「 睡る花のような少女 」(二)
「 ……!? 」
( ここは……? )
――――――白夜に助けられた少女が目覚めた場所は暖かな布団の中だった。
一見した所、建物の中という事は理解できたが
此処が何処なのか、どうして自分は此処で眠っていたのか全く 思い出せない。
起き上がりたかったが、思った様に身体を動かせず、布団の中で寝返りを打つぐらいしか出来なかった。
( 体中がだるくて……なんだか熱っぽい…… )
頭がぼーっとしつつも、目覚める前の自分は何をしていたのかを思い出そうと少女は考え込んだ。
――― しかし、全く 思い出せない・・・・・ 。
何故か、次第に息が上がり、鼓動が早くなっていく・・・・・
理由は自分でも解らないが、少女は 恐怖のような胸騒ぎを感じていた。
「 あっ! 起きてる!! 」
突然の大きな声に少女は驚いた。
声の主は、ふっくらとした 膨よかな体型で 袖の無い衣を着ており、若いが少女よりは大人の女性だった。
「 どうだい?痛い所とか無いかい? 」
女性は、明るく笑顔で 優し気に少女のほうに近づいて来たのだが
自分の知らない人間だったので、無意識に少女は睨むような目つきで身構えた。
「 あんた、海に倒れてたんだよ。覚えてる? 」
( 海……? どういうこと……? )
「 先生ー!先生ー! お嬢さんが起きたよーー!!! 」
女性は大声で叫びながら、先生と呼ばれる誰かを呼びに部屋の外へと駆け出して行く ――― 。
暫くすると、女性と一緒に 白髪で落ち着いた色彩の衣を着た 小柄の年輩の男性が少女のいる部屋に入って来た。
「 おはよう、お嬢さん。如何かね、調子は? 」
落ち着いた物腰の その男性の事も 少女は見覚えが無く、彼の問いに無言のまま
部屋に入って来た二人の人物を不安げな瞳で見つめた。
「 あんた、白ちゃんが拾って来てから 五日間も寝込んでたんだよ!?
とにかく、熱がすごくてねぇ! あたしが看病したんだからね!? 」
( …… ハク・チャン? 人の名前…? )
なんだか、よく解らなかったが 自分の事を看病してくれたらしいので
取り敢えず、少女は女性にお礼を言う事にした。
「 ありがとう……? 」
二人によると、此処は 男性の家屋であり 診療所でもあるらしい。
―― 年輩の男性は医者で、名は 『 秋陽 』。
―― 女性は 彼の助手で 『 日葵 』。
日葵 の話で、少女はどうやって自分が此処まで運ばれて来たかを知る。
”はくちゃん ”とは、白夜と云う 秋陽の息子の事だった。
目の前にいる二人と、その白夜という人物は 悪人では無さそうだと判断した少女は
少しずつ警戒を解いて行く ――― 。
「 ふむ、熱は引いているようじゃな。薬が ちゃんと効いたようじゃ! 」
一通り 少女の診察を終え、特に問題は見られなかった事から
”やはり、自分の読み通りだったな”と、秋陽は御機嫌になった。
「 汁物なら食べられるじゃろ。
日葵 、水屋(台所)の鍋にあるからお嬢さんに持って来てくれないか?」
「 まかせな!! 」
――― 日葵 が行ったのを確認すると、秋陽は話を切り出した。
「 お主、名は何と申す? 」
少女は答えようと口を開いたが、何故か言葉が出てこない・・・・
( あれ?名前……? 私の名前は……――― )
考えれば考えるほど自分の名前が分からない事に気づくと、次第に少女は焦り始めた。
何かがおかしい・・・――― そう感じていた。
「 名は持たぬか? 」
「 いいえ!あります。 あるけど…… 」
少女の顔色が蒼白の色に染まって行くのを目にし、秋陽は何か事情があるのかと推測する。
「 名乗れない事情でもあるのか? 」
「 …事情?……??………!?」
「 どうしたのじゃ…? 頭が痛むのか…!?」
「 わからない…… 思い出せない……… 」
―――――― 考えても考えても自分が誰なのか分からず、少女は泣きそうな顔で そう答えた。