薬師の葛藤16
血が空中へ飛び散った。
血塗られた氷刃はその血さえも凍りつかせ、尚その手に鋭い痛みを与え続ける。
耐えてみせろ燦、ぼくがここでみんなを守るんだ。
かけがえのないものを守るため、この力の全ては目の前のこいつを倒す為、有る。
「なんで逃げねえ……臆病者の癖に」
「初めて褒めて貰えたんだ、僕に三つの繋がりをくれた男から」
「三つ……?」
今度はシキの前に堂々たる出で立ちでアーゼスの剣を受け止める燦。
その手に迸る痛みは、さして問題ではなかった。
「お前は僕にとって師匠でもあり」
戦い方を教えてくれた。
守られた事もあった。
「ライバルでもあり」
まだまだ敵う(叶う)気がしないけど。
いつの間にか目指したい存在へ成り代わった。
「そして」
シキは昔、二人目の母に聞いた大切な事を、思い返す。
「お母さん、教えてくれたこの技なんだけど。とてもじゃないけど俺に扱えた技じゃなかった」
「そっか〜」
「難しいよ!どうして俺なんかに教えたの?」
「ん〜、それはね。あの技は繊細なヒトにしか扱えない技だから、かな」
「繊細……?」
「ん〜、簡単に言えば他人に対して優しく出来るような人のことよ」
「……どうして?シンマネを扱う力にそんな事、関係あるの?」
「いずれ分かるよ、シキ」
「だからその技を扱えるヒトは、シキの大切な友達になってくれるわ。いつかきっかけが来れば、教えて上げてね」
母は分かっていた。
この広大で冷たく閉じた世界を生きる為に、大切なのは共に生きる事だと。
「ふーん、って俺は無神経なヒトっていいたいんだなぁ!許さんっ!」
「擽り攻撃はやめて〜〜!あははははは!」
「ぼくの友達だ!」
「戯言を……このまま心臓を貫いてやる!」
「ぐッ!」
夜半の氷刃は燦の掌を貫き、尚も進みゆく。
鋭い痛みと共に血が氷床へ垂れる。
しかし。
氷刃が突き進むたびに進むアーゼスの握られた拳が、燦の貫かれた手に大きな力で握られる。
「なにぃ!」
「燦……お前は……!」
「喰らえ」
瞬間。
燦の左手を貫く夜半の氷刃が溶け出す。
「バカな!」
最高硬度の氷刃を溶かす熱。
一体どこから。
夜半の氷刃を受け、アーゼスの拳を掴んだ手とは逆の手が、シキの持つゲルファルス・アムスの刃から炎のシンマネを吸収させる。
アムスに込められた熱のシンマネが黒い塊に吸い取られ、燦の体へ移り、体温を急激に上げ、氷刃を溶かす。
溶け出し、水となったアーゼスのシンマネを更に吸収し、全神経をアムスを掴んでいた右手へ集中する。
アムスを離し、その右手には忽ち高速で回転する無数の刃が。
それはかつて母が作り出した白きシンマネとは相対的で、漆黒の色をしていた。
「く、黒い、シンマネ……?いや、これはまさか」
黒い塊、なのか……そしてこの黒い塊にシンマネが寄り添うように集まっていく。
やがて無数の刃を包み込むように、淡い水色のシンマネが宿り、驚異的な速度で右手へ力を集合させていく。
「クソッ!手に穴を開けられているのに私の手を離さない!この力、どこから!?」
「離しはしない、シキのシンマネとあんたのシンマネが完成させた技だ」
アーゼスの腹部目掛けて突き出した。
アーゼスのシンマネをついに奪い取り、燦は完成させたその技を叫ぶ。
「紅慶刃!」




