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第18話

「ふう、食った食った」


「やっぱり、ちゃんとしたご飯はいいわよね……」


 主観時間で数か月ぶりとなるまともな食事を堪能し終え、幸せそうにため息を漏らす達也と真琴。無事に戻ってきた一行は、公約通りちゃんとした、と称するにはかなり豪勢な料理を食べ尽くしていた。


 一応作戦決行前に食べてはいるのだが、あり合わせでつくったやや小さめの肉挟みパン一個だけ、という、若い身体にとって食べたうちに入らない分量しか口にしていない。


 確かに戦闘中はソーマの効能で無限のエネルギーを得ていたが、それと空腹とは別問題。あくまでも神酒は酒であり、コップ一杯や二杯で満腹になるような効能は無い。たとえ効果時間中であっても、カロリーは別枠で消費するのだ。


 つまるところ、昼に食するには重いはずのフルコースといえど、十分に平らげられる程度には宏達は空腹だったのだ。


「皆さん物凄い食いつきでしたけど、リハビリ中に何かあったんですか?」


 あまりの食いっぷりをみて、アルチェムが不思議そうな顔で質問する。


「何かあったっつうか、な」


「甘えが出ないように、リハビリ中の食事は仕留めたモンスターの食材のみ、ドロップ以外の調味料は使用量に上限あり、ってルールで潜ってたのよ」


「多分そのルールにしてなかったら、ボク達克服できてない」


 達也と真琴の返事に一瞬あぜんとし、思わず顔を見合わせてしまうエアリスとアルチェム。


 不慮の事故で食料を失った、などというケースならともかく、最初からその前提で潜るなど、いくら死なないダンジョンといえども無謀に過ぎるのではないだろうか。


 そもそもダンジョンのモンスターは、必ずしも食えるとは限らない。今回は宏が自由に仕様を決定できるダンジョンなので問題なかろうが、それでも間違いなく無謀と言っていい行為であろう。


「……それはまた、厳しいですね……」


「最初の頃は割と過剰反応でやりすぎて、ご飯にありつけない日も結構あった……」


 色々迷った末にそうコメントしたエアリスに対し、どこか遠い目をしながら澪が答える。さすがにリハビリどころではなくなるため、水だけは自由に飲んでいたのだが、それがかえって空腹感とわびしさを増幅して精神的に来るものがあった。


 決められた量の塩をなめ、水を飲むだけの日が何日も続けば、一時的にとはいえ暴力にさらされる恐怖心などどこかに行ってしまうものだ。


 そんな追い詰められた状況を何度か乗り越えているうちに、いつの間にか普段通りの戦いができるようになっていた。


「正直、宏と春菜には申し訳ないことしたわ……」


「別に無理につき合わなくてもよかったのに、俺らと一緒に一週間ぐらい断食って事もしょっちゅうだったからなあ……」


「しかも、ボク達がイライラして喧嘩するたびに仲裁してもらったし」


「あのなあ。何ぼ何でも、仲間ひもじい思いしとる時に、僕らだけ飯食えるかいな」


「そうだよ。それに、今回の件はみんなの連帯責任なんだから、私と宏君だけが免除されるのもおかしいし」


 真琴と達也の言葉に、宏と春菜が反論する。断食状態が続くたびに、同じような会話をしていたのは記憶に新しい。空腹にいらいらして喧嘩をしたこともしょっちゅうで、その度に神になったおかげで飢えに強くなっている宏と春菜に仲裁されたものだ。


 はっきり言って、二度と同じ事はしたくない。そう言い切れるほど過酷な数ヶ月。テレビなどで紹介されているプチ断食などとは、間違っても同列に扱えない体験。達也と澪を除き、こちらの世界に飛ばされてきてからも含めて今まで食事にだけは一度も困った事が無かった宏達が、初めて経験した飢餓状態。


 達也と澪は、こちらに飛ばされた直後に盗賊につかまって二日ほど飲まず食わずを強いられたが、あの時は脱水症状の方がきつく、それほど強烈な飢えは感じなかった。それゆえに、その二人にしても本当の意味で飢えと直面したのは今回が初めてである。


 それを乗り越えたことで、宏達の絆がより一層深まったのは間違いない。連帯感を醸成するのに、同じ苦境を乗り越える事に勝る手段は無いのだ。


 そんな宏達の会話を、美味しすぎる食事の余韻に浸っていたリーファだけが、ピンとこない様子でキョトンとしている。まだまだファーレーン語での会話が不自由な上、割と最近まで毒物などの理由でまともに食事ができないのが当たり前の日常を送っていたのだから、一週間の断食が過酷だと言われてもピンとこないのも仕方がないだろう。


 毒物などでまともな食事にありつけない日常を送っていたのはかつてのエアリスも同じだが、エアリスの場合は神殿にさえいれば、粗末ではあっても飢えない程度の食事はできていた。王族なのに下手をするとスラムの子供と大差ないぐらい飢えが日常にあったリーファと、一応食うには困っていなかったエアリスを同列に扱うのは無理だろう。


 恐らく、リーファと感覚が一致するのはレラとファム、ライムの三人だけである。


「そういや、思わず飯に必死になってて忘れてたが、オクトガルの空爆はどうなってんだ?」


「ポメの消費量が減ってきてるから、そろそろ終わるんじゃないかな?」


 腹も心も落ち着いたところで、ようやく空爆の事に意識が向かう達也。その達也の質問に、消費されているポメの量から現状を予想して答える春菜。


 ピーク時には兆の単位でも足りなかったポメの消費量も、今は億単位まで減っている。恐らく、ウォルディスでも最も南北に広がっている地域を抜けたのだろう。


 生産量を調整しながらそんな風に消費量を観察していると、突然急激に消費量が減少に転じる。どうやら東海岸に到着したらしい、などと考えながら生産量を一気に絞っていると、間もなくポメの消費が止まる。


「ただま~」


「みんなゴールしたの~」


「お帰りなさい。お疲れ様」


 戻ってきたオクトガルに春菜がねぎらいの言葉をかけると、それにあわせてリセットが大量の料理を運びこんでくる。


「わ~い、ご馳走~」


「お腹減ったの~」


 食堂に持ち込まれた神々の晩餐に、オクトガルがわっと群がる。当人達からすればほとんど遊んでいたようなものではあっても、さすがに世界三位の国土面積を持つ国を、北端から南端まで幅数キロから十数キロメートルほどの帯となるようにつなぐとなると、それだけの数を維持するのはかなりのエネルギーが必要だったらしい。


 更に言うならば、出発前に神々の晩餐を食べた上でソーマとアムリタでドーピングをかける、などという反則的なやり方をしていなければ、いくらオクトガルが謎生物の頂点に立つイレギュラー種族といえども、兆を超えるほどの数に増える事はできない。


 今回はなりたてほやほやの新米とはいえ、神が二柱も直接関わっているからこそ実現できたが、普通の人間や普通の国家だとどうあがいても実行不可能である。


 余談ながら、現在のオクトガルの数は十数万程度。ドーピング効果が切れたため、現在個体数は調整中である。


 元々毎秒数千単位から数万単位で生息数が変わる生き物なので、増えたら増えっぱなし、などという事にはならない。


「う~ま~い~ぞ~!」


「まいう~、まいう~!」


「三つ星の、通~!!」


 次々と運び込まれてくる料理をどんどん平らげていくオクトガル。日ごろの食事量と比較すると、間違いなく数十倍以上食べている。


 しかも、入れ替わり立ち替わり新たなオクトガルが現れては食っていくため、現在どれぐらいの数がいるのかすら不明だ。


「今日はいつになく食べてるけど、そんなに食べて大丈夫?」


「前借りした分の補充中~」


「前借り~」


「丸刈り~」


「坊主丸儲け~」


 春菜の質問に、謎生物らしい便利な生態的特性を答えるオクトガル。ヒューマン種どころか大食らいで有名な巨人族やドワーフですら、一食ではそこまで食べないと断言できる量を平らげていくオクトガルの様子を見ながら、さすが謎生物の頂点に立つ生き物は違う、などと妙な感心をする春菜。


 もっとも、オクトガルに比べれば普通の範疇に収まるだけで、この城に居るひよひよやラーちゃんも、生き物としては大概おかしい性質を持ち合わせているのだが。


「それで、ウォルディスの方はどうなったのかな?」


「地上全部浄化完了~」


「ボスっぽいの逃げた~」


「変態がドルおじちゃん達連れて追跡中~」


「追跡できるんだ……」


 オクトガルの言葉に、思わずなんとなく遠い目をしてしまう春菜。見ると、他の日本人メンバーも同じようにどこか遠い目をしている。


 恐らく、変態というのはバーストの事を指すのだろう。ほぼそのベクトルが宏にだけ向いているとはいえ、実際のところはレイニーも変態度合いでは大差ないのだが、オクトガルはレイニーの事は「レイニーちゃん」と呼ぶ。なので、ほぼ間違いなく変態というのはバーストの事である。


 正直なところ、バルドクラスからぽこぽこ空間転移を行う邪神教団の連中を追跡するのは、そう簡単な事ではない。簡単な事ではないのだが、ワイ太郎達の事を考えると不可能ではない気がするのが趣深い。


「って、ドルおじさん?」


「また、不思議な組み合わせねえ……」


 バーストとドーガという接点のなさそうな組み合わせに、どうにも不思議な気持ちになってしまう一同。


 そもそも、最初から見せ札として注意を集める前提で行動していたレイニーと違い、バーストは立場の上ではごく一般的なアサシンだ。いつも妙な仮面をつけていて誰も今現在の素顔を知らないとはいえ、他所の国の重鎮であるドーガに顔を売っていいのか、非常に疑問である。


 まあ、ワイバーンの群れを手懐けて色々好き放題やり始めた時点で、顔が売れるもくそもないのは確かだろうが。


「ワイ太郎便利~」


「有志連合運搬~」


「レイニーちゃん別任務~」


「なるほどね」


 自分達が聞いても大丈夫なのか、という情報が次々とオクトガルから飛び出してくる。こんなに情報管理がゆるくて大丈夫なのか、と一瞬心配になる宏達だが、実際には意外と口が堅い事を知っているエアリスやアルチェムは平然としている。


「あの、ちょっと質問いいですか?」


「何かな?」


「ワイ太郎って言うのは?」


 食後のお茶を嗜みつつ、オクトガルの食べっぷりを眺めながら聞くとはなしに会話を聞いていたアルチェムが、不思議そうにそう質問する。変態というのがバーストであるということは分かっているが、バーストが復帰したときはエアリスともども神の城の神殿にこもっていたため、そのときにあった諸々は一切知らないのだ。


 その質問に、どう答えるべきかと視線を交わす宏達。


「まあ、ざっくり言うたら、変態兄さんが仏教の力で手懐けたワイバーンや。仏教の影響か妙なパワーアップしとってなあ……」


「気性の穏やかで優しい、頭のいいワイバーンなんだけど、ものすごく体大きいんだよね」


「ん。ドルおじさんとか十人ぐらい乗せても普通に飛べそうなぐらい大きい。あと、聖属性ブレスが強力」


 とりあえず、他に説明しようがないから、と、詳しい経緯を省略してどんな存在かだけを説明する宏達。ワイ太郎の嫁や娘たちに美容がらみで頑張りまくって、誰がみても美ワイバーンと呼ぶしかない状態にしていたことは面倒なので説明しない。ワイ太郎の背中に乗って戻ってきたときのことも、とりあえず面倒なので黙秘である。


「……もしかして、そのワイバーンってバーストさんをさらっていった……?」


「多分そうやろうな」


「……あの人、誰に聞いてもまごう事なき変態だって言い切られるのに、びっくりするようなことを平然とやってのけるところがありますよね……」


「そりゃまあ、単なる変態だったら国家が重用するわけがないんだから、どんな形であれびっくりするような能力を見せるのは当然じゃない」


 自分をさらっていったワイバーンを手懐ける。どこから突っ込んでいいのか分からない情報に思わず遠い目をするアルチェムに、どこか悟ったような様子で真琴がある種の真実を口にする。


「……いくら実力があって目を見張るような成果を出すと言っても、ああいう人を無理に抱え込んで利用するのって、どうなんでしょうね……?」


「……まあ、国家というものは色々な人材を使いこなす必要がありますから……」


 アルチェムの素朴な疑問がにじんだ言葉に、思わず苦笑しながらそんなコメントを漏らすエアリス。多少目が泳いでいるのは、レイニーをはじめとした幾人かの、人格面で癖が強い人材について思い出してしまったからだろう。


 自身もどちらかといえばそっち側の人材に属する事について目をそらしているエアリスだが、せいぜい食事にこだわりが強いぐらいで一応カテゴリー的には聖人分類なので、ブーメランが直撃するところまでは行っていない感じではある。


「国を運営するって、いろいろ大変なんですね」


「人がたくさん集まれば、どうしても話し合いや綺麗事だけですまない部分も出てきます。それに、大多数は性格的にも倫理的にも問題のない人だとしても、人数が増えればやはり変わった人というのが混ざってくるものですし」


 アルチェムの正直な感想に、エアリスがわずかに聖女モードが入った態度でそう応じる。


 実際問題、全員がそうではないにしても、有能な人間というのはどこかしら変わった部分を持っている事が多い。変人全てが優秀な人材ではないにしても、変人だからと言って誰もかれも排除していては人材が集まらない。


 どんな社会であれ、変人も悪人もゼロにする事は不可能なのだ。ならば、使えるものは上手く使い、かつそれで問題を起こさせないようにするのが、国を運営するという事である。


 問題なのは、大体はちゃんと使いこなせなくて、余計なトラブルを引き起こしてしまいがちな事だろう。古今東西、有能な変人や悪人を完全に使いこなせた社会は存在しないのだ。


「……」


 そんなアルチェムとエアリスの会話を、どことなく複雑そうな表情で聞き流しているリーファ。先ほどと同様にところどころ知らない単語が出てくるため話についていけないというのもあるが、それ以上に微妙にもれているバーストについての評価に、命と心を救われた身の上として色々複雑なものがあるのだ。


 変態とかそういった単語はまだ教わっていないが、理解できる単語や文章のニュアンスから、バーストがどう言う認識をされているのかはなんとなく察する事ができる。そして、その認識については恩人として感謝しているリーファですら否定できない。


 冷静にかつ客観的に見れば、彼の言っていることもやっていることも、弁護の余地なく変態なのは間違いない。だが、では救いようのない悪人なのかと言うとそうではなく、善人とは言えないまでも、自身の父や兄をはじめとした腐れ外道と比較すれば圧倒的にまっとうな人物なのも間違いない事実である。


 せめて言動を正し行動に移す前に許可を取るようにすれば、もう少しちゃんと評価されそうな気がするのが実に歯がゆい。そのあたりが、リーファの複雑な表情につながっている。


 なお、バーストはリーファには一度もコードネームを名乗っていないが、どうしても知りたいと珍しくわがままを言ったリーファのために、専属の侍女が許可を取ってとりあえずコードネームと所属だけは教えている。


「まあ、とりあえずそのへんの事は置いとこか。国の運営云々はうちらが口挟むこっちゃないし、あの兄さんに関しては仕事と美容に関する能力だけは信用して問題あらへんし」


「信用できちゃうのが複雑なんだよね。しかも、美容に関する能力と姿勢は信用出来ても、その関連の行動は全然信用できないというか……」


「美容がらみになると、後先とか対象の女の人が受ける評価とか、そういう事は全然考えないわよね、あの変態」


「そのあたりが、いまいち信用できないというか評価できないんだよね、実際。まあ、今は関係ないから話変えよう」


 宏の話題転換に、思わずバーストの最大の問題点に言及してしまう春菜と真琴。もっとも、リーファの複雑そうな表情に気がついてすぐに春菜が話を変えるが。


「で、この後どうする? 向こうに戻るための障害って、後は多分邪神だけだと思うんだけど」


「そらもう、全員分の神器装備揃えんの最優先に決まっとるやん。このまま迂闊に突っ込んで、あのクソアマの二の舞とかアホのする事やで」


「まあ、そうだよね」


「とりあえず、今日はこれから、真琴さんの刀の最終調整の予定や。何とか目途は付きそうでな」


 自分の刀、と聞いて、思わず目を輝かせる真琴。人間には使えない、と言われていたので、半ばあきらめていたのだ。


「あたしに使えそうなの?」


「多分いけるところまでは落としこめるわ。ただ、能力落としても入れられる鞘があらへんから、普段は分割して運用っちゅう形になるけど」


「使えるってだけで十分よ」


 若干申し訳なさそうに言う宏に対し、上機嫌に真琴がそう告げる。なんだかんだで、一応全員分の装備は形になりそうだ。


「後は、ウォルディスが完全に落ちついたら、あっちこっち回って素材回収やな」


「そうだな。後足りてないのって、何がある?」


「固有素材は春菜さんのレイピアと澪の弓、それから全員分の神衣と革鎧系、軽装系、っちゅうとこやな。そのうち、軽装系に関してはありあわせの改造で何とかなりそうやから、大変なんは神衣用の素材だけやな」


「なるほどな。ウォルディスで集まるのか?」


「断言はできん。マルクトにあるダンジョンにも、怪しいところはあるしな」


 そんな感じで、真琴の刀が形になった後の予定を話し合っていると、落ち着いていたはずの食卓に変化が。


「お腹いっぱ~い」


「次はチェムちゃんで遊ぶ~」


「チェムちゃん進化~」


「おっぱいボイン~」


「ひゃん!? ひ、人前でいきなり、はう!?」


 最初だけ騒いで後は大人しく食事を続けていたオクトガルが、満腹になったという理由でアルチェムにセクハラを開始したのだ。


 もっとも、進化して胸が大きくなったと取られそうな発言をしているが、一連の騒動においてアルチェムのバストサイズは一切変わっていない。むしろ、大きくなったのはどちらかと言うとエアリスの方である。


「揉み心地進化~」


「ボインボイン~、たゆんたゆん~」


「チェムちゃん身体は立派~」


「性的には子供~」


「春菜ちゃんも身体立派~」


「チェムちゃんも春菜ちゃんもムッチリ~」


「春菜ちゃんムッツリスケベ~」


「うう、最近の自分を振り返るととても否定できない」


 アルチェムのとばっちりを受けて、どこか悟りを開いた様子で必死にセクハラに耐えていた春菜が、オクトガルの台詞をどこか悲しそうな表情で認めてしまう。


 なお、相変わらずエアリスとリーファはオクトガル的にセクハラの対象ではないらしく、手を出すと危険、とか言いながら放置している。


「……なあ、春菜さん。作業に行ってもてええ?」


「あ、うん。宏君にこの方面の助けを求めるとか、そんな無理強いをする気はないから」


「……ほな、悪いんやけど」


「ん。私達は私達で、何とかしておくよ」


 居心地の悪さに逃げを打つ宏を、どこか慈愛に満ちた瞳で見送る春菜。一定年齢以上の女性がオクトガルからセクハラを受けるのは、もはやそういうものだと完全に割り切った態度である。


 結局、同じように逃げを打った達也と、リセットの手によって普通に隔離されたエアリスとリーファが出て行った後、ついに我慢の限界を超えて大いにもだえる羽目になる春菜達であった。








 宏達の食事にオクトガルが乱入してきた、丁度その頃。


「……どうにか脱出は間にあったが、あそこまでやられてしまえばもはや、ウォルディスの地は使い物にはなるまい……」


 どうにか脱出に成功した偽王は、ガストールにまで逃げ延びていた。


 とはいえ、脱出に成功したのは偽王のみ。他の部下や同僚は、逃げ遅れて全滅している。蓄えた瘴気もほぼ空にされてしまい、何より三幹部が完全に消滅してしまった。


 各地に残党が残っているとはいえ、残っているのは数の面でも質の面でも戦力としては心もとない。そもそも、新たに戦力を生み出せるのは、邪神本体と偽王だけなのだ。


 正直な話、ここからの再起は非常に難しいと言わざるを得ないだろう。


「三千年前の大敗以上に追い詰められたか……」


 あまりに落ちぶれた現状に、自嘲気味に吐き捨てる偽王。


 三千年前、舞台装置であるこちらの神々と戦った時も、最終的には壊滅寸前まで追い込まれていた。


 それでも、三千年前はほぼ相打ちとはいえザナフェルをあと一歩のところまで追い込み、他の神々も地上に簡単に介入できない程度には消耗させる事ができた。ザナフェルと相打ちになったとはいえ、彼らの主である邪神自体は大したダメージを受けておらず、単に追撃その他が不可能な状態にされてしまっただけだった。


 今回は、邪神こそ直接的なダメージを受けておらず健在ではあるが、それ以外に希望を持てる要素がない。ザナフェルは不安定ながらも復活し、他の神々もこれまでにほとんど介入していないため余力たっぷり。何より致命的なのが、三千年前は深手を負って眠りについただけだった三幹部が、今回は存在の根底から完全に消滅している事だろう。


 部下や同僚は時間さえかければどうにかなるが、三幹部に関しては邪神が再び直接生み出さない限り、偽王の力ではどうにもならない。残念ながら、偽王には自分を超える存在を作り出す能力は無いのだ。


「だが、まだ完全に終わった訳ではない。儂一人しか生き延びられなかったとはいえ、この地には隠れる場所も聖気も十分にある。時間さえかければ、今一度……」


 偽王が再起を誓う言葉を言い終えるより先に、上空から何かが襲いかかってくる。


「くっ!」


 とっさに短距離転移で回避し、襲いかかってきた相手を確認する偽王。


「ワイバーン? いや、それだけではないな」


 襲いかかってきたワイバーンの背に何かが居たのを視認し、顔をしかめる。普通、ワイバーンは自身の背中に何かを乗せたりはしない。少なくとも、完全に野生のワイバーンではあり得ない。


 では、ワイバーンが何かを背中に乗せるのは、一体どういう時か?


 最初からそういう風に育てられた場合もしくは何者かにより操られている場合、後は人間などに手懐けられてしまった場合のみである。


 そのいずれであっても、攻撃してきた時点で偽王の敵なのは間違いない。


「ぬう、ワイバーン風情が!!」


 旋回して再び攻撃しようとしたワイバーンに対し、怒りにまかせて偽王が反撃する。その反撃をひらりとかわし、ブレスを吐き出しながら地面すれすれまで下降してくるワイバーン。


 そのブレスの光に阻まれ、偽王はワイバーンの背から誰かが飛びおりてくるのを見落としてしまった。


「ふんっ!!」


 苦手属性である聖属性のブレス。それを軽く顔をしかめながらブロックしている偽王に対し、死角から鋭く槍が突き込まれる。反射的にブロックして防ぐと、今度は逆方向から巨大な剣が振り下ろされる。紙一重で回避。背中から衝撃。


「がぁ!?」


 見事に心臓をぶち抜かれ、更に連続攻撃で首を一撃で斬り落とされる偽王。


 背後から攻撃を仕掛けた誰かが立ち去ると同時に、槍、大剣、鈍器、ナイフなどの攻撃が偽王の身体を襲い、合間を縫って聖天八極砲が着弾する。


「オレも人の事は言えねえが、あんた達も容赦がないねえ」


「この手の輩は、これぐらいやっておかんとすぐに復活するからの」


 偽王を背後から攻撃した仮面の男の呆れるような言葉に、フルプレートの老人が偽王の頭を突きさしながらそう答える。


 恐らく説明するまでもないだろうが、仮面の男はバーストで、フルプレートの老人はドーガである。今日のバーストの仮面はスマイルマスクで、ドーガの鎧は宏が身につけていたオリハルコン製のフルプレートに更新されている。


 他にこの場に居るのは一風変わった構造の執事服と侍女服を着た男女、ドーガと同じくフルプレートで固めたドワーフ、砂漠の戦士と思わしき軽装の女性、学者風の中年女性である。


 執事と侍女はセバスティアンのティアンとディフォルティアのジョゼットである。この一団には、戦力としてだけではなく、バーストのお目付け役としてもきている。


 ドワーフはフォーレの猛将ダイテス。超大型のハンマーを己の得物とする重戦士だ。その攻撃能力は、大技が下手に使えない威力のタイタニックロアとジオカタストロフしかない宏など足元にも及ばない。


 砂漠の戦士風の女性はアイリーン、ダール女王ミシェイラの影武者も務める、ダールでも三本の指に入る軽戦士である。純粋な接近戦においては、春菜を余裕で凌駕するであろう実力を持つ。


 学者風の女性はラウラ。ルーフェウス学院の助教授で、この世界屈指の魔法使いだ。正統派の魔法使いとしては、こちらに飛ばされてきた直後の達也なら余裕で上回れる、聖天八極砲やヘルインフェルノなどの大魔法を使える数少ない魔法使いである。その実力ゆえにここ数年世界中を飛び回っており、現在のローレン王が置かれていた立場に対し何もできなかった事を悔やんでいる、性根の優しい女性でもある。


 彼らはオクトガルから偽王が逃げ切ったと報告を受けてすぐに編成された、追撃のための特別部隊だ。それぞれジャンルは違えど各国が誇る精鋭であり、連携について目をつぶるならば恐らくこの世界で屈指の戦闘能力を持つ集団であろう。


 人数的にも重量的にも、普通ならワイバーン一頭で運びきれるものではない。だが、ワイ太郎は普通のワイバーンとは言い難い。御仏の教えに目覚めるとともに体が大型化し、飛行能力、飛行速度、仏敵を探し出し制圧する能力などが大幅に強化されている。フル装備の人間の十人やそこら乗せたところで、大陸の端から端まで最大速度で余裕で飛べる。


「ドーガにアサシンよ。くっちゃべっておらんで、お主らもどんどん攻撃せんかい」


「そうですよ。さすがに親玉の一体だけあって、斬っても斬ってもすぐ復活するんですから」


「……この手の輩はこれぐらいやっても全然足りん、に、訂正が必要なようじゃな」


「……そうだなあ」


 目の前でどんどん再生していく偽王の身体と、ひたすら攻撃しながら手を休めているドーガ達に文句を言ってくるダイテスとアイリーンの言葉に、思わずため息とともにそんなコメントを漏らすドーガとバースト。ここまでしつこいと、ただ黙って斬り刻まれているだけとは思えない。


 そんなドーガの勘が正しかった事を証明するように、斬り刻まれた際に飛び散った血が一カ所に集まり、反撃に移ろうとしている。


「ふん、そろそろ来ると思っておったわい」


 起死回生の反撃を、正面から余裕を持ってブロックするドーガ。宏のようなある種の本能に根ざした過剰なほどの防御性能こそ持ち合わせてはいないが、代わりにドーガは騎士として強敵の攻撃を防ぎ続けてきた勘と経験を持つ。その実力は、偽王クラスの攻撃ぐらいは楽勝で潰せる。


 最大火力であるラウラ助教授を潰すために放たれた攻撃は、寄りにもよって最強クラスの壁に正面から完全に止められ、何の痛痒も与えられずに終わってしまう。


「悟られんようにこっそり準備したとはいえ、この程度の攻撃しかできんあたり、随分弱っておるようじゃなあ」


「ですが、このまま削りきれるかと言うと怪しい感じですね。ダイテス殿とアイリーン殿の攻撃はいまいち効果が薄いようですし、私の魔力も無尽蔵という訳ではありませんし」


「残念だが、オレの攻撃は不意打ち以外は普通のアサシンより上、って程度だからな。ああいうタフで物理攻撃に耐性があるタイプとは、致命的に相性が悪い」


「……どうにも手詰まりな感じじゃのう。オクトガルあたりが、爆撃に使った例のポメを大量に持って来てくれれば、話は早いんじゃが……」


「呼んだ~?」


 どうにも手詰まり感が漂う空気の中、やらないよりはましだろうと攻撃を続行しながらぼやいていると、ドーガの言葉を聞きつけたとしか思えないタイミングでオクトガルが現れる。


「お主、どうやってここに?」


「ドルおじちゃんのツボから~」


「そういえば、持って来ておったのう……」


 唐突に表れたオクトガル達の言葉に、そう言えばそうだったと納得するドーガ。伝令用に持たされていたのを、すっかり忘れていたのだ。


「まあ、細かい事は置いておくかのう。逃げたウォルディス王を発見、現在攻撃中なんじゃが、なかなか強力なモンスターだけあって、こちらの攻撃手段だとどうにも決め手に欠けておってのう」


「ポメ所望~?」


「投げていい~?」


「おう。まだ弾があるなら、どんどん叩きつけてやってほしいところじゃ」


「りょうか~い」


 ドーガに頼まれ、嬉しそうに三匹ほどのオクトガルが転移してくる。どうやら、先ほどの空爆が物凄く楽しかったらしい。


「ひっさ~つ」


「八連装ポメ榴弾砲~」


「遺体遺棄~」


 三匹で偽王を囲むと、一気に大量に聖職者系ポメを投げつけるオクトガル達。その足の動きは異常に速く、ドーガ達の動体視力を持ってしても何本にも見えるを通り越してまったく動きが見えない。


 余りの投擲スピードと爆発までの時間の短さに、ポメが口にしているはずの念仏も聖句もまったく聞こえてこない。聖職者系ポメは爆発の際に爆音を立てないため、立てつづけに吹いてくる非物理的な浄化の風がなければ、本当に投げているかどうかも判断できなかったであろう。


 そんな、その場にいる人間には気持ちいい風が軽くふいてくる以上の影響は一切ない猛攻だが、偽王にとっては致命的な攻撃である。しかも


「そろそろ止め~」


「超特大ポメ榴弾砲~」


「遺体遺棄~」


 三匹同時に、自分どころか下手なヒューマン種の幼児より巨大なポメを投げ落としたのだから、たまったものではない。これまでの逃避行とオクトガルの空爆で瘴気を大量に消耗し、不意打ちを受けていいように殴られ続けた偽王には、それだけの攻撃に耐えるだけの力は一切残っておらず、今際の言葉を残す余力すらなく今度こそ完全に消滅する。


「勝利~」


「ビクトリ~」


「ドロップ回収~」


 ほぼ浄化され切ったコアだけ残して完全に消滅した偽王を見て、妙に嬉しそうに飛び回るオクトガル。そのまま宣言通り偽王のコアを回収して、さっさと帰っていく。


「……正直、アズマ工房がフォーレの味方で良かったわい」


「……ダールもです」


「ローレンは、正直紙一重でした。本当に、現陛下には頭が上がりません」


「つうかオレ、ああいう最後だけは勘弁願いたいわ」


「まったくじゃのう」


 あまりに身も蓋もない終わり方に、偽王に対して心の底から同情しつつ、こういう最後だけは絶対嫌だという点で一致する追撃隊であった。








「ようやく、色々落ち着いたようだの」


「うん。正直、ちょっと気分的に力が抜けてる感じ」


 午後のお茶の時間。リセットからお茶を受け取ったアンジェリカが、春菜と達也の様子を見てそう口にした。


 アンジェリカが来た用事というのは簡単で、現在神の城の保護下にある村人たちについて相談に来たのである。ウォルディス情勢にけりがつく見通しが立ち、そろそろ避難させている村人や隠れ里の住民の帰還について話し合う必要があるだろう、という事で、不在であるヘンドリックの代わりに訪ねてきたのだ。


「それにしても、本当に気が抜けておるな」


「まだ邪神本体が残ってるから、こんな風に気を抜くのは早いにもほどがあるんだけど、ね……」


「まあ、それも仕方あるまい。我はそれほど大したことは聞いておらんが、少なくともお主が神化せざるを得なかった程度には、色々大変だったのだろう?」


「うん、まあ……」


 どことなくぐったりした様子の春菜に、達也とアンジェリカが苦笑する。現在の春菜は、今までにないぐらい気持ちがたるんでいる。


 もっとも、それも仕方がない事ではある。何しろ、春菜は体感時間で数ヶ月間、ずっと力を発動した状態で気を張り続けていたのだ。神となった身の上からすれば、体感時間だろうが実時間だろうがたかが数カ月ぐらいは大した時間ではないとはいえ、なりたてほやほやの新米からすればかなり精神的に疲れる作業である。


 その前の一度死んで神化した所から今に至るまで常に緊張状態を強いられ、更に死者蘇生の反動で三日ほど心身ともに厳しい時間を過ごさざるを得なかったのだから、三幹部の消滅とウォルディスの壊滅という形で大きな区切りがついた今、春菜の気がたるんでしまうのも無理はない。


 結局のところ、今回の一連の事態は春菜の負担が最も大きかったのだ。


「あれだけの事をやっても直接動く事は無かったのだ。三日やそこら気を抜いたところで、問題は無かろうよ」


「そうだとは思うけど、今回ピンチになったのも、結局そういう油断があったせいだって側面もあるから……」


「だからこそ、意識を切り替えるために、気を抜ける時には気を抜いておくべきであろう?」


 油断と慢心からの全滅がいまだに尾を引いているようで、気を休めるのにちょうどいいタイミングだというのに素直に休もうとしない春菜。そんな春菜を窘めるアンジェリカ。隠れ里に長年引きこもっていた箱入りの世間知らずとはいえ、三千年以上生きた人生経験は伊達ではないらしい。


「それに、地上のしがらみはお主らが一掃した。後は神と神との戦いなのだから、後は本来、五大神をはじめとした神々が何とかすべき問題だ。少なくとも、お主たちが気を休めて英気を養っている間ぐらいは、神々が押さえこむだろうよ」


「それも理解してない訳じゃないんだけど、こっちの神様のルールってよく分からないから、どうにも心配があるんだよね」


「そこは気にしてもしゃあない。つうか、そういう気分の時に気を張ろうとしても無駄だ。ここは大人しく、のんびり油断しようぜ」


「ん~……」


 アンジェリカと達也の説得に、微妙に垂れた状態を維持しながら気のない返事をする春菜。中途半端な疲れ故に、逆にそういう切り替えが上手くいかない感じらしい。


 そんな春菜の様子に小さくため息を漏らすと、とりあえずわざわざこちらに来た用件を口にする。


「とりあえず、ウォルディスの事にけりがついたようだし、そろそろ我らが保護しているもの達を、元の暮らしに戻してやりたいのだが……」


「あ~、そうだね。まだ先だって言っても、邪神との戦いにこの城が無関係っていうのは無理だし、早いうちに戻った方がいいかも」


「そこは同意するが、ウォルディスの近くに住んでた連中は王様達と相談してからの方がいいな。あくまでけりがついたのはウォルディスとの戦争であって、そこから派生した混乱は何一つ片付いてねえし」


「それもそうだよね。どっちにしてもこれからどんどん寒くなってくるし、一旦全員隠れ里の方に移る感じで進めた方がいいんじゃないかな?」


「そうだな。隠れ里の方なら、年内に移動し終わるだろうしな」


「我らとしても、その方が助かる」


 春菜と達也の意見に、小さく頷くアンジェリカ。ヘンドリックとも前もって相談し、大体決めてあった内容とほぼ同じである。


「必要なものとか手伝った方がいい事柄とか、遠慮なく言って」


「ずいぶん世話になっておるから、これ以上手を借りるのは気が引けるのだがな」


「気分転換とかそういう事情もあるから、むしろどんどん言ってくれるとありがたいかも。どうにも、色々引っ張っちゃってて……」


「そうか。ならば遠慮なく頼むとしよう」


「うん」


 頼ってもらえるのが嬉しいのか、アンジェリカの返事に満面の笑みで応える春菜。春菜の笑顔を見て、少々ほっとした様子でやれやれという態度をとるアンジェリカ。


「とりあえず、移動開始をいつにするか、だよね」


「人数が人数ゆえ、準備と段取りに数日かかるだろうな。逃げてくる時は身一つだったとはいえ、こちらに居る間に多少は私物が増えておる。それらをどうするか決めねばならん」


「お城動かした方がいいんだったら、治療中の兵士さん達の事も考えないといけないしね」


「ここからゲート開いて一発で、って訳にはいかないのか?」


「そこは聞いてみないと分からないよ。このお城は何ができて何ができないのか把握してるのって、宏君とローリエちゃんだけだし」


 そのまま、避難民達を元の生活に戻す具体的な段取りについて話し合いを重ねる春菜達。実際に城の機能を使う宏やローリエが不在だが、計画の叩き台を作るだけなので、わざわざ色々作業がある彼らを呼んで来なくてもいいかと考えたのである。


 そんな春菜達の配慮を無駄にするように、宏からオープンモードで連絡が入る。


『なあ、春菜さん。ちょっとええ?』


「大丈夫だけど、何?」


『作業所に安置してあったベースボディがな、さっき見たらなくなっとってん。もしかしたらローリエの時みたいに身体が完成して勝手に動いとるかもしれんねんけど、それっぽいの見いひんかった?』


「私は見てないけど、私今日はお城の中って厨房とここにしか移動してないから……」


 割と聞き捨てならない事態の発生に、思わず眉をひそめながらも正直に本日の行動を告げる春菜。先ほどここに来たばかりのアンジェリカはともかく、達也に関しては似たようなものなので、恐らく達也もそれらしい存在は目にしていないだろう。


 実際、問いかけるような春菜の視線に、達也もアンジェリカも首を左右に振る。


「ねえ、宏君。ベースボディはいつからいなくなってたの?」


『それが分からんねん。作業所に来た時にはもうおらんかったし』


「だったら、手があいてる人全員で探した方が……」


 春菜がそこまで言いかけたところで、食堂に乱入者が現れる。


「ママ発見!」


 可愛らしい澄んだ幼い声で、力強くそう宣言する乱入者。その声の方に全員の視線が集中する。視線の先には、ライムと同年代か更に年下といった年齢の、物凄く春菜によく似たというより春菜を五歳ぐらいにしたらこうなるという感じの、だがよく見ると耳がとがっていて瞳の色が緑で、その上輪郭や細かい部分になんとなくエアリスの面影が無くもない全裸の幼女がいた。


 なお、幼女だと断定している理由は簡単で、ついていなかったからである。


「ママ~!!」


 集まった視線をものともせずに突進してくる乱入者(幼女)。その姿に心当たりがありつつも、あまりに唐突過ぎて頭の中でパニックを起こす春菜。


「ハルナ、お主の子供というには随分育っておるようだが」


「なあ、春菜。いくらなんでも、女神の力を使って妊娠期間を誤魔化すのはどうかと思うぞ?」


「実際に私が妊娠してたんだったら、前々からもっと態度に出てるよね普通!?」


 嬉しそうにしがみついてくる幼女にパニクりながらも、酷い事を言ってくるアンジェリカと達也に対して全力で抗議の言葉をぶつける春菜。


「まあ、さっきまでの話とあわせて考えるなら、ヒロが探してるベースボディとやらがその子なんだろうが……」


「いくらなんでも、ハルナに似すぎてはおらんか?」


「そのへんの真相究明は後にして、とりあえず服、服!!」


 突然の乱入者に、結局移住計画の話し合いどころではなくなる春菜達であった。

バケツの中身の処理とポメの味まで行かなかった……

お兄様の出番はあれです。ドルおじさんに久しぶりに出番作ろうとしたらワイ太郎が必要になったという……

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