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覗き見

 模擬戦をたっぷり堪能した後、セツナは一度宿屋の部屋に戻っていた。

 そこには、先に一仕事終えたナユタが待っていた。


「あらお姉ちゃん、模擬戦? ちゃんと『浄化』しなきゃ汗臭いわよ?」

「えー? 結構かけたんだけど……んー。ナユタ、かけてー」

「はいはい、『浄化』『浄化』、もう一度『浄化』っと」


 水をぶっかけるような『浄化』をかける。3回もかければ、すっかり綺麗になった。


「お姉ちゃん、誰と模擬戦してたの? クロイヌ先輩?」

「んきゅう、村長さん。これでこの村のCランクコンプリートなの! でも負けちゃった。てへへ」

「……お姉ちゃんが負けるとか、どうしたのよ?」


 照れるように笑うセツナに、ナユタが首をかしげる。

 セツナにはBランク相当の実力があり、Cランク、それもこのダンジョン限定で、などという実質Dランクの冒険者に後れを取るとは思えなかったからだ。一体どんな手を使われたんだろうか。


「そう、それがね、正面から格闘戦で負けちゃったの! きゅんと来ちゃった」

「格闘戦!? 白兵戦じゃなくて? 村人から聞いた噂だと、村長さんって剣士じゃなかったかしら」

「村長さん本人は魔法使いって言ってたよ。スタミナはまさに魔法使い、だけど技術は一流拳闘士のそれだったの。疲労してぐったりした顔色になってるのに体捌きは変わらないとか、体に覚え込ませたのを根性で動かしてる感あったね!」


 セツナの感じたことは、ある意味正解にものすごく近かった。


「黒髪黒目だし、やっぱり勇者の血が入ってるんじゃないかな。勇者本人だったりして?」

「お姉ちゃんのボケにも微妙に反応してたし、可能性は高いわね。でもランクがランクだし正体を隠してるのかしら。それとも実はSランクなのを隠してるパターン? もっとも、勇者だとすればお姉ちゃんが負けたのも納得だわ。勇者と言えば驚異的な身体能力と、神から授けられた反則じみたスキル。……身体を鍛えているか、そういうスキルかしら? 仮にそういうスキルだとしたらどういう効果で――」

「あー、ナユタ? その話長い? ボクこのあとシフトはいってるんだけど」

「おっと」


 ナユタは話をいったん止めて、深呼吸して仕切り直した。


「……それで、村長さんの魔法は? 自称で魔法使いなら何か使ったんでしょ?」

「んーっとね」


 セツナはケーマの使っていた魔法を思い返す。投げを決められた印象が強かったせいか、思い出すのに少し時間がかかる。


「【ウォータ】を少し。まぁ模擬戦だったし、気を逸らす程度にしか使われなかったよ」

「へー……まぁ、有望株って報告しときましょうか。当然、他にも魔法を覚えてるでしょうね。まさか1つの魔法だけで魔法使いは自称しないでしょうし――っと」


 ナユタは話が長くなりそうだったので、切り上げることにした。


「偶然にしては、とんだ掘り出し物があったわね」

「……ところで、やっぱりトイだと思うんだよ、あの子」

「クロイヌ先輩? 確かに、あの年齢であの強さは異常ね。しかも黒髪黒目に黒毛の犬耳、さらに褐色の肌。……トイの可能性はとても高いわ」

「だとしたら、どうする?」


 ナユタは少しだけ考え、答えた。


「……とりあえず報告して、指示待ちね。もう少し情報収集が必要かしら」

「すぐ手紙出す?」

「そうね」


 とりあえず無難な対応をすることにし、ナユタは手紙を書き始める。セツナは仕事に向かうべく、メイド服に着替えることにした。


  *


 という会話をしていたようだ。

 ロクコに頼んでメニューのモニター機能で録画しておいてもらっておいた。この会話は俺が疲れ果てて寝ていた頃だな。既にあれから1日経っている。

 着替えを覗く気はないのでそこでメニューを閉じる……あ、そもそもそこはカット済みですか、はい。ロクコもそういう配慮ができるようになったのね。

 報告、手紙……指示待ちねぇ。勇者はさておき、トイっていうのは、何だろうか。ニクにその可能性があるとかいってたけど、勇者みたいな称号か何かか? それとも個人名だろうか。ニクの失われし過去が明らかに……みたいな? なにかあるんだろうか……まぁあの優秀さを考えると無い方が不自然だろうけど。


 ……ちなみに、手紙の内容も覗いてもらっていたけど、実に無難に冒険者としての活動報告をしているみたいだった。日本語で書かれていたりとかもなかった。

 が、相手の名前とかは分からなかった。書き上げた手紙は鳥になってどこかへ飛んでったらしい。なにその伝書鳩。魔道具を使ってたらしいけどすげぇな。


「とりあえず……どうするかなぁ……」


 さて、ますますどう手を付けていいか分からなくなった。情報が増えれば増える程に謎も増える。もう放置して寝ても良いんじゃないかな。

 とりあえず実際に接触も終えたし、あとは相手の出方次第。そして相手が指示待ち待機ってことはこっちも待機だ。なんか手紙の鳥が飛んで来たら教えてもらおう。



 モニターでの監視をすることにした。

 少し探すと、セツナは食堂でウェイトレスをしていた。注文札を受け取って、キヌエさんの作った料理をお客さんに運ぶだけの簡単な仕事。既にもう慣れたもののようで、セツナの明るい笑顔は客にも人気だった。


「んきゅ、D定食おまちー」

「おう、ありがとセツナちゃん。今夜どう?」

「あはは、ボクに勝てるなら考えても良いよ。模擬戦なら受けるけど?」

「はは、この村でセツナちゃんに勝てる人なんていないって。クロちゃんにも勝っちゃったんだろ? クロちゃんはこの村最強だったんだから」


 お客の冒険者を軽くあしらうセツナだったが、その言葉には首を傾げた。


「え? この村最強は村長さんでしょ?」

「たしかにクロちゃんはケーマさんには勝てないけど、あれはクロちゃんのご主人様だからだろ?」

「村長さんは強かったよ。ボク、負けたし」

「……は?」


 セツナの発言ににわかにざわつく食堂。

 思わず他の冒険者達が割り込んでくる。以前セツナに模擬戦を挑み、あるいは挑まれ、そして敗北した冒険者たちだ。


「おいちょっとまて、ケーマさんが負けたんじゃなくて、セツナちゃんが負けたのか!?」

「ギャンブルとか口喧嘩とかでなくか?」

「うん、模擬戦でだよ。強かったぁ……」

「マジかよ。ケーマさん強かったの!? いつも寝てるのに!」

「そういやあれでこのダンジョンのトップ攻略者だもんなケーマ村長……そりゃそうか、じゃなきゃクロちゃんに誰が稽古つけるんだって話だよな」

「なあ、本当に勝ったの? 村長さん……なんか村長さんって俺でも勝てそうに見えるんだけど」

「嘘だと思うならクロ先輩にも聞いてみれば? 一緒にいたよー」


 クロこと、一緒に働いていたニク・クロイヌにばっと視線が集中した。

 視線にこくり、と頷いて答えるニク。……もっとも、ニクが俺を贔屓して言っている可能性が高いので、セツナ自身が負けたと言っている方がそもそも情報としての信用度は高いのだが。


「た、体調不良だったんだろ? ほら、女の子には月に一度あるアレとか」

「それはセクハラだよ! んもう、えっち!」

「へぶおぐ!?」


 ばちーんとお客さんをはたくセツナ。はたかれたお客さんは軽く吹っ飛んだ。

 尚、この程度は冒険者にとってただのじゃれあいなので問題ない。日本なら結構な問題だけど。


「あ、ごめん」

「い、いや、俺も悪かったよ、は、はは」

「まぁボクも絶好調だったんだけどね。村長さんとの後、クロ先輩とやってまた勝ったしー」

「次は負けません……」

「ふっ、何度でも返り討ちにしてやるの!」


 お盆を構えてにらみ合う2人。ばちりと火花が散る。


「2人とも、お仕事の手が止まってますよ?」


 厨房のキヌエさんから声が飛び、話はそこまでとなった。

 が、セツナに俺が勝ったという噂は瞬く間に食堂中に、そして村中に広まっていった。

 ……やっべぇどうすっかなコレ。引き分けだって言ったのになんで俺が勝ったことに……


 しかし、セツナの仕事っぷりはとても自然で、何か企んでいるようには見えなかった。企んでるとしても、目的は何だろうなぁ。ダンジョンの調査か、あるいは勇者関連の調査か、はたまた面談で言ってた「黒い狼」を追っているのか……そういえばトイって結局何なんだろうな。それを探しているのか?

 とにかく、誰かへの報告とその指示があるなら、それを見れば何かしらわかる、だろう。


 やっぱりしばらくの間は様子を見るしかないかなぁ……



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