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583 調査任務からの帰還

 シリウス号はヴィネスドーラを出てからジルボルト侯爵の領地に立ち寄っていた。

 行きと同じように、港で侯爵夫妻とテフラに再び挨拶をしてからヴェルドガル王国側へ向かうことになるわけだ。

 込み入った話もあるので、侯爵夫妻とテフラにはシリウス号の艦橋に案内し、そこで話をすることになった。

 艦橋は現状、動物達が一緒なので若干手狭だが、寧ろ物珍しそうに侯爵達は動物達を撫でたりと楽しんでいる様子ではあった。無事で帰ってきたのでそのへんも手伝って余計にといったところだろうか。


「――というわけで、折角源泉の水まで用意していただいたのに、長期的な調査はできなかったのですが」


 テフラ山の源泉の水まで用意してもらって、長期戦を見込んで魔力回復や体力回復のポーションも作ったのだが……結局今回の調査では出番がなかった。

 そのあたりは侯爵やテフラに面倒を掛けさせてしまったあたり、申し訳なく思う。諸々の事情も含めてそれらの話をすると、侯爵は明るく笑って答えた。


「ふむ。決戦の日までポーションは持つのでしょう?」

「そうですね。連中が攻めてくるのが、想定される日の直近ということになれば、効果が減じたりということはありませんが」

「なら、その日のために作ったと思えば良いだけの話だな。うむ」


 ジルボルト侯爵の言葉にそう答えると、テフラは笑みを浮かべて腕組みをしながら、うんうんと頷く。


「そうですな。情報収集の収穫が大きく、そして何より怪我人がいない。これ以上はありますまい」


 確かに、な。敵側からは発見されてしまったし、シーカーも動けなくなってしまったが、終わったことを悔やんでばかりいても仕方がない。良い材料に目を向け、前向きに考えたほうが良い、というのは確かだ。

 まあ、報告の際はどうしても事実に即して説明しなければならないから、みんなもこう言ってくれるのだとは思うのだが。


「怪我人がいなかったというのは、確かにそうですね。頂いた源泉の水にはまだ余りがありますので、それも全てポーションの加工に使わせてもらおうと考えています」

「うむ。我としても役立ててもらえるとやはり嬉しいぞ」


 テフラはそう言ってマルレーンやセラフィナと笑顔を向け合って頷いたりしている。テフラに関しては俺達が無事に帰ってきた時点で上機嫌な様子だ。どうも巫女頭であるペネロープともテフラは波長が合うらしく、仲良くお茶を飲んだりしている。


「ん。ポーションは逆に、温存できたともいう」


 と、話を聞いていたシーラが言った。


「ああ。その考え方はいいね」


 そう答えるとシーラがサムズアップで応じる。イルムヒルトがくすくすと笑いながらリュートを奏でてくれた。


 そうして皆でお茶を飲みながら、調査の結果をジルボルト侯爵にも口頭で伝え、更にシグリッタの絵を渡し、ヴィネスドーラの王城でしたのと同じような内容についても伝えていく。

 北から南へと向かうので、道中にある領主には情報を伝えてくる、ということになっているのだ。ベリオンドーラが南下してくる際、地理的に目撃情報なども貰えるかも知れないし。


 本来なら調査結果の伝達についてはステファニア姫の領地を預かっている老騎士ゲオルグと、そこから南下した場所にあるフォブレスター侯爵にも、ということになるのだろうが、当の2人はタームウィルズに足を運ぶことになったと、通信機で連絡が来ている。

 なので、ジルボルト侯爵領を出たらこのままタームウィルズへ直帰、ということになっていた。2人にはタームウィルズで事情を話せば良さそうだ。


「――なるほど。連中の保有している戦力は脅威的ですな」


 ジルボルト侯爵は俺の話を聞き終えた後、シグリッタの絵を見ながら渋面を浮かべる。

 懸念材料は山程ある。聞かされても対策の取れない部分はあるが、ヴィネスドーラでも話した通り、だからこそ心構えというのは重要だろう。


「とは言え、地方は攻撃をされるという可能性も低いと思われますが」

「そうね。ヴァルロスの考え方もそうだけれど……。通常なら軍を進めるのに兵站を考えなければいけないのに、連中はその縛りから解き放たれている」


 ローズマリーが羽扇を手の中で弄びながら言う。


「それは……確かに。だからと言って、とてもではないですが安心などできませんな」


 ジルボルト侯爵はローズマリーの言いたいことを分かっているのか、やや複雑な面持ちを見せた。


「城や砦が動くなんて、反則に近いものね」


 ステファニア姫が眉根を寄せる。

 軍を動かすには輸送を途切れさせるわけにはいかないし、兵を安全に休ませる拠点も確保しなければいけない。

 シリウス号もそういう点での優位性はあるのだが、ベリオンドーラはそれに輪をかけて、といったところだ。


「空中にある以上は……包囲をして動きを止めるというのも難しそうですね」


 と、エリオットが思案しながら言う。


「そうね。浮遊城があることを踏まえて考えれば……港であろうと砦であろうと、通常なら重要とされる拠点でさえ連中にとっては攻略するだけ無駄、ということになるわ」

「外から破壊して要塞としての機能を奪おうとしても、あの規模では難しそうですね。外装を砕いてもあまり意味がないようですし」


 クラウディアが目を閉じてエリオットの言葉に答え、グレイスがみんなのティーカップにお茶のお代わりを注ぎながら言った。


 そうだな。敵が空中を移動可能な要塞を保有しているという時点で、途中の拠点を落とさずとも兵站に問題が生じないし、後背を突かれて包囲されてしまうということもない。

 飛行可能な戦力以外は城に攻め込むこともできないし、地上で包囲されても頭上を移動して好きなところへ向かえば良いだけの話である。要するに……この時代にあって、あちらだけ巨大な空母を保有しているようなものだ。


「しかし、地方が攻撃対象にならないとは言っても、王都を直接攻撃されてしまうのでは本末転倒です。中央が落とされれば地方も時間と順番の問題でしかありますまい」


 ジルボルト侯爵はかぶりを振った。


「そう、ですね。だからこそ、連中をきっちり決戦の際に止めなければなりません」


 俺が言い切ると侯爵は一瞬目を丸くし、それから眩しいものを見るように目を細める。


「他ならないテオドール殿が仰ると、何とも心強いことですな」

「どうですかね。対策もまだまだこれから詰めないといけないのですが」

「いやいや。私とザディアスの策略も、テオドール殿には見事跳ね返されておりますからな。ですが、僭越ながら私も頂いた情報を元に、何か策を思いついたら連絡しましょう」


 と、ジルボルト侯爵は何やら誇らしげにも見えるような笑みを見せた。

 ああ。それは心強い話だ。ジルボルト侯爵は諜報部隊を抱えていたりと、間諜に長けているからな。俺が笑うと、ジルボルト侯爵もにやりと笑う。


「ふむ。その場合、我が連絡役になれば良いわけだな」


 と、テフラが明るい表情で頷くのであった。




 そして俺達は、侯爵夫妻とテフラに一時の別れを告げて、タームウィルズへの帰途に就いた。

 シリウス号は軽快な速度で海上を飛ばしている。帰路は順調だ。景色が結構な速度で流れていく。


「うーん。色々案はあるけど資材が不足しそうだよね」

「その点は迷宮深層に行って、調達して来ようと思ってる」

「ああ、それなら大丈夫かな」


 色々と思案をしながらアルフレッドと色々魔道具についての相談をしたりとしている内に、段々と日が傾いてくる。


「あっ、見えてきたよ!」


 モニターを見ていたマルセスカが明るい声を上げる。そちらを見やれば――正面のモニターに映し出された水平線の彼方に、王城セオレムの高い尖塔が見えていた。

 ああ。無事帰ってこれたか。それじゃあ早速王城に出向いて、メルヴィン王達にも調査任務の報告をしてこないといけないな。


 ヴィネスドーラやジルボルト侯爵領でも報告をしていたので、既に要点は纏まっている。

 ああやって報告をしていると、何をどうすれば対策になるのかというのも見えてくるような気もするしな。

 メルヴィン王には今までの話も踏まえた内容での相談ができるだろう。いずれにせよ、明日からまた忙しくなりそうではあるかな。

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