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仮想戦記(仮 作者:ロックウッド
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1943シチリア海峡航空戦14

 状況が変化した切っ掛けは、ノルマンディー連隊の新米搭乗員の一人が行った銃撃だった。
 鈍重な機体でのらりくらりと回避しているように見える電探搭載機の動きに業を煮やしたのか、海面近くまで高度を下げていた電探搭載機に向かって上空から急角度で降下しながら銃撃を行っていたのだ。

 だが、その搭乗員が操る三式戦闘機の飛行姿勢は安定していなかった。
 おそらく電探搭載機が銃撃を避けるために低高度を飛行しているものだから、降下角度が急すぎて敵機の向こうから海面が迫ってくるような気がして、銃撃の途中で気後れしてしまったのではないのか。
 遠くから見れば、実際には海面までは十分な高度を残していたようだったが、一式戦闘機と比べても早い三式戦闘機の降下速度に対応できなかったのだろう。
 だから中途半端な姿勢から放たれた射弾は、電探搭載機をかすめながらも全て前方に流れてしまっていた。


 しかし、そこまでならばこれまでの銃撃と変わらないはずだった。状況が変わったのは、三式戦闘機の限界まで気が付かなかったのか、その搭乗員が自分が考えているのよりも、降下角度をずっと浅く取ってしまったからだった。
 その上、あさい降下角度によって中途半端な速度に上がってしまった三式戦闘機の機体制御がうまく行かなかったのか、それとも機体重量が一式戦闘機よりも大きいせいで逆に搭乗員の思惑よりも速度が出てしまっていたのかもしれない。
 いずれにせよ、その機動は搭乗員の意志で行われたものとは思えなかった。
 降下速度と角度の調整に失敗した三式戦闘機が海面への降下から急速に機体を引き起こしながら減速した結果、無防備な機尾を電探搭載機の目の前に晒していたからだった。

 だが、そのような状況になっても、それほど危険は無いはずだった。初撃で後方旋回機銃を使用不能にさせられた電探搭載機はこれまで反撃を行っていないからだった。
 そのせいで3機がかりで電探搭載機1機甚振っているように見えて桑原中尉は不快に思っていた。だから電探搭載機の目前で傍目から見てもわかるように呆然としている様子の三式戦闘機の搭乗員に苛立ちを覚えていたのだ。


 桑原中尉は間違っていた。おそらく、その三式戦闘機の様子を見守っていた殆どのものが同じように考えていたのではないのか。だが、次の瞬間中尉は目を見開いていた。
 三式戦闘機の無防備な機尾に向けて、電探搭載機の機首から一条の赤い閃光が伸びていたからだ。

 それは明らかに連続して放たれる機銃弾が作り上げたものだった。弾道を確認するために徹甲弾に混じって装填される曳光弾の光が銃口から着弾点まで飛翔することで、あたかも空中に鮮やかに描かれた線のように見えていたのだ。
 しかし、昼間に線の様に見えるほど曳光弾の間隔が短いのは奇妙だった。実際には、弾道確認というよりも、意図的に曳光弾の装填率を上げて派手な火線に見えるように演出することで威嚇効果を狙ったのではないのか。

 もしそうだとすれば、この場合その効果は抜群だった。三式戦闘機の搭乗員が恐慌状態に陥ったのは明らかだったからだ。


 確かに不利な体勢で電探搭載機を追い抜かしてしまった三式戦闘機には命中弾が発生していたのだが、実際には大した脅威では無いはずだった。
 軽単座戦闘機である一式戦闘機ですら12.7ミリ弾に対する防弾性能を有しているのだから、それ以上の重装甲である三式戦闘機であれば相当近距離から多数の射弾を撃ち込まれたのでもない限り搭乗員や機体の致命部に大きな損害が発生することはないはずだった。
 ましてや今三式戦闘機に打ち込まれているのは、当初想定していた12.7ミリ弾よりも小口径のはずだった。

 電探搭載機は、機体の特徴からして明らかにフランス空軍が開戦前後に制式採用していたアミオ350の改造機だった。
 エンジンの換装である程度は機体の強化が行われている可能性は否定出来ないが、ヴィシー・フランスは軍部の意向とはかかわりなく国民感情を背景に準備不足で参戦したと言われているから、装備する機体の改良も本格的に行われていたとは思えなかった。
 だから機体構造の変更を伴う搭載機銃の変更が行われた可能性は低いのではないのか。

 原型機と思われるアミオ350は後部旋回機銃に20ミリという比較的大口径の機関砲を備えていたが、機首に装備されていたのは7.5ミリ機銃2丁でしか無かった。
 爆撃機に対する戦闘機の攻撃手段としては、射撃可能時間の長くなる後方からの追尾射撃が常識的なものだったから、これに対抗するために後部旋回機銃座には大威力かつ長射程の20ミリ機関砲を備えたのだろう。

 これに対して前方機銃は射撃時間の短い対進攻撃にしか対処できないし、通常は機首に配置された爆撃手が操作するから爆撃照準時には使用できないなどの制限があったから、大威力の代わりに重量や容積も大きい大口径の機関砲ではなく、使い勝手の良い小口径機銃を備えたのではないのか。
 この程度の機銃であれば、敵地に不時着した際に機体から取り外して乗員が防御機銃として使用することも可能だった。確か日本陸軍の爆撃機や車載のものでも7.7ミリ単装機関銃はそのように使われる場合もあったはずだ。

 要するに一式重爆撃機のように動力旋回式の大口径機関砲塔を備えでもしない限り、爆撃機の機首に搭載された小口径機銃は対進攻撃を妨害するための言ってみれば景気付けのものでしかなかったのだ。
 しかも、今電探搭載機から放たれている機銃弾は一条のみだった。牽制のために派手に曳光弾を使用しているものだから、逆にその数や威力を明らかにしてしまっていたのだ。
 電探搭載のために機銃は取り外されてしまったと考えていたから、射撃が合った事自体が驚きではあったが、やはり空間を捻出するために装備数は減らされているようだった。


 おそらく、三式戦闘機の搭乗員が落ち着いてさえいればこの程度の射撃には適切に対処することが出来ていたはずだった。何の事はない、加速して振り切ってしまえばいいだけだったのだ。
 いくら大出力エンジンに換装した双発の高速爆撃機とはいえ、アミオ350の改造機であれば速度はおそらく毎時500キロといったところではないのか、機体構造そのものには大きな変化はないようだから600キロを超えるということは無かったはずだ。

 これに対して大出力のマーリン66を備えた三式戦闘機一型乙は公称でも660キロ、燃料や弾薬をある程度消費した上に降下速度を殺しきっていない今ならば700キロに達していてもおかしくはないはずだ。
 だから最低でも100キロ以上は相対速度があったはずなのだ。7.5ミリ程度の小口径機銃の空中での射程距離はさほど長くはないから、射程外まで脱出するのはそれほど難しくはないはずだった。

 つまり、小口径機銃から放たれたある程度の銃弾など無視してしまえばよかったのだ。後方からの銃撃だからある程度は動翼面などを破壊されてしまう危険性は否定出来ないが、機銃弾の密度はそれほど高くはないから完全に操縦不可能になるほど損傷する可能性は低いはずだ。
 その程度の損害であれば機体の修理も難しくないし、幸いな事にこの場合は極光という航法能力に優れた複座の誘導機が2機もいるのだから、損傷で編隊から脱落したとしても安全に友軍基地まで連れ帰ってもらえるのではないのか。


 だが、そのように冷静に考えられたのは、桑原中尉が双方の位置関係や射弾の様子がわかるほどのある程度の距離をとって観測できていたからだった。慣れない機体で急に後方から射撃を受けた三式戦闘機の搭乗員が咄嗟にそこまで判断できるはずもなかった。
 その悪条件を割引いて考えたとしても、三式戦闘機の搭乗員が下した判断は最悪なものだった。その場で急旋回して射弾を回避しようとロールを打ち始めていたのだ。

 もしかすると敵電探搭載機の射手もそのような事態は想定していなかったかもしれなかった。単に景気付けのつもりで射撃を開始しただけだったのではないのか。
 それでもこの場合は格好の機会に映ったはずだった。自機よりも遥かに高速であるはずの三式戦闘機が態々速度を落として無防備な姿を晒そうとしていたのだから。

 射撃の標的となった三式戦闘機はロールを打ちながら低空で強引に横方向の旋回を続けようとしていたが、その機動を確実に読まれているように曳光弾の線が追いかけていた。
 おそらく搭乗員が本能的にマーリンエンジンの回転方向に合わせて旋回方向を選んでしまったのを、電探搭載機に乗り込む手練の射手が予想していたのではないのか。
 そのせいで、回避しようとしていた三式戦闘機の搭乗員はまるで自分を射弾が追いかけるように感じてしまっていたはずだった。


 距離があったにも関わらず、桑原中尉は急減速しながら無理な旋回を続けていた三式戦闘機の搭乗員が天蓋越しに驚愕した顔を電探搭載機に向けていたのを見た気がしていた。

 だが、その搭乗員の姿もすぐに見えなくなっていた。近距離で電探搭載機の機首から放たれる狙いすまされた機銃弾が、三式戦闘機の無防備な天蓋に次々と命中していたからだ。
 相手が小口径の機銃弾だったから、もしかすると一発や二発ならば耐えたのかもしれないが、操縦席の防弾は後方の背もたれや機首方向の風防の防弾ガラスに集中していたから、天蓋そのものには防弾性能はそれほど要求されていないはずだ。

 次々と命中する射弾は天蓋を弾痕で曇らせながら何発かは確実に操縦席内部に飛び込んでいったはずだった。だが、天蓋全体を吹き飛ばす力はなかった。
 おそらく電探を搭載するために搭載弾薬も削られていたのだろう。天蓋を白く濁らせて内部を伺わせなくさせたものの、そこで射弾は途切れていた。
 射撃を終えた電探搭載機は、旋回を続ける三式戦闘機を尻目に、それにのしかかるような態勢ですぐ上をすり抜けていった。


 やはり射撃不能なのか、追い打ちをかけるために電探搭載機の後部の旋回機銃が火を吹きそうな気配はなかったが、実際にはその必要もなかった。
 桑原中尉は唖然としながら旋回を続ける三式戦闘機を見つめていた。命中弾で天蓋を構成するガラスがひび割れたことで白く濁ったように見えた操縦席の向こう側に赤いものが見えたような気がしていたからだ。
 もしかすると搭乗員は先程の命中弾で人事不省に陥っているのではないのか、そう考えざるを得ないほど三式戦闘機は単調に旋回を続けようとしていたのだ。

 その旋回は唐突に終わりを告げていた。ゆっくりとロールを打ちながら斜めに横旋回を続けていた三式戦闘機が急に機首をあげようとしていたのだ。
 だが、その動作はいかにも不自然だった。というよりも旋回によって急激に速度を低下させていた三式戦闘機に可能な機動ではなかったのだ。
 おそらく、搭乗員にはすでに意識がないはずだった。あるいはすでに命中弾に撃ちぬかれて機上で戦死してしまっているのかも知れなかった。それで最後まで握りしめていた操縦桿が不意に動かされたのではないのか。
 それほどその機動は急激で意図の読み取れないものだったのだ。


 旋回によって元々速度が低下していた上に、機首上げによって空気抵抗が増大するとともに更に危険なほど速度を落とした三式戦闘機は、傍目からすればあっさりと思えるほど失速の予兆を示していた。
 しかも、そこに至ってもなお搭乗員が機体を正常に操作しようという気配はまるで見えなかった。やはりすでに戦死してしまっていたのかも知れなかった。
 いずれにせよすでに三式戦闘機は操縦不能になっていた。まともな飛行姿勢に戻そうとする意思があったとしてもすでにどのように操作しても生還は不可能だったかも知れなかった。
 それほど三式戦闘機は海面に近い高度にあったからだ。

 海面近くまで降下して射弾をかわそうとしていた電探搭載機に向かって無理に銃撃を行っていたものだから、三式戦闘機もそれにつられるようにして高度を失ってしまっていたのだった。
 そして、横旋回によってさらに海面に映った自機の姿が明確に見分けられるほどの低空に降り立っていた三式戦闘機は、急激な速度低下と機首上げによってほとんど瞬時に失速していた。

 失速した三式戦闘機は、操縦席天蓋が白く破損している以外は全く損傷が無いように見えていたが、いくら大出力のエンジンを搭載していようともそのような姿勢と高度から正常な飛行姿勢に回復させるのはよほど機体を知り尽くした手練の操縦員でもない限り不可能だっただろう。
 海面近くでほとんど垂直に機首をあげた三式戦闘機は、しばらくはプロペラを回転させて空中をもがくようにその場で浮かんでいたが、やがて力尽きたようにあっさりと、地中海の鏡のような海面を醜く割りながら機尾を下にして大きな水柱を立てて沈んでいった。


 しばらく桑原中尉は唖然としながらその様子を見つめていた。操縦席以外ほとんど損害の無いように見えた三式戦闘機があっさりと爆撃機の小口径機銃だけで撃墜されたことが信じられなかったのだ。
 桑原中尉が我に返ったのは、後席の電信員が声を上げたからだった。どうやら上空で待機していたリュノ中尉の小隊長機に動きがあったようだった。
一式戦闘機の設定は下記アドレスで公開中です。
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/1lf2.html
三式戦闘機の設定は下記アドレスで公開中です。
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/3hf1.html
アミオ359の設定は下記アドレスで公開中です。
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/amiot359.html
一式重爆撃機の設定は下記アドレスで公開中です。
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/1hbb.html
四三式夜間戦闘機極光の設定は下記アドレスで公開中です。
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/p1y1.html
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