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絶対に働きたくないダンジョンマスターが惰眠をむさぼるまで 作者:鬼影スパナ

勇者、来訪

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勇者とお食事


 ロクコにプロポーズとか、生かして返すどころか帰った先で処刑まっしぐらだろうが。いや、俺は困らないんだけど流石に同郷人を見捨てるのは心苦しい。良いことしておきたい気分キャンペーンはまだ続いているのだ。

「……で、どうしたらいいと思う、ケーマ?」
「とりあえず、どういう風に言われたんだ?」
「え? んー、その、パートナーになってくださいって」

 頬を赤くしてもじもじと照れるロクコだが……それプロポーズなのか?
 パートナーっていうのはいろんな意味があるからな。確かに男女のパートナーは婚姻関係を示すこともあるけど、俺とロクコのように2人で1組の相棒という意味もある。
 俺も、ロクコ相手に「相方」とか「パートナー」ってよく言ってるもんな。
 ……あ、これ翻訳さんがトンデモナイ意味に差し替えてる可能性があるな……

「なぁロクコ、ひとつ聞きたいんだけどパートナーって」
「ええ、まぁ即断ったんだけどね! 私にはケーマがいるから、パートナーは間に合ってるし」
「お、おう。じゃあそれで問題解決してるのか?」
「ちょっとまって! えーっと、その。それが結構しつこくてねー。話を聞きたいから一緒にご飯食べないかって誘われてるのよ。ケーマもきてよ」

 Sランク冒険者様の要請か。……普通に断ればいいんじゃないかな。
 いや、でもどうにしても一度話をしないとダメとなれば、食事をしながらというのはいい機会かもしれない。
 そしてロクコ1人で話をさせるというのは、うん、絶対やらかす気しかしない。もしかしたら既にやらかしているという可能性すらあるな、そもそもパートナーになってくれってどうしたら言われるんだ。

「これはケーマというパートナーが居る事をしっかりアピールしなきゃと思うのよね」
「おう? そう……なのか?」
「ちょっと、しっかりしてよね。ケーマは私のパートナーなんだから」
「そうだな、パートナーだもんな、うん」

 しまった。この流れでパートナーってどういう意味? とか、きけない。

 ……この問題は見なかったことにしよう。問題の先送り、実に日本人的だな。
 ああ、いっそ勇者に直接聞いてみるのもいいかもしれないな?

  *

 結局勇者と直接話をすることにした。一緒にご飯でも食べながら、と呼ばれたというのもある。
 場所はスイートルーム。今、キヌエさんがAランク定食『欲張りセット』こと、お子様ランチを配膳中だ。

 そして俺は、謎の土魔法使い冒険者ナリキン仮面として勇者の前に座っていた。横にはロクコがいる。
 尚、今日の仮面は髪色を隠すため、仮面というよりフルフェイスの兜に近い。食事がとれるように口周りはカポっと取り外せる仕様だった。今後も髪色を隠すのに便利だし、これでいこう。

「はじめまして勇者殿。私はナリキン。ロクコのパートナーです。いやぁお会いできて光栄です」
「はじめまして。ワタル・ニシミです……あの、ナリキンさん。ロクコさん。こちらからお誘いしておいて大変失礼なのですが――食事が気になって話どころではなくなりました、申し訳ありません」

 食事でもしながら話を……でも、お子様ランチでは締まらないなー、なんて思ったのだが、どうやら勇者はそれどころではないようだった。先ほどから配膳されているお子様ランチとクリームソーダをガン見している。
 やはりお子様ランチを勇者に出すのは不味かっただろうか。勇者は日本でのお子様ランチの値段知ってるだろうしな、こんなんで金貨5枚とかボッタクリだと今でも思う。

 そして、勇者はひたすら無言でお子様ランチを食べた。しかもずっと真顔であった。
 ……見た目成人過ぎの大人が、無言でお子様ランチを食べるとか、かなり空気が重いんだけど。
 俺とロクコもつられて何も言えず、というか話しかけても「今、食べてるので」と一言言われ、邪魔をするなと軽く殺気を飛ばされてチビりかける始末だ。
 やっぱりお値段高すぎて怒ってるんだろうか――と、思っていたのだが、どうもそうではなかったらしい。

「――ごちそうさまでした」

 クリームソーダの最期の一滴まで飲み干し、ご飯粒ひとつ残さず食べつくした勇者ワタルは――涙を流していた。

「すみません、故郷を思い出しました……もう帰る事の出来ない、故郷を」

 3年。確か、この勇者が召喚されて3年経っている、とハクさんは言っていた。
 高校に入学して、卒業するまでと同じ3年間。それだけの時間があれば、色々なことがあっただろう。何があったかまでは分からないが、今の様子を見るに、日本に居た頃と比べ壮絶な経験を積んできたであろうことは想像に難くない。

「もう帰る事の出来ない、ですか」
「ええ。私の故郷は異世界にあるので、帰る手段が無いんです。今はそれを探していますが――見つかったとしても、私は故郷に帰ることができないでしょう。……私はこの世界に来て、人をこの手で(あや)めました。それは、故郷では最も重大な大罪なのです」

 なるほど、こっちの世界に来てから人を殺したことがあると。だから日本には帰れない、と。
 日本に戻っても異世界の殺人では犯罪者として逮捕されることはないだろうけど、こういうのは気持ちの問題だからな。

「ではなぜ帰る手段を探しているのです? 帰れないのに」
「ええ、将来、故郷に帰りたい異世界人に会ったときのため――というのもありますが、未練、ですね。やはり故郷は恋しいものですから」

 ……俺は俺で、こっちの生活が快適で日本に戻る気が無いんだが、そのうち帰りたくなるんだろうか? 寝ていられれば幸せなんだけど。

「この宿をハク様に勧められた理由がわかりました。やはりここには日本と繋がるヒントがありそうだ。いくつかお聞きしたいことがあるのですが、良いですか?」
「……答えられることであれば、お答えしますよ」
「では。……『お米』。これはどこの土地にあったものですか?」

 おっと、さっそく答えにくい質問が来たぞ。
 仮に「ハクさんに仕入れてもらっているから分からない」と言っても、ハクさんに直接確認できてしまうのがこの勇者だ。そこでハクさんが「それは私にはわからないわ」とか答たら矛盾となってしまう。そこをつかれたら結構キツいことになりかねないな。

「……さて、こちらも商売なので仕入れ先は漏らしたくないのですが」
「そこを、どうにか。他の方に漏らしたりはしません。どうしても手に入れたいのです」
「なら私から融通しましょう。あまり量はありませんが、精米済みのものをお売りできますよ」
「是非! ――あ、それでどこの土地にあったものですか?」

 食いつくな。まぁ、米は日本人のソウルフード、気になるのは当然か。
 答えないと「そこをなんとか」としつこく聞かれそうだ。適当な国の名前を使いつつ煙にまこう。……えーっと、確かハクさんが言ってた国名があったな、ワコークだっけ。チェリーはそこで手に入れられるんだっけ? よし、ここを使わせてもらおう。
 俺が考えているのを答えるのを渋っているとみていたのか、ワタルは大人しく待っていた。

「ワコークという国を知っていますか?」
「ああ、行く予定ですね。東方にあって『和国』なんてあからさまな名前、これも気になりますから」

 ……あ、本当だ! 気づかなかった!

「えーと、チェリーなんかはそこで仕入れたものをハクさんに運んでいただいていましてね」
「おお、ワコークには桜があるのですね! これは楽しみだ!」

 あ、そうか。チェリーってさくらんぼ。なら桜があるってことか。
 なら本当に『お米』もあるかも――って、ハクさんも『お米』を知らないって言ってたよな。ハクさんがチェリーみたいな果物を確認しておきながら穀物を見落とすとは思えない。ということは、無い可能性が高い、か。
 ……うん、『お米』はそこで仕入れているとか言ってないし、セーフセーフ。例え嘘発見機な魔道具つかわれても白だよ俺は。

「仕入れ先について今のところ言えるのは、ここまでですね」
「ありがとうございます。……次に、こちらを見ていただきたいのですが」

 礼を言った後、ワタルはトランプをそこに置いた。

「これは、ここにあるダンジョン『欲望の洞窟』で手に入れられると聞いていますが」
「ええ、1層目で手に入るみたいですね。うちでは銅貨5枚で買い取ってますよ」
「……ナリキンさん、これを見てください」

 勇者がトランプの箱の一部を指さした。……なんだ? なにかあるのか? 普通の箱に見えるけど。

「うん? ……特に変わった点はなさそうですが、手品でも見せてくださるのですか?」
「あら、そんな変な模様があったのね?」

 勇者はニヤリと笑った。俺は、ロクコの返答を聞いて思い当たり、ぞわり、と全身の血流が逆流するような寒気に襲われた。
 ……バーコードだ。こんなのあったのかよ、完全にアウトだコレ!

「ええ。ここにあるのはバーコードと言いまして、特殊な書き方で値段がかかれているんですよ」
「ああ言われてみれば。その模様、何かと思ってましたが、そういうものだったんですね」

 すかさず返す。……こいつ、俺の事日本人だって疑ってるだろコレ。今の反応で確定されたかもしれない。
 ああそうか。ハクさんもきっとこのバーコードのことを聞いてたんだろうな。それで俺が超優秀で何か企んでるものだと思ってるなら、確かにこのバーコードは俺が撒いたエサに見えるだろうよ。実際は完全にポカだったとしてもな!

「……まぁ、そんなわけでここのダンジョンには、故郷への手がかりがあると踏んでいます」
「そうですか。……ああ、調べるのはいいんですが、一応ここは初心者向けなので……あまり荒らさないでくださいね?」
「ええ。分かっています。とりあえず1週間、泊まらせていただきます」

 そう言って深々と頭を下げる勇者ワタル。……悪いやつではなさそうだが、はてさて。
 あ。そうだ。ロクコにプロポーズのあたりも、詳しく聞いておかなきゃな。まぁ十中八九研究パートナーにってことだろうけど。
(のんびり進行! でも仕事の方が忙しいので来週は投稿できるか怪しいです。書籍化作業もしないとだし)
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