第17話
「人の生まれ育った家を、よくもまあここまで勝手に作り変えてくれたものよ」
三組六体のストローパペットと二組四体のウッドゴーレムを一瞬で灰に変え、忌々しそうに吐き捨てるアンジェリカ。門をくぐり抜け館に入った瞬間襲ってきたモンスター達も、所詮雑魚だけあって齢三千歳を超えるヴァンパイアの手にかかれば足止めにもならないらしい。
隠れ里でのお茶会の後、現状を知りたいからというアンジェリカの要望を受け、一行は軽く様子見のために人形ダンジョンに入っていた。
「やっぱり、違う?」
「ああ。館の外観だけは同じだったが、入ってみれば別物もいい所よ。我らが住んでおった頃は、このロビーももっとシンプルで余計な飾りをほとんど入れておらん造りだったし、あんな悪趣味なシャンデリアなんぞぶら下げておらんかった。まあ、そもそもの話、ゴーレムやパペットがこれほどの数暴れられるような広さは無かったがな」
「そこら辺は、やっぱりダンジョンだよね」
「ああ。それゆえに、本当に腹立たしい」
腹立たしい、というよりむしろ哀しそうに言うアンジェリカに、かける言葉が見つからず沈黙する宏達。生まれ育った家を理不尽に奪われ、その状態で長い歳月を生きてきた人間に対して何か言えるほど、人生経験を重ねている訳ではない。
生まれ育った土地を追われたという部分だけなら宏が近いが、厳密にいえば故郷を追われたのではなく、一家そろって捨てたと表現する方が正しい。故に、アンジェリカと違い、宏には食べ物以外で生まれ故郷に対する思い入れなど皆無である。
結果、アンジェリカの気持ちを想像する事ぐらいしかできず、何を言っても安っぽい同情か知った風な口をきいているようにしか思えず、言葉が出て来なかったのだ。
「あ、ラーちゃん、そんなの食べちゃ駄目だよ」
芋虫とは思えない速度で宏の背中から這い降り、燃え尽きたモンスターの灰をこっそり食べようとしていたラーちゃんを、春菜が慌てて回収する。その様子に色々毒気が抜かれたか、アンジェリカの怒気が薄まる。
「……で、次は何処を確認する?」
「我と母様が過ごした部屋を、と言いたいところだが、この様子ではそこにたどり着くだけでも一苦労だろう。今日は軽く様子見の予定であるし、まずは一階フロアにあるはずの食堂や台所あたりを見て回るか。恐らく客室を半端に調べるよりは、碌でもない仕掛けの類を発見しやすかろうしな」
「了解」
いつまでも沈黙していられない、と話題を振った達也にアンジェリカがルートを提案してくる。その提案を受け入れ、ここから一番近い食堂に移動を開始する一行。
異界化で内部構造やフロアの広さなどが変わっていても、食堂や台所のような何カ所もない場所に関しては、基本的な配置は変わらないらしい。アンジェリカの記憶そのままのルートで、特に問題もなく食堂まで到着する。
「またしても、悪趣味な……」
地平の彼方まで続いていそうな長テーブル。その上に乗っている人差し指の先に火をともした左手に、アンジェリカが顔をしかめる。テーブル同様、地平の彼方までずらりと並んでいるのが無駄に気持ち悪い。
「さて、あの不気味なろうそく、ただ並んでいるだけという訳ではあるまい。あの指先の炎が矢となって飛んでくる、程度の可愛らしい罠なら良いが、妙な儀式でも始められると厄介だ」
「せやなあ。その手の儀式キャンセルする類の芸、誰か持っとる?」
「私、一応パーフェクトキャンセレーション覚えてるけど、覚えたのが大図書館の禁書庫で、使う機会が全然なくて全く鍛えてないから、成功率がかなり心もとないかな」
「ほとんどディスペルマジックで行けるから、それもしゃあないわな」
春菜の微妙な自己申告に、苦笑を洩らしながら宏がフォローする。
儀式系やトラップ系の魔法を潰せるほぼ唯一の手段ではあるが、パーフェクトキャンセレーションという魔法は使い勝手が悪い。長い詠唱時間とクールタイム、大きな反動、多大な魔力消費、そして低い成功率と、鍛えなければ役に立たない要素が満載なのだ。
何より厳しいのが、一度失敗した対象には、術者のレベルか魔法自体の熟練度が上がるまでは自動的に失敗し、熟練度も入って来ない事であろう。この場合の対象というのは、発動した魔法だけでなくそれを使った術者も含まれているため、一度失敗、もしくはレジストされた時点で、その戦闘では使い物にならなくなる。しかも、キャンセルに成功しても相手がその魔法や能力を使えなくなる訳ではないため、余程でない限りはパーフェクトキャンセレーションで対処する意味がない。
詠唱中の魔法を潰せたり、魔法どころか特殊能力すらもキャンセルできたりと相応に強力ではあるが、それもあくまで発動に成功し相手にレジストされなければ、という但し書きがつく。やっておくと有利になる補助系および障害系魔法の解除は、余程でない限りは詠唱時間が短く成功率が高いディスペルマジックで十分なこともあり、なかなか使う機会に恵まれない不憫な魔法だと言えよう。
「あれ、オキサイドサークルと同じ匂いがするんだよなあ……」
「せやなあ。習得直後のあの使い勝手の悪さは、確かに近いもんを感じるでな」
「オキサイドサークルの修練もかなりアレな感じだったが、パーフェクトキャンセレーションも大概難儀そうなんだよな」
「一回失敗したら最後やから、身内に練習台になってもらうんも限界あるしなあ」
「しかもあれ、たまにかかってるエンチャントを破壊することがあるんだよな」
「そうなんや。それは初耳やで」
食堂の観察と警戒を続けながら、パーフェクトキャンセレーションの仕様について会話を続ける宏と達也。エンチャントの破壊能力などという、もはやエクストラスキルと大差ないような性質を持っているのに、何故か大魔法にとどまっているのが興味深いところである。
「……やっぱり、仕掛けの類があったみたいね。こういう所は同じ、か」
宏達とは違う方向を警戒していた真琴が、火の灯った左手が動き出したのを示しながら他のメンバーに注意を促す。予定通りな上、相手の強さとメンバーの実力を考えれば過度の警戒はいらないが、油断していい訳でもない。
このダンジョンはゲームの時も、食堂などの広い空間には妙なトラップやギミックが確実に仕込まれていた。ゲームの時と違いインスタントダンジョンではなかったが、基本的なお約束は同じらしい。
「キャンセルにチャレンジする?」
真琴ですら、ゲームの時には遭遇したことのない仕掛け。とりあえずナイフを投げつけてみて、物理的な手段では仕掛けの阻止が不可能であることを確認。終わるのを待つしかないかと観察を続けながら考えていた真琴に、春菜がそう確認してくる。
「ディスペルで行けるの?」
「多分無理。パーフェクトキャンセレーションの方がいると思う」
「詠唱は間に合う?」
「積層詠唱で何とかするよ」
確認が必要な事に全て答えが返ってきた所で、別に問題ないかと判断して一つ頷く真琴。失敗したところで宏が前に出れば対処できるのは確実なので、他のメンバーも特に異存はないと言う感じに頷く。リスクの低い状況なのだから、鍛えれば便利で強力な技を鍛えるのは当然である。
メンバーの同意を得たのを確認し、春菜はさっさと詠唱に入った。
「パーフェクトキャンセレーション!」
本来どんなに早口でも一分近くかかる詠唱を積層詠唱で十五音ほどに短縮し、相手の儀式が完成する前に発動させる。フロアに充満していた妙な魔力が雲散霧消し、宙に浮いて動きまわっていた左手がすべて地面に落ちる。
あまりにもあっさり成功した上、これと言って演出もなく結果が出るその地味さと唐突さに、しばらく状況を把握しきれずに全員の動きが止まる。成功率その他の問題以上に反動に問題がありすぎるため、パーフェクトキャンセレーションの効果が出た所を誰も見たことがなかったのだ。
「……成功したみたい」
「毎度のことながら、一発で成功させるあたり凄い引きよね」
「ここで成功させる意味があったのかどうかが凄く気になるけど……」
一分ほど状況把握のために沈黙した後、何処となく微妙な表情で春菜と真琴が語り合いながら地面に落ちてすっかり力を失った左手に止めを刺して回る。反動で三十分ほどありとあらゆる魔法及び魔法剣が使えなくなる上、三十秒ほどは一切身動きが取れなくなるリスクを冒すのだから、たとえどれほど余裕がある状況でも、失敗するよりは成功した方がいいのは間違いない。
間違いないのだが、こんな序盤も序盤に出てくる仕掛けで運を使ってしまっていいのかと考えると、物凄く勿体ない事をしたような気になってしまうのが人間というものだろう。
「とりあえず、しばらく私魔法使えないから、何かあった時はよろしく」
「了解。つってもまだ序盤も序盤だしな。アンジェリカもいるから、反動が消えるまでぐらいならまったく問題なさそうな気もするが」
「実は、私もそんな気してる」
全体的な難易度を踏まえ、達也の感想を春菜が全肯定する。
そもそもの話、直接戦闘において、このレベルの相手に春菜の魔法が必要になる事はほぼない。今の武装だと、ストローパペットやウッドゴーレムは相性が悪い春菜や澪の攻撃でも余裕で仕留められ、アイアンゴーレムぐらいまでの攻撃はガーディアンフィールドなしでもほとんどダメージを食らわない。
今回のような搦め手にしても、比較的魔法抵抗や属性抵抗が低い真琴が直撃を食らわない限りはそう問題にならず、その真琴が食らったところで、七割方は抵抗に成功する。仮に失敗しても、ダメージ系なら達也はおろか宏や澪でも回復は可能であり、状態異常系だとしても亜種のポメほど解除が難しい訳でもない。下手をすれば、入る前に飲んだ万能薬の効果で無効化できる可能性すらある。
せいぜい、儀式の最中に余計なちょっかいを出して呪いを受けるリスクがある程度だが、春菜の般若心経ゴスペルには解呪の能力があり、なおかつあの歌は魔法にも魔法系能力にも分類されない。呪歌扱いではなく普通の歌におかしな特殊機能がついただけなので、反動の最中でも普通に効果を発揮するのである。
難易度が跳ね上がる隠しダンジョンはともかく、所詮今居るノーマルダンジョンは、ダンジョンとしては中の下程度でしかない。その事が良く分かる話だといえよう。
「で、もう一回今のが来たが、今度は様子見か?」
「せやな。僕が前に出るから、できるだけ下がっといて」
「了解」
とりあえず、二度目は一回食らってみることにする一行。扉は開いているので、回れ右して逃げる選択もあるが、それで最初に潰した物が復活しても面倒だ。
それに、仮に反動が無くても、熟練度初期値のパーフェクトキャンセレーションは、クールタイムが一時間もある。また、今回はたまたま成功しただけで、基本的に不発率も高い。毎回キャンセルできる訳ではないのだから、敵の儀式がどんな結果を出すかは確認しておく方がいい。
そんな思惑もあって、特に妨害せずに不気味な左手ろうそくが儀式を進めていくのをじっと観察する。ゆらゆら動き回っていた左手達の指先に灯った火が燃え上がり、炎の帯を作って魔法陣を描いたその瞬間、炎がすべて闇色に染まる。
そのまま闇色の炎が圧倒的な密度の火線となって一行に殺到し、全て宏に着弾。否、その直前に消滅。予想通りではあるが、どうやら宏の魔法抵抗を貫く事は出来なかったようだ。
「受けた感じ、抵抗ミスったら低確率で呪いと混乱、っちゅうとこやな。浄化系魔法か聖水の準備は必須っぽいわ」
「威力的にはどう見る?」
「初級攻撃魔法の、特殊機能強化型ぐらいちゃうか? 多分、ダメージよりも手数で呪いを確実に掛けるんが目当てで、本命はこの後やと思うわ」
宏の言葉通り、儀式の影響はまだ続いていた。大規模転移特有の空間のゆがみが発生しており、何やら大量の人型の何かが現れようとしていたのである。
「軽いダメージと状態異常で戦力をダウンさせて、その上で数による蹂躙ってわけね。なかなかえげつない事してくれるわ」
「これがあるから、ダンジョンってのはどんなのでも油断できねえんだよな……」
ざっと見て五十体程度呼び出されたモンスターを前に、渋い顔で真琴と達也がコメントする。たとえ一撃で殲滅できそうな雑魚相手でも、呪いに混乱を受けた状態で大量に相手をするとなると、宏以外は全く被害なしでいけるとは断言できない。
しかも、呼び出されたのがよりにもよってアイアンゴーレムとリビングドール、レミックパペットの混成という、ノーマルダンジョンではボスの次の次ぐらいに手ごわい編成だったのである。
特に、通常攻撃も特殊攻撃も全て状態異常攻撃であるレミックパペットが危険だが、攻撃のバリエーションが豊富なリビングドールもかなり面倒な相手だ。それらを防御力が高いアイアンゴーレムが守っているのだから、数が三分の一ぐらいでも普通の装備で相手にしたいとは思えない。
春菜がまだ魔法系スキルを使えない以外に特に問題を抱えていない現状、宏たちならこの程度はどうとでもなる。だが、ダンジョン前で出会った冒険者チームぐらいだと、呪いの影響がなくても全滅の危険性がある編成なのも間違いない。
死んでもデスペナルティを受けるだけのゲームならともかく、この世界で普通に生きている冒険者たちに人気が無いのは当然だといえる仕様だろう。
「まあ、とりあえずさっくり殲滅するぞ。レミックパペットは万一があったら厄介だ。ヒロが何とかしてくれ」
「了解や」
「後は適当に、目についた順に始末すりゃあいいだろう」
達也の指示に従い、サクサクとモンスターを始末していく一行。普通ならば厄介ではすまないモンスターの群れも、場違いな実力と装備性能を誇る宏達の前では脅威とはなり得ない。蹂躙戦とはまさにこのことだと言わんばかりの手際の良さで、瞬く間に殲滅される。
特にリビングドールはその姿がアンジェリカの逆鱗に触れたのか、かなり分散していたのに一瞬で全て焼き尽くされていた。
「また随分と念入りに焼いたみたいだが、何か気に入らない事でもあったのか?」
「昔大切にしておった人形を、よりによってこんな形で使われれば腹が立って当然であろう?」
「何か大事な思い出があるのか?」
「半分ぐらいは母様の手作り、それ以外もばーさまや母様からの贈り物でな。流石に人形遊びをするような歳ではないが、それでも大切な人との思い出が詰まったものをあんな醜悪な扱いで突きつけられて、それを我慢できるほど我は温厚にはなれんよ」
「なるほどなあ……」
アンジェリカの不機嫌、その理由に納得して達也がため息を漏らす。この分では、人形ダンジョンの攻略はアンジェリカの逆鱗をとことんまで刺激しまくることになりそうだ。
「あっ」
入り口に続いて微妙な沈黙が漂いかけた所で、何かを発見した春菜が微妙に素っ頓狂な声を上げてしゃがみこむ。
「これ、多分レアドロップだと思う」
「ネックレスか。俺の鑑定能力だと、そんなに詳しい事は分かりそうにねえな。ヒロ、澪、頼む」
「了解や。……なんやこら」
「……凄い悪質な冗談」
春菜から受け取ったネックレスをじっくり鑑定し、何とも言えない表情を浮かべて困惑のコメントをこぼす宏と澪。どうやら、相当おかしなものらしい。
「一体なんだったのよ?」
「呪われた浄化能力付与のネックレス。しかも呪い耐性付きや」
「呪いの内容が、装備中は術者が使う浄化および回復、治療系統のスキルおよびアイテムが絶対ファンブルする。一度つけたら呪いを解除するまで外せなくて、呪いの強度を上回らない限りは術者に対する浄化、回復、解呪、および治療関係の行動は全てファンブルする」
「……確かに悪質な冗談ね」
「ん。しかも、冗談の方向性がローグライクゲームのランダムエンチャントと同じ」
呪いの内容を聞き、呆れた表情を隠せない一行。先ほどまで凄まじく不機嫌だったアンジェリカですら、怒りを忘れて呆れてしまうあたり、相当な破壊力があったようだ。
「……まあ、とりあえず、今日はここを探索したら切り上げていいんじゃないかな?」
「……そうだな。大体の様子はつかめたし、続けるにしても色々半端だし、今日は終わりでいいと思うぞ」
なんとなく気合が抜けてしまったので、春菜の提案に達也が賛成する。他のメンバーからも特に異論の声は上がらず、とりあえず食堂の仕掛けやら何やらを調べ終えたら、ヘンドリックとアンジェリカの家に戻って今日は終わり、ということが決まった。
とはいえ、流石にギミック満載の人形ダンジョンだけあって、この食堂ほどの規模になると仕掛けを全て丸裸にするにはなかなか手間がかかる。結果
「これやから、無限ループは嫌いやねん……」
「ごめん。解除方法の発見に手間取りすぎた」
「ループ系の仕掛けは、大概解除方法がややこしい上に上手い事隠蔽してあるから仕方ねえさ」
「てか、あの数のテーブルに、まったくヒントなしで隠してある解除スイッチを、それも特定の順番で押せって大概酷い要求よね。その特定の順番自体、ノーヒントだったし」
「しかも、外れ引くと左手が復活するとか、今までのダンジョンとは違う方向で厄介だよね」
無限ループ系だと当たりをつけていたにもかかわらず、澪の能力をもってしても仕掛けを解除し、食堂をクリアするのに四時間近くかかってしまった。
この間に、左手の儀式中に暇をもてあました春菜が冗談で積層詠唱をした結果、約三十分でパーフェクトキャンセレーションが再使用できることが判明したのは、数少ないプラスの発見だといえよう。
どうやら、この儀式はそれなりの解除難易度だったらしく、初回に解除を成功させたことにより、いくらか熟練度が上がっていたらしい。
「それにしても、パーフェクトキャンセレーションは結局三勝五敗かあ……」
「あの儀式、妨害するのにかなりコストがかかるわよね。最後までやらせて殲滅するのと、どっちがいいのかしら?」
「出てくるんがあの程度やったら、普通に殲滅した方がリスクは低いんやけどなあ……」
「儀式終わるまでに結構時間がかかるのがネックなんだよね」
既に普段の夕食の時間は、完全に踏み倒している。この日遭遇した内容について検討しながら、大急ぎで隠れ里に戻る一行であった。
宏達が人形ダンジョンで四苦八苦しているその頃。
「姉上、リーファ王女の様子はどうだった?」
「ようやく泣くことができて、どうにか少しは落ち着いた感じね。まだまだ気を許してもらえてはいないのだけど」
例によって夜遅くにエアリスの部屋に集まっていたファーレーン王家一同が、ちゃぶ台を囲んで夜食を食べながら、リーファの現状について話し合っていた。
とはいっても常日頃から忙しく、また女性にはどうしても冷たい態度になりがちなレイオットは、完全に落ち着くまではとリーファとは接点を持たないようにしている。そのため、もっぱらエレーナやエアリス、王妃たちの話を聞いて色々な事を手配する以外に、これと言ってできる事は無い。
直接の接点をあまり持っていないのは国王やマークも同じようなものだが、単純にアヴィンの抜けた穴を塞ぐために四苦八苦しているだけのマークと違い、国王は空き時間を捻出できたとしても余り軽々しく様子を見に行けない面がある。ファーレーンほどの大国の王が、いかに王女とはいえ亡命してきた小娘にホイホイ会いに行くのは、要らぬ憶測を生みかねない上にリーファ本人にも余計なプレッシャーを与えてしまう。
そのあたりの配慮もあり、男性陣はこの件に関しては、あくまでも裏方に徹しているのである。
「本当なら、私達も手を出すべきなのだけど……」
「お母様方はレドリックとエリーゼの世話もあるのだし、仕方がないわ」
手を出すべき、というよりはリーファをかまい倒したい、という本音をにじませる王妃チーム代表の正室・エリザベス妃に対し、エレーナが弟と妹の事を持ち出してやんわりと釘をさす。余り大勢でかまい倒すと逆効果になりかねないため、今はとりあえず自分とエアリス、もっと正確に言うなら現状手が空いている自分が何とかすべきだ、というのがエレーナの考えである。
「それにしても、ウォルディスの王家は相変わらずか……」
「あの地域に関してはそれこそファーレーンができる前からああなのだから、そうそう変われはしなかろうよ」
リーファからもたらされた情報、その詳細を記した書面に改めて目を通していた国王の嘆きに、身も蓋もない結論を突きつけるレイオット。
歴史の節目節目で大きな事件や戦争を起こすウォルディスという国、度々滅んでは違う国になり、いつの間にか復活してを繰り返しているため、名前とやっていることが同じだけで実は、国家としての連続性は一切ない。血統魔法にしても、元々はウォルディス王家ではなく別の国の王家に発現したものであり、歴代のウォルディス王家はそれを力づくで奪ったにすぎない。
そのため、実際にはウォルディスという国にはいわゆる正統性はなく、歴代のウォルディス王家も初代は過去のどの国の王家とも血はつながっていないのだが、どう言う訳か滅んでも滅んでもしつこく復活しては、自国の正統性を訴えて外征するのを繰り返している。
そのたびに使えなくなる土地が増え、繁栄していた街が滅び、農地が破壊されていくのに、最初にウォルディスが誕生して以降は、どの王国よりも歴代ウォルディスが長く続いている。毎回毎回三代目あたりでやたら強権と暴力でガチガチに押さえこむのが上手い政権が誕生し、しかもそれが妙に安定して長く続くことも含めて、もはやある種の呪いと言ってしまって間違いないかもしれない。
「それにしても、今の代の王位継承者の中で、明確に血統魔法が発現しているのはリーファ王女だけか。他の継承者からすれば、さぞ目障りだろうな」
「どう言う事ですか、兄上?」
「そうか。マークはウォルディスの王族について、それほど詳しくは無かったな。あの王家は基本的に、唐突に現れたどこの馬の骨とも知れぬ人間が、流言飛語と賄賂による取り込み、暗殺などを駆使して時の王権を簒奪することで成立する。それゆえに神から正統性を認められておらず、その血に一切の力は無い。血統魔法が発現するのも、無理やり嫁にとった周辺諸国の王女に、初代ウォルディス成立以前に存在した国の王家の血が混ざっている人間がいたからこそだ」
「……確かにそれでは、確実に発現するとは限りませんね」
レイオットの解説に納得しつつ、違う意味で腑に落ちない物を感じるマーク。血統魔法も使えないような人間を、どうして正統な王だと納得できるのか、そこがどうしても理解できない。
実際のところ、現存している国の王家全てが血統魔法を発現させている訳ではない。ミダス連邦に所属している国には血統魔法が使える王族は一人もいないし、都市国家の九割は神から正統性を認められていないので血統魔法など発現しようもない。そのあたりの事情は外交上の常識ではあるが、まだ成人しておらず、外交の経験も浅いマークにはピンと来ていないようだ。
もっとも、王族が誰一人血統魔法を持っていない国というのは基本全て小国で、ウォルディスのような大国がそうだという事に違和感を抱くのは間違っていない。恐らく、ファーレーンやダールを同じように転覆させて王位を簒奪しても、血統魔法が発現しない限りは誰もその人物を王とは認めないだろう。
だが、ウォルディス、というよりあの地域に関しては血統魔法を持つ血筋が絶えやすいため、大国でありながら持っていないことが当たり前、ごく薄く混じっていた血筋が先祖がえりでも起こせばもうけもの、という認識が普通。そのため、基本的に王権が非常に不安定であり、不満がないが故の不満などというわがままですら暴動の理由になることがある。
そんな国だから、勢力の掌握に失敗した王族の扱いはどこまでもぞんざいで、血統魔法や巫女などもとてつもなく扱いが軽い。むしろ、王以外の権威は正統性だのなんだので国が荒れる原因になるので、速やかに排除したがる傾向がある。
余談ながら、現在のウォルディスは七代目、百五十年ほど前に復活したばかりの若い国だ。その前のウォルディスが四百年前に滅んでおり、その際に直系の王族は全て戦死、もしくは処刑されているため、間違いなく現王家との血縁関係は無い。そのあたりの歴史的事情が、王位継承者の扱いがやたら軽い理由の一つであるのは疑う余地がないだろう。
「なんにせよ、血統魔法を発現させている以上、同じ王族としてリーファ王女が死人同然のままであることを放置する訳にはいかん。ウォルディスに対抗するための大義名分だとかそういう話以前に、同胞として守るのが当然の義務だ。義務なのだが……」
「レイオットお兄様がこの件で直接動けないのは、この際仕方がない事です。リーファ様はマルクトにたどり着くまでの間に相当色々あったようですし、お兄様はこの件以外にもいろいろ難しいお仕事を抱えておられますし」
「そもそも、レイオットはヒロシやオクトガルがいないときは、雰囲気が固いもの。リーファ王女ぐらいの歳の、それも心が弱っている女の子の相手をするには向かないわ」
「それを自覚しているから、姉上とエアリスに全面的に任せている」
エアリスが言及を避けた部分をざっくり切り捨てたエレーナに、苦い顔をしながらレイオットが反論する。ファムやライムのような恐れを知らないタイプならともかく、自分が見捨てざるを得なかった相手の事に心を痛め、その事を夢に見てうなされるような繊細な女の子との付き合い方など、残念ながらレイオットは知らない。
レイオットとて、情がない訳ではない。守るべき弱者に対しては、持てる権力や財力を尽くして可能な限りどうにかしようと動くし、人柄を認めて気を許した相手の要望は法的倫理的な問題がない限りは全力で応えようとするぐらいには情に厚い。
だが、残念ながら幼いころから政治の世界にどっぷりとつかりきっている彼は、そういった人間味をあまり表に出せない人生を歩んできた。迂闊に情を見せればつけ込まれ、骨の髄までしゃぶりつくされかねない環境では、初対面の相手にはどうしてもきつい雰囲気を身にまとうようになってしまったのも仕方がない事であろう。
リーファの件にしても、ウォルディスに対抗するための大義名分だとか、血統魔法を発現させた唯一の王族を保護しないのはファーレーン王家の屋台骨を揺るがしかねないとかの建前以前に、まだ十に満たない幼い、それもまともで繊細な性格をした少女が周りを頼れない状況を黙って見ていられなかったからこそ保護を決めた。まともすぎて心が死にかかっていると聞いて放置できるほど、レイオットは薄情になれない。
それならレイニーが接触した時点で保護を決めておけ、と言われそうだが、その時点では辛うじて歳格好が分かっていただけ、血統魔法を発現させていたことはファーレーンに保護を決めた直後にアルフェミナからの神託で判明した事情だった。子供でも碌でもない人間はいくらでもいる以上、そうでなくてもリスクを背負う判断になるのだから慎重に相手を見極めようとするのは、権力者としては当然のことであろう。
「とりあえず、まず当面の目標は、この席に参加させることかしら」
「そうですね。さしあたっては、私とエレーナお姉様だけの時に、お味噌汁でもいただきながら他愛もない話をのんびりできれば、という所でしょうね」
「その時には私達も、と言いたいところだけど、しばらくは自重するわ」
エレーナとエアリスの打ち合わせに、心底うらやましそうにしながらエリザベス王妃が全面委任を口にする。まずは、甘えることに対する無用な警戒心と罪悪感を解くことから始めなければいけない。エレーナの活躍によりその第一歩は上手くいったようだが、まだまだ先は長い。
「私がユリウスに嫁ぐまでに、お姉様と呼んでもらえるようになれればいいのだけど……」
「姉上にそれができないようでは、僕達男の出番がまるでなくなるのですが……」
「情けない事を言わないの、マー君。歳も近いのだし、男として口説くぐらいの気概を持ってぶつかりなさい」
「無茶を言わないでください、姉上……」
エレーナの無茶ぶりに、心底情けない顔をしながらマークが力なく抗議する。既にマー君と呼ばれることに対しては諦めているらしく、そちらに対する抗議は一切しない所が哀れを誘う。
実際のところ、マークがリーファを口説くのは、現時点では色々と問題がある。リーファ自身の精神的な問題もあるが、場合によっては彼女がウォルディスの立て直しをしなければいけないのだ。まだ子供なので指導力など期待できない、ただの軽い御輿になるだけだろうが、それでも余程でない限りは現段階で恋人だの婚約者だのを下手に作る訳にはいかない。
恐らく、マークなら最終的には誰も文句は言わないだろう。ファーレーンの王子にはそれだけの価値があるし、ウォルディスの立て直しのためにリーファを御輿にしなければいけない時点で、ファーレーンが関与しなければ間違いなく先に進まない。
だが、それでも現時点ではまずい。ファーレーンがウォルディスを併合しようとしている、などと余計な疑心を与えかねない。
「それにしても、この練り天は美味しいわね。新作?」
「はい。漁港で水揚げされた商品価値のない魚を、少しでも美味しくいただけないかと神殿で試行錯誤したその成果です」
「へえ。アズマ工房ではなくて、神殿の作品なのね」
「いつもいつもヒロシ様の手を煩わせる訳にもいきませんので」
マークの懸念は、どうやらエレーナには届いていないらしい。彼の抗議を完全にスルーし、夜食の練り天にサクッと話題を移してしまう。
「案ずるな、マーク。そなたが本気なのであれば、大抵の問題は余が何とかしてやる」
「父上、いつの間に僕が王女を口説くことが既定事実となったのですか……?」
「いや何。お前もまだ婚約者は決まっておらん事を思い出しただけだ」
「でしたら、順序からいって兄上が先でしょうに……」
「確かに、リーファ王女なら人柄は申し分ないが……」
「父上、マーク。私がリーファ王女と上手く付き合えると思うか?」
「とまあ、レイオットがこの調子ではな」
ファーレーンが余計な疑念を抱かれることなど大した問題ではない。そう言わんばかりの国王とレイオットの態度に、マークはこらえがたい頭痛に襲われる。
「マー君はまだまだ修行が足りないわね」
「自覚がありますから、放っておいてください……」
とうとう実の母親にまでいじられ、ちゃぶ台に突っ伏してぼやくマーク。
この日はこのまま和やかに終わるのだが、リーファ王女の件がその後、色々と意外な展開を見せることまでは、神ならぬ身の彼らには予想できないのであった。
「台所借りてもいい?」
ヘンドリックとアンジェリカの屋敷に戻って、春菜が最初に言った言葉がそれであった。
屋敷と言っても、人形ダンジョンのベースとなった館に比べるとさほど立派なものではない。田舎の豪農が住んでいるような、大きさだけは一丁前だが豪華とか華麗とかそういう単語とは縁がなさそうな印象の家だ。洒脱な雰囲気を持つヘンドリックや豪華な美少女であるアンジェリカの家としては、かなり不釣り合いな建物である。
「別にかまわぬが、食事ならリセットに用意させるぞ?」
「泊めてもらった上に食事までっていうと気が引けるっていうのもあるんだけど、ヘンドリックさんもアンジェリカさんもあまり外の料理とか食べる機会ないんじゃないかな、って思って」
「ふむ、確かに余りそういう機会は無いのう」
「だから、せっかくだから最近のファーレーン料理とか私達の故郷の料理とか、泊めてもらうお礼代わりに食べてもらえたらいいかな、って思ったんだ。口に合わないかもしれないけど」
「なるほど。そういうことならお願いしようか」
春菜の申し出に、心なしか嬉しそうな顔でヘンドリックが応じる。
リセットの料理には特に不満は無いようだが、やはり二千年近くほとんど変わり映えしないメニューとなると、たまには他のものも食べてみたくなるらしい。
「とりあえず念のために確認。個人的に食べられないもの、食べちゃ駄目なものとか、種族的に駄目なものとかある?」
「種族的に、というのは特には無いが、じーさまは粘液的な方向でねばねばしたものが苦手、我は全部ではないがにおいのきついものが苦手だ」
「了解。って事は、オクラや納豆、一部海藻類を使うようなものはダメ、と。においがきついっていうと、スパイスなんかも結構きついけど、避けた方がいい?」
「そのあたりは問題ない。苦手なのはチーズや干物などにたまにある妙な臭いだからな。スパイスなどの香りはむしろ好むところだ」
「なるほど。だったら、発酵食品系は避けた方が無難かな?」
アンジェリカの注文に少し考え込み、念のためにと醤油と味噌を鞄から取り出し、少し匂いをかいでもらうことにする。
「……こちらの液体の方は問題ないが、ペーストの方は少々苦手な匂いだな」
「ふむ。じゃあ、お醤油を使った料理は大丈夫、かな?」
「すまんな、手間をかける」
「苦手なものを出して口に合わなかったら本末転倒だから、気にしないで」
「心遣いに感謝する」
素直に頭を下げてくるアンジェリカに、思わず苦笑する春菜。料理人としては、相手の好みを把握した上で工夫するのは当たり前のことだが、その事に三千年は生きているはずのアンジェリカが感謝をしてくるとは思わなかった。
どうにも、年寄りっぽい尊大な口調の割に変なところで腰が低い吸血鬼たちである。
「もう一つ、注文をつけさせて頂いてよろしいでしょうか?」
「何かな?」
それまで黙って聞いていたリセットが、オートマタ特有の感情を感じさせない抑揚が乏しい声で待ったをかけてくる。その珍しい光景に目を丸くしているヘンドリックとアンジェリカを横目に、問題ない範囲であるならと春菜が続きを促す。
「可能であれば、でいいのですが、できればここで手に入る食材だけで調理していただけたらと思います」
「あ~、後で再現する?」
「はい。問題ないのであれば、ですが」
「了解。ヘンドリックさん達が気に入ったのなら、レシピも教えるよ」
リセットの要求に快く応じ、さらにおまけまで提示する。その気前の良さに、ヘンドリックとアンジェリカだけでなく、オートマタであるはずのリセットまで驚きの表情を浮かべる。
オートマタでも感情表現ができるんだ、などと感心しながら、春菜は折角なのでこちらからも要求をすることした。
「だったら、こっちもお願いを一つ」
「何かな?」
「できれば、でいいんだけど、教えたレシピをもとに新しい料理を作った場合、私にも教えてほしいんだ」
「ふむ、レシピにはレシピで、ということか。最終的にはリセットの判断に任せるが、我らとしてはそれで構わんよ」
「儂は美味いものが食えるなら、細かい事を言う気は無い。そもそも、こんな隠れ里で料理のレシピなんぞ秘匿しておっても、大した利益もないしのう」
主の判断を待っていたリセットが、アンジェリカとヘンドリックの回答を聞いて一つ頭を下げる。リセットにはレシピに対するこだわりなど特にないらしく、主が気にしないのであれば自分が持っているレシピを教えるぐらいとくになんとも思っていないようだ。
「じゃあ、使える食材と調味料教えて」
「はい。用意しますので、こちらへどうぞ」
「あっ、僕も確認しとくわ。材料に使いやすい豆があって料理に醤油使うっちゅう話になるんやったら、促成用の醤油蔵ぐらい作った方がええかもしれんし」
「そうだね。そのあたりは任せるよ」
春菜に便乗して、宏も食糧庫を覗きに行くことにする。どうせ神シリーズの食材とかソーマあたりの素材に使えるものとかは無いだろうが、それとは別問題でこの隠れ里の食糧事情は気になっていたのだ。
大きさは一丁前だが通路自体は辛うじて荷物を持った人がすれ違える程度のこの屋敷、三人で移動となると必然的に結構距離が近くなってしまうのだが、宏は余り気にした様子がない。アンジェリカ相手には相当身構えていた事を考えると、どうやらリセットは宏の中では女性分類にはならない、もしくはさほどプレッシャーを感じない存在のようだ。
恐らく本質的には性別がない人形であり、人格や感情はあってもそれほどはっきりとした激しいものではないからだろう。そんな風に考察しつつ、その様子を頭の隅にとどめておく春菜。稼働年数で言えばリセットの足元にも及ばないが、むしろリセットよりも魂の存在がはっきりと感じ取ることができるアンドロイド達が身近にいるので、そのあたりの事は少々気になっていたのである。
これが、まだ魂と呼べるほどのものを確立していないリセットだからなのか、そもそもアンドロイドやオートマタの類はジェンダーがどちらであっても関係ないのかは、日本に帰ってからのことも考えると非常に重要になる。故に春菜は、表に出さないように注意しながら、食糧庫まで宏の様子をずっと観察し続けていた。
「……スパイス類は十分な種類があるね」
「大豆があるから、作り方教えて促成蔵用意しとけば醤油は問題あらへんな」
「やっぱり海産物が手に入らないから、ダシがネックになりそう」
「選択肢は燻製肉か動物の骨、後はきのこ類やな」
「そうなるよね。あっ、シャルプがある。って事はテローナかな?」
「醤油使うんやったら、テローナうどんもありやで。ダシにひと工夫いるけど」
食糧庫についた時点で、観察をやめてあっさりメニュー選定に意識を切り替える春菜。間違いなくリセットは女性分類に入っていない事を確信したので、それ以上の観察は必要ないと見切りをつけたのだ。
「もう一品は、ザプレにする?」
「ファーレーン料理ばっかっちゅうんも芸ないし、あえてジャッテあたりに走るんもありやで」
「ジャッテか~……。テローナうどんとはあんまりあわない気がするけど、じゃあフォーレ料理は、っていうとファーレーン料理とそこまで違わないし……」
「ローレンのは、味つけと食材がちゃうだけでほぼファーレーン料理やったしなあ」
「ローレンは最初から省いてたよ。だって、独自料理は全部ローレンでしか取れない食材が絡んでるし」
などと芸がないのではないかと余計なことを悩み、結局諦めて小鉢として野菜とイノシシ肉のしょうが焼き風炒め物を作って誤魔化す事にする。
「明日からもアンジェリカさんがついてくるんだったら、どこかで一度カレー粉関係、やっとこっか?」
「せやな。ついでにリセットさんに調合のやり方仕込んどけば、カレー料理はいくらでもできんでな」
この際だから、色々な料理を布教してしまおう。そのことで意見が一致し、相談しながら予定表を作り上げる宏と春菜。
ファム達の誕生日パーティが数日後に迫っていることもあり、人形ダンジョンの攻略完了までかなり日数がかかりそうだ。その予想をもとに、西側諸国及び故郷の料理を可能な限り教え、隠れ里の食文化の向上を図る事を決意する宏達であった。