はじめに(第三部)
東大陸西部の雄、イースィンドの王都は、花の都との呼び名も高い。
海を背にした王城は、崖の上に咲く百合だと言われる。王貴区で競うように威容を誇る貴族の屋敷は、薔薇の花にも例えられる。そびえ立つ尖塔は藤のようで、王立図書館は蓮の花、人並み絶えない下級区も、群生した野菊のようだと讃えられる。
魔導レンガ製の城壁により四つに分けられた王都の区画は、そのどれもに目を見張るような『花』がある。巨大な建築物がある。街の細部を彩る繊細な装飾がある。絶え間なく船が行き交う港があって、大輪の花を咲かせた門がある。
文化基準が極めて高いこの街は、存在そのものが観光名所と言っても過言ではなく、事実、王都の玄関口である下級区は、連日連夜、多くの旅人でにぎわっている。
花束のような街の百花繚乱たる日常。その中で、何でも屋〈フリーライフ〉は、どのような花であるのだろうか。
添え物なのだろうか。それとも、主役となり得るのだろうか。安寧を求める店主の意に反して、フリーライフには騒動が絶えない。
今日もまた、中級区の片隅に位置する何でも屋に、花のように美しい少女たちが訪れる。とある青年を中心に、色とりどりの花が集まり始める。
この物語は、何でも屋〈フリーライフ〉を舞台に彼らが織り成す、ドタバタラブコメディ――。
兼、愛と欲望のサスペンスである。
次回、『淫獣伝』
隙を晒した獲物を前に、飢えた獣が牙をむく。
敗北条件は【既成事実】。貴大は見事、防衛なるか?
次回もお楽しみに!
……はたして、最終部のはじまりがこれでいいのだろうか(・・;)