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ほのか 作者:環 円

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ひとつめ 甘い香り、森の家。

お題:アイスクリーム
 「きゃーあ、きゃあああ」
 楽しそうな声の中に破裂音が響き渡る。
 本当はこういう風に弾けさせるんじゃなくて、粉にしたものを使うんだけど、小腹がすいちゃったんだよね。
 ボクの記憶が正しければ、確かこれをポップコーンと呼んでいたはず。

 今日作るおやつの材料は卵と牛乳、砂糖、生クリーム、そしてコンコルト。
 コーンスターチ、という方がボクには身近な気がするんだけど、簡単に言っちゃうとトウモロコシの粉だね。
 ここら辺ではよく作られている作物だから手に入れやすいんだ。
 手元にあるのは卵と搾りたての牛乳、そしてはちみつだ。生クリームは少しの間、牛乳を放っておけば脂肪分が分離してくるから、それを使えば良し。
 本当はメープルシロップが良いんだけど、樹を傷つけないと多くを採れないから、どうしようかなぁって迷う所なんだよね。分けて欲しいって言えば、きっとどうぞ、って枝をぽきと折りかねないからなぁ。本人が。
 お砂糖もあるんだけど、精製してない黒いの、なんだよね。
 どうやって白くするのかな。不思議すぎる。

 「ティナ。無理、しなくていいんだよ」
 「ううん、これくらいわたしが持つの」

 森の奥に行くのが初めてだったらしく、珍しいいろいろに目を輝かせていたティナは、周囲を走り回って随分と疲れているように見える。
 実際にそうなんだろう。
 さっきから大きなあくびを連発してるんだ。
 家までちゃんと帰れるのか、心配だよ。
 ボクはこの森から出られないし、送って行ってあげられないからなぁ。
 誰かにお願い出来ればいいんだけど。

 「ティナ、ボクが…」
 「だめ!これはティナが持つの!」

 近頃は自分の事を、わたし、と言っているティナが、つい最近まで使っていた自分の名前を呼ぶ。

 「ミルミルぎゅーさんがくれたんだもん。ティナが運ぶの」
 「そうだね。ミルミルさんがティナなら搾られてもいいって大人しくしてくれてたしね」

 実を言うとボクもこんなに奥まで行ったのは、久しぶりかもしれない。
 だって中央にはこの森の基になってる齢不明のお姉さんが陣取ってるんだ。
 ボクは何もかもを失っていた。
 ボク自身が誰なのかも思いだせずにいる。
 お姉さんはそれならそれでも構わないって言ってくれたんだ。
 その時、正直な気持ち、嬉しかった。
 ただあの、窒息してしまいかねない豊満な胸に圧しつけなければ、の話ね。あれは死ねるよ。…嫌いじゃないけど。けどボクは程良い大きさが好みかな。手のひらサイズがいいよね。
 「ミドリ、考え事。大丈夫?」
 「うん、大丈夫だよ」
 心配してくれてありがとう。
 ボクはティナの密色を撫でて、再び歩き出す。
 なにが彼女に気に入られたのかボクには全く分からないんだけれど、出来るだけ近づきたくない場所なんだよね。

 「あ。ミドリの家が見えたよ!」

 ぽっかりと開いた緑の空間にボクの家はある。
 棲む場所が欲しいとお願いしたら、お姉さんがここを紹介してくれたんだよね。
 広がる緑の森の中にぽっかりと開いた、黄緑色の草がそよぐ場所。
 カリキサラっていう木が一本、根を張っていて、家はそ庫からちょっと離れた所にあるんだ。樹って生長するからね。幹が太くなって、家が邪魔になるのは避けたかったんだ。
 ここはどちらかと言えば人が暮らす集落に近い。森の入口から少し奥に入ればすぐ見える、かな。
 最近はティナだけじゃなくて、この森で糧を得ている狩人のおじさんがやってくる。
 ボクがここに住むまでは、魔獣が徘徊していて危なかったらしいんだけど、いつの間にかどこかに行っちゃった、とかなんとか。
 以前に作ったドロップが欲しいと、商店の人とか、奥さんたち、ティナよりも大きな子達もここにやってこようと入ってるらしいんだけれど、ここまでたどり着けないらしいんだよね。
 ボク何もやってないんだけどなぁ。
 危険な獣なんて最初からいなかったし。

 それにティナと出会ったのも、ここ、なんだ。
 レンガの家を作っている最中に、余りにも気持ち良い風が吹いて来たものだから、眠っちゃったんだよね。
 そうして起きた時、まあるい瞳がふたつ、ぱちくりと瞬いた。
 柔らかで癖っ毛なくるりとした陽の色と、澄んだ空の瞳がボクを見ていたんだ。
 「あなたはだあれ?」
 耳に聞こえる声は、小鳥のさえずりよりも心地よくて、思わずボクは、その頬に手を伸ばした。
 「キミは? ボクは、ボクだよ。名前ってなに?」
 それがボクとティフィカーシャとの出会い、だった。


 甘い香りが満ちてゆく。
 開けはなった窓には、何を作っているのだろうと興味津津な様子で小人達が座っていた。
 時々用事をお願いするんだ。森から出られないボクに代わって、外に買い出しに行ってくれる、大切な友達なんだ。
 「焦がさないようにゆっくりね」
 ティナがこくりと頷く。エプロンをして木べらを持ち、ボクの身長で作られたキッチン台にあわせるように、身長の半分ほどある足場に立っていた。
 はっきり言って、危なっかしい。
 けれど折角、ティナが手伝ってくれるっていうのに、ダメなんて言えるはずもない。
 だからできるだけ安全な作業をお願いしている。初めは簡単な、そしてだんだんと難しく。
 最初はいつこぼすのかと冷や冷やしていたけれど、何度も一緒にこうやって台所に立っていると、さすが女の子、手際や要領がよくなってくる。
 火の石を加工して作ったコンロの上で、小さな片手鍋に入れた牛乳をかき混ぜる姿は堂に入ってる。
 その内ボクの方が、追い出されちゃうかもしれないね。
 きっとよいお嫁さんになるんだろうな。

 そんな事を思いながらボクは卵と少量のミルク、コンコルトとはちみつを混ぜながら温めたモノを布を使ってこした。
 それが終わったら、
 「ティナ、温めてる牛乳、くれるかい」
 「うん!」
 大きめの鍋にこしたタネと、温めた牛乳をゆっくりと混ぜてゆく。
 とろみをつける際、卵が玉になりやすいから注意だね。それさえ気をつければここら辺は楽なんじゃないかな。
 とろみが付いたら火から上げて、冷水に鍋ごと冷やす。
 その間に。
 「キミたち、もうお手の物だね」
 お手伝いの常連になっている風の精霊たちが乳脂肪分を取り出し、泡だててくれていた。ちょっと泡立ち過ぎだけど、好意で…楽しんでるんだろうけれど、やって貰ってるのに文句を言うのはダメだよね。
 この状態の時に入れるのは、香りづけのお酒、またはバララシェ。森で採取しておいた種子の鞘を何度も発酵と乾燥を繰り返して、甘い香りが漂うまでにしておくんだ。
 あとは平べったい型に流して氷石の冷暗庫の中に入れておけば、3時間くらいで固まるんだけど。

 「ティナ、ティナ」
 つまみ食いはお手伝いの特権とは言うけれどね。
 固まった方が…冷たくて…
 「うわぁ。すっごく美味しいね」
 液に人差し指をつけてぺろりと舐めれば、幸せそうに笑う。
 零してるよ、ティナ。ほら、ほっぺにとんでる。
 そう言ってボクは柔らかな頬を舐めた。
 「ありがとう、でもわたしまで食べちゃだめだよ」
 くすくすとティナが笑う。
 ああ、もう、可愛いなぁ。もちろんだよ。ティナはオンリーワン、だからね。
 まんまるの青がぱちくりと見上げてくる。
 そんな顔をされたらボク、張り切っちゃう。

 型を持ち、その容器だけが固まるイメージを持つ。そうだね、ドライアイスを思い浮かべれば簡単だと思うんだ。そうすれば段々と端の方から液体が固体へと変化してゆく。
 力の配分的には闇が6で水が4ってところかな。
 所要時間は3分ほど。
 ほうら、これで出来上がり。
 冷暗庫の扉が開き、つららの妖精が"冷タイ空気カンジルヨ"と出て来たけれど、一時的な事だから小さくなってしまう前に、小部屋の中に戻って貰った。
 季節はまだ初夏、この森の中は随分と涼しいらしいのだけど、それでも真冬じゃないとどんどんと小さくなって無くなっちゃうんだ。だからボクの所で避難してる。ボクだったら家にある、これくらいの大きさくらいなら温度調整も可能だからね。

 こら。
 ティナも凍った床を滑らない。
 力の扱い方も大分慣れたって思ってたのに、気をつけないとこれだもんね。
 木のへらを削ぐように動かせば固まった白がくるりと円を描いて丸まった。
 「ティナ、召し上がれ」
 器に入れて、スプーンを挿す。


 残ったアイスクリームを、お父さんとお母さんにも食べさせてあげたい。
 そう言って持ち帰ったティナなんだけど。
 ティナの体温が高くて、溶けちゃったって泣きながら、翌日来る事になったんだ。
 「まだ氷の箱の中にあったよね!今日は溶かさないように頑張って持って帰るから!」
 と、両手にはめているのは羊に良く似た動物の毛を刈り取ってフェルト化させたミトンがふたつひらひらと揺れた。

 自慢げに見せてくれる、思い付きをどうにかして叶えてあげたいな。
 むう。
 なにか保存出来る容器を考える必要がありそうだよね。
 さて、誰に相談しに行こうか。
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