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一一〇   姜維の北伐

~~~羌族きょうぞくの街~~~



挿絵(By みてみん) 馬遵ばじゅん

「む、むう……。

蜀軍に協力するよう羌族との仲を取り持ってくれと言うのか」



挿絵(By みてみん) 尹賞いんしょう

「やはり気が進まないか?

かつてアンタを裏切った俺や姜維に協力すんのは」



挿絵(By みてみん) 馬遵ばじゅん

「いや、そういうわけではない。

どうせ任地を奪われた私は、魏に帰っても処罰されるだけだった。

こうして羌族のもとでそれなりの地位を得た今、別にお前たちを恨んではいない」



挿絵(By みてみん) 梁緒りょうしょ

「だっだら何を悩むんだ。

羌族を抜けて蜀に来いと言ってるわけじゃねえぞ。

ちょいと羌族に援軍を出して欲しいだけだ」



挿絵(By みてみん) 夏侯楙かこうぼう

「ぼくちゃんは協力してもいいよ!」



挿絵(By みてみん) 梁虔りょうけん

「……アンタに協力されても無意味だ ボソッ」



挿絵(By みてみん) 馬遵ばじゅん

「助力を渋っているのではない。

こうして私のことを忘れず、頼ってきてくれたことを奇縁に思ってな。

正直言ってうれしかったぞ。

私が口添えして効力があるかはわからないが、できるだけのことはしよう」



挿絵(By みてみん) 尹賞いんしょう

「そうか! 感謝するぜ!」



挿絵(By みてみん) 馬遵ばじゅん

「今となっては何もかも懐かしい……。姜維にも久々に会いたいものだ」



~~~魏 長安ちょうあん~~~



挿絵(By みてみん) 魏平ぎへい

「郭淮将軍! 姜維のヤツが諸葛亮を真似て北伐の軍を上げやがったぞ!

大軍で長安を目指してやがる!」



挿絵(By みてみん) 郭淮かくわい

「姜維め! あいつもまた北伐などという馬鹿な夢を追って、

またのこのこと姿を現しおったか! 残らず逮捕してやる!」



挿絵(By みてみん) 戴陵たいりょう

「逮捕してやりてえのはやまやまだが……俺らも杜襲としゅうのジジイが引退したり、

司馬懿や孫礼が都に、楽綝がくちんが揚州刺史に栄転したりで戦力不足だぜ」



挿絵(By みてみん) 魏平ぎへい

「アンタが総大将なのは心配いらないけどよ、自分で言うのもなんだが、

俺や戴陵みてえな三下しかいなくて、こんな戦力で大丈夫か?」



挿絵(By みてみん) 郭淮かくわい

「案ずることはない。陛下から新戦力を預かっている。

紹介しよう、まずは陳羣ちんぐん殿の子、陳泰だ!」



挿絵(By みてみん) 陳泰ちんたい

「………………」



挿絵(By みてみん) 戴陵たいりょう

「陳羣つったら曹丕陛下の友人で偉い政治家だろ?

その息子が最前線に飛ばされるなんざ、

俺みたいになんかやらかしちまったのか?」



挿絵(By みてみん) 陳泰ちんたい

「………………」



挿絵(By みてみん) 戴陵たいりょう

「あぁん? 名家の子息サンは左遷ヤローの言葉なんて聞こえねえってか?」



挿絵(By みてみん) 魏平ぎへい

「お、おい。こいつ、無視してるんじゃなくて目を開けたまま寝てるぞ!」



挿絵(By みてみん) 陳泰ちんたい

「………………ん?

ああ、失礼。あんまりいい陽気なもんで、つい。なんか御用ですかい?」



挿絵(By みてみん) 戴陵たいりょう

「……なんでもねえよ。なかなの大物みたいだな」



挿絵(By みてみん) 陳泰ちんたい

「オヤジにゃあ頭で勝てないもんでね。槍だけはそれなりに使えますよ。

起きてる時は頼りにしてくださいな」



挿絵(By みてみん) 魏平ぎへい

「か、郭淮さんよ。他の奴は大丈夫なんだろうな?」



挿絵(By みてみん) 郭淮かくわい

「次も頼りになるぞ。

どもりのハンデを乗り越え一兵卒から叩き上げで昇進してきた鄧艾だ!」



挿絵(By みてみん) 鄧艾とうがい

「俺は鄧艾。俺は要害。食前食後に蜀軍倒す」



挿絵(By みてみん) 戴陵たいりょう

(…………またすげえのが出てきやがった)



挿絵(By みてみん) 魏平ぎへい

(第一これはどもりと言うのか……?)



挿絵(By みてみん) 申儀しんぎ

「あと引き続き俺様も加わるんで夜露死苦チョリース」



挿絵(By みてみん) 郭淮かくわい

「申儀だと? 貴官は上庸じょうようの守備を命じられているだろう。なぜここにいる?」



挿絵(By みてみん) 申儀しんぎ

「そんなつまんねー任務はちょちょいと勅命を書き換えて、

カタブツ兄貴に押し付けてきたっつーの」



挿絵(By みてみん) 鄧賢とうけん

「い、いえ。申耽しんたん将軍が代わりに引き受けてくれたのよ!」



挿絵(By みてみん) 郭淮かくわい

「……まあいい、戦力になるのは確かだ。

この後にも都から援軍を送ってもらう手筈は整えてある。

とにかく目標は蜀軍を全員逮捕だ! 出動するぞ!」



~~~蜀 北伐軍~~~



挿絵(By みてみん) 姜維きょうい

「………………」



挿絵(By みてみん) 尹賞いんしょう

「そ、そこにいるのは姜維か? イメチェンしすぎて誰かわからなかったぞ」



挿絵(By みてみん) 梁緒りょうしょ

「諸葛亮サマの跡を継いで初の北伐だ。そんで軍師スタイルにしだのが?」



挿絵(By みてみん) 張翼ちょうよく

「……それが軍師スタイルなのかどうかはよくわからんがな」



挿絵(By みてみん) 姜維きょうい

「形だけ真似ても仕方ない。だがまずは形だけでも丞相に近づけたかった」



挿絵(By みてみん) 廖化りょうか

「美しい師弟愛だよなあ!」



挿絵(By みてみん) 王平おうへい

「よおし、姜維の北伐の初陣は俺らの手で飾らせてやんねえとな!」



挿絵(By みてみん) 張嶷ちょうぎょく

「同意」



挿絵(By みてみん) 李歆りきん

「及ばずながら先陣は俺に任せていただきたい。

――考えるな。感じろ」



挿絵(By みてみん) 傅僉ふせん

「ホホホ。李歆ばかりにいい格好はさせませんよ。

華麗な戦いの舞いをお見せしましょう」



~~~魏軍~~~



挿絵(By みてみん) 郭淮かくわい

「姜維め、主力は後方に温存しまずは李歆と傅僉とやらの兵を押し出してきたか」



挿絵(By みてみん) 陳泰ちんたい

「………………」



挿絵(By みてみん) 郭淮かくわい

「こっちは申儀が抜け駆けして応戦しているが、本官らはどう動くべきか。

陳泰……は寝ているから戴陵はどう思う?」



挿絵(By みてみん) 戴陵たいりょう

「俺に戦術を聞くなよ。鄧艾に聞いてくれ」



挿絵(By みてみん) 郭淮かくわい

「……実を言うとあいつの話は本官にはよくわからんのだ」



挿絵(By みてみん) 魏平ぎへい

「……今からでも遅くねえから、

中央から誰か軍師を呼んでもらいなよ」



挿絵(By みてみん) 陳泰ちんたい

「いや、俺なら起きてますよ?

見た感じ、蜀軍の構えは持久戦だ。

時間を稼げば何かが起こると思ってるようなね」



挿絵(By みてみん) 鄧艾とうがい

「蜀軍、諸君、待ってるショッキング。

魏軍、大軍、持ってるドッキング」



挿絵(By みてみん) 陳泰ちんたい

「ほら、鄧艾も蜀軍が何かをやらかす前に、

兵力で勝る俺らが押しつぶすべきだと言ってますよ」



挿絵(By みてみん) 郭淮かくわい

「ならば頼もしい新戦力の意見に従おう。

総攻撃だ! 全員出動で蜀軍をお縄に掛けろ!」



~~~蜀 北伐軍~~~



挿絵(By みてみん) 張翼ちょうよく

「姜維! 掛かったぞ! 魏軍の背後はがら空きだ!」



挿絵(By みてみん) 姜維きょうい

「いや……。予測より早すぎる。

これでは十分な包囲効果は得られない」



挿絵(By みてみん) 王平おうへい

「しかし罠に掛かったのは確かだろうが!

さっさと合図を出しやがれ!」



挿絵(By みてみん) 姜維きょうい

「やむをえん。――羌族に合図を送れ!!」



挿絵(By みてみん) 蛾遮塞がしゃさい

「蛾遮塞ターーイム!」



挿絵(By みてみん) 治無載ちむさい

「魏軍め泡を食ってるぞ! サンドバッグより殴り甲斐があるぜ!」



挿絵(By みてみん) 餓何焼戈がかしょうか

「行くぞ! 吹雪のように切り裂いてやれ!」



挿絵(By みてみん) 鄧賢とうけん

「か、郭淮将軍! 背後に伏兵が現れたわ!

それもなんか野蛮そうな連中よ!」



挿絵(By みてみん) 郭淮かくわい

「やはり本官らを誘い込む罠であったか!

わかっていればどうということはない。

陳泰と鄧艾は反転し背後の敵を逮捕しろ!」



挿絵(By みてみん) 陳泰ちんたい

「あいよ」



挿絵(By みてみん) 鄧艾とうがい

「了解、紹介、俺の名は鄧艾」



挿絵(By みてみん) 戴陵たいりょう

「俺らはこのまま背中を気にせず蜀軍に突っ込むぞ!」



挿絵(By みてみん) 魏平ぎへい

「背後の伏兵と合わせても蜀軍の兵は俺らより少ねえんだ!」



挿絵(By みてみん) 姜維きょうい

「さすがは郭淮、ここ北の果てで長年我らと戦ってきただけはある。

その冷静な判断、さながら斗星の北天にあるが如し……」



挿絵(By みてみん) 尹賞いんしょう

「き、姜維落ち着け。昔のお前に戻りかけてるぞ」



挿絵(By みてみん) 姜維きょうい

「私は至って冷静だ。

――蔣琬殿に合図を出せ!」



挿絵(By みてみん) 蔣琬しょうえん

「どうも~レディ・ガガで~す」



挿絵(By みてみん) 郭淮かくわい

「なに!? 側面から一斉射撃だと!?」



挿絵(By みてみん) 蔣琬しょうえん

「こっそり軍艦で河をさかのぼって来ました。

あの時お世話になった鮭です!」



挿絵(By みてみん) 陳泰ちんたい

「背後に羌族、側面に蔣琬の水軍。

どうやら二段構えの伏兵でしたね」



挿絵(By みてみん) 郭淮かくわい

「陳泰! 勝手に持ち場を離れるな」



挿絵(By みてみん) 陳泰ちんたい

「後ろの羌族は鄧艾だけで十分ですよ。ありゃただの牽制役だ。

――それより、撤退するなら今のうちですよ」



挿絵(By みてみん) 郭淮かくわい

「ああ、無念だがこれ以上の戦は無意味だ。

全軍撤退しろ! ひとまず蜀軍を泳がせる!」



~~~蜀 北伐軍~~~



挿絵(By みてみん) 姜維きょうい

「ご苦労であったな」



挿絵(By みてみん) 治無載ちむさい

「この程度お安い御用だ。あっさり撤退されて物足りなかったぜ」



挿絵(By みてみん) 蛾遮塞がしゃさい

「蛾遮塞ボムヲ出スマデモナカタ。

魏軍ガンバッテーガンバッテー!!」



挿絵(By みてみん) 尹賞いんしょう

「はるばる羌族のもとまで出向いて、渡りをつけた甲斐があったな!」



挿絵(By みてみん) 姜維きょうい

(……いや。魏軍は私がすでに後方に兵を回していたことを読み切っていた。

進むも退くも全軍を同時に動かしたため、損害は最小限に留まっている)



挿絵(By みてみん) 王平おうへい

「どうしたどうした姜維! しけたツラしやがってよ!」



挿絵(By みてみん) 餓何焼戈がかしょうか

「次はこちらから攻めかかる番だ。

俺のシベリアンフックで魏軍をKOしてやる!」



挿絵(By みてみん) 姜維きょうい

(……それだけではない。魏軍は次なる一手もすでに打っているはずだ。

それも羌族と我らの連携が整わない今のうちに、打つべき手を)



挿絵(By みてみん) 張翼ちょうよく

「おい姜維! 話を聞いてるのか。

我々の士気は軒昂だ。この機に乗じて一気に攻勢に転じるぞ!」



挿絵(By みてみん) 姜維きょうい

「いや、私が思うに――」



挿絵(By みてみん) 夏侯覇かこうは

「隙ありィィッ!!」



挿絵(By みてみん) 蛾遮塞がしゃさい

「グワアアアッ!?」



挿絵(By みてみん) 夏侯覇かこうは

「夏侯淵が一子・夏侯覇見参! いざ尋常に勝負しろ!」



挿絵(By みてみん) 治無載ちむさい

「が、蛾遮塞の兜のわずかな隙間から眉間を射抜いただと!?

な、なんて弓の腕だ!」



挿絵(By みてみん) 廖化りょうか

「か、夏侯淵と言えば魏の、いや三国屈指の弓の名手。

そいつの息子がいやがったのか!」



挿絵(By みてみん) 張翼ちょうよく

「そんなことよりもここまで敵に入り込まれているのが問題だ!

夏侯覇一人で来たとは思えん。敵襲に備えろ!」



挿絵(By みてみん) 申儀しんぎ

「ご名答~。っつーことで挨拶代わりにそらよっと」



挿絵(By みてみん) 餓何焼戈がかしょうか

「ハラショーー!?」



挿絵(By みてみん) 治無載ちむさい

「が、餓何焼戈まで斬られたぞ!!」



挿絵(By みてみん) 郭淮かくわい

「わっはっはっ! 勝どきを上げるには早すぎたようだな。

神妙にお縄を頂戴しろ!!」



挿絵(By みてみん) 尹賞いんしょう

「ありえねえ……。

どうやって俺達の懐深くまで入って来やがったんだ?」



挿絵(By みてみん) 鄧艾とうがい

「俺の特技はマッピング。蜀の懐ザッピング」



挿絵(By みてみん) 魏平ぎへい

「鄧艾は趣味で魏国中の地図を作ってるそうだ。

お前たちに気づかれず接近できる間道なんていくらでも知ってるってよ。

――おっと逃がすか! 石の雨を喰らえ!!」



挿絵(By みてみん) 姜維きょうい

「鄧艾…………」



挿絵(By みてみん) 傅僉ふせん

「オホホ。姜維様、ここは我々に任せ退却を」



挿絵(By みてみん) 姜維きょうい

「しかし前線には李歆が残っている……」



挿絵(By みてみん) 傅僉ふせん

「私は無事に姜維様を逃がすよう李歆に頼まれ、前線から戻ってきたのです。

さあ、遠慮はいりませんよ」



挿絵(By みてみん) 姜維きょうい

(丞相ならば奇襲を察知してとうに撤退していただろう……)



挿絵(By みてみん) 張嶷ちょうぎょく

「迅速」



挿絵(By みてみん) 王平おうへい

「ぼやぼやしてんな姜維! てめえに出来ることをやりやがれ!」



挿絵(By みてみん) 姜維きょうい

「……撤退路はプランEを選択する。蔣琬殿にも早く逃げるよう伝えよ。

殿軍は梁緒、梁虔が務めよ」



挿絵(By みてみん) 梁緒りょうしょ

「んだ。早く逃げろ」



挿絵(By みてみん) 梁虔りょうけん

「しかたない ボソッ」



挿絵(By みてみん) 姜維きょうい

(僕はまだ丞相の背中すら見えない。僕はどうすれば……)



挿絵(By みてみん) 陳泰ちんたい

「あんまり邪魔しないでもらえますか。追撃なんてただでさえ面倒なんですから」



挿絵(By みてみん) 姜維きょうい

(ハローハロー。僕から丞相へ応答願います。

システムオールグリーン。コミュニケーションは不全……)



~~~~~~~~~


かくして姜維の初の北伐は惨敗に終わった。

鬼才諸葛亮ですら果たせなかった宿望に姜維は近づけるのか。

一方、魏の都ではついにあの男が立とうとしていた。


次回 一一一  司馬懿の野望

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