レオナ対策会議
(感想を見るに、レオナの狂気度はもっともっと出していいんですね? ヤッター!)
ダンジョン幹部を一堂に集めてレオナ対策会議をすることにした。
参加者は俺、ロクコ、ニクとイチカ、そして魔物3人娘。あと指輪サキュバスのネルもニクの指に嵌っての参加だ。
俺の正体がバレ、すでに喉元にナイフを突きつけられているというかギロチンにセットされているような心地で、既にヤバイを通り越しているわけだが……
「というわけで、目標はダンジョンの存続、そしてレオナの追い出しだな」
レオナと話をしてみた結果……享楽主義者というか、気の長い刹那的な生き方というか、その、とりあえず関わりたくない。とにかく面倒な性格をしているのがわかった。
主な行動理念は面白いか否か、だ。
「それにしても、ラスボスねぇ」
「ああ、ロクコ。レオナの言ってたあれな。アレ、ほぼ嘘みたいなもんだぞ」
記録映像を眺めていたロクコが言った一言に俺がそう返すと、ロクコは目をぱちくりさせた。
「は? そうなの? 熱意たっぷりに語ってたみたいなのに」
「あれは自分に言い聞かせるような……演技をしてるだけに見えたぞ。内容が整ってて分かりやすいし、論理の破綻もなかったからな。案外、芯で思ってることは真逆かもしれないぞ。あるいはさっさと殺せとか。ラスボスは最終的に倒される存在だし」
「……ええっと、そう、なの?」
「じゃなきゃ律儀な縛りプレイなんてしないで、とっとと狂気の赴くままに世界征服でもしてるさ」
ん? でも帝国のトップであるハクさんをレオナ個人が脅してるってことは、むしろもう世界征服済みなのかもしれないな。まぁいいか。
「あえてラスボスに『なりたい』と言うことで、ならない、なってない、踏みとどまってる……ってことだろ、レオナとしては」
「面倒くさいわねぇ」
「まったくだ」
ラスボスなんて、なろうと思ってなるもんじゃないからな。むしろなってしまうのがラスボスだ。なりたいなんて言う時点でおかしいし、レオナはそれを分かって言ってる節がある。何かを抱えているようだが、そこを探る気はない。なにせ本人が自由気ままな私利私欲の権化を目指してるってことだし、野暮ってもんだろう。
いつ爆発してもおかしくないって意味じゃアレが嘘でも本当でも変わらん。さっさと出て行ってもらうのが一番だ。
「レオナについては、ハクさんの言う通り殺されることは無いだろうから多少強気で当たるぞ」
「ケーマ、なんで殺されないと思うの?」
「それが『面白くない』からだ。殺したらそこで終わりだからな。そして、殺すよりも多少の希望を残した方法を取る。そのほうが『面白い』からだ」
レオナに逆らったセツナとナユタも、サキュバスに色々されたものの肉体的には無傷だ。
ナユタの父親とやらも、生きてはいるらしい。
「それと、約束……というか、契約は絶対に守る。何があろうと、何をしようとだ。なぜならそれがレオナだからだ。少なくとも今はそういう縛りプレイをしている。だから、おそらくハクさんと何かの契約をしてる以上、このダンジョンが壊されることはない」
ハクさんが「機会があれば殺せ」というのであれば、恐らくそういう事だろう。あの人がロクコを危険に晒すような指示を出すとは思えない。
そしてそれはレオナも容認している事なのだろう。
「ケーマは凄いわね。話を聞いても私には全然理解できないわ」
「だろうな。……正面から会うことで、何かされた気がする。なぜかレオナのことが理解できて、気分が悪い。考えがまとまらないところもあるな……ネル。このあとで俺に異常がないか確かめてくれ。憑依してもかまわん」
『はーい。てか憑依してもいいって言ってる時点でなにかされてんじゃないですか?』
「恐らく親和性を高めるスキルか、説得系で相手に意図を伝えやすくするスキルがあるんだろう、常時発動で。……イチカ、そういうスキルに心当たりはないか?」
「そないなスキル、聞いた事ないけどなぁ。支配者階級が身につけるようなスキルなら、平民の冒険者には情報が秘匿されててもおかしくない。ご主人様が言うなら、可能性はありそうやで。むしろカタログにないんか?」
「俺が見た限りではないが、カタログに全てのスキルが載ってるわけじゃないからな……ロクコ、ハクさんにも手紙を出して確認してくれ」
「分かった。他にも伝えることはありそうだし、会議終わったらまとめて書いとくわね」
自分と対象の意識を同調させるようなスキルの影響だとしたら、レオナに対する理解が深まる以外に悪影響は無いと思う。比較的無害な表層とはいえアレの考え方が分かるっていうのはある意味ヤバイが。
……ハクさんが手紙で「ロクコの姿をレオナに見せるな穢される」って言ってたのはそういうことかもしれない。
だが、だとしても今はレオナの対策をたてる会議中だ。レオナのことについて詳しい方が対策が立てやすい。
「マスター。レオナ対策ですが、たとえば『何もしない』ってのはどうでしょうか? 正確には、何も事件を起こさない事。ここがつまらない場所だと認識させて、飽きさせるんです。飽きればよそへ行くのでは?」
「レイ、良い線いってるが……手遅れだ」
明らかにレオナは俺に興味を示している。あと会話中にレイにも興味を持っていた。
それ以外にも、このダンジョンにはセツナにナユタ、そしてニクが居る。居るだけで飽きることは当分ないだろう。
……ニクはレオナには絶対に会わせたくない。
セツナ達が言う「トイ」がニクなのであれば、ニクに昔の記憶が無いのはおそらくレオナが何かしたためだろう。レオナに会う事でその封印が解かれるとしたら、今のニクはどうなるのか――まぁ奴隷だから解けても制御下にはおけると思うけど――想像がつかない。抱き枕にされた恨みで刺し違えても俺を殺すとか言われたら、かなりショックだ。
……というか、あのレオナの孫としての記憶が出たとして、もし記憶を取り戻したニクがレオナ似だとしたら……うん、それもショックだ。
「となれば、他に興味のある事柄を提示してどっか行ってもらうのが良いだろうな」
「ハク姉様ならなんとかできるかしら?」
「それは色々怖いな。かといってお隣に押し付けるのは世話になってる分、気が引けるし」
「……セツナとナユタを仲間に引き込んで、事情を話してレオナをどこかもっと別の所に引き寄せてもらうのはどう?」
「お。なかなか良いアイディアだぞロクコ」
さすが俺のパートナーである。やればできる子なのだ。
「そういえばセツナとナユタのレオナ対策って何だったんだろうな。あっさりやられてたから効果は無かったんだろうけど。キヌエさん知ってる?」
「はい、なんでもレオナの嫌いな物を色々調達していたようです。……記録を見るに、出す前にやられた模様ですが」
「……レオナの嫌いな物、か。そのあたりの情報も欲しいし、やはりセツナ達を味方に引き込んだ方が早いか……ウーマで話をするためにセツナたちをいちいち『強欲の宿屋』に呼び出すのも面倒だし。というわけでネルネ。セツナたちにはネルネがダンジョン側の使者であることを話す。間を取り持て。他の面子の関係は濁しておけ、様子を見てどこまでバラすか決める」
「わかりましたー」
セツナはダンジョンコアの子供だという話だし、こっちの事情を多少話してもよさそうだ。
で、なぜネルネにしたか、というと……従業員として働く中で、ネルネがセツナ達と一番仲が良いからである。レイはバイトリーダーな感じがあり、キヌエさんはお姉さんな感じで、ニクとイチカは別格な所がある。そう大差はないのだが、ネルネが一番身近な立場というわけだ。素朴な外見なのも影響してそうだな。
あと、何気に一番抜かりが無いのがネルネだ。レイはうっかりさんなところあるんだよな……
「さて、それじゃあニク」
「……はい」
「改めて聞こう。お前は俺の何だ?」
「忠実な駒です」
「違う。ニクは俺の抱き枕だ。……だから、戦力である必要はない。今回はニクが盗られないように表には出さないが……もし盗られても帰ってこい。俺の抱き枕としてな」
「……はい」
ニクは、顔を少し赤らめて、頷いた。
あくまで抱き枕であることを強調する。
ニクにレオナの洗脳や仕込みがあるとしても、それは『奴隷』とか『戦力』として反応する可能性が高い。何かあっても『抱き枕』であれば抜け道として残る、といいなぁ。
「大丈夫よニク。あなたはケーマの抱き枕でしょ? なら全部ケーマに任せて良いのよ」
「はい、ロクコ様」
「今回については、私もケーマに丸投げするわ」
……まぁ、いいけどね。ロクコとニクはレオナと接触させない方が良いし。
「とりあえず、セツナとナユタから話を聞いて、レオナの苦手な物を集めようか」
そして、『欲望の洞窟からレオナを追い出す作戦』が始まった。
作戦名についてはロクコが付けたので俺は一切関係ないぞ。
(そういえば来週2/25は4巻の発売日です)