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異郷より。 作者:TKミハル

『雪山と北の町』

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想定内と想定外

 今回は読んでいて不快になる表現(特に女性の方)が入っています。ご注意ください。……そしてケイタイの方、読み辛くてすみません。
 一通り基本を教えたシャロンは、成果を確認するため今日もアルフレッドの家に来ていた。

 細長い庭で素振りをする音は、声をかけてもやまず、ずっと続いている。あいつは基本の教えに忠実に、手を抜くことなく無心に体を動かしていた。この分だと上達も早い。

 自分のことのように嬉しくなりながら、昼と夜用スープのための野菜を刻み、次々に鍋に入れていく。 それから、買ってきた干し肉を切り分けようとしたところで、
「……何やってるんだ、私は」
ふと、今の状況が疑問に感じられた。毎日のように押しかけ、食事を作り、面倒をみる。これではまるで――――。

「……シャロン?」
 アルフレッドが汗を拭きながら部屋に入ってきた。
「あ、ああ。もういいのか?」
「せっかく来ているんだから、手合せをしたい」
 そう言って無邪気に笑う。

「手加減はしないからな」
 心の引っかかりを振り払い、肉切りナイフを置いて彼女は剣を取った。

 夕方。早々にアルフレッドの家を出て、酒場に向かう。こんな時は、飲むのに限る。

 たびたびそうするように酒場のカウンターに座り、主人を呼ぶ。
「マスター、蒸留酒『炎の恵み』を頼む」
「おい嬢ちゃん大丈夫かい?初っ端からそんなキツイの飲んで」
「……今日はそういう気分なんだ」
 早いペースで中身を空け、マスター相手にこの町の寒さや雪山の魔物の性質なんていうどうしようもないことでくだを巻いていると、バタンとドアを開け、あごひげのディランが入ってきた。

「親父!聞いたか!?山の主が倒されたってよ!」
「本当か?いったい誰がやった?」
「それが、ゲイツなんだよ。あいつずっとあのでかいボス猿を追っていたから、いつかはなしとげると思ったんだ」
「それにしてもすごいな。報奨金も相当なもんだろ?」  
「ああ、そのことなんだが……なんでも、あいつが倒したボス猿は、片目が潰れてたらしいんだ。ゲイツの野郎、ひょっとしたら別に報奨金を請求する奴が現れるんじゃないかって心配しててな。貰っちまえばわかるもんかって言ってやったんだが。シャロンは、何か知らねえか?前に白猿の群れに出くわしたんだろ?」
「……知らん」
 テーブルに突っ伏したまま答えるシャロン。

「また、今日は荒れているな」
 ディランは酒場の主人に小声で尋ねた。
「来た時からずっとこうだったんだ。何か嫌なことでもあったのかね」
 首をひねっている二人をよそに、彼女はふらつく頭を振って立ち上がった。
「マスター。勘定」
「大丈夫か?ディラン、彼女を宿まで」
「心配いらない。まだ暗くなっていないじゃないか」
 勘定を払うと、さっさと酒場を出た。ほろ酔い気分のまま、薄暗い道を歩き出す。

 だめだ。全然気分が晴れない。酔ってはいても、頭の一部は冷めている状態。
 ……せっかく高い金を払ってきついのを頼んだのに。

「なあ、オレたちと遊ばないか?」
 シャロンはいつのまにか、五人組の男に囲まれていた。
「こいつ知ってるぜ!最近あの例の掘っ立て小屋に出入りしている女じゃねえか」
「ひぇ~、こんなうぶな顔してやるもんだね。野生人の味はどうでしたか~」
「あいつにサービスできるんだったらぁ、オレらにも一つ頼んますよぉ~」

「……よかった」
 そう呟くと、男たちは一様に訝しげな顔に変わる。
「ちょうど、イライラしてたんだ。八つ当たりさせてくれ」

 まず、手近な一人を掴んで殴りつけると、みるみるうちに形相が変わる。
「このアマ!舐めやがって」
「やっちまえ!」
 剣を使うほどのこともない。突進してくる相手を蹴り倒し、拳を顎に叩き入れる。
 そうやって起き上がるのもままならないくらいに絡んできた奴らを痛めつけながら、シャロンは思う。

 別に、いいじゃないか、傍からどう思われようと。私が一週間だけあいつの面倒をみると決めたんだ。

 最後の一人を蹴倒して空を振り仰げば、いつかと同じように冴え冴えとした月が二つ、並んでいた。


 そして、とうとう最後の日になった。

「すごいな。一週間でちゃんと形になるなんて。よく頑張った」
 今までの総まとめと、打ち合いをしっかりやったせいで、彼の家に返ってきた頃にはすでに真っ暗になっていた。
「ありがとう。シャロンのおかげだ」
 アルはまっすぐにこちらの目を見ながら礼を言う。目つきは少々悪くて髪は相変わらずボサボサだけれど、顔色や毛並……じゃなかった毛艶もいい。服も新しくなり、姿は見違えるようになった。

 でも、もうこいつの面倒をみるのはごめんだ。……そう思いながら胸元の財布を押さえる。
 結局、あの金貨はまだ使っていない。なんとなく使う気になれなかったのだ。

「……そもそも、お前の報酬が多すぎたんだから、礼は必要ない」
「……うん」
 照れくさそうに笑いながら、何かを言い出せず躊躇っている。嫌な予感がした。

「僕も、旅に連れて行ってほしい」
「断る」
 きっぱりと言う。期待を持たせることはしたくない。
「……もっと強くなりたいんだ。この剣を使いこなせるぐらいに。それには、旅へ出た方がいいから。嫌だって言っても、ついていく」
 強い眼差し。このまま断り続ければ、本当に宿までついてきそうだ。そういうのは誰か他の奴でやってくれ。

「……わかった。じゃあ、仲間になるか?」
「うん」
 嬉しそうに頷く。な、なんだか罪悪感が……。

「でも、お前まだ旅に出られないだろうが。お金も何もないんだから」
「ここにある毛皮を売ればなんとかなる」
「じゃあ、明日の昼前に集まって、この町を出よう。私もまだ食料を買い足さないと」
 じゃあ、また明日の昼前に、と笑ってその場を別れた。

 その夜。酒場でなじみになった主人に明日の昼ぐらいに旅立つことを告げると、にやりと笑い、
「アル坊も一緒に行くんだろ?」
と返された。
「な、なんでそれを」
「いや~そういうことになるんじゃないかと思っていたんだよ。初めに言っただろ?人見知りするって。その代わり、一度懐いた相手はとことん信用するんだ」
「……へぇ~」
 もっと早く言えよそういうことは!

 その晩はほどほどに飲み、折よく来たディランにも別れを告げて、宿へ帰って荷物をまとめると、やはり寂しい心持がした。

 翌日。日の出とともに起き、荷物を持って宿を出る。開門と同時に外へ出て、できるだけ遠くに行くのが一番いい。さすがに、行き先までは誰にもいっていないから大丈夫だろう。

 階段を下りてベルを鳴らすと、宿の主人が目をこすりながら出てきた。
「……もう行くのかい?」
「はい。お世話になりました」
 この人がしてくれた忠告を、無視してしまったけれど……あれからもいろいろとアドバイスをしてくれていて、本当に頭が下がる。

「この時間だと、まだひょっとしたら門は開いてないかもしれないよ?」
「……いえ、行くのは近くの南門じゃなく、東門なんです。今から町を歩いていけば、ちょうど開門時間に間に合うかと」
「そうかい。じゃあ、気をつけて」
「それでは、これで」
 宿を出て、徐々に白み始めた空を眺めながら、東を目指した。町は、まだ眠っているみたいだけれど、そのうちにぎやかさを取り戻し始める。

 そうなる前にと、急ぎ足で見慣れた通りを突っ切り、まっすぐ東門へ。空はだんだん明るくなっていく。

 あれ?ひょっとして迷ったか?
 いつのまにかシャロンは袋小路へ入り込んでいた。これだからややこしい造りの町は嫌なんだ。もっと大きくて広い道を何本も作ってくれるといいのに。

 自分の土地勘のなさを棚に上げてそんなことを思いつつ、やっと東門に辿り着いた。すでに開門されており、門番が両脇に控えている。

「止まれ。まず門外不出の持ち物がないかチェックを受けてもらう」
 屈強な体の男たちに入り口付近の小屋に連れていかれ、そこで受付のおばちゃんに念入りに調べられながらも、シャロンは外が気になって仕方なかった。まさかここで追いつかれる、なんて間抜けなことはないと思うが……いや、あいつの身体検査中に逃げればいいだけか。

 しかし、予想に反して、見慣れた姿は周囲にまったく見えず、少し寂しいような気持ちになった。

 あいつはきっと強くなる。だから、またどこかで会える時が来るかもしれない。もしその時有名になっていたら……私が剣を教えたんだぞって胸を張ればいい。

 シャロンは、そう考え、清々しい気持ちで東門をくぐり、新たな冒険への一歩を踏み出した。























 ……が。
「なんで、ここにいる」
 踏み出した途端、なぜか外壁にもたれていたアルフレッドを発見した。
「グレンさんに、教えてもらった」
 グレンタール。町と同じ名前の人は一人しか知らない。つまり、私がお世話になった宿の主人。

「しまった。思わぬ伏兵が」
 舌打ちをしそうになり、アルフレッドの顔を見て思い留まった。怒っている、というより理由が知りたい、といった感じだが、じっとこちらを見るのでやけに迫力がある。

「……どうして逃げたの?」
 そのままで尋ねてくるので、つい、ぽろっと零してしまった。
「私は、まだ未熟なんだ」
 アルフレッドはきょとんとした表情になる。
「とてもじゃないが、誰かと一緒に旅をする余裕なんてない。共倒れになるのがおちだ」
 こら。こっちが真剣に話しているのに笑うな。

「……僕も、言ったはず。強くなるために旅をするんであって、守ってもらうためじゃない。ただ、一人だと足りないところがあるから、一緒に行きたいだけ」
「そう、か」
 シャロンは肩の力を抜いた。
「本当にいいんだな?私は無理だと判断したら容赦なくお前を見捨てるが」
「……かまわないよ。これからよろしく」
 アルフレッドが手を差し伸べ、ためらいながらもそれを握る。

 このことを妹にはなんて伝えよう、と心の内で考えながら。
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