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仮想戦記(仮 作者:ロックウッド
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1943シチリア上陸戦21

 この戦闘に参加しているK部隊と、フランス海軍艦隊の戦力は概ね拮抗していた。
 双方主力は戦艦2隻ずつであったし、巡洋艦部隊も同じく3隻ずつ、駆逐艦だけはK部隊が3隻、フランス艦隊が4隻だったが、魚雷を装備した駆逐艦は艦型に比して打撃力が大きいから、この程度の数の差は覆せる可能性は低くはなかった。
 ただし、戦力が互角に見えるのは、量的なものだけだった。カナンシュ少将達がどこまで認識しているかは分からないが、艦艇の質に関しては大きな差があるのではないのか。笠原大尉はそう考えていた。


 戦艦2隻には英仏でそれほど大きな差はないように見えた。排水量や艦体寸法は大差が無いからそれも当然だった。起工、就役時期にも大きな差はなかった。
 リシュリュー級戦艦が実戦力化されたのは極最近のはずだから詳細な性能は不明な点が少なくなかったが、開戦前の状況からしてキング・ジョージ5世級と大きな差はないはずだ。

 ただし、砲威力に関しては別だった。軍縮条約の規定による旧式戦艦の代替艦として設計が進められていたキング・ジョージ5世級戦艦は、早期の実用化要求もあって新設計とはいえ従来砲との互換性を重視した14インチ砲を選択していた。
 当初は四連装砲塔3基による合計12門という重装艦になる予定だったが、実際には設計段階において何らかの齟齬が合ったらしく、第1、3砲塔が四連装、第2砲塔が連装の計10門という変則的な構成になっていた。

 これに対してリシュリュー級戦艦は、完全に四連装としてまとめられた砲塔を2基装備しており、完成度で言えばキング・ジョージ5世級よりも上なのではないのか。
 搭載門数は少ないが、主砲の口径も38センチと正14インチ砲のキング・ジョージ5世級を上回っているのは間違いなかった。


 英国海軍では、主砲口径の差は手数とレーダーに連動した高性能の新型射撃指揮装置によって補いえると判断していたようだが、現在の状況を見る限りではその判断は甘かったと言わざるを得なかった。
 確かにキング・ジョージ5世級の精度の高い射撃管制レーダーと連動する主砲射撃方位盤は画期的な性能を誇っており、先のマルタ島沖海戦でもその真価を発揮していたが、信頼性が高いとはいえず、安定した性能を発揮するにはまだ習熟が進んでいなかった。

 それに現在は日中で視界を遮る気象条件もないから、レーダーの有無や多少の性能差が戦闘に及ぼす影響はさほど大きくはなかった。そして、2隻のリシュリュー級戦艦は、砲自身の性能差を活かすためなのか、自身の安全距離を考慮しているのか慎重に距離を保ちつつ砲撃を行っていた。

 視界が良好とはいえ距離があり、さらにお互いに有利な砲戦距離に持ち込めるように複雑な艦隊針路をとったものだから、その度に射撃に必要な諸元が変化して、殆ど命中弾は得られていなかったが、それでもこの距離では重量が大きくそれだけ遠距離での威力低下が少ない38センチ砲弾のほうが優位にあるはずだった。
 もちろん、お互いに試射ばかりで中々本射に移れないものだから、手数の多さを活かすことも出来なかった。
 そのように複雑な艦隊針路を取る中で、いつしか主力となる戦艦群と巡洋艦、駆逐艦群の戦闘域は離れてしまっていた。だが、実際に戦線の破局が起こるとしたら、戦艦群よりも軽快艦艇群の方が先に発生すると笠原大尉は推測していた。


 英仏両国の艦隊戦力の中で、巡洋艦以下の軽快艦艇は、その性能差は戦艦よりも大きいといえるはずだった。

 K部隊の駆逐艦はエレクトラ、エクスプレス、ヴァンパイアの3隻で、前者2隻は欧州大戦終結後にその戦訓を受けて建造されたA級から続く一連の駆逐艦シリーズに属するE級駆逐艦だった。
 E級駆逐艦は対艦、対空兵装に加えて、対潜兵装を充実させたバランスの良い汎用駆逐艦だったが、その排水量は1,500トンにも満たないから、外洋航行能力を高めた特型駆逐艦である吹雪型以降の日本海軍の大型駆逐艦を見慣れてきた笠原大尉の目には何処と無く頼りなさそうに見えていた。

 残るヴァンパイアに至っては先の欧州大戦時に建造された古強者だった。建造時期から言えば、日本海軍の峯風型駆逐艦に相当するが、同型駆逐艦はすでに日本海軍では第一線を離れていた。
 峯風型駆逐艦は、今次大戦における駆逐艦の不足から、予備艦を離れて再現役化された艦も少なくなかったが、それでも機動力と打撃力を要求される水雷戦隊に再配備される艦はなく、船団護衛隊への配属がほとんどだったはずだ。
 なかには兵装や機関を減じて貨物、兵員の搭載空間を捻出してほぼ一等輸送艦と同程度の性能を持つ哨戒艦として運用されている艦もあったから、第一線級の駆逐艦とは既にみなされていないのは確実だった。


 もっとも、峯風型駆逐艦が日本海軍でそのような扱いを受けているのと同様に、英国海軍でも旧式化したアドミラルティV級に属するヴァンパイアを一線級の艦艇とはみなしていないようだった。

 実はヴァンパイアは英国海軍の所属ではなかった。現在は地中海艦隊指揮下のK部隊に配属されてはいるものの、オーストラリア海軍に転属されていたのだ。
 実際には統一運用されているとはいえ、戦間期に転属されたということは、本国の艦隊で運用するには旧式化が進んでしまったと判断されたからではないのか。

 ヴァンパイアは今次大戦勃発前には、オーストラリア海軍で使用するのも旧式化しすぎて一時は予備艦に指定されていたらしい。
 それがヴィシー・フランスの成立後に行われた仏領インドシナへの侵攻作戦に前後して同海軍で現役に復帰して、さらに現状の艦艇不足の中で地中海にまで進出して英国海軍のK部隊に配属となったらしい。
 以前からK部隊の司令部勤務だった下士官から今に至るヴァンパイアの遍歴を聞いたのだが、そのような旧式艦が相手にするには、フランス海軍の駆逐艦は剣呑すぎる存在だった。


 先の欧州大戦後にフランス海軍が建造した駆逐艦は、大きく三種類に類別されていた。
 このうち、最も艦型が小さいのがラ・メルポメーヌ級水雷艇だった。これは日本海軍の千鳥型やイタリア海軍のスピカ級と同じように、ロンドン軍縮条約の駆逐艦規定に該当しない排水量600トン以下の小型駆逐艦だった。
 ただし、この程度の排水量では駆逐艦として運用するのに充分な兵装を施すことは難しく、無理に重武装とした場合は復元性能や構造強度に支障をきたすはずだった。

 実際、日本海軍の千鳥型は無理な重兵装がたたって公試において性能不足を露呈していた。千鳥型の就役直後に日本海軍の保有枠が増大されるように軍縮条約が改定された事もあって、当初の量産計画は破棄されて就役した水雷艇も武装を減じて警備艇として使用されていた。
 ラ・メルポメーヌ級も同様に艦隊型駆逐艦の代用というよりも、沿岸警備艇として使用されているらしい。おそらくは長距離航行に必要な居住性を犠牲にして、その分構造を強化しているのではないのか。


 他国の駆逐艦に匹敵する性能を持つのは、フランス海軍の場合は正確に訳せば艦隊水雷艇とでもいうべき中型駆逐艦だった。公開された性能諸元では特に際立った特徴はなく、同時期の英海軍のそれと同等の能力を持つはずだった。

 フランス海軍の駆逐艦で本当に特徴的なのは、残る一つである水雷艇駆逐艦と呼称される大型駆逐艦だった。
 この大型駆逐艦群は欧州大戦後に初めて建造されたシャカル級の時点で基準排水量が2,000トンを優に超えており、その排水量にふさわしい強大な打撃力を有していた。
 このような大型駆逐艦をフランス海軍が建造できたのは、補助艦艇の制限を行ったロンドン軍縮条約にフランス海軍が制限されなかったためだ。


 元々フランスはワシントン条約には参加していたものの、詳細は不明だが条約内容には不満があったらしい。
 ワシントン軍縮会議はアメリカ合衆国が初めて主催した国際会議で、アメリカ政府としては軍縮のみならず日英同盟の廃止による自国に有利な国際情勢の確立や中国市場の門戸開放政策の実現などまでをも意図していたらしい。
 だが、国内政治を優先して欧州大戦に最後まで参戦しなかったアメリカ合衆国に向けられた国際社会の目は冷ややかなものであり、最終的にワシントン条約は軍縮条約としてのみ締結された。
 そのような曖昧な状態で締結されたものだから、フランス政府には軍縮条約の内容自体にも不満があったのではないのか。


 最終的にロンドンで再開された軍縮会議では、フランスは部分的な参加にとどまり、それで日英米の制限を尻目に大型駆逐艦の量産を行っていたのだ。
 一度に2個駆逐隊に相当する6隻分を一気に建造し続けていた大型駆逐艦の系譜は次第に大型化が進んでおり、目前のフランス艦隊に含まれる最新鋭のモガドル級では基準排水量は2,900トンにも達していた。

 この排水量は既に日本海軍の軽巡洋艦夕張にも匹敵しており、兵装も密閉式の連装砲塔に備えられた14センチ砲を8門というやはり軽巡並の重武装を施されていた。
 夕張は日本海軍で例外的に排水量の小さい軽巡洋艦であり、同型艦のない半ば実験艦として建造された小型巡洋艦であるのも事実だが、モガドル級が一般的な軽巡洋艦に準ずる大型艦であることも間違いなかった。

 この小型軽巡洋艦にも匹敵するモガドル級大型駆逐艦が敵艦隊には4隻も含まれていた。これまで国際連盟軍では、最新の大型駆逐艦であるモガドル級の就役は2隻で打ち止めになったと考えられていた。
 モガドル級はフランス海軍のこれまでの定例通り6隻が計画されていたが、今次大戦開戦に前後して起工された後期建造艦4隻は建造中止になったいう情報があったからだ。

 だが、実際にはこの艦隊には4隻のモガドル級がそろっていた。おそらく後期建造艦はヴィシー・フランスの成立や枢軸側での参戦を受けて密かに建造が再開されていたのだろう。
 フランス海軍の編制では駆逐艦3隻で一個駆逐隊を構成するはずだったが、今回変則的な4隻編成となっているのは、現在就役しているのが開戦前に就役した2隻と、開戦後に建造再開された2隻であるからではないのか。
 僚艦のない後期建造艦を強化のために編入したのか、それともヴィシー・フランスの国内情勢からして建造自体が今度こそ4隻で打ち止めとなったのかもしれない。

 この軽巡洋艦にも準ずるほど大型のモガドル級駆逐艦が相手では、個艦性能に大きく劣る上に、数上でも劣勢にある寄せ集めの英国駆逐艦群がまともに対抗するのは難しいのではないのか。


 寄せ集めという意味では巡洋艦群も同様だった。攻防性能のばらつきという点では駆逐艦よりもひどいと言えた。
 フランス海軍がシュフラン級重巡洋艦2隻と、その発展型と言っても良いアルジェリーという重装甲の重巡洋艦3隻を揃えてきたのに対して、英国海軍がK部隊に配属した巡洋艦は、数は同じく3隻を揃えたものの、重巡洋艦カンバーランド、軽巡洋艦フィービ、ロイヤリストと建造時期も艦型も大きく異なっていたからだ。

 この内唯一の重巡洋艦であるカンバーランドは、英国海軍が軍縮条約の制限下で初めて建造したカウンティ級重巡洋艦の1隻で、多くが建造されたカウンティ級の中でもさらに初期建造艦になるケント級に類別されていた。
 太平洋で対峙する日米両海軍などが重巡洋艦を長距離偵察や水雷戦隊の援護といった戦闘任務を遂行するために、多くの兵装と重装甲を施した準主力艦として建造したのに対して、英国海軍ではケント級を含むカウンティ級を海外植民地の防護などに使用するために長距離哨戒能力を優先して設計していた。
 そのためにケント級は航続距離や居住性を充実させて、日米の重装備艦にはやや劣るものの8インチ砲8門という重巡洋艦としては標準的な砲力をも有してはいたが、その反面重量削減のために装甲は薄かった。

 カウンティ級重巡洋艦は砲兵装は仏伊独などの重巡洋艦群と同等ではあったが、防御力で弱体であったのは否めなかった。
 英国海軍でもカウンティ級重巡洋艦の防御力には不満があったらしく、ここ十年ほどの間に行われた改装工事で、建造されたカウンティ級のうち半数ほどは防御甲板追加工事を実施されたというが、改装工事によるそのような追加では、最適位置に所要の装甲を施せたとは思えないから、フランス重巡洋艦よりもは改装工事後も防御の面では劣るのではないのか。


 欧州大戦後に逐次建造されていったカウンティ級重巡洋艦の中でも初期に建造された1隻であるカンバーランドが艦齢20年近くに達するのに対して、続航するフィービ、ロイヤリストはここ5年ほどの間に就役した新鋭の軽巡洋艦だった。
 ロイヤリストなどは数カ月前に就役したたばかりで乗員の練度が十分なのかどうか心配しなければならないほどだった。
 ただし、ダイドー級軽巡洋艦の1隻であるフィービとその改良型であるベローナ級軽巡洋艦のロイヤリストは元々水上砲雷撃戦を目的として建造された艦艇ではなかった。

 ダイドー級とベローナ級では兵装や配置に多少の違いはあるが、対空戦闘を主眼においたいわば対空巡洋艦とでも言うべき艦であることには違いはなかった。
 その主砲は軍縮条約による軽巡洋艦枠の上限である155ミリ近辺ではなく、キング・ジョージ5世級戦艦の副砲としても採用されている13.3センチという一回り口径の小さな砲だった。

 この砲は従来の高角砲と戦艦副砲などとの間を埋める中間口径の両用砲として設計されたもので、対空戦闘を重視して砲発射速度は高く、水上砲戦にも使用できるように砲弾重量も専用の高角砲と比べると大きかった。
 実際にはどちらに用いるにも中途半端との指摘も強かったが、後期建造のベローナ級ではレーダー連動の高射装置を備えて射撃精度を高めていた。


 だが、どんなに精度を高めたとしても、フィービ、ロイヤリストが備えた13.3センチ砲は連装砲塔4基で8門にしかすぎない。もともとが日本海軍で言えば石狩型に並ぶような小型の防空巡洋艦でしか無いのだから水上戦闘能力は高くなかった。

 これでは重防御のフランス重巡洋艦群に対抗するのは難しいのではないのか。
 規定一杯で建造された条約型重巡洋艦に対抗するには、150ミリ以上の軽巡洋艦枠一杯の砲を15門も備えた日本海軍の最上型軽巡洋艦や米海軍のブルックリン級軽巡洋艦のような大型軽巡洋艦でなければ難しいはずだった。


 艦の性能で劣勢にありながらも、フランス海軍の消極的な姿勢もあってか、かろうじて互角であった戦況に大きな変化が訪れたのは、戦闘開始から1時間と少しばかりが過ぎた頃だった。
 通信室からの報告を聞いた笠原大尉は眉をしかめていた。戦況は大尉の予想通りに進んでいたが、その判断を誇る気にはなれなかった。

 やはり戦線が崩れたのは相対的に弱体な巡洋艦群だった。戦艦群と離れて戦っていた巡洋艦群の指揮は、先任であるカンバーランドの艦長がとっていたのだが、そのカンバーランドとの連絡が途絶えてしまったらしい。
 ―――やはり軽装備の対空巡洋艦で重巡洋艦に対抗するのは難しかったのか……
 笠原大尉は暗然たる思いでそう考えていた。
石狩型防空巡洋艦の設定は下記アドレスで公開中です
http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/clisikari.html
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