第52話:衝撃の【真実】。★
「私も本気でやるから……覚悟しろよ」
「……」
キングは無言でこちらの様子を伺っている。
むしろ残った革ジャンおじさんと赤髪の「マジかよ……」とか「あの女何者だ!?」みたいなやり取りの方が耳に入ってきてとても邪魔だった。
「そう言えばお前……どこかで見た事がある」
「……気のせいだろ。今は余計な事考えないでかかってこいよ」
私の事をどこかで目にした事があるのかもしれない。
だからといって何かが変わる訳じゃないけれど。
キングは再びニヤリと笑い、すぐ真剣な表情に変わった。
そして、私の動きをじっと観察し一瞬の隙も見逃さないといった様子だ。
なので、私もキングが瞬きした瞬間に一気に距離を詰める。
「!!」
吃驚しただろう。一瞬の瞬きから目を開けた瞬間に目の前に拳があるんだから。
キングは慌てて顔だけ横に振ってかわす。
私が空振りした所でこちらの脇腹にブロウを入れてくるけれど、慌てていたのか全く腰が入っていない。このくらいなら、痛いけど大丈夫。
空振りの腕を戻す際に腕を横に振り、肘うちをキングの側頭部へ。
「ぐあっ……」
キングは痛みに顔を歪めながらも一歩引いて体制を整え、左ジャブ二発からの右ストレート。
ド定番の流れだ。こいつ隠すのが下手すぎる。良くも悪くもスポーツマンだった。
その右ストレートは速度だけでほとんど力が込められていない。
私がかわすのを大前提にした攻撃。
つまり、こいつの利き手はジャブを打っていた方の左だ。
避けた私の顔面を捉えるように繰り出されるフック。
でも私にはそれが来る事が分っていたのでかわすのは容易い。
渾身の力を込めて振り抜いた拳をかわした事で少なからずバランスが崩れる。
私はその腕を横から掴んで思い切り引っ張り、ついでに軸足を蹴り飛ばす。
完全にバランスを崩して前のめりに倒れ込んでくるのを回り込むように飛んでかわしながらキングの首に背後から腕を回し、背中には膝を当てた状態で体重をかけて地面へ勢いよく叩きつけた。
「がはぁっ!!」
「……ふぅ。あんた実はあんまり喧嘩慣れしてないだろ」
「……ふ、俺の……負けだ」
「キングもなかなか強かったぞ」
久しぶりにとても楽しめた。
……と、余韻浸ってる場合じゃ無かった!
「俺はキング、じゃない……それはあだ名で、ほんとの名前は紺愚……」
ああ、そりゃあだ名がキングになるわ……。
「私は絵菜だ。……立てるか?」
「俺の事は、いい。それより早く、行ってやれ」
「ありがとよ! 楽しかったぜ!」
そう言って奥の部屋を目指そうとしたところ……。
「ま、待て!」
赤髪男が扉の前に立ちふさがった。
「なんだよお前もやるのか?」
「……キングが勝てない奴に、俺が勝てる筈がないだろ……」
だったらなんで邪魔するんだよ。
私の疑問に答えるように、赤髪男だけじゃなく革ジャン男もドアの前に立ちふさがる。
「こ、これには事情があるんだ! 今中に行かせるわけにはいかねぇ!」
「そ、そうだ! リーダーの邪魔はさせない!」
……リーダーってやつはよっぽど慕われているんだろう。
だとしても、だとしてもだ。
「私の女に手を出して無事で居られると思うな。お前らもだぞ……邪魔するなら手加減は無しだ。どけ」
「だ、ダメだっ!」
「頼むっ! リーダーを男にしてやってくれ!」
ふざけんな。
男にしてやれ? それはリーダーに奈那とあこを捧げろって事か?
「ふざけた事言ってっと本気でぶち殺すぞ……!」
私だって我慢の限界ってのがある。
外の三人だって心配だ。
ジョージにアキオに咲耶ちゃん。
今頃大変な事になってるかもしれない。
「もう一度だけ言う。どけ」
私は構わず進み、それでもどかないので仕方なく一発ずつぶん殴ってどかし、ドアに手をかけ……勢いよく開け放つ。
見たくない光景が広がっているかもしれない。
だけど、お願い。間に合って……。
「うわぁっ! ば、バカ野郎! いいって言うまで開けるなって言っただろうが!」
リーダーとやらの言葉が響く。
そして、私の目に飛び込んできたのは考えうる限りで最悪の光景だった。
「絵菜ちゃん……どうやってここに?」
これはルキヤの声。
そして奈那は、私の声なんて耳に入っていなかった。
それどころじゃ無かったから。
「……っ!」
「おいドールズのリーダーはお前か?」
「な、なななんだお前!? 誰だ誰だ? 二人の知り合いか何かか!?」
思ったよりも間の抜けた声。間の抜けた反応。思っていたドールズのリーダーとは違い、どちらかと街で聞いた話に近い。
「……はぁ」
私は思い切り肩を落とした。
私はいったい何を必死になっていたんだろう。
奈那は少なくともここに居る事を嫌がってはいない。
無理矢理さらわれて来た事には変わりないのだろうけれど、今の彼女を見る限りそんなふうには見えなかった。
「……!! あ、あれ? 絵菜ちゃんだ!」
「絵菜ちゃんだ! じゃねぇんだよ! 奈那、お前何してんの……?」
「何って、この人が一生懸命私にケーキ作ってくれたからこれから食べる所だよ! 待っててね! すぐ食べちゃうから!」
「はぁぁぁ……」
私はもう一度深い深いため息をついた。
この部屋には水道やキッチンなどがあり、給湯室になっている。
そして、そこにいるリーダーは顔にクリームをくっつけ、三角巾にエプロンというふざけた姿だった。





