アルフレーガシ3
敵を逃し、二人はまた足を進めた。
「僕と戦った時と……動きが違った……手加減に手加減をしてたんだな」
項垂れるように燦は言った。
「基本的な動きが素人同然だった。お前、よくあの白い世界を生き残れたな」
白い世界、というのはシキの仲間達から聞いた話では、僕らヒトがダンジョンに入り込むようになって何回か訪れる事になった閉鎖された空間の事だった。
自由に行き来をする事はできず、敵が一方的に襲ってくるのを倒さなければならなかった。
あの段階でナイトメア・アクセルとヒトの絆を固められなかったら、殺されてしまう、あそこでは頼れるのは唯一のパートナーであるアクセルだけだ。
シキはヒトの身でありながら全ての人生をダンジョンで生きているのは、どういう事なのだろうか。
不思議な血筋だ。
そんな彼なら……
「僕に、戦い方を教えてくれないか?」
「何?」
「ミハヤを、助けだしたいんだ。それだけ」
燦は思った。
これだけ強いヒトなら、その技術を僕は学びたい。
黒い塊が僕のなかにあるせいで、常時空っぽなシンマネを敵から吸い取るには、この手で直接触れなければいけない。
一瞬でいい。
その一瞬さえあれば、ある程度は抉り取る事が出来る。
その為には近接戦闘の技を習得したい。
シキは考えた。
こいつの身体にはシンマネを吸い取る何かが入っている。
シンマネがないとただの案山子、俺たちにとってはなんの役にも立たない。
なら接近戦の技術を磨かせようか。
でも……こいつ。
「お前と手を合わせて分かった、その上でお前に向けた俺の罵倒を聞けよ」
「何……?」
「どうしてお前が力を手にしようとしてるのか、何者なのかなんてどうでもいい、しかし」
「……」
「ひっぺり腰で剣振るって、そんで顔色も良くなかった。剣筋と動きがな、本質的に殺意がこもってないんだよ。戦いに向いた性格じゃない。それにさっき襲ってきた敵にもお前、何も出来なかっただろ」
胸に鋭く木霊する己の弱さを、シキは増幅させるように言い放つ。
歯を強く噛む燦。
「お前の『覚悟』と『闘い』ははっきり言って『クソ』だよ、たまたま運が良かったから生き残っただけ」
「どうよ、アンタに向けた俺の罵倒を聞いて、それを水に流せてやっていけるのか?」
確かに僕はダンジョンで何が出来た?
ミハヤと出会い、彼女は全てを賭けて守る力を行使した。
なのに、僕はそれに応えられなかった。
同い年くらいのこいつにも、いいように言われ、手加減され、これって情けないってことじゃないか……?
でも、唯一僕が出来た正しいことは……
シキ、確かに僕は戦いに向いた性格ではない、分かっている。
分かっているからこそ、何も出来なかった自分を認め、前に進む為に。
「水に流すのは君が寄越した罵倒なんかじゃない……」
ミハヤを苦しめていた黒い塊を引取れた事が僕の誇り。
シキ、譲れない物は僕にもあるんだ。
どんな試練も乗り越えて見せる。
いいぜ、テメエのそういうところだよ。
(お前……)
汚ねえ言葉でよ、しっかり伝えてやれよあのガキに。
(ああ)
「流すのは僕が今まで垂れ流したクソだ。全てを一新して、この黒い塊と共にミハヤを助け出す」
シキは初めて、微笑むように笑った。




