帰還の手段を探して
「いやああああああああああ!?」
鉄と規律の国・バルトロア帝国の首都、ゲシュリンが誇る鉄壁の要塞城内部にて、絹を引き裂くような甲高い悲鳴が響き渡った。
「見つかった、か……」
「どうする?」
「マジックアイテムでも持ち出されたら厄介だぞ」
悲鳴を上げ、腰を抜かしてしまった者……ラベンダー色のネグリジェに身を包む銀髪の少女を囲み、異形の者たちがぼそりぼそりと言葉を交わす。
鳥、魚、犬の頭を人間の頭と挿げ替えたような姿……三者三様に恐怖を与える存在に、少女は最早大きな声も上げられない。
「やぁぁ……! トイフェル……トイフェル……!」
ただ、トイフェル、トイフェルと繰り返し、身を縮めて後ずさる少女。その様子を見た魔物たち……その中でも一際異彩を放つ極彩色の鳥頭が、目を細めて少女へとにじり寄る。
もちろん少女は、その分だけ後ろへ下がろうとする……が、すぐに廊下の壁に突き当たってしまい、逃げ道を無くしてしまう。
そんな少女の哀れな様を見て、鳥頭はくちばしを大きく開き……。
「クケエエエエエエエ!!」
と、怪鳥のような雄叫びをあげた。
その途端、恐怖が限度を超えたのか、少女は白目をむいて床へと倒れ伏してしまった。
だが、鳥頭の異形はそこで止まらない。倒れた彼女へと近づき、そのくちばしでネグリジェの裾をつまもうと……。
「バカ、やり過ぎだ!」
「いってえええ!?」
そこで、魚頭の異形……つーか、俺だ。佐山貴大だ。俺に頭をぶん殴られて、鳥頭になっている優介は少女から離れるように跳び上がった。
「うん、あれはやり過ぎだと思うよ」
そう言って後ろから近づいてくるのは、犬頭をしたれんちゃんだ。女性に優しいれんちゃんは、気絶した少女の服の乱れをそっと直してやり、調子にのっていた優介をやんわりと叱った。
「だってよ~、あれだけ期待させといて収穫なしなんだぞ~? 憂さ晴らしの一つもしたくなるってもんだ」
すると、ぶちぶちと愚痴をもらし始める優介。確かに、わざわざ苦労してまで要塞城の内部へと忍び込んだのに、収穫なしでは不満の一つも言いたくなるというものだ。
でも、その時の俺たちに、腰を据えての反省会なんてしている暇はなかった。なぜなら……。
「んなこたぁどうでもいいけど、はよ逃げんと囲まれるぞ。高レベルの魔術師っぽいのも近づいてきてる」
「マジか!」
そこは「鉄壁」の異名を持つ要塞城……しかも地下最深部の宝物庫前だったからな。いくら俺たちがカンストプレイヤーだからといって、呑気におしゃべりをしている暇などなかった。
「さっきの声で人が集まってきている。おとりとかく乱はいつも通り俺がやるから、さっさと逃げろ」
「お、おう!」
「りょ~かい。頑張ってね」
そう言って、まだ警備が薄い方の通路へと走り出していく二人。あいつらは俺に比べて足回りや隠蔽系のスキルが充実していないからな……うまく脱出するには、これが一番いいやり方なんだ。
俺はその場に残り、精々時間稼ぎをしますかと呟いて、首をこきこきと鳴らす。
そして、軽く息を吐いた後に、各種隠蔽系スキルや装備をオフにしたり、外したりすると……MAPに映った赤い光点(敵反応)が、一気にここを目指して集結し始めた。
「やぁ……いやぁ……」
「ん?」
さあ、あと一分もすれば接敵だ……というところで、後ろから声がしたので振り返ってみると、先ほど気絶してしまっていた少女が目を覚ましていた。
もうすぐ大立ち回りを演じようというのに、なんて面倒な……ちょっと大人しくしていような、と声をかけようとしたところで……。
「ひっ……!」
と、満足に動かぬ体を動かして逃げようとした。可憐な銀髪少女からの全力拒否……そりゃあ、俺はれんちゃんみたいにイケメンじゃないけど、そこまでブサメンじゃないぞ、と思わず笑いそうになったね。
でも、すぐに思いだした。潜入のために頭のデザインを魚そのものに変えていたことを。これは十歳そこそこの子どもにはキツイわな……と、ちょっとだけ反省。
これ以上トラウマにならないように、元の人間の顔に戻ってみせ、怖がる少女に軽く謝った。
「ごめんな」
「あ……?」
「んじゃ、ちょっと眠ってろ。【スリープ】」
スキル発動とともにこてんと床に倒れる少女。どうやら、元の顔なら怖がらずにいてくれたようだ。あの様子なら、謝罪の言葉も聞こえただろう。まぁ、「ごめん」って言葉が聞こえたか聞こえなかったかだなんて、自己満足に過ぎないんだけど、
「「「姫様から離れろおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」
「……はい?」
またも振り返ってみれば、宝物庫前の広間に半甲冑姿の人たちが雪崩れ込んできて……だけどそいつらは勢いのままに突撃してくるなんてことはなく、一定の距離を保って「姫様!姫様!」と口々に叫んでいた。
もう、訳が分からんかったね。
こんなところにお姫様なんているはずが……そこで、ふと思いつきました。
「姫様って……これ?」
「「「止めろおおお!! 姫様に手を出すなあああああ!!!!」」」
どうやら当たりだったらしい。俺が後ろで熟睡している銀髪少女を指差すと、それすら汚らわしいと言わんばかりに怒号が飛び交った。
どうやら俺は地雷を踏んでしまったようだ。
「まだか……魔術師隊はまだか?」
「あと三分……いえ、一分で到着してみせると言っています。それまで牽制を頼むとのことです」
「奴め……我らが姫君に手を出すとは、生きて帰れると思ってはおるまいな」
「八つ裂きに……いや、微塵に砕いて肥溜めにぶちまけてやる」
レベルによって強化された聴覚は、怒鳴り声に隠れたささやき声もこぼすことなく拾ってしまう。
おぉ……こいつら、話も聞かずに殺す気満々だ。流石、容赦ないことで有名なバルトロア帝国の騎士団……って、感心している場合ではなく!
「隊長! 魔術師隊が到着しました!」
「よし、ミラー隊は【バインド】で、ヴィクセン隊は【スパークボルト】、その他の部隊はその間に高位魔法の詠唱を! ここまで入り込むような奴が相手だ。油断はするな!」
「「「はっ!」」」
ローブ姿で短杖を持ったいかにもな連中が遂に現れた! 物理攻撃ならいくらでも防げるしかわせるんだけど、魔法はそうはいかない。
俺のジョブは魔法職じゃないからな……いくら相手よりレベルが高いからといって、各種妨害魔法を全部防げるわけじゃあない。アクセサリなんかでいくらか穴は埋められるけれど、このまま突っ立ってても問題ないほど万全じゃないんだ。
「させるかっ!」
だから、魔法隊のスキルが発動する前に駆け出した。通路を塞ぐ屈強な騎士たちに向かって……。
「盗人の分際で、真正面から向かってくるか! 小癪な! 一刀のもとに切り捨ててくれるわ!」
すると、突進する俺を両断しようと、周りに指示を出していた隊長格の騎士が大きく剣を振りかぶる。
【スキャン】で見る限り、かなりの使い手のようだ……おそらく、装備とも相まって、俺にダメージを与えることができるだろう。まともに喰らえば怯んでしまい、そこへ痺れの雷光や、束縛の鎖が飛んでくるはずだ。
そんな相手に正面突破を仕掛けようなんて、普通は馬鹿げている。
だが、俺だってカンストプレイヤーだ! 考えもなしにおとり役を引き受けたわけじゃない。
「受けよ! 【ツェアシュテールンク】!」
「【蜃気楼】……っ!」
無骨な鋼の剣が、空気を押しつぶすかのような勢いで俺に迫る。予想以上の剣速に、慌てて俺はスキルを発動させるも……騎士の剣は、俺の体を宣言通りに両断した。
「「「おおおおおお!!」」」
侵入者をいともたやすく切り捨てる巨漢の騎士……周りを囲む連中が、その雄姿に喚声を上げる。
だが、俺を切り捨てた騎士はなかなか聡い奴だったようだ。振り下ろした剣を即座に引き上げ、周囲に指示を飛ばす。
「馬鹿者っ! これは幻影だ! 恐らく、奴はもう逃げ出している……上の階の者へ! 決して警戒を緩めるな!」
きっと、切った感触が実体とはわずかに違うんだろう。それが分かるなんて……どんだけ上位の騎士なんだか。
あんな化けもんが来るぐらいだから、あの銀髪っ子は本当にお姫様なんだな。そんな奴らに出会うなんて、俺はついていなかったな……。
そんな奴の相手なんて、まともにしちゃあいられない。俺は、通路にまでぎっしりと押し寄せた騎士たちをすり抜け、すたこらさっさとその場から逃げ出した。
「遅かったねえ。何かあったの?」
「いや、ちょっとな」
「あの子のネグリジェをネグリジェってきたんだろ? 分かるぞ、その気持ち」
「違うわ、アホ。なんだネグリジェるって……」
要塞城から抜け出し、あらかじめ決めておいた合流地点へと向かった俺。そこには、頭のデザインを元に戻したれんちゃんたちが待っていた。
城下町まで降りてきて、いつまでも「ハロウィン・セット」で変えられる化け物頭をしていたらトラブルしか起きないからな。俺だって人間の頭に戻していた。
「駆け付けた騎士団に、やたら強い奴がいたんだよ。カンストってわけじゃねえけど、かなり強えおっさんだった。そいつが逃げても逃げても追ってきてさ……指示も的確だし、ちょっとヤベエかなって思ったわ」
「マジで? 【蜃気楼】と【インビジブル】で即脱出じゃなかったの?」
「いや、何か妨害スキルが発動したらしくてさ……途中から姿隠せなくなったのよ。まぁ、外に出てからは【ブースト】と【ハイジャンプ】で無理矢理振り切れたけど……お前ら大丈夫だった?」
「大丈夫だったよ」
「くっそ、じゃあ、俺をピンポイントで狙うスキルか。設置型か指定発動か知らんけど、そんなもんまであるとか……」
【蜃気楼】は、一分間、実体を目には見えない霧のようにするスキルだ。発動すると、分厚い壁や床は通り抜けられないけれど、人や隙間のある扉、障害物なんかは何でも通り抜けられるようになる。その間、使用者の幻が湧き出て、追手をかく乱することもできるが、移動以外の何もできなくなるのが難点だった。
でも、【蜃気楼】と、透明になるだけの【インビジブル】があれば問題なく脱出できるはずだった。事実、異世界に落ちてからの一年間、どのような城や神殿に潜入しても、無事に抜け出すことができていたんだ。
地球に酷似した惑星である「アース」は、地形も地球にそっくりだった。ドイツにオーストリア、イタリアにギリシャ、それにバチカン市国……地球においてそれらに位置する国を色々と回った。
俺たちが落ちてきた場所を支配する、ドイツ……ではなく、バルトロア帝国は大陸有数の軍事国家って話だったから後回しにしたけれど、それ以外は問題なく潜入できたんだ。
だから、ちょっとばかり調子に乗っていたんだろう。「カンストレベルなら大丈夫」って、どこか高をくくっていたんだ。それが間違いだと明らかになったのは、俺たちにとっては幸いなことだったと思う。
「じゃあ、何があるか分かったもんじゃねえな。顔は「ハロウィンセット」で隠してたけど、ちょっとしたきっかけでバレるかもしれん。この国は外れだったし、さっさと次の国に行くか」
「あ、でも、ご近所さんとか知り合いの人にお別れとか言った方がいいんじゃないかな」
「あ~、それもそうだな。荷作りも、家の掃除もあるし……どうする、貴大?」
「ん~……三日もありゃあ、準備できるだろ」
「じゃあ、三日後に出発ってことで! 行先は……とりあえず、まだ行ってない西の方に行こうぜ!」
「「りょ~かい」」
こうして、これからの予定を決めた俺たちは、未だ騒がしい城へと背を向けて自宅へと帰っていった。
「なぁ……本当に、元の世界に戻る方法ってあると思うか?」
その日の深夜、宝物庫への潜入から帰ってきた俺たちは、遅めの夕食をとっていた。その席でのことだ。優介が、少しばかり落ち込んだ顔でそう言ったのは。
「あると……思いたいなぁ。一年も過ごしたからそれなりに愛着もあるけれど、やっぱり元の世界がいいよ。はは、末の妹は俺の顔覚えてるかな? 会いたいな……」
それを受けて、れんちゃんは元の世界への未練を語る。二人とも、一年経った今でも……いや、一年経ってますます望郷の思いを強くしているようだ。時々……本当に時々だけど、こうしてふとホームシックにかかることがある。
「俺はあると思う。今まで忍び込んだ各国の宝物庫や神殿には、異世界から来た勇者や流れ人の話、そいつらが元の世界に帰っていったって話が書かれた本や巻き物、石板なんかが結構あっただろ? つまり、俺たちがまだ見つけられていないだけで、手段自体は存在するんだと思う」
こんな時、とても居心地が悪くなる。空気がどよ~んと濁っているように感じられるんだ。こういうのは、どうにもいただけない。何より、落ち込む二人の顔は見ていられない。だから、二人が落ち込むと、俺は決まって励ましてやる。
「うん……そうだ、そうだな」
そう言って、ニカッと笑う優介。まるっきり俺の言葉を信じたってわけじゃあないだろうけど、いくらかの励みにはなったようだ。ムードメーカーの優介が笑うと場の空気も明るくなる。
「んじゃあ、さっさと飯食って、さっさと寝て、明日からの荷作りとかに備えようぜ!」
元気を取り戻した優介が、ガツガツとシチューをかっ喰らう。その姿を見た俺とれんちゃんが、ふふっと笑う。いつものフリーライフに戻ったようだ。これで俺も心置きなく飯を食えるってもんで……。
「ありがとな、貴大」
隣に座ったれんちゃんにお礼を言われた。俺の心境が見透かされたようで、なんだか妙に気恥ずかしかったのを覚えている。
それから、飯も食い終わり、風呂に入って、歯を磨いて寝て……朝になってまた飯を食った。
そして、いよいよ挨拶回りや旅の準備に出かけようと家の扉を開いたところで……正面の壁にでかでかと貼られたそれが、嫌でも目に飛び込んできた。
「…………こ、ここここ、これっ、これこれこれ……!?」
「ちょ、おまっ、おまっ……!」
「あは、ははは……」
一見、元の世界の選挙ポスターにも思えるそれには、やけに凶悪そうにデフォルメされた俺の似顔絵と、「極悪人・捕縛金貨百枚・通報金貨一枚」の一文が書かれていた……。
辺りを見れば、ところかまわず同じものが貼られまくっている。
つーか、今も通りの先で貼り付け作業に勤しんでいる騎士団の連中が見える。
どうやら俺は、軍事国家バルトロア帝国に指名手配されたらしい……。
「おまっ、どういうこと!? 「ハロウィンセット」は!?」
おかしい。変装用の「ハロウィンセット」で顔を隠していたにも関わらず、何で素顔が……。
「あ」
「なに!? その「あ」ってなにっ!?」
そういえば、姫様に謝る時に、怖がらせないようにって素顔に戻したままだった……あまりにもどうしようもないミスに、冷や汗がだらだら流れた。
「ちょっと! なんか向こうの騎士がこっち見てるよ!」
「ひぃっ!」
確かに、手配書貼り付けをしていたはずの騎士たちが手を止め、手元の手配書に目を落としながらこちらをチラ見していた。
これは……まさか……。
「あいつだ……見つけた。隊長に連絡を。感づかれないように、他の者は作業を続けろ。だが、監視は怠るな」
「了解」
強化された聴覚が、剣呑な響きの呟きを拾ってくる。間違いない。捕捉された。
「ど、どうする?」
同じく、先ほどの言葉を聞いていた優介が顔を青くして聞いてくる。どうする? そんなの、決まっているだろう……。
「逃げるしかねえだろおおお~~~~っ!!」
「「やっぱり~~~~~っ!!」」
家に戻って、唯一の荷物である拡張空間内蔵のリュックサックを背負う。その頃には騎士たちが俺たちの家を囲み、今にも突入を仕掛けようとしているところだった。
魔術師隊もいるから、正面からの突破は無理! と判断した俺たちは、二階の窓を突き破って、民家の屋根から屋根へと跳び移りながら逃亡を図る……。
こうして俺たちは、追われるように……いや、まさに追われながら、バルトロア帝国に別れを告げた。
「待て~! 待たんか~!!」
「はひ~! いい加減、しつこい……あのおっさん、ホントにレベル200か!?」
「すごい体力だよね~……はあ」
西へと向かう街道、そこを爆走する俺たち。そして、それを追うのは宝物庫前でも対峙した騎士のおっさんだ。馬に跨ったおっさんが、ランスを振りまわしながら俺たちを執拗に追いかけてくる。
森に逃げ込んでも、河を渡っても、どこからともなく「待て~! 賊めが~!」と姿を現す。それなら平坦な道で、スキルとレベルに任せた全力ダッシュだ! と街道に戻れば、馬を召喚して追いつこうとする……街を出て、かれこれ三時間はそんな追いかけっこを続けていた。
「くっそ、【サモン・ゴーレム】!」
足止め代わりに優介がゴーレムを召喚するも……。
「ふんっ!!」
とおっさんが長槍を振りまわせば粉々に砕かれてしまい、障害物にもなりはしない。妨害系のスキルも、状態異常を与えるスキルも、おっさんが着ている鎧に阻まれて届かない……間違いない、奴は音に聞こえた帝国一の騎士、「ジークムント」だ。
皇帝に下賜されたガチャポン限定の強力装備に身を包み、更には軍神の加護まで備えた騎士の中の騎士……それが、帝国最強騎士のジークムントだ。
そんな奴に追われているのか……もう、殺す気じゃなければ奴は止められないんじゃないかな……。
「おまっ、あんなんに目ぇ付けられるとか、アホかっ!」
「そうだよ、貴大~!」
「うっせ、お前ら、だって……はっはっ……お前らだって似たようなもんだろ~!」
そう、俺たちフリーライフが流浪の身なのは、何も帰還の手段を探して回っているからだけじゃない。行く先々で、俺たちの内の誰かがトラブルを起こしてしまうからだ。
れんちゃんが女性たちにつけ回された末、ヤンデレっちゃった女の子に刺されかけたり、優介が宗教国家でシスターにセクハラ発言したり……他にも、この世界の常識を知らないが故に起こしたトラブルなんて数知れない。
そんな中、俺だけはトラブルを起こしていなかったのが秘かな自慢だったんだけど、まさかここに来て特大のトラブルを引き当ててしまうとは……。
「捉えたぞっ!」
「「「うわっ!?」」」
走る俺たちの間に、長槍が突き出される。辛うじて避けたけれど、ジークムントの射程距離なのは変わりない。いつの間にここまで……と驚く間もなく、次々と槍が繰り出される。
「小僧っ! 姫様に手を出して、生きてこの国を出られると思うなあああああ!!!!」
「ひぃぃ!?」
冷や汗も蒸発しそうな裂帛の気合に、思わず悲鳴が漏れてしまう。それでも、逃げる! 逃げる逃げる逃げる!
逃げて逃げて逃げまくれば、いつかは諦めてくれるだろうと……無理かなぁ……い、いや! 希望を捨ててはいけない。
こうして俺たちフリーライフの面々は、最強騎士の長槍に尻をつっ突かれながら西へと向かった……。
何とか振り切れたからよかったものの、あんな化けもんに捕まっていたら今ごろどうなっていたか……今でも夢に見ます、はい。