村の様子見
【サモンガーゴイル】はおいとこう。
ほかの魔法についてはどうだろうか? たとえば【ヒーリング】とか。
「光よ、俺の頭痛を癒せ――【ヒーリング】」
ほわほわと淡い光が俺の頭を包む。……あー、治るわぁ。
「ご主人様? それもっと早く使っておけばよかったんちゃう?」
「俺もそう思う。使い慣れてないといざって時にとっさに使えないな……もっと魔法に頼らないとな」
「いや、相当頼りまくりちゃう? ウチも覚えたてだし忘れてたけど」
1つだけにな。【クリエイトゴーレム】しか使ってないからなー。
とりあえず魔力も問題ないみたいだし、調査を再開しとこう。
【アイスボルト】は攻撃系だから置いておくとして、【グロウウィード】だ。
ぶっちゃけこういう生活にお役立ちしそうな呪文の方が改変のしがいがある。
俺はイチカと畑に向かった。やはり、植物・成長とくれば野菜の促成栽培だろう。
「……トマトよ育て、実をなせ――【グロウウィード】!」
もはや改変どころか原型を留めていない呪文であるが、トマトがぐん、と成長し、花が咲き、実をつけた。……この一瞬で受粉したのか? とか一瞬思ったけど、気にしないことにした。
できたてホヤホヤの赤いトマトをもぎ、一口齧ってみる。
「…………まずっ」
トマトだというのにパサパサでざらっとしたような舌触り。しかも味がとても薄い。まるで砂を食ってるみたいだ。
ちゃんと見た目は食べごろのトマトなんだけどなぁ。
「ダメだなこれは。緊急時の食糧確保ぐらいにしか使えないぞ」
「どれどれご主人様、ウチにも一口…………あー、こら不味いな。下の中ってとこか」
「下の下じゃないのか?」
「ご主人様。このくらいならまだまだ下があるんやで?」
食に対して経験豊富なイチカが言うと説得力があるな。
「あ、残り全部食っていいぞ」
「……マジか。かじるで?」
「ん? 何をかじるって? トマトだよな」
とりあえずダメなトマトはイチカに処理してもらい、次に行くことにした。
トマトは実だったからまずかったのかもしれない。葉っぱならどうだ?
「キャベツよ、生えよ――【グロウウィード】」
育ちかけのキャベツに【グロウウィード】をかけて食べごろにする。
……外側の葉っぱを2,3枚はがして食べやすそうなところをぺらりと1枚剥ぐ。
しゃく、と噛みつくと―――あ、すごい。これは紙だ。俺は紙を食べている。気分は人間シュレッダーだ。ヤギかもしれない。
「野菜に【グロウウィード】はダメだな。きつい」
「残念やねー」
「じゃ、残りをイチカに……」
「マジか。……かじるで?」
「このキャベツをか、頼もしいな。あとでカレーパンいっぱいやるから」
「……わかった、許す!」
なんか許された。
「いや、別に生のままそのまま全部食えってわけじゃないんだぞ。キヌエさんに適当に味付けしてもらってくれよ? カレー粉使ってみてもいいぞ」
「それ先に言ってほしかったわ。トマトもう食ったわ……」
「イチカのいいところは食べ物を無駄にしないその心意気だな。まったく、いい女だよ」
「だったらご主人様もこのキャベツの処理手伝ってくれると嬉しいんやけど。流石に1個はキツいで?」
仕方ないので、俺も手伝うことにした。キヌエさんに紙のようなキャベツをシチューに入れてもらった。……味が付くと案外食べられるもんで、ちょっと驚いたわ。
ついでにキヌエさんにも意見を聞いてみることにした。
「【グロウウィード】……芝生の手入れとかには使えそうな呪文ですね。食べるのでなければそれなりに有用なのではないでしょうか。他にも、通路を草で隠したりもできそうです」
「ほう、そりゃいい手だ。採用しようかな」
ツタだらけの部屋で、草をかき分けないと先に進めない、とかいうのもいいな。今作ってる方だと水没させるからワカメとか昆布とかでもいいなぁ。
ふふふ、案外策士じゃないかキヌエさん。
「あ、そういえばレイの姿が見えないけど、どうかしたか?」
「レイなら今は非番ですから、マスターからお預かりした5万DPの使い道をカタログとにらめっこして検討していると思いますよ」
まだ使ってなかったのか。まぁ、初めての部下になるんだもんな。
思う存分悩めばいい――って、まてまてまて。そもそも今回のダンジョンバトルで俺達が留守にするから、人手が足りなくなるのを補充するためのDPなんだよ。なんでまだ使ってないんだよ。
「……宿の方は大丈夫か? 人手とか」
「はい、大丈夫ですよ。マスターが心配されるようなことはございません」
「ならいいけど。信じて任せてるからな? あとレイには早めにDP使うように言っとけ」
「かしこまりました」
本当に大丈夫なのかちょっと不安になるくらいきっぱり「大丈夫」と言い切られてしまった。……まぁ任せたんだし、口を挟まないでおこう。
最悪、ダンジョンの方で問題がなけりゃ大丈夫だ。
「宿以外は大丈夫か? 村長じゃないと対処できない問題とかもあるんじゃないか?」
「副村長がOKを出せば宿以外のことは許可とおっしゃられてますし、資金運用も担当のダイン商店が張り切って増やしていまして、問題ありません。新規開拓と街道の整備についても、冒険者ギルドと連携して公共事業としてスムーズに進んでいます」
「……えーっと、何? 開拓? 人増えるの?」
「ええ、既に開拓計画に合わせてダンジョン領域も拡張してあります」
「ああうん」
そういえばメニュー使わせるようにしてから既にそういう権限も持たせてたっけ。
人増えるのか……DP収入増えるなぁ。
今更ながらゴミ問題とかは大丈夫なのかとか聞いたが、『ゴミは、ダンジョンに置いておけば、勝手に消える』という事になっているらしい。いわれてみればそうだったわ。死体を含めてゴミは跡形もなくダンジョンの糧だったわ。
ダンジョン付属の人里は、ごみ処理が完璧なんだな。
何もしてないけど何の問題もないようだ。
しいて言えばちょっと規模がでかくなって目立つんじゃないかなってことくらいか。
食糧問題についても非常用にはダンジョン内を徘徊している「ゼリー」がいるし、そもそも小麦粉の貯蔵も十分にある。
……人が増えるならアイアンゴーレムのスポーンとか増やしといた方がいいのかな?
「なんていうかその、優秀な部下を持って嬉しいよ俺は」
「お褒めの言葉ありがとうございます。マスター」
それじゃ、ダンジョンバトルに専念するかな俺は。
とりあえずゴーレムブレードを大量に作って持ち込むとしよう。
(新しくレビュー頂きましたー)