桜吹雪舞う頃に2
「今までありがとねえ……ユイちゃん。何かあったらいつでもここを家だと思っておいでね。今度は街への貢献だとか煩わしい事はナシでね」
温厚そうな老齢のお婆さんが、ユイさんに手を差し出す。
「長老……長老も……元気で……でも街の長が煩わしいとか言っちゃいけないよ……」
とてつもなく冷たい体温であるはずの私に、臆面もなく手を差し出してくれる。
「ごめんねぇ。確かにそうだね。はっはっは」
立ち上がり、縋り付くようにその手を握った。
長老と呼ばれた彼女の優しさが、その手から感じられた。
「シキくんと言ったね……」
「はい。すみません。いきなりこの街から連れ出すようなマネをして」
「いいんだよ。まだまだ若いこの子を、アルフレーガシに縛っておくには勿体無い。可愛い子には旅をさせよ、とは良く言われていたものよ」
燦は小さい声で
「その言葉、こっちの世界にもあるのか……」
シキは恐らくアルフレーガシの皆から反発を買われるのを覚悟で沢山の人に声をかけた。
最悪殴られても構わないとでも思っていたかもしれない。
しかし意外とこの街の人々の反応は好感触だった。
【いいんですか?長老様】
【君の目はね。すごくいい目をしているよ。やると決めたら必ずやるって。ナイトメアブレーキ連中をやっつけるんでしょう?やっておしまいなさい。ユイちゃん、きっと力になってくれる】
【ついにあの人がここから旅立つのか?嬉しいなぁ!】
【嬉しい……?】
【ここに住んでいる僕たちのせいでユイさんがこの街から出ていけないんじゃないかと気が気じゃなくて、でもようやく鳥籠を無くせそうでよかった】
【ユイさんはな、俺らのアイドルなんだよ!】
【アイドル?】
【可憐で儚げな表情がいいんだよ。いやぁホント美しくていいよなぁ、神秘的とでも言うんですかい?でもやっぱりよ】
【あの人ァ笑顔が一番似合うと思うのよ。んで俺らなんかよりあんたがこのしみったれた街から連れ出してくれりゃ、笑ってくれると思うんでな。頼むぜ、オニイチャン】
シキは語るように、手を振る人々を見て言った。
「みんな肯定的だった。あなたがこの街を出るのを。いつの間にかみんな、必死に頑張ってきたあなたを応援したくなっていたんですよ。俺は一人一人と話をして見て、そう感じました」
ユイの涙で顔が濡れていく。
「うん」
「主に異性に人気……モテモテなんだねぇユイさん」
旅立ちのスタートとしては最高のものになった。
自身の命を狙ったアーゼスを、捨て身で返り討ちにした燦と、始めは知らないフリ覚えていないフリをされたけど、この身だけは守る為に力を振るい、街から連れ出してくれたシキ。
人々の心を一つにしてくれたシキ。
この人にこれから恩返しが出来るのが、嬉しかった。




