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戦後処理と言葉の違い

「完敗しました」


 戦後処理として、ハクさんは再び『ただの洞窟』を訪れていた。

 相変わらず執事服のクロウェも一緒だ。


「負けましたが、得られるものの多い素晴らしい戦いでした。まさかネズミにあそこまでしてやられるとは思いませんでしたよ。斥候にして戦士だったとは……」


 ネズミを斥候にしたのは確かだけど、こちらとしてもボスまで倒せるとは思わなかった。

 本当はネズミが開拓したマップを第二集団のゴーレムが制圧するという予定だった。

 巨大なミノタウロスを見て一寸法師作戦を思いついて、ダメ元でどうせ数余ってるしとネズミを50匹ほどおクチ目掛けて特攻させたらミノさんが昇天なされたのだ。


 ちなみに生き残ったネズミに関しては森で生活スペースを区切って確保するように命令しておいたから、そのうちまた使えるかもしれない。


「ダミーコアすら1つも見つけられないとは思わなかったわ。結局、ダンジョンコアはどこにあったの? 良ければ、教えてくださらない?」

「賞金に追加で5万DPくれるなら教えてあげますよ」

「あら、それっぽっちでいいの? じゃあ教えてちょうだい。このままじゃ、気になって眠れないわ」


 しまった、冗談で言ったつもりがポンと払われてしまった。

 ……しかたない、答えるとしよう。ダミーコアの場所は言わなくてもいいだろ。

 でも、本体のコア自体はあまりにふざけた場所に設置してたから、怒られるかもしれないと思いつつ俺は答える。


「……実はこのダンジョン、あっちに続いてまして……大体1キロ離れたところに小部屋があるんですよ。そこに置いてありました」


 指さした方角にあるのは、ゴブリン部屋だ。

 ……真っ先に来るんじゃないかなと思ってたのに、結局最後まで動かずに終わったのだ。

 思った通り、ハクさんは絶句していた。……けど、それは怒っているという感じではなく、感心しているといった風だった。


「……本当だわ、よく見るとマナが繋がってる……まさかこの洞窟前の広場だけじゃなく、ダンジョンの外側で通路を伸ばしてるなんて……気付かなかったわ」

「ダンジョンコアを1層の外から直接繋がっている部屋に設置……こんな大胆な手を使うとは、驚きですね、お嬢様」

「やっぱり89番姉さまの教えは正しかったということですね!」


 うん、どうしてそうなったか分からんけど、その考えはおかしいぞロクコ。

 お前は単に部屋作らず1部屋だけぽつんとしてただけだろうが。


「はぁ、迷宮も見事なものでしたし、初めて見る運用ばかりでしたね……ああ、落とし穴については博打的な要素が高かったですね。今回私は主戦力にミノタウロスを使っていましたが、重さのないレイスを主軸に置く編成もあり得ました、編成を見て判断してから2層以下に設置するのがベストだと思います」


 確かにそれなら落とし穴は作動しなかっただろう。まぁ、それならそれで落とし穴の中の隠し通路が見つからないだけだ。

 ……あと、DP使わない手作りの落とし穴だと、見てから設置は無理だろうな。

 せっかくアドバイスをもらったわけだし、そこにツッコミを入れるのは野暮ってもんだ。黙ってた方がよさそうだ。


「それと……ぐっ、あの『知恵の門』は……あれは異世界の謎掛けですか?」

「ええ。いやぁ、苦労しましたよ。地味にこちらで使える謎掛けが少なくて」

「他にもあるんですか……とても良く出来ていました、一発殴らせてください」

「ハハハ、お断りします」


 よほど悔しかったのだろう。ロクコが3秒で解けたことは言わないでおいてあげた。


「……使えなかった謎掛けというのも興味ありますね」

「なに、言葉遊びを使ったモノですよ。なんか、勝手に翻訳されてるみたいなので……」


 そう、例えば俺がロクコに「布団が吹っ飛んだ」とか言ったとしよう。

 ロクコの方にはそれが「オフトンがバーストした」みたいに聞こえるのだ。なんのこっちゃ、ってなる。日本の伝統ギャグの面白さがかけらも伝わらないのだ。

 したがって、たとえば「車を壊してばかりいるお医者さんってだーれだ」「答え:歯医者(廃車なので)」という言葉遊びの謎掛けは当然成立しない。


 最初は「走る馬車の上に剣、鎧、兜が乗っていました。急カーブで落ちたのは?」と、やろうとして、ロクコに「ねぇ、それ馬車の上に乗っかってるの何か関係あるの?」と言われ、ん? ってなったのだ。

 この謎掛けの答えは、「馬車のスピードが落ちる」なのだが、こちらの世界では「モノが落ちる」のと「スピードが落ちる」ので言葉が違い、通じなかったというわけだ。


 さらに言うと、マッチ棒で数字を作るような謎掛けもアウト。そもそも字が異なるのだ。

 図形だったら問題ないので、次に機会があればやる予定だ。


 改めて魔法ってすげぇと思うとともに、この世界の言葉を覚えるのを諦めた瞬間だった。勝手に翻訳されすぎて、勉強しようもない。頑張ればできるかもしれないけど、頑張る気も無い。


「そうだ、聞いて姉様! 私の今の名前、ロクコ、っていうでしょう。これ、異世界の言葉で695から来てるんだって! ロが6、クが9、コが5なんだって!」


 ロクコも自分の名前の由来を全然知らなかったのだ。

 そのことに気づいて教えてやると、なんかすごい喜んでいた。番号そのまま名前にしたから怒るかと思ったのに、むしろそれが大事で、すごい良いらしい。ダンジョンコアのセンスは分からん。

 他にも番号に「第」が付くと敬称になるとか、独特のルールがあるようだ。


「! すごいじゃない、いいわね、そんな素敵な名前だったなんて……ああ、羨ましいわ」

「だから、今度からロクコって呼んで頂戴、89番姉さま」

「ええ、分かったわ。ロクコちゃん。……はぁ、いいわねぇ。私なんて髪が白いからハク、よ? ほんと、センスが無い最悪なマスターだったわ……」

「……あれ? ハクさん、89番だからハクじゃなかったんですか?」


 俺が思わず口をはさむと、ハクさんはキョトン、としていた。


「なんで89番で白になるのよ。……って、もしかして、異世界では、そうなの?」

「実際にはいくつか呼び方はありますが……まぁ、ハクって読めますね。白も、89番も」


 ハクさんは少し目を閉じ、こめかみを押さえた。

 ……なにやら思うところがあるらしい。

 しばらくして、口を開いた。


「…………ロクコちゃん。今度から私の事、ハクって呼んで頂戴? そうすればほら、異世界の数でお揃いよ」

「はいっ、ハク姉様!」


 まだ複雑な感情があるのか、ハクさんは苦笑しつつロクコの頭を撫でた。


「っと、話がそれたわね。本当はもっと講評し合いたいところだけど、これでも忙しい身の上なの。……今回新しくダンジョン作っちゃったから、その処理もしないといけないのよね。……あと、最後のアレは気になるけど、流石にダンジョンの奥の手について尋ねるのは無粋、ね」


 最後のアレ……というと、『隠し玉』のことか。

 もう教えてもいい気がするけど、聞かないで自分で考えるのが楽しいのかもしれない。


「それじゃ、ロクコちゃん。そろそろ……DP渡すわよ?」

「は、ひゃいっ!」


 ロクコの手をとり、にっこりと、ハクは嬉しそうに微笑んだ。


 情報料込みで15万DP。

 忙しいって言ってたくせに、たっぷり時間をかけてじっくりねっとりと口移しで譲渡された。

 ごちそうさまです。



まだ続きますが、もう書き溜め分がなくなるので投稿ペース落ちます。

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新作、コミカライズお嬢様ですわー!!
TsDDXVyH
― 新着の感想 ―
これ、負けても一番得したのはハクさんかもしれませんねw
[良い点] 姉妹百合最高 [一言] ハクの前のマスターは純粋にハクの事を愛していただけだと思うが果たして誤解は解けるのか。ハクの辛い思い出が良いものになって欲しいなぁ。 でもそれはそれとして騎士団を冤…
[一言] ロリおねはいいぞ
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