034 決闘4
『虚無の力にて魔を喰らいし者よ、彼のものの全てを奪いつくすことを許す、彼のものの全てを喰らい尽くすことを許す、虚無の主たる我が命ず、出でよ!・・・グラトニー・アブソープション』
俺の詠唱が終わるとバカボンの周囲を黒い霧が包み込み、その霧はドンドン濃さを増していく。
「こ、これはっ?!」
シ-レンス先生だけではなく、副審をしていた2人の教師からもグラトニー・アブソープションのドス黒さに声が上がる。
「クリストフ君、それはまさか・・・グラトニー・アブソープション?!」
「あのままでは観客に被害が出そうでしたので」
「その魔法は危険です! 直ぐに解除をっ!」
「すみません、一度発動させたグラトニー・アブソープションを解除はできません」
発動途中であれば発動を中止することはできるが、発動後に中止や解除はさすがに俺でもできないよ。
「くっ! スリバス先生、治癒班は結界周辺で待機をっ!」
シーレンス先生も発動後の中止ができないことは分かっているので、魔法の効果が切れた時にバカボンを直ぐに治療ができるように救護班を呼んで待機させている。
このグラトニー・アブソープションは闇属性の王級魔法で対象の魔力を奪い尽くし、さらに魔力回路を破壊する対魔法使い、対魔術師用最終兵器とも言える魔法なのだ。
魔力回路とは人間や魔物などの体内を循環する魔力の通り道のことであり、この魔力回路が破壊されると下級程度なら何とかなる場合もあるが、中級以上の魔法はそれだけの量の魔力を循環・供給することができないので全く使うことができなくなるのだ。
このグラトニー・アブソープションであればあのマジックアイテムの魔力を喰らい尽くし魔力回路を破壊できるので、周囲に被害が及ばないというわけだね!
まぁ、バカボンの魔力回路も破壊してしまうが、仕方がないよね?
それに魔力回路は神殿で大金を払えば治してもらえるはずだから。
・・・完全には無理だろうけど。
光属性には魔力回路を修復する魔法があるので高位の神官であれば一応は治すことができるはずだ。
ドス黒い霧がバカボンを包んでからはマジックアイテムの魔力を霧が吸収したことで霧の黒さがドンドン濃くなっていく。
「うあぁぁぁぁぁぁぁ」
バカボンの魔力回路は完全に破壊されたぽいが、まだマジックアイテムの魔力回路を破壊できていないな。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
魔力回路とは血管のようなものなのでこれが破壊されるってことは物凄い苦痛を伴う・・・バカボンが苦痛により精神崩壊を起こすことも十分に考えられるが、そこまで俺が配慮する義理はない。
こんなところで帝級魔法を使えば観客にも被害がでることは容易に想像ができる。
事前に学校側にそのことを告げ、観客を入れないようにしているのであれば俺もグラトニー・アブソープションではなく、他の対応をしたと思うがバカボンはわざわざ決闘の宣伝をして観客を集めている。
そんなバカボンに容赦など必要はないっ!
元よりバカボンは潰す気でいたが、魔法使いとして致命的なダメージを与えてしまうグラトニー・アブソープションを使う気はなかった。
しかしバカボンは自分の行動によって周囲へどのような影響を与えるかも考えていない。
こんな馬鹿に魔法を使う資格はないだろう。
・・・俺に資格云々と言う資格や権限があるわけではないが、バカボンは一線を越えたのだ。
「ひゃっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
魔力回路が破壊され、魔力を奪い尽くさない限りグラトニー・アブソープションは止まらない。
ドス黒い霧はまだ魔力を奪っているので、まだマジックアイテムに魔力が残っているのだろう。
まぁ、殆ど魔力を感じなくなっているのでじきにグラトニー・アブソープションの霧は散霧してなくなるだろう。
あ、霧の色が薄まってきた・・・霧の密度も薄くなってきた・・・完全に散霧した。
・・・口から泡を噴き、涙と鼻水と涎と小便と大便を盛大に垂れ流し気を失っているバカボンが横たわっている。
「スリバス先生、お願いします!」
闘技場の結界が解除されシーレンス先生を初めとしてスリバス先生率いる救護班や何人かの教師陣も雪崩れ込んできた。
ここで俺は気を抜いて、周囲を見る。
一応、周囲の魔力については警戒をしていたが、基本的には意識はバカボンに向けていたので今まで周囲の状態を見ることはなかった。
観客席で観戦していた生徒たちは大半が避難をしておりあまり観客席に残っていない。
生徒会の優秀さが窺われる。
クリュシュナス姉様の薫陶の賜物だと思っておこう。
「クリストフ君は私と一緒に来てください」
「はぁ」
俺はシーレンス先生に連行されるようだ。
まぁ、決闘は合法だし相手を殺しても罪には問われないので良いけどね。
ただ、退学はちょっと困るかな。
せっかく友達ができたので無事に卒業をしたいと今のところは思っているからね。
「クリストフ、無事だったのね!?」
連行中にカルラ、ペロン、クララ、プリッツの4人が駆け寄ってきたが、シーレンス先生の徒ならぬ雰囲気に近付く途中で足を止める。
「また後で」
一言だけ告げ、シーレンス先生の後についていく。
闘技場の控え室みたいな部屋に連れ込まれ椅子に座らされる。
テーブルを挟んで反対側にはシーレンス先生と別のドワーフぽい教師が座っている。
さて、どのような裁断が下されるのか?
「先ほどの魔法は闇属性の王級魔法のグラトニー・アブソープションで間違いないですね?」
シーレンス先生が念のためだろう、おれにグラトニー・アブソープションについて再確認してくる。
「はい」
「クリストフ君は光属性と時空属性に高い適性があると聞いておりましたが、闇属性もですか?いったいクリストフ君は幾つの属性に適性があるのですか?」
う~ん、これって回答しなければならないのかな・・・
「シーレンス先生、属性に関しては口外しないようにと父上より厳命を受けておりますので、申し上げられません」
「教師にも言えないのですか?」
「校長先生の許可は得ていると聞いております」
俺の属性は国家の機密に当たるらしいので、簡単に打ち明けるわけにはいかない。