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第二回

 ◇


「おばば、開けてくれ。おらだ、サワネだ」

 月に照らされた古屋ふるやの戸を叩く。動きがなかったので、さらに強めに叩くと、やがて明かりが灯った。うっすらとした光が建具の間から漏れてくる。光の動きで、誰かが戸口へと近づいてくるのが分かった。

「あいあい。……ったく、こんな時間になんだいよ。またケガした動物でも拾ってきたんかい」

 つっかえ棒が外され、木の引き戸がガタガタ音を立て横へ滑った。ロウソクを手にした老婆が歯の抜けた口を大きく開き、わざとらしくあくびをする。

「老人は朝が早いんだに、こんな夜更けに起こされると眠りが浅くなって困るわ。今度拾ってきたのはトラか? それともクマか?」

 目を細めながらサワネを見た老婆は、サワネに背負われた若い男に、今度は大きく目を見開いた。

「なんと、怪我人じゃないかい、サワネ。一体どこで……」

「ナナサワクズレの途中の岩棚に引っ掛かってた。尾根道から落ちたみたい」

 ため息をついて老婆は首を振った。

「はたまた、一体なんちゅう道を……。とりあえず、動かさんようにゆっくり降ろせや。フム……」

 老婆は男の着物をはがし、体を調べ始める。

「ほう、ちゃんと教えた通りに首は動かんようにしたか」

「うん。……で、助かるか、おばば」

 老婆はうなった。

「額のほかには傷は無さそうだの。だが、頭の傷は後からくることもある。なんとも言えんなぁ」

「そうか……」

 サワネはかがんで腰の袋から布にくるんだ薬草を取り出し、老婆に差し出す。

「ツヅマツとナビゴケの新芽。それに、ハナミドリの根っこ。お願いだ、おばば。この人を助けてやってよ。お代、これだけあれば足りるだろ?」

 ちらっと目をやってから小さくうなずいた。

「やるだけやってみるが、死んでしまうかもしれんぞ」

「生き死には、山の神様が決めることだもの、どうしようもないさ……。でも、できる限りのことはしてくれよ、お願いだ」

 おばばはチョッと舌を鳴らしながら薬草を受け取った。

「仕方ないの」

「良かったぁ」

「しっかしまぁ、お前さんも物好きよの」

 はにかむような笑顔を浮かべながらサワネは立ち上がる。

「なぁ、おばば。おら、山刀と背負子を山に置いてきたんだ。この人が着てた鎧と剣も。これから取りに行くよ」

「なんと。剣に鎧なんぞ身につけていたんかい、この青二才は。よく見りゃ首を支えてるのは剣の鞘……。すぐに気づかんとは、いやはや。年を取ると目も悪くなって困るの。……この鞘も、相当悪くないもんだの。ふーむ」

 男を見つめるおばばの眉間に皺が増えた。

「武人とは、こりゃとんだ拾いもんだの。厄介事が転がり込んできたわい。……それで、サワネや。こやつが着ていた鎧はどんなだった?」

「うーん……どんなって言われても」

「白っぽかったか、赤かったか、黒かったか……」

「白かった」

「それじゃ胸のあたりに何か印が描かれてなかったかの?」

「あった。ヌマヤエノハスの花」

「都の衛士だね……」

 おばばの目が険しくなる。

「……んじゃ、おら行ってくるな」

「サワネ。いくら月明かりがあるからってこんな夜中には行かせられんな。こやつが衛士なら余計にの。今夜は得体のしれんものが山に潜んでおるかもしれんからな、危険じゃ。休んで、明日の朝早くにお行き」

 サワネはしばらく思案した。

「……分かった。おばばがそういうんなら」

「それと、悪いが今は手をかしてくれ。こやつを上の薬置きに担ぎあげるんじゃ。ちょっと待っておれ」

 おばばはロウソクを手に、一本丸太に切れ込みを入れただけの階段を軽々と登っていく。しばらく上の方でガタガタ音がしてから、おばばの顔が覗いた。

「来い。そやつを背負ってな。間違っても乱暴に動かすでないぞ」

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