はあるのか!(笑)





