第十三話 小魔法
お気に入り登録数の激増に本当に吃驚しています。
これからもアレインの成長を生暖かく見守ってください。
2013年9月16日改稿
夜中に何とか目を覚ますことが出来た。
今が何時かは判らないが、晩飯の後に使い切ったMPは回復しており、上限も1増えていることは確認した。最低でもあれから4時間は経過していることは確かだ。とにかく魔法を練習してMPを使い切って早めに寝たほうがいいか、と思ったが、やっぱり鑑定にした。
よく考えると急いで魔法を使えるようになる必要はない。それよりも鑑定で得られる情報の方がいろいろと価値が高い。さっさと鑑定のレベルを上げて、やっと見られるようになった筋力やら俊敏などのサブウインドウを見るほうが先だと思う。なので、魔法修行時間以外はやはり当面鑑定に充てた方が良さそうだ。
・・・・・・・・・
朝になりいつも通りミュンが起こしに来た。ミュンに起こされたとき、昨晩疑問に思ったことを聞いてみる。
「ねぇ、ミュンはなんでいつも日の出前に起きられるの?」
「ああ、私は4年くらい前から目覚ましのセットが出来るようになりましたので」
は?
今、何て言った?
目覚ましだと?
「へぇ~、ミュンはすごいなぁ、で、目覚ましってなぁに?」
早く答えが聞きたくて焦るわ。
「アル、目覚ましは目覚ましですよ」
うん、そりゃそうだろう。しかし、俺が聞きたいことに答えてくれよ。
「そんなんじゃわかんないよ。目覚ましってなに~?」
「小魔法ですよ」
なん……だと?
事も無げに言いやがった。
しかし、小魔法か。確かめてみるか。
俺はベッドから降りるためにミュンに抱いてもらおうと腕を広げる。
それに合わせてミュンが俺を抱き上げる。
鑑定だとまだ技能が見られないからな。
「ステータスオープン」
【ミュネリン・トーバス/19/2/7413】
【女性/29/11/7411】
【普人族・トーバス家長女】
【特殊技能:小魔法】
「アル、ステータスをいきなり見るのは失礼ですよ」
うーん、きちんと小魔法の特殊技能を持ってるなぁ。
魔法使いと呼ばれている俺の母親ですら持ってないのに。
でも、そうか、ステータスオープンをいきなり他人にかけるのは確かに失礼な行為だろう。
人種は見れば大体わかるが、べつに親しくもない奴に誕生日や場合によっては保有している技能を知られることになるんだ。
「ごめんなさい、でも、小魔法のこと知りたかったの」
我ながらしつこい。
流石俺。
「ん~、奥様に聞いたほうがいいと思いますよ。私は上手く説明する自信ないですし、それにもう朝食の準備は終わっています。旦那様も奥様もお待ちですよ」
くそ、役に立たないな。
目覚ましとか、超有効じゃんか。
まじ欲しいわ。
疑問が解消されないままなので、些かやさぐれた考えになっちまうな。
取り敢えず飯食ってシャルに聞くしかないか。
・・・・・・・・・
「ところで母さま、ミュンが小魔法が使えるって言ってましたけど、小魔法というのは、なんですか?」
朝食の後の魔法の修行で上二人の兄姉がMP切れでダウンしてから聞いてみた。
「ああ、あまり魔力を使わない魔法のことよ。大したことも出来ないし、使えても多い人でも一日で数回ね」
ほうほう、いいじゃんいいじゃん。数回も使えるなら全く問題ない。
「僕も使えるようになりますか?」
「そりゃなるわよ。魔力を流せるならもう使えると言っても良いわ」
なにぃ? 実はもう使えるのか? でも俺にそんな特殊技能は無いぞ?
「どういうことですか」
「うーん、アルの頭の出来なら理解できるか……。アル、魔法ってね、一体なんだと思う?」
何言ってんだ? この女は。それが解らんからこうして習ってるんだろうが。
いやいや、短気は損気。
ここはこの禅問答に付き合おう。
どうも魔法の根本の話から始めてくれるらしいしな。
むしろありがたい。
「自然の理を曲げる不思議な力、でしょうか」
「そんな言い方するとなにか害悪かのように聞こえるわね。間違ってはいないけど。私が言いたかったのは、魔法の力はどこから湧いてくると思う? ってこと。でも、修行を始めたばかりで解る訳はないから言うけど、魔法はね、使う人の想いなのよ」
わかんねー。
この前気がついたイメージ力ってことだろうか?
更にシャルは言葉を継いだ。
「想いってね、大切なことなの。ああしたい、こうしたい、から始まって、ああなりたい、こうなりたい、と来て、あれが欲しい、これが欲しい、になって行くのよ。全部じゃないけど限定的にでもそれを実現させる力が魔法。だから、想いが強い人は魔法が上手な人でもあるわ」
想い、とか言うからなにか高尚な感じなのかと思ったら、意外にも低俗だった。
「だとすると、欲求や欲望が魔法になるのですか?」
「ちょっと違うかな。欲求や欲望を実現したいと思い、それを魔力を助けにして起きる現象が魔法なの」
また魔力が当たり前のように出てきた。
だから、それがなんなのかわからんっちゅーの。
ここは話を続けよう。
「なるほど、魔力ですか。では、魔力とはなんですか?」
「魔力はね、誰もが持っている力の一つよ。あなたが足の上を這っているアリを邪魔だ、どっか行け、と思ったらどうする?」
「そりゃ手で払いますよ、こうやって」
「そうね。でも両手になにか荷物を持っていたら?」
「荷物を一度降ろすしかありませんね」
「そう言うと思ったわ。でも魔力を上手に使える人は、こう」
シャルはそう言うと向かいに腰掛けた俺の膝小僧を見る。
とほぼ同時に、さっと膝小僧を撫でられた、というか払われた感じがした。
吃驚して目を丸くする俺に
「今のが魔力の簡単な使い方。まぁ今のは自分じゃなくて別の人に対して使ったから一番簡単、というわけではないけれどね。要は3本目の手ね。但し、この手は自分の現実の体じゃないわ。魔力で作った幻の手ってところかしらね。だからこれは魔法じゃないわ。小魔法ね。一度の小魔法で払いのけられるのはせいぜい数回だし、なにか重い荷物を持ち上げるなんてことも出来ない。」
あ、今さりげなく複数形と単数形だった。別にどうでもいいが。
なるほど、魔力を直接操るのが小魔法か。
「魔力で幻の手を作ってなにかさせるのが小魔法ですか」
「基本はそうだけど、応用もいくつかあるわ。代表的なのは『予約』の小魔法ね。あとは明かりや音かな。両方共自分にしか見えないし聞こえないけど」
『予約』か。
それだろう。目覚ましは。
「わかりました。僕にも小魔法を教えてください」
「もう教えたじゃないの。あとは練習すればいずれ使えるようになるわよ」
え? いつ教えてくれたんだ?
ひょっとして魔力で作った幻の三つ目の手ってところじゃないだろうな?
「教えてもらってませんが……」
「まぁ、まだ赤ちゃんだしね。アル、背中で右手を肩の上から、左手をお腹の後ろから回して握手できる?」
頑張ってみたが、手が届かない。
関節は赤ん坊らしくすごく柔らかいが、腕の長さと回した手を維持する筋力の問題だろうな。
「出来ません」
「なら、手が届かないところを掻きなさい」
「届かないから掻けませんよ」
あ、そうか、ここで幻の手か。
何となくうなじから3本目の手が生えるところを想像してみる。
してみるが、出来るわけねぇ。
「必ず出来るわ。掻きなさい」
ちょっとだけ真剣にシャルが言う。
「難しく考える必要はないの。普通に手で掻く感じを伸ばすだけよ。小魔法を使えない人はいないのよ」
こうか?
背中に回した手がちょっと伸び、背中の真ん中を掻く感じ。
一緒に本物の指も動く。
あ。
出来た。
これか、これが小魔法か。
「その顔は出来たみたいね。当たり前のことだけど良かったわ。でも、今日は多分もう出来ないと思うわ。さぁ、魔法の修行を始めましょう」
その後はまた魔力を巡らせる修行をした。今日は4回やってやった。
ファーンもミルーもMPが増えていたのは確認済みだ。
4回の修行中も魔法と小魔法についてシャルから学んだ。
・・・・・・・・・
今朝の修行が終わりベッドの中でぼうっと鑑定を使いながら先ほどシャルから得た情報を整理してみる。
1.魔法と小魔法は似ているが違う。
2.魔法はMPを消費して使用し、その分効果が高い。
3.小魔法は一日あたり決まった回数しか(俺の場合は一日一回だし、人によって違う)使えないが、MPを消費しないし、限界まで使用しても前後不覚になるようなことはない。
4.どちらも基本的に全員が使用可能になる素質はあるが、魔法は向き不向きが大きく、一生使えない人も多い(シャルの言によると魔法の特殊技能を得られるのは10人に1人くらい)。
5.逆に小魔法は全く使えない人はいない(少なくともシャルは知らない)。
だいたい10歳あたりで親が教える。10歳の理由はあまり幼いといたずらに使うことが多いためで、躾の意味が殆どらしい。
6.小魔法は応用範囲が広いがおしなべて持続時間が短い。だいたい5秒。
7.小魔法は幻の手を使役する以外にも使える。代表的なものだと、明かりや音、予約など。但し自分にしか見えないし、聞こえない。幻の手以外は才能が必要だが、それほど珍しくない(二人に一人は使える)。
8.魔法が使える人間は(ステータスウインドウに『特殊技能:○○魔法』がある人間)ステータスウインドウに小魔法は出てこない。
こんなところか。真剣に小魔法を勉強するのはなんだか無駄のような気もするが、早く目覚ましは使いたい。おそらく『予約』と『幻の音』か幻の手の『つねり』などを組み合わせて使うのだろう。なので一日当たり最低でも2回使えるようにならなければ意味は薄い。使える回数が増えるのは人それぞれらしいが、大抵は成人の頃らしい。冒険者は回数が増えやすいとのことだ。
シャルに聞いてみると今のシャルは一日に14回使えるらしい。これを聞いてピンときた。多分レベルアップとともに使える回数が増えるのだろう。
レベルアップが待ち遠しいがどうしたらレベルアップするのだろうか? やはり沢山の魔物を倒さなければならないのだろうか? だとすると今の俺には方法がない。ファーンのように剣で切り殺すなど以ての外だ。
どうしよっかね。とても成人まで待ってられないぞ。