崩壊
「シキくーん」
ユイが身体の後ろに何かを隠して近付いてくる。
みなとはぐれ、川の激流に為すすべなく酸欠になりかけ、どこか川のほとりにて目を覚ましたシキ。
ゆっくり起き上がる彼にユイは
「これ、あげる」
満面の笑顔を向けながら差し出したのは、一輪の小さな薄紅色の花だった。
何故、それを今?
そう思わずにはいられなかったシキだったが、黙ってそれを受け取った。
器官の状態はあまり良くなく、とても喋る事が出来なかったシキはユイの頭を撫でた。
それが、今の彼に出来る最大の感情表現とも言える。
お互い、水べたしで、ここがどこなのかも分からない。
分からないので二人は笑った。
笑うしかない。
このどこか懐かしいような花の香りにすら、今の彼らには救いのように思えた。
「シキくん。無事で良かったぁ……少し休憩してから、行動する?」
心配と安心の相反する微妙な表情に対して、ただ頷いてみせた。
まだ呼吸が整っておらず、視界がクリアでない。
ふと周りを見渡すと、周囲を漂うシンマネと、それらに包まれながら、倒れている無数のナイトメアの姿が。
ユイはシンマネを体外に出さなくてはいけないが、そうすると嗅ぎつけたナイトメアが機械的に、押し迫ってくる。
持ち前の氷のシンマネで、そいつらを薙ぎ払うように倒していたらしい。
ここから桜吹雪のいるオルレアンにたどり着くまで、どれくらいかかるのだろうか、分からないが頼もしさを感じた。
周りのスピードに合わせようと歩くしかなかったあの頃とは、すでに違うのだと理解できる。




