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黄色いレインコート麗子 作者:ジュゲ
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第二十二話 彼女

 滑川さんが一方的に話のを黙って聞いた。
 尋ねるタイミングがあるであろうと待ったんだけど。
 母さんと元カノを通して学んだこと。
 火のついた女性は聞く耳がない。
 ま、本当は先生の受け売りなんだけど、なるほど先生の言った通りだった。
 火がついたら喋りたいだけ喋ってもらう。
 それでほとんどの問題は片付くようになった。
(もう少し前に知っていたらアイツともうまくいったのかな・・・)
 つくづく女性とはよくわからない生き物だ。どうしてそこまで喋るのか。尋ねてもいないのに。箸が落ちただけで何がそんなに笑えるんだ。男の話題だけで何故に永遠とも言えるほど喋れるのか。あんだけ惚気けていた翌日にどうして相手を完全否定できるのか。意味がわからない。
 あの滑川さんが他の女子のように喋るのを見て不思議なものを見る心境だった。こんな一面が彼女にあったなんて。全く想像も出来なかった。あれだけお淑やかで、理知的で、穏やかで、落ち着いていて、可愛くて・・・。
 僕の彼女への評価はストップ高。
 これは父さんの受け売りかもしれない。
 あの日の朝、珍しく父さんが興奮していたから何事かと聞いたら株がストップ高でどうとか言っていた。上がり止まることを言うらしい。株をやっているんだと初めて知った。でも、それって儲けたってことでしょ。なら、どうして母さんは不安そうな顔をしていたんだ。夫婦であってこの落差。夫婦ってなんだ。

 滑川会談は僕にとっては何もかもが判らずじまいで終わる。
 なんとも悶々とした感覚が腹の下あたりに残った。
 なんなんだこの感じは。
 彼女はえらく満足そうだったけど。
 彼女は相手がレイさんと気づいているのだろうか。
「もし」って何を言おうとしたのか。
 そもそも結局は何が言いたかったのか。
「嫌いじゃないと思う」の根拠は。
 何も得られなかった。
 5対5とは言わないが、せめて3対7ぐらいで喋らせて貰えれば。最後の頃は1対9ぐらいだったような気がする。でも彼女の不安は解消されたようで、なんだかホッとした。彼女もこれで眠れるだろう。母さんも時々眠れないようで「辛い」と言っていた。眠れないのは辛いらしいし。
 結局のところ僕が知り得たのは、滑川さんがフリーということだけ。
 これは秘密にせざるおえないだろう。
 僕には荷が重い。
 家に帰り今日の占いの結果を母さんに聞くと、僕は 小吉 だったらしい。
 だから占いなんて信じないんだ。

 二学期は行事が多い。 
 九月の文化祭、十月の体育祭、十一月の修学旅行。
 オジサンは言った。
「いつに戻りたいといったら高二だよ!今お前は最高の時期にいる」
 曰く、精神的、肉体的に中学生ほど不安定ではなく、多少なりとも落ち着いてきて大人の階段を登っている最中。知識も増え、行動範囲も広くなり、興味も多岐に渡ってくる。それでいて自分というものを朧気に見えてきている。
 だそうだ。
 自分ではわからない。
「挙句に振られたけど受け入れてくれている好きな相手がいる、くそ羨ましいぞ!」だそうだ。
 言われてみると中学生の時にあったわけもわからない混乱は減ったような気がする。肉体的にも精神的にも。
 中二には骨が痛くなった。アレはなんとも不快な感覚だ。また、わけもなく不安になったり他人の目が凄く気になったりした時期だけど、今ではそんなことも少なくなった。あれはなんだったんだろうか。あの面倒くさい感じ。

「しっかし、なんでウチの学校は十一月に修学旅行なんだろうね」
「六月は混むし高い、十一月は空いているし安いかららしいよ、親が言ってた」
「んで、ウチのクラスは文化祭は何になるんだ」
「ミツは何やりたい?」
「帰りたい」
「帰るなよ」
「メイド喫茶がいい」
「それいいなヤッさん。ウチは粒ぞろいだし何より滑川がいるから最強だぞ。金とれるな。でも許可おりるんかね?」
「去年二組が申請したけど却下されてた」
「お前はそういうのだけ詳しいな」
「えへへ」
「二組って・・・あー。さもありなん。よし、今年は俺らが決めよう!お前はどう思う?」
「うん・・・」
 滑川会談の誤解を解くのは実に簡単だった。
 ま、僕と滑川さんじゃ誤解のしようがないのだろう。
 もう少し皆食いついてくるかと思ったけど、僕の位置ってそんなもんと思いガックリした。客観的に考えると、当然だろうけど。
 それよりも僕は混乱していた。
 文化祭どころではない。
 レイさんは相変わらず僕が挨拶しても無視している。
 僕は雨が降ってもあの場所には行かなくなった。
 あれは見てはいけない状況な気がしてきたからだが。
 これ以上、関係を壊したくないというのが裏にある。
 今までは何もなかったから良かったけど今は違う。と思う。
 壊れるか、そもそも築けてもいないじゃないか。
 でも土台ぐらいあるだろ。
 その土台すら失われたら終いだ。
 じゃ、どのタイミングで会えばいいんだ。
 いや学校で会ってはいる。
 でもこれは会っていると言えるのか。
 挨拶しても無視する相手。
 目も合わせない彼女。
 電話も、携帯もなく、どうやって連絡をとれば。

 学校では関わらないでと言った。

 その意思は尊重したい。
 かといって家へ押しかけるのは違う気がする。
 彼女は一人暮らし・・・かもしれない。
 寧ろ誰かいたら尚更きまづい。
 でも、

(あー・・・)

 今の僕には彼女の笑顔成分が不足している。
 あの笑顔を、あのハープのような声を聞きたい・・・。
 思い出すと胸の当りが締め付けられるようだ。
 同時に弾む。
 でもどうすれば。

「おいって」
「ん?・・・マキさ・・・」
「どした?」
「・・・」
 まずい。
 やっぱりマキには相談出来ない。
 相談するには口が軽すぎる。
 もう懲りた。
「メイド喫茶か・・・」
「なんだ聞いてたんだ。どうよ」
「てーことは、お前の・・・もメイドさん姿なわけだな」
「・・・あー。ダメだ、メイド喫茶は止めだ」
 やっぱり気づいてなかったか。
「なんで!」
「あいつのメイド姿をお前らに見られるなんて冗談じゃない」
「独り占めいくない」
「ダーメーだ」
 ほらな。
 やっぱりそうだよな。
 大切にしたい。
 なら、やっぱりそっとしておきたいよな。
 二人の関係を壊したくない。
 本当は見たところで壊れる筈もないかもしれないけど。
 でも嫌だよな。
「そうだ。マーサ」
 マキはなんでマーサと俺を呼ぶのか。
「あいつが例の彼女候補を文化祭で会わせるって」

「・・・へっ!」

 ちょいちょいちょーい。
 待ってくれ、まだ何一つ解決もしていないのに、なんでこうも次々に。
「どういうこと?」
「紹介するって言っただろう」
「言った・・・・な」
 そうだ、言ってたよ。
 本気だったのか。
「お前さ、最近ボーっとすること多くなったよな、なー」
「うんうん」
「マーちゃん、ちょっとヘン」
「ほら」
「そう?」
「そうだよ。ショックなのはわかるけどいい加減大人になれ」
「なにが?」
「何がって・・・気持ちもわからんではないが」
 ショック?
 会えないのが?
 無視されるのが?
「お前が俺に言ったように、いい女は他にもいるぞ」
 あー・・・そういうことか。
 振られた件ね。
「別にショックじゃないよ」
「嘘を言うな・・・まあいい。新しいのが出来れば立ち直れるから。そこでだ、ココだけの話、昨日さアイツに連絡したら文化祭に会えるように手配するって言ってくれたぞ。全面協力するって。良かったな!」
 このマキのテンションときたら。
 嬉しい!・・・んだけど、嬉しいんだけど、なんだこのモヤモヤは。
「いや、しかし、待って。気持ちは嬉しいけど、心の整理が・・・」
「行動しながらだって整理は出来るだろ。コレ、お前が俺に言った言葉だぞ」
 あー・・・そうだったかもしれない。
 言うは易し行うは難しだな。
「そうだっけ。あーでも・・・」
「却下だ。ただ、すげー美人だったら付き合わせねーからな。俺もしらねーんだよ」
「なんだよそれ」
「マッキー、俺らには?」
 指をくわえるな。
 笑うだろ。
「お前らはまず人間になることから始めろ」
「酷いわ」

 まずいことになった。
 いや、嬉しいんだけど。
 何せこっちはレイさんに未練たらたらだ。
 そもそも舌の根も乾かぬうちに次ってどうなんだ?
 どんだけ尻軽だよ。
 いや、単に僕の気持ちが切り替わらないだけか・・・。
 だって好きなんだ。

(好き?)

 好きなのか僕は。
 嫌いじゃないだろ。
 でも好きってなんだ。
 わからん。
 とにかく無理だ。僕はそんな簡単には切り替われない。
 優柔不断と言われようが無理だ。
 でもマキの言うように彼女が出来ればサックリ変わるかもしれない。
 忘れるかもしれない。

 アイツのことを思い出した。
 暫く連絡を取り合わなくなった後、あの日。
 町のコンビニで会った。
 男を連れていた。
 僕はまるっきりいつも通りの雰囲気のように見えたかもしれないけど、内心はびっくりしていた。そんな僕を彼女は射るような目で見ていた。まるで仇を見るような目だ。今でも忘れられない。あの時の彼女は僕と一緒の頃より大人びて見えた。たった数ヶ月あわないだけで人はこうも変われるものか。
「なに?知り合い」
 男は言った。
 雰囲気を察したんだろう。
 ただならぬ顔だったし。
「去年クラスで一緒だったの」
 クラスで一緒?
(彼氏だろ!今や元みたいだけどさ、知らぬ間に)
 男を見る彼女の笑顔。
 以前、僕に見せていた笑顔。

(ああそうなんだ。もう僕らは他人になったんだ)

 そんな感覚が去来し、ひどく寒々しい感覚が通り過ぎた。
 血の気が引いていく。
 男を作ってたわけね。
 そう思った。
 だから連絡をしてこなかったのか。
 でも自分もしなかった。
 正直なんの未練もない。
 つもりだった。
 なのにあの後の二ヶ月は無性にイライラしよく眠れなかった。
 勉強だけは捗り僕は富高へ。
 彼女は一格下の学校。名も知らぬ男は二格下の高校へ行ったようだ。
 エミーがわざわざ卒業後に電話してきた。
 彼女は僕に同情していた。
 むしろそれが余計に辛かった。
 僕はどうでもよかった。
 何せもう他人だ。
 なのに、その知らせを聞いた時、胸のすく思いをした。
 スッとしたんだ。
「ざまーみろ」
 そういう感覚が一瞬湧き上がった。
 そしてすぐ虚しくなった。
 彼女が凄い遠い人になったようで。
 もう本当に別の世界に行ってしまったようで。
 あの頃の出来事が全て夢だったようで。
 アイツは特に何も悪くないんだろう。
 勿論、僕だって。
 暫くしてから思った。
 放ったらかしにしていたのは僕だ。
 でも彼女も僕を放っておいた。
 一言欲しかった。
 いや、それもおかしいのか?
 どうしてイライラしたんだろう。
 どうして心が毛羽立つのか。

 彼女が出来れば変われるんだろうか。
 マキには自分で言ったな。
 でも、あんな思いをまたするかもしれない。
 嫌だ。
 今でも時折 思い出す。
 彼女の冷めた目。
 冷淡な表情。
 彼を見た後に僕を流し目で見た時のあの顔を。
 震えた。
 僕の知っている彼女じゃない。
 まだ怒鳴られた方がマシだ。
「なんで電話してくれないの」
 彼女は時々そう言っていた。
 泣いたことも。
 泣くほどのことかわからない。
 僕の心の中にはいつも君がいるのに、君の心の中には僕はいないのか?
 どっちが冷たいんだ。
 そう言ったこともあった。

「じゃあ、お元気で」
 彼女はそう言ったきり二度と会うことはなかった。
 あんなに変われるものだろうか人間って。
 それが女性なのだろうか。
 それとも彼女がそういう人なのか。
 エミーは彼女がそういう人だと言った。
 信じられない。
 今でも思い出すと背筋が寒くなる。
 じゃあ、それまでの笑顔は、今迄共に遊んだ楽しい出来事はなんだったんだ。
 騙されたのか?エミーはそう言った。
 僕がそんなに酷い仕打ちをしたのか。
 思い出せない。
 あんな目で見られなきゃいけないほどに何かしたのか。

 もう嫌だ。
 だったらなんで僕は麗子さんとまた喋りたいんだ。
 会いたいんだ?
 さっぱりわからない。
 彼女が出来れば麗子さんのことも忘れられるんだろうか。
 そんなもんなんだろうか。
 その程度でいいんだろうか。
 同時に湧いてくる欲求。
 レイさんを側に感じたい。
 男がいてもいいから。
 話してくれるだけでもいいから。
「誰しも通る道だよ」
 父さんからはそう言われた。
「女々しいなぁ」
 と言われたこともあった。
 うるせーわ。
 傷つくの嫌で何が悪いんだ。

 考えるほどにマキの申し出を断る理由は次第になくなっていった。
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