桜吹雪舞う頃に12
「紅慶刃ッ!!!」
聞こえて来たのは風を斬る無数の刃から発せられる金切り音。
何てことだ、俺があいつに気取られたのか。
シキは今までにない感覚をここで知った。
シキの心の動揺をフォローするように燦はロワールに対して突撃して見せたのだ。
しかし。
その一瞬で燦は胸に激痛が広がり始めるのを感じた。
「君はね、遅い」
「ウソ……でしょ……ぐっ!」
指先から高濃度圧縮させたシンマネ弾を打ち出し、燦の内臓ごと貫いてしまった。
その場ですぐに膝をついてしまい、二人の男の動きが鈍るのを待っていたと言わんばかりにユイを狙う。
「ユイさんッ!!」
彼女に躊躇いなく蹴りを入れ、イカダから突き放す。
「本当はね。仲間を集めて態勢を整えるのなんて誰でも出来るんだよ、だけどいざ実戦が始まってから勝っていくのはとても難しいよ、残念だよ。シキ。黒い塊を持った少年と離してしまえば彼女は死ぬ。僕の今回の狙いはそれだ」
「ばっ!」
間髪入れずに、シキもまた、同じ方向に蹴り飛ばされてしまう。
「シキ!ユイさん!」
恐ろしいのはタイミングである。
ロワールは彼らを流れる川の分岐に押し込むように、蹴り飛ばしたのだ。
これには燦も焦った。
ひたすら揺れ続けるイカダから立ち上がり、川の中へ飛び込もうとするが、やはり立ち上がる事が出来ず、血反吐も吐いてしまった。
「チックショウ!」
ユイは無限に沸き続けるシンマネを抱えてはいるが、幼少期はジャンヌがシンマネの管理を、アルフレーガシに住んでいた頃は薬師が命を賭して吸い取っていたから無事だった。
余剰化したシンマネの暴走を抑えるには悲しさを感じさせるか、そうじゃなければ常にシンマネを放ち続けさせるしかない。
だが、シンマネを放出させ続けるのはとてつもない披露が伴う。
寝ずに行わなければキャパシティオーバーの為、間に合わないのだ。
そのための燦である。
だった、はずなのに。
肝心な所でっ!!
「何てことをしてくれたんだ!」
「彼らの事はいいじゃないか、君は僕とこれから踊るんだよ」
「ユイさんは、自分の不遇な人生を呪いながら、それでも役立てようと前向きに生きて来たんだ。そのお陰で漸く
これからの人生が歩めるはずだった。それなのに、お前は!」
「可哀想だと言うのか?」
「そうだ!可哀想だと思ったよ!それがどうした!
「可哀想だと思うと言う事は、彼女と比べて自分は優れている、もしくは劣っていると思ってるのか?」
「どう言う事だ」
「その感情を我々ナイトメアブレーキは否定するのだよ。君に彼女の何が分かる?最近出会ったばかりなのではないか?君は彼女の気持ちを理解しているかもしれないが、その感情は彼女への侮辱になる」
「侮辱だと?」
「君の世界はどうなのかな?ダンジョン世界は痛みに満ちている。ナイトメアの数だけ抱えた痛みの種類がある。他人の痛みを自分に置き換えているように見受けられるが、それは自分の感覚がベースになっているだけで、理解に及ぶものとは言えぬ。独り善がりに過ぎない。そんなものでミハヤくんを助けられるものか!」
言われてしまった。
燦の心理を悉く突いて、並べ立てされた言葉で否定される。
シキもまさに、「言われてしまった」状態だったのだろう。
ちっぽけな自分に気付かされたのかもしれない。
テメェ、あんな奴の言葉遊びに惑わされるのかよ?




