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異郷より。 作者:TKミハル

『雪山と北の町』

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振り方指南

 次の日からシャロンは、しこたま新しい布やほうきを持ってアルフレッドの家に押しかけると、徹底的に掃除を始めた。

 野生人の家が騒がしいぞ、とうとう差し押さえか、と口々に子どもたちのはやしたてる声も気に留めず、ベッドの毛皮を引っぺがして外へ干し、薄汚れた布をごみにして台をはたき、新しい布に取り換える。
 棚や床に溜まった埃やごみをほうきで掃き出し、片隅に積まれた道具を整理していらない家具をすべて庭(といえるかどうかもわからない家と家の隙間)に放り出した。

 庭で所在なさげにしていたアルフレッドに部屋から発掘した斧を渡し、壊して薪に変えるよう頼む。
 バシッ、ガコンッと薪の割る音を聞きながら片づけを進めると、昼前には部屋は見違えるほど綺麗になった。

「アルフレッド、少し休もう」
 持ってきたバケットを小さな四角テーブルに置き、香草茶を木のコップに注ぐ。前はこのコップすら棚の片隅にずっとしまいっぱなしだったもので、こうやってここで人間らしく食事ができることに感動すら覚える。

「お前な~、もっとこの状況を噛み締めたらどうだ」
「……充分噛んでる」  
 ベーコンを挟んだライ麦パンを口いっぱいにしながらアルフレッドがピントのずれた答えを返す。
「そういうことじゃなくて……あ、そういえば味はどうだ?他人のために作るのなんて久しぶりだからな」
「……平気。うまい」
 あっというまに平らげての台詞に、シャロンはそれはよかった、と笑う。

「明日からは本気で練習始めるからな。今のうちに体力つけとけよ」
「……」
 それから、病気のぶり返しが心配なので、念のためしばらく一緒にいて顔色や熱を確かめ、栄養をつけさせるため夕食の分も作ったシャロンは、これでいいと独り悦に入っていた。

 あくる日、アルフレッドの回復に合わせ、とうとう本格的な指導が始まった。
 昼前からグレンタールの外れの空き地で向き合いながら、
「で、アルフレッド……もう面倒だからアルでいく。私とアルの剣はまず、種類が違うから、その扱い方も違う」
シャロンは自分の剣を抜き、アルフレッドから受け取った剣と比べてみる。
「ほらこれは片手剣で、そっちは両手剣……でもないか……長さの割に軽いし」
 片手剣としてはかなり重いが、ひょっとして練習すれば片手で扱えるようになるのかもしれない。

「先端から半分以上が両刃、下の方は片刃というのは初めて見た。変わった剣だな。……ま、最初は両手剣のやり方で行くから。で、まず、基本の動作から。縦に〈振り下ろす〉横や斜めに〈薙ぐ〉、相手の攻撃を〈流す〉〈受ける〉の四つで、そのうち振り下ろすと薙ぐの二つは先端に重心を置き、遠心力を利用して威力を上げる」
 シャロンは彼の前で剣をゆっくり振り下ろし、続いて横に薙ぎ払ってみせた。
「じゃあ、まずやってみよう。柄の上を利き手、下をもう片方の手で握り、ゆっくりと振り下ろすんだ」
 剣を渡されたアルフレッドは、右手を上にして大きく振りかぶり、下ろした。

 ドガッ

「危ない!」
 剣筋は揺れ、アルの足元へ切っ先が落ちる。
「練習始めでいきなり怪我をしたらどうする!」
 思わず言ったものの、よく考えたらこの剣は重いのでもっと慣れた後の方がいいかもしれない。
「よし。もっと軽い剣にしよう。私の剣を」
「……これでいく」
 いつになく強い口調で言った。

「そうか。なら、もうひたすらやるしかない。昨日薪を割った時の要領を思い出せ。慣れてきたら地面すれすれで止められるようにするんだ」

 ドカッドカッ

 剣で土を耕しているようなシュールな光景。やらせといてあれだが、刀身が傷つかないか心配だ。
「次に、薙ぎ払いだ。手首をひねって左へ流すなら右、右へ流すなら左手を動かすように意識をしてやってみろ。……その重さだとすっぽ抜ける可能性が高いから、絶対に手を離すな」
 頷くアルフレッドに一抹の不安を感じながらも、横へ払うよう促す。
「……」
 今度はなんとかできた。一回転しそうな勢いだったが。
「よし、じゃあこの二つを覚えよう。ひとまず両方素振り300回で」

 きつい練習にもアルは愚痴一つこぼさず、一心に剣を振っている。始めは地面に突き刺さっていた剣も素振りを日没近くまで続けていると、なんとかすれすれで止められるようになった。
「次に、〈流す〉と〈受け〉だが……これは今やった二つがしっかりできてからにしよう。今日はこれで終わり。どんなに疲れていても、ちゃんと夕食は取ってから寝ろよ」
 終わり宣言を聞いた瞬間、がっくりと膝をついたアルフレッドに釘を差しておく。

 実は、今日はわざわざ朝からアルフレッドの家まで行って料理を作っておいたシャロンだった。



 
 この剣術指導は、こういう教えがあるわけではなく、シャロンがわかりやすく伝えるために工夫した結果です。
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