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そしてふたりでワルツを 作者:あっきコタロウ(カミユ)

本編

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第十一話  第ニ楽章:銀狼のラプソディー


 国王が病気で亡くなったというお触れが出てから少し経ち。
 新しい国王が就任、結婚するので、パレードが開かれる。と、金貸し仕事の部下ふたりに誘われ連れてこられた城下。
 ポリシア(警察機関)による厳重な警備体制で道路は一時通行止め。便乗して展開された屋台でひしめきあう人を薄目で眺め、マリクはあくびを噛み殺した。

「それで、なんで今日はわざわざ誘いに来たんだよ。いつもみたいにお前らふたりで遊べばいいじゃねーか。俺は新しい王だの后だのに興味はねーんだよ」

 マリクを誘ったのは背が低くて赤茶髪のお調子者の男と、熊のような体格をしたスキンヘッドの寡黙な男。その見た目のアンバランスさから、ついたあだ名は【ボコ】と【デコ】。
 性格は正反対なのに、彼らはとても仲が良く、こうして休日にも一緒に遊ぶほど。

「俺だって王様には興味ないスけどね。いいじゃないスか、お祭りッスよ。ボスもたまにはパーっと遊ばないと! そういえば、お后様がカワイイって噂なんスよ。あ、ほら、来た来た!」

 ボコが指差す先から、豪華に飾り付けられた屋根のない車が走ってきた。色とりどりの花や羽根の派手な装飾が、まぶたの奥をチクチクと刺す。

 車からにこやかに手を振っている男が、新しい王だろう。
 一振りするたびに「キャー!」と黄色い声援が湧きあがり、人が雪崩を起こしそうになるのをポリシア(警察機関)の警備が必死に押しとどめていた。

「話には聞いてましたけど、王様すごい人気ッスね。くっそー! 顔が良いってズルい!」
 ボコは羨ましそうに口を尖らせる。
 車の飾り付けに負けず輝く月色の髪は遠目に見てもたしかに綺麗で、青い瞳はため息が出そうなほど深く惹きつけられる。

「隣のお后様も噂通りにカワイイッスね。いいなあ美男美女で金まであるんだもんなあ。世のなか不公平じゃないッス?」
「金は頑張って稼ぎゃいいだろ。見た目はきっぱり諦め……あぁ!?」

 后を視界に入れた瞬間――マリクは絶句した。

 持っていた炭酸酒のカップが手から滑り落ち、こぼれた中身がボコのスニーカーに直撃!
「ぎええーーっ! 何するんスかボス!」

 それどころじゃない。
 何度も遠くから眺めた横顔。王の横に座って俯いている后は、どう見てもカミィ。

「あいつ……マジでお姫様になっちまったってのかよ……」

 昔、冗談で「お姫様だったらなあ」なんて口走った覚えがあるが、まさか現実になるだとは誰が予想する!?

「結婚の申し込みに来た」と言うジュンイチの姿はまだ記憶に新しい。あの日、後から戻ってこっそり盗み見たふたりは楽しげで。あの時すでに王との結婚が決まってたなら、他の男とあんなに笑い合えるはずがない。一体どういうことだ。
 なぜ、突然王の后になってしまったのか。

「わり、俺用事思い出したから帰るわ」
 マリクはジュンイチに問いただしてみるべく、吾妻邸へ向かうことに。
「ボス!?」
 引き止める声は、背後で喧騒に掻き消えた。




 吾妻邸は、使用人が数十人いてもおかしくない大きな屋敷。なのにどういうわけか、ドアをノックすると、いつも決まって対応に出るのは同じ人物。
 その人物は必ず丁寧に屋敷から一歩外に出て、客人へ向き直る。

「マリクさんこんにちは。はて、仕事の日では無かったように思いますが、本日はどういったご用件で?」
「セバスチャンさん、吾妻ジュンイチを出してほしいんだが」

「は、マリクさんは坊っちゃまとお知り合いだったのですか? それはそれは……驚きました。しかし、実を申しますと坊ちゃまは数日前から軍の研究所に篭りきりで、こちらには帰っておられないのです」
「軍だな? わかった。ありがとうセバスチャンさん。行ってみる」



 そうしてやってきた軍の施設。来てみたはいいものの、軍属の人間に会うにはどうすれば? 勝手が分からず、マリクは立ち止まった。無機質な建物は閉鎖的な雰囲気で、気軽に「オッス」とは言えそうにない。

 そんなとき、都合よく施設から出てきたのは、色の白い痩せたふたり組。白衣を纏い、研究員風。
 背後にこっそり忍び寄り会話を盗み聴きすると、彼らは今まさにジュンイチの話をしている様子。

「吾妻大佐は一体どうされたんだろう?」
「分からない。以前から変わった人だとは思っていたが、ここ数日の様子には恐怖しか感じられないよ」

「おい、その吾妻って奴に用があんだ。会わせてくれ」
「どわぁ! なんなんですか、あなたぁ! 突然後ろから、びっくりするじゃないですか」

 声をかけると、ふたりは戦々恐々と、

「大佐に会いたいんですか? 今は難しいんじゃないかなぁ。私たちですら、大佐が来られた日にお見かけしたっきりなんで」
「いつもよりピリピリした雰囲気で、来るなりまっすぐ自分の研究室に篭っちゃって」
「僕なんて、呼び出されたと思ったら、脳を提供しろって言われたんですよ! あの人のことだから、返事を間違うと本当に何をされるか」

「ぐだぐだうるせえな。いいから会わせやがれ」
 拳を振りあげ脅しかかかると、研究員達は慌てて建物の奥を指差した。

「わああ! 乱暴はやめてください! 受付! あっちに受付がありますから」
「最初からそう言えよ」
「あ、でも紹……」
 長いおしゃべりに付き合う暇は無い。何か言いかけた研究員を置いて、マリクはさっそく受付へ。



 教えられた先。施設出入り口の少し奥に、受付はあった。

 受付と言っても、誰か案内がいるでもなく。カウンターがひとつと、関係者用と書かれた呼び出しベルがあるだけの簡素なもの。
 そもそもがここは軍の研究施設。一般人が立ち入ること自体、ほとんどないのかもしれない。

 ベルを鳴らして、しばし待つ。対応に出てきたのは、警備らしき軍服の兵士。白衣を着た研究員たちとは違って、(いかめ)しい。

「吾妻ジュンイチに会いたい」
 用件を述べると、兵士はマリクの姿を上から下まで無遠慮に見まわして、あからさまに訝しむ表情を見せた。「怪しい奴だ」と思っているのを、隠す気も無いらしい。

「紹介状は?」
「は? 無いけど?」

 そんなものが必要だとは聞いてない。

「お前、スラムの人間だろう? 紹介状も無しにお前みたいな奴が大佐に会えるはずないだろ」
 まったく時間の無駄だと呟いて、シッシッと野良犬を追い払う仕草の兵士。

「ちょっと聞きてーことがあんだよ」
「うるさいな。いい加減にしないと撃つぞ」

 額に冷たいものが当てられた。
 一拍置いて、それが何だか理解する。銃だ。銃をつきつけられている。

「クソッ! 分かった。もういい」

 たかが男ひとりに会うだけで、命をかけるのはさすがにバカバカしい。
 仕方なく、マリクは施設をあとにした。




「んだってんだよ。イラつく」

 スラムの金貸しと、三大貴族の侯爵で軍の大佐。
 身分が、生まれ持ったものが。こんなところまで邪魔をする。
「何があった?」と、ひとつ質問をすることさえも、自由にできない。

 いつの間にか空はオレンジ色。
 帰宅する途中、ゴミ捨て場から溢れている空き瓶を蹴飛ばした。瓶は思ったよりも大きく宙を舞って眩しい彼方へ消えてった。
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