崩壊24.5
〜ユウゼン宅〜
女性は暖炉に当たりながら、ユウゼンに言う。
「何も持たされず、ただ身体一つで生きるしかない子供は、何を学ぶのか分かる?」
「まず学ぶどころじゃないと思う」
「そう、そんな人達は残忍な心の持ち主になるだけよ。歩き、駆け回り、物乞いをして行く。そこらを歩いている人はいるけど、皆、他人に構っている暇なんかありゃしないんだからね」
「心は石のようだし言葉は冷酷無情……どうすれば救える?」
「ユウゼン、別に私は救おうと思わなくていいと思っているの。なんとなく「あの場で彼の身投げを見捨てれば、シコリが残る」って、そう思ったんでしょう?」
気を失ったシキは目を覚ます。
暖かく、いい匂いがした。
全てを包んでくれる気がした。
そして、何かを喋っている女性が目に入った。
全体から醸し出される生命力の光が見えた気がした。
人間じゃないみたいだった。
こんな人見たことない。
よくよく見ればしわが見える。
まだ若さの有り余る顔つきなのに。
ちゃんと人間らしい部分を感じた。
それでも彼女は圧倒的だった。
心の中にあたたかい光が残像みたいにそっと輝いた。
初めて言葉が生きた姿で目の前に新鮮にはじけた。
大げさなんじゃなくて、それほど驚いた出会いだったのだ。
そんな大きな存在に、当時の俺は包まれていたらしい。
「ぶ、あああ……」
「目、覚ましたみたいだよ」
目を覚ました事を悟られないようにするつもりだったはずなのに、つい吃驚して声を漏らしてしまった。
「よっす〜、よく眠れたかな?シキくん」
「し……き……?」
「シキっていうのかい?この子」
「うーん、まあそんな感じ」
なんなのだ、こいつらは、早く逃げないと。
反射的に彼女の腕から飛び立つように、立ち上がり、家を出ようと走り出すと。
『おきたぉ!しきいー!』
「んおっ!?」
出口を塞ぐように立つ彼女の存在が、ユウゼンの家を出る事を許さなかった。
「まあまあ、シキくん。そんなにあわてないでね。ここはひとつ。大人の話をしましょう」
彼女はその場にしゃがみ、シキと目線を揃えて、床においたメモに何かを書き出した。
「並の宿に泊まればそこそこお金がかかるの。君が好んで盗っていた大根10本分かな。んで君は丸5日ここにいたから、どういう事かわかるよね?」
「んぎっ!」
シキはうな垂れた。
断片的にしか言葉は分からなくても図を見れば理解出来た。
大根50本……
返せない。
「そこで君に選択肢が出来た。ここを宿として大根50本持ってくるかもしくは」
彼女はニンマリ笑顔で言った。
「ここを家として全額チャラにするか」
「ぃいいいいいっ!」
選択肢などありはせず、すぐさま手を挙げて意思表示をした。
ユウゼンは呆れたように。
「大根で人を買っちゃった……」
「いいいいー!」
少女もユウゼンの表情と仕草を真似する。




