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080:―――――――

今回、サブタイトルは敢えて付けておりません。


 シェイディーク・シャードゥの力を借りて、サニィの体内に(おり)ていた穢れを祓い終わったドリスは、常夜の聖樹の根本に腰を下ろしていた。


 クラウドは、サニィが助かったと知るなり、ユズリハたちのところへと向かっていった。

 今現状、どこにいるのか分かるのかと問えば、あっちでマナやオドが炸裂してるみたいだから、行ってみる――と実にシンプルな答えが返ってきた。


 ドリスは、そんなクラウドにここに残ってると伝え、サニィの看病をすることにした。


 穢れこそはなくなったものの、サニィは意識を失ったままだ。

 サニィをこのままここに置いていくわけにはいかないし、直接堅い地面に横たわらせるのにもためらいがあったため、ドリスは自分の膝の上に、サニィの頭を乗せていた。


 以前の襲撃の時に、サニィがユノそっくりであるのを見知ってはいたものの、こうして間近でみると、本当にユノと同じ顔だ。

 これで自分たちのような、双子などではないというのだから、世の中とは不思議なものである。


(花言葉に(あやか)り、花の名前をもじって命名するコトは少なからずありますが――瓜二つの二人にユーストマ(トルコキキョウ)に肖った名前が与えられ、もじり方も同じになる確率というのは、どのくらいなのでしょうか……)


 それは、本当に偶然と言えるのだろうか。

 考えたところで、答えがでるようなものでもないだろう。


 そんな風に思考を巡らせていた時、自分の中にあった『考えたけど答えがでていないもの』をふと思い出して、ドリスはシェイディーク・シャードゥに声を掛ける。


「そう言えば――白き闇の盟約というのは何だったのですか?

 色々と文献を調べたのですけれど、特に何も分からなかったのですが」


 ドリスは、サニィの頭を撫でながら、シェイディーク・シャードゥに訊ねる。


 それに、彼は些か困ったように首を傾げた。


《心当たりはあるが――今の人の世にはどのように伝わっているのだ?》


 ドリスは、白薔薇の騎士を主役にしたお芝居や物語の中で、終盤にシェイディーク・シャードゥとそういった約束を交わしあうシーンがあるのだと説明する。


 大仰なシーンであると同時に、その約束があるからこそ、ハニィロップは国になるほどに大成したという文献もあるほどだ。

 だが、肝心な盟約の内容を記したものは、どの文献にもないのである。


《そんなに大袈裟なものではないのだがな》


 少なくともシェイディーク・シャードゥは、そう思っているらしい。

 つまるところアレは、少し大袈裟に、精霊契約――盟友の唄送りあい、盟約を誓いあっただけにすぎない。


 まさか、それがここまで大袈裟に伝聞されるとは、当時の白騎士ともども思っても見なかったそうだが。


《……む》

「ディーク様?」

《我が膝元でここまで好き勝手されるのもシャクだな》


 花噴水の方を見ながら、シェイディーク・シャードゥがそう呻くと、ドリスに視線を戻した。


《少しここを離れる。

 この常夜の領域から外へ出なければ、魔獣が襲ってくるコトはない。

 皆に心配を掛けぬよう、ここからは動かぬように》

「わかりました」

 

 ドリスがうなずくと、シェイディーク・シャードゥは花噴水の方を向いて目を細める。

 その方向を睨むように見据えながら、ゆっくりとその姿を消していく。


 シェイディーク・シャードゥが顔をしかめる事態。

 それを重く受け止めたドリスは、花噴水の管理室のある白い廊下の方に視線を向けながら、皆の無事を祈るのだった。



     ♪



雷花(かみなりばな)天蓋(てんがい)彼岸(ひがん)沙華(しゃげ)ッ!」


 クラウドがその場にやってきた瞬間に目に飛び込んできたのは、その技を放つユズリハの姿だった。


 赤へと色を変えたオド。それを纏った剣による高速を越えた速度の連続斬撃。

 剣圧にオドが乗り、虚空に残る斬閃が、ただの煌めきの残滓ではなく、本物の剣の如き衝撃波となって敵を襲う。


 その軌道、その軌跡、その光景。

 淀みなき(ふで)で描かれる、満開に咲く赤い彼岸花。

 けれども美しさとは裏腹に、その正体は残酷なほどに鮮烈な、全方位斬撃だ。


 クラウドが幻視()た未来では、その無慈悲な彼岸花の中心にいる黒い人型の魔獣が細切れになる姿。


 その技をクラウドは――


 素直にすごい、と思った。

 素直に興奮した。

 素直に最高だと笑った。


 あの技が自分に向けられた時、自分は捌ききれるのか。

 捌ききれたとして、反撃に転じられるのか。


 想像するだけで高まってくる。

 想像するだけで昂ぶってくる。


 ――愉しい技だと思った。掛け値なしにそう思った。


 だというのに、あの人型の存在はあまりにも無粋過ぎた。


「あ」


 思わず間の抜けた声を漏らしてしまうほどに。


 真正面からならいざ知らず。

 背後からあの芸術(わざ)を受けて、無事でいられるわけがない。無傷でいていいわけがない。

 そんな光景――例えユズリハが許しても、クラウドとしては許せない。


 だと言うのに――

  だと言うのに――

   だと言うのに――


 クラウドを楽しませることを出来る女は、その常識から外れた異形が、背から放ったロクでもない汚泥のような濁流に飲み込まれ、この空中に浮かぶ白い廊下から投げ出されてしまった。


 普段のユズリハなら問題ないだろう。

 オドをコントロールすれば、高所からの着地もやってやれないことはない。ユズリハほどの腕前ならこの高さからでも大ケガはないはずだ。

 普段の状態であれば……。


 ユズリハを飲み込んだ濁流は、空中で散ることはなく、その内側から触手を生やして、彼女に巻き付いてしまっている。


 あれがどういうものかは分からないが真っ当なものであるハズがない。

 オドの操作が出来なければ、安全な着地などできるハズがない。


 自分なら助けに行ける。

 だが、あの汚泥の性質が分からない以上、助けに行ったつもりが共倒れもあり得る。


 クラウドは、その怒りをオドへと変えていく。その怒りを剣に乗せていく。


曇纏(どんてん)――終末雨(ラストレイン)


 階段を駆け上がれば、黒い人型の魔獣がこちらに背を向けた。

 その背にスリットが入る。


 どうやら、ユズリハにしたことと同じことをしようとしているらしい。


「それはもう見てんだよッ!」


 汚泥の中から触手が伸びてくる可能性もある。

 ギリギリで躱すようなマネはしない。


 吐き出される濁流を余裕を持って躱し、曇空の色をしたオドを剣に乗せて地を駆ける。


台風乃(アイズ・スラッシュ)斬目(・タイフーン)


 淡々と葉銘(ワーズ)を告げて、クラウドが払い抜けるように一閃する。


 例え相手が硬度の高いフルプレートを着込んでいようとも、鎧ごと両断するクラウドの葉術によって、人型の黒い魔獣の胴体は二つに断たれた。


「ちッ、こんな脆いやつに……」

「クラウドッ、油断しないでッ!」


 毒づいた直後に、叱咤が飛んでくる。

 その声の主はサニィ――ではなくサニィに瓜二つの修理職人のユノ・ルージュ。


 左目の周辺と、右足の股のあたりが凍り付いているのを見ると、霊力暴走(マナ・バーン)を起こしているのだろう。

 あれは必要以上のマナを利用する時だけでなく、体内のマナが足りないのを無理に外部のマナで補おうとしても発生したはずだ。


(ユノ・ルージュほどの花術師(フルーラー)が、こうなる相手だってか?)


 怒りや虚無感は頭の隅へと追いやって、クラウドは切断した魔獣を見遣る。


「おいおい、まじかよ」


 そこには切断面から触手を生やし、それぞれが自分たちを絡め合わせて元に戻ろうとしている姿だった。


「ははッ! お前、もう人間とか魔獣とかじゃねーなッ!」


 剣を構え直そうとして、クラウドは自分の剣に汚泥が付着しているのに気がついた。

 その小さな汚れは、そこから小さな触手を生やしている。

 放置しておくとロクなことになりそうもないと、クラウドはオドを放出するように、剣に付着した汚れと触手を消し飛ばす。


「どんだけ切り刻めば再生しなくなるか……試してみるのも一興か?」


 いつまでも再生するというのなら、自分を楽しませてくれるだろう女を失った怒りが収まるまで、延々と切り刻んでやろう。

 そんなことを考えながら、クラウドは黒い異形を虚無のような眼で睨みつけ、獰猛に笑う。


 だが、そんな笑みとは裏腹に、クラウドの心はまったく楽しさなんて感じていなかった。



     ♪



(あ、これはダメですねー……)


 白い廊下の外に投げ出されながら、ユズリハはまるで他人事のようにそう思った。


 ひどく緩慢に感じる時間の中で、ユズリハは身じろぎする。


 オドを全身に巡らせようとするとまとわりついた穢れの塊が邪魔をしてくる。

 それどころか、体内に染み込んで、オドの代わりに巡ろうとするので、ユズリハは必死にそれに抵抗していた。


(途中で異形黒(ナイトメア・ライズ)化してユノの敵となるか、抵抗の果てに地面に墜落死するか……なら後者かなぁ……。ユノに迷惑掛けたくないし……)


 ただ、墜落して命核(ソフィル)幻蘭(げんらん)(その)へと旅立ったユズリハの旅骸(たびがら)をこいつらが利用しないという保証はない。

 この状態になってしまった時点で、ユノに迷惑を掛けることが確定してしまっているようだ。


 どこで、何を間違えたら、こんなつまらない終わり方を迎えるのだろうか――と、ユズリハは考える。

 すると記憶にないような幼い頃に、育ての親代わりのオババに拾われた光景が脳裏に過ぎった。


(幻蘭の園へと旅立つ直前、人はこれまでの生涯の記憶を一瞬で整理するなんて聞くけれど――)


 そこから光よりも早い速度で、自分のこれまでの人生が脳内でリピートされていく。



     …



 ユズリハを育てたオババは、東の最果て(イーステン・ウェイ)でも有数の高級娼館――そのうちの一つの楼主(あるじ)だった。

 同時に国の暗部の重役の顔も持っており、自分の後継者を欲しがっていた。


 だから、オババはユズリハを、表は将来看板娼婦になれるように、裏では自分の後継者になれるように、教育を施していた。


 ユズリハが生みの親に捨てられたのは、花術不能者(ノン・フルーラー)だったからだ。

 東の最果てでも花術不能者(ノン・フルーラー)の差別は少なからずある。ユズリハの両親は特に差別主義者だったのだ――という話を人伝には聞いたことがあったが、正直どうでもいい。


 拾ってくれたオババが、それを蔑むことなく、ユズリハを育ててくれた。その事実だけあればいいと、ユズリハは思っている。

 それにオババは、マナをほとんど使えない代わりに、オドに関することが天才的な才能を持っているユズリハを褒めることが多かった。


 そう――オババは、ユズリハを褒めてくれた。


 性根が悪く、性格が悪く、金にがめつく、意地の悪い人ではあったのだが、物事を正当に公正に評価できる人物でもあったのだ。


 十二の時、初めて客と寝た時も、その仕事の報告のあと、褒めてくれた。幼い見た目の女を抱くのが好きな客も喜んでいた――と。

 だから――というわけでもないが、ユズリハは幼い容姿も武器になるのだと気づいた。


 そこで提案したのだ。

 オババの持っている老化を抑える薬を、今から常用したい、と。

 それを使えば、今の容姿を保てるだろうから、これからもそういう特殊な趣味の客を相手に出来る。

 そういう客は、目当ての娘が中々いないので、常連化しやすいし金払いが良いはずだ。

 オババへの恩返しも兼ねたその提案に、オババは呆れながらも、ユズリハの目的にあった薬を、別途調合してくれた。

 通常の老化抑制薬を幼いユズリハが服用するには危険があるから、と。


 単に、オババの調薬趣味に火がついただけの可能性は否定できないけれど。


(――これは全部、故郷の裏街(サレナ)での出来事……。

 だけど、消したい過去というワケじゃない。決して嫌な思い出じゃない……)


 ならば、どうして自分は、故郷から逃げたのか――


(逃げた……というのは違うかな。憧れちゃったんだ……表街(リリティア)に)


 十四の時、オババに言われるがまま、とある屋敷に侵入し、情報を盗み出した。

 十五の時、国の重役で売国の疑いのあったロリコンを誘惑し、ハニートラップを仕掛けて情報を引き出した。

 十六の時、初めて人を暗殺した。オババに言われたから殺しただけで、その人物がどういう人物なのかは特に興味がなかった。


 自分にとっては、故郷の裏街(サレナ)が全てだった。

 オババの役に立てれば良かった。


 自分が一般人とは違う生き方をしている自覚はあったけれど、実感はなかった。

 だけど、ある日――客として店にきた、異国の綿毛人(フラウマー)のと一夜はキッカケになった。


 彼は自分を見た目通りの幼子だと思って指名したらしい。

 強制的に働かされている違法娼婦だと思ったそうだ。その場合は、誘拐してでも救い出すつもりだったと言う。


 実際の年齢と、敢えてこの見た目を保つ薬を服用しているという話をしたら驚いていた。 


 だが違法や強制の類ではないのであれば、これほど嬉しいことはない――などと彼が笑っていたのが印象に残っている。


 彼は街の滞在中、ちょくちょくユズリハを抱きに来た。

 その都度、ちょっとした雑談で、東の最果て(イーステン・ウェイ)以外の旅話を聞くのが、ユズリハの中での楽しみになってきた。


(そうだ……あの人の話を自分の目で確かめたくなったんだ……)


 その綿毛人(フラウマー)が再び風に乗ってどこかへと行ってしまったあとも、ユズリハの胸の中には、綿毛になる前の花の蕾が残っていた。


 ユズリハの中で芽吹いた花は綿毛へとなると、もう我慢が出来なくなってしまった。

 でも、オババに相談しても間違いなく反対されると思った。


 だから――ユズリハは置き手紙だけ残して、娼館を飛び出し綿毛人(フラウマー)になった。


 風に乗って旅をしているうちに、ユズリハはカイム・アウルーラにたどり着き、そこでも裏街(サレナ)のお世話になった。


裏街(サレナ)は確かに犯罪者や浮浪者なんかが多い……だけど、それは表の在り方から溢れた人の受け皿になってるからだ)


 ユズリハも溢れた側の人間だ。

 そんな人間でも、光に混ざれるのだと道を示してくれたのがユノである。


 そこからは、今まで以上に早回しで、密度の濃いできごとの連続だった。だいたいユノのせいだけれど。

 だけど、それがとても楽しくて、それが自分の居場所だと教えてくれているようで――



     …



(……裏があるから、表は維持できる。表が存在するから、裏も存在する。

 光があるから影が生まれる。闇だけでは人は生きていけないから、光を求める。だけど、眩しすぎる光に疲れるコトもあるから、人は時々闇を見る……。

 昼だけだと夜行性の生き物は生きていけない。だけど、夜だけだと作物が育たないから、生き物は生きていけない……)


 ああ――そうか。


 ユズリハの口が小さく動く。


 私にとっては、きっとそれが答えだ――


(いつか、オババに謝りに行かないと。お店以外に、居場所を見つけたって報告をしにいかないと……)


 さすがにちょっと、不義理がすぎる。

 だから、ここで死ぬわけにはいかない。


 ユノの隣(じぶんのいばしょ)を報告しに行かないといけないのだから、こんなところで死ぬわけにもいかない。


 まだ自由に動く右手で、黒い朱種(ケルン)を取り出す。

 シェイディーク・シャードゥからもらった、人間がケルンと呼ぶ存在――そのオリジナル。


 『闇』とは何か。

 その問いを思い出す。


 表と裏。どちらで生きればいいのかなんて、誰かが決めるものでもない。ただ多くの人が、どちらかをメインにしてしか生きられないのだけだ。

 自分がこんなにも迷うのは、どちらでも生きていけるからだと気がついた。


(選ぶのは、私自身――)



 マリー・ゴールデンベリィの言葉を思い出す。


 ――先生はどうしたいんだい?

(私は……)



 ――表街だけで生きる? 裏街に戻る?

(私にとっては、どちらも私の生きていく場所だッ!)



 表の技も裏の技も、究極的にはどちらもただの技術。

 表の生活も、裏の生活も、究極的にはどちらもただの生きる術。



 ……ならば裏とは――闇とはなんぞや?


(私にとって、光も闇も共にあるものッ!

 闇とは――光と共に歩むもの。光を追い抜くコトはなく、光に置いていかれるコトもなく……常に寄り添うもの。

 だけど光がそれに気づく必要はない。闇は、密かに光を支える――それでいい)


 気がつけば、ユズリハは唄を口ずさんでいた。

 いつから唄っていたのか、自分でも分からない。


 だが、気がつけば身体の落下は止まっており、なぜか宙に浮いている。

 身体にまとわりついた穢れの濁流も消えている。


「……あれ?」


 声を出して首を傾げているのに、唄が止まらない。

 唄っている自覚と、声に出して呟いた自覚が両方ある奇妙な感覚。 



 ♪……iaTiaTu ,(イアチアツ、) oT=aTaNa(オト=アタナ) ; aH=iHSaTaW(アハ=イハサタワ)……♪



《我が問いへの答え、しかと聞き届けた》

「ディーク……?」

《いかにも》


 シェイディーク・シャードゥが自分を抱き抱えながら、宙に浮いているのだとユズリハは気づいた。


《昨晩の約束を果たそう。

 お前の誓いをここに――なに、別に我に誓うコトであれば何でも良い。

 確か、ユノ・ルージュは水の精霊と『共に在る』と誓っだそうだ》



 ♪……oW=uKaYieM(アウ=ウカイエメ) , oW=(、オウ=)iRiGiT(イリギチ) , oT=aTaNa(、オト=アタナ) , iN=(、イン=)oKoK=aMi(オココ=アミ)……♪



「似たような誓いでもいいの?」

《無論。お前が心から誓う言葉であれば、同じものであったも問題はない。これは、我とお前の盟約だ》

「黒き夜闇の盟友――って感じ?」

《白薔薇に対抗する意味はあるのか?》

「気分の問題かな」


 ユズリハはそう笑って、誓いの言葉を口にする。


「私はね、裏から歩き始めて、気が付けば表も裏も関係なく歩くようになってた。だからね、これからもそうしたいと思う。

 だから契約の誓いは――『影も日向も歩みを止めず』かな」



 ♪……iRA ,(イラ、) iN=oMoT ,(イン=オモト、) oT=(オト=)iRiGiT=(イリギチ=)oNoK(オノコ)……♪



 もう迷う必要はなくなった。

 表の歩き方も、裏の歩き方も、すっかり覚えた。

 たまに間違うことがあってもご愛敬だ。


 表と裏と――そこのルールの把握の仕方も覚えた。

 自分はどちらも歩けるのだから、それを誇ってどちらも歩いていけばいい。


《その誓い、聞き届けた。

 お前に与えたオリジン・ケルンに、我が分身魂を宿そう。

 そこに宿る我が半身に銘を付けるコトで、この契約は成立する》

「んー……ファニーネみたいに原型のある名前の方がいい?」

《いや、そのようなコトはない。

 分身の姿も銘も、契約者の想像するがままとなる》

「あ、じゃあ女の子の姿になってもらったりも出来る?

 お前がその姿を求めるのであれば」


 なるほど――とうなずいて、ユズリハは、新たなる契約精霊の名前を口にする。


「なら、ヤタ――ヤタノカラスヒメ。

 本物のカラスは比較的嫌われものなのに、東の最果ての神話には、神の使いとしてもちょいちょい出てくるからね。

 表と裏を合わせ持つカラスの姫って、それっぽいよね」

《ここに契約は完了した。我が娘、闇精鴉姫ヤタノカラスヒメをお前に預けよう》


 そう言うと、シェイディーク・シャードゥもまた唄を歌い、その歌声が、ユズリハの歌と重さなり合う。



NaRa , iN=(誓いは)oMoT , oT(確かに。)=aTu=oN=uKaYie(我らは)M , aH=aReRaW(盟約の歌と) / iN=aKiHSaT(共に) , aH=iaKiT(あらん。)



 ユズリハの手の中にあるオリジン・ケルンが、まるで心臓のように脈打つのを感じる。

 だけど、決して不愉快なものではない。


 オリジン・ケルンにオドを流し、ユズリハはイメージする。


「行こう。ヤタノカラスヒメ。

 私はこのままやられっぱなしっていうのは、ちょっと性に合わないんだ


 オリジン・ケルンが闇色の光を明滅させると、ユズリハの背中に闇色の鳥の翼が現れた。

 それは、ユズリハの意志で動かすことができるようだ。


《気を付けよ。我らは貪欲だ。体内のオドやマナを食い尽くされぬようにな》

「うん。ありがとう、ディークッ!」


 礼を告げて、ユズリハは翼をはためかせる。

 その背に、シェイディーク・シャードゥが言葉を掛けた。


《核を断て》

「え?」

《あれだけの攻撃を受けても再生する存在だ。

 どこかに、核となりうるものがあるはずだ》

「わかったッ!」


 ユズリハはうなずくと、白の廊下に向かって飛び立っていった。



 その後ろ姿を見送りながら、シェイディーク・シャードゥは小さく笑う。


《新たなる盟友か……後世の人間たちは、これもまた、大袈裟な名でも付けて歌うのであろうか?》




          080:黒き夜闇の盟友




そんなワケで、最後にタイトルコールをしたい――そんなイメージの演出でございました。


本当は、フォントサイズとか使用フォントとか、中央揃えとか、そういうコトが出来れば、一番最初のサブタイトルコールを完全再現して末尾に配置したかったのですけどね


上手くいったかどうかはともかく、自己満足なアレですが、個人的に楽しかったので概ねヨシです。



盟友の唄の歌詞をやたら散らす演出はユノの時にやったので、もう一度やるとクドいかな?というコトで、減量して表現しておりますが、実際はあのときと同じくらいしっかりとユズも歌ってます。


次回はヒースシアン戦、決着の予定です。




また、【雅-MIYABI- ~燈現時代幻獣討伐譚~】というお話の連載も始めました。

よろしければ、こちらもよろしくお願いします。

https://ncode.syosetu.com/n9604em/

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