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061:宴の終わりと、花職人の謁見と

お待たせしました


「情報は得ましたし、今日のはもう帰らせていただきます」


 挨拶を終えたサニィはそう言って、手のひらサイズの青い宝珠を取り出した。

 既存のものと比べるとだいぶ大きいが、見た目や光沢からすると種珠(ケルン)のようにも見える。


「お、悪いなサニィ。わざわざ持ってきてくれたのか」

「次からは忘れないようにしなさい」


 口では悪いと言いながら、微塵も悪びれた様子のないクラウドへ、サニニィはその宝珠を投げ渡す。


「ジャックが貴女に礼を言っていたわ、メア。

 この大型種珠(ケルン)を作るにあたって、貴女の論文のおかげで、極限までマナ流動を小さくするコトができたって」

「……どういたしまして。この場で言われてもあまり嬉しいコトではないような気もしますけれど」


 ジャックというのが誰か――と問おうと思ったが、先ほどの二人のやりとりからして、恐らくはこの連中の首魁のことだろうと想像はつく。


「まぁどんだけ必要マナ流動を抑えようとも、サニィには使えないんだがな」

「クラウドッ!」


 やる気のない様子でへらへらと嘯くクラウドに、サニィの鋭い声が響く。


「おー、こわ。それはそれとしてお手をどうぞ、サニィ姫。

 エグソダス・ケルン、起動しますぜ」

「いちいち余計なコト言わないでいいのよ、ったく」


 毒づきながらも、サニィはクラウドの差し出す手を取った。


「できれば、もう会わないコトを祈るわ……」

「お互いにね」


 不機嫌な猫のような顔で睨みあって、二人のユノが軽い口調で肩を竦めあう。


 その瞬間――クラウドが手にしていた大型ケルンが輝きだし、その光は二人を包み込むと、やがて光とともに二人の姿も消え去った。


「消えた……」

「エクゾダス・ケルンと呼んでいたか? あの花導具(フィオレ)は一体……」


 その予想外の出来事に、周囲にいた騎士達がざわめきだす。

 そんなざわめきのなかで、ユノが静かに安堵していると、ドリスが声をかけてくる。


「……メアお姉さま……逃がしてよかったのですか?」

「逃げてくれて良かったと言うべき状況でしたので」


 正直なところ、ユズリハと二人だけでかつ綿毛人として、この場に立っていたのであれば、多少の無茶はできたかもしれないが、今はメアとしてここにいる。


 何より、クラウドは本気を出していなかったし、サニィの強さも未知数だったのだ。

 足手まといや人質候補が多いこちら側の方が圧倒的に不利だった。


「お互いが本気でやりあっていれば、どちらもタダでは済まなかったでしょう。今回の件はこの程度で済んで良かったとするべきです」


 そう告げて、メアがそうですよね――と、護衛の騎士に振れば、彼女は力強く首肯してみせる。


 その様子にドリスは納得したのか、大きく安堵の息を吐いた。


 それから、まだリラが背に手を当ててくれたのを思い出して、ドリスは微笑みかける。


「貴女は――リラでしたわね。

 もう大丈夫です。貴女の本来の仕事である、メアお姉さまの従者としての職務に戻りなさい」

「恐れ入ります。では失礼いたします」


 ドリスの言葉にうなずき、ライラは立ち上がると一礼し、ユノのところへと戻っていく。


「ところで、メアお姉さま」


 ライラがユノの後ろへと着くのを確認してから、ドリスはユノに呼びかける。


「あの、サニィと名乗る女性は――」

「わたくしにも分かりません。ですが――可能ならば、彼女の本名は内密にして頂きたく。

 似た容姿に、似た声に、同じ名前――面倒な揚げ足取りの材料にしか見えませんので……」


 サニィ自身にその気がなくても、周囲の者からすれば、そうでもないのだ。

 彼女の存在そのものが、カイム・アウルーラ行政局長の娘ユーノストメアの弱点となりうる存在になりかねない。


「確かにその通りですわね。ではそのように」


 ユノとドリスの即興の打ち合わせが終わったころに、廊下の方からドタドタという激しい足音が聞こえてくる。


「ドリス、無事かッ!」


 その先頭に立っていたのはジブルだったらしい。

 慌てた様子でドアを開き、飛び込んでくる。


 そんな彼に誰かが声を掛けるより早く、ユノが口を開いた。


「ジブル様。その行動は何重にも減点でございますわ」


 壁に開いた穴に目を見開いた直後に飛び込んでくる言葉に、どう反応した良いか迷ったのだろう。

 ジブルはこちらに視線を向けて、しばらく何やら思案する。


 ややして――


「しかし、ユーノストメア嬢。兄として、妹の心配をするなと言うのは……」

「そうは言っておりませんわ。

 ですが、皆様は爆発音や、壁が崩れる音を聞いて飛び込んできたのございましょう?

 ならば、何故――ドアを開けると同時に流れ弾や破片が飛んでくる危険性を考えなかったのでしょう?」


 言外にしっかりしろ、騎士ども――と告げてやれば、ジブルの後ろに連なっている騎士連中の表情が露骨に変わった。


「ことが終わり、場が落ち着いていて良かったですわね」


 小さく息を吐いて、らしくない警告をしているな――とユノは嘆息する。

 最近は、ライラにあれこれ教えることが多かったせいか、余裕があるとついつい説教臭くなってしまっている気がする。


 それに、良くも悪くも懐かれてしまったドリスも無碍にできないのだ。

 ここでジブルに何かあれば彼女が悲しむ。それは、何となく嫌だった。


「メアお姉さまの言うコトももっともですが――」


 そんなユノの横で、ドリスは頬に手を置きながら、目の笑っていない笑顔で兄と、その背後の騎士たちに告げた。


「――お兄さまも、騎士の皆様も、少々腰が重くはありませんこと?

 メアお姉さま達がいらっしゃらなかったら、私も私の騎士も従者も、既に旅立っていてもおかしくなかったのですよ?」

「……それほどの出来事が?」


 半信半疑――と言った様子でジブルが部屋に視線を巡らせると、ユノが、ユズリハが、ライラが、そしてドリスの騎士と従者の全員が、同時に首肯してみせる。


 それを見て、ジブルもジブルが連れてきた騎士達も、顔を青くするのだった。





 そして、その場で王子による事情聴取が始まる。

 もっとも、受け答えの大半はドリスがしてくれたので、ユノ達は、彼女に振られた話を答える程度のものだ。


 そんな中で、何やらユノがそわそわうずうずと、落ち着かなくなっていく。

 彼女の様子に、ドリスが訝しんでいると、ユズリハがユノを応援する。


「お嬢様。よく自制されております。

 ですので、もうしばらくのご辛抱を」

「……そろそろ難しいわ」


 二人のやりとりに、何かを誤解したらしいジブルが、真面目な顔でユノに告げた。 


「突然の雨で鉢植えに余計な雨水でも溜まっているのですか?

 栄養であれ雨水であれ、ため込み過ぎれば、根腐れの原因になりえます。

 我らに気にせず、様子を見に行っても構いませんが?」

「お兄さま……辞書でデリカシーという言葉をお引きになられた上で、その意味を百回ほど口に出して復唱してからメアお姉さま達に謝罪なさってください」

「まて、直接表現は控えたであろう?」

「直接的であろうが婉曲的であろうが、男性が女性にそういうコトを言う時点でダメだと言っているのです」


 まったくもう――と、プリプリするドリスを見ながら、ユズリハが大変申し訳なさそうに頭を下げた。


「従属の身で大変恐縮ではございますが、お二方の誤解を解きたく思います。発言をよろしいでしょうか?」

「ええ、クスハ。むしろ兄の誤解を解くのは最優先にするべきです」


 さぁ存分に――と言うドリスに、ユズリハは頭を下げ一歩前に出る。


「まず、お嬢様の名誉の為に申し上げますと、お嬢様は別に突然の雨に植木を心配しているわけではございませんません。そう、突然の雨に濡れて戸惑っているわけではないのですッ!」

「何故二回言ったのかしら? そして何故二度目の方が力強いのかしら?」

「大事なところですので」


 半眼になるユノをさらりとかわして、ユズリハは続ける。


「お嬢様は一日一回以上は花導品(フィーロ)をいじれないと禁断症状に襲われるのです。ましてや目の前に未知の花導品(フィーロ)があったのに我慢してしまっている状況。もはや色々限界なのでしょう」

「冷静に分析されると人間って不思議と冷静になれるのね、ありがとう」

「どういたしまして、お嬢様」

「皮肉よ?」

「分かっております。ですのでこちらの返答も皮肉です」

「…………」

「…………」


 ユノとユズリハが無言で見つめ合っていると、パンパンと手を叩きながら、ライラが割って入ってきた。


「はいはい。お二人とも、このような場所でいつものようにケンカを始めるおつもりですか?」


 ライラの言葉で、二人がここがどのような場だったのか思いだし、揃って小さく咳払いをする。


「……この場が身内だけしかいないのであれば、お嬢様はサニィかクラウドに飛びついて、彼らの持つエグソダス・ケルンとやらに頬摺りをしながら、一緒に消えていっていたはずです」

「その可能性は否定できませんわね。むしろしたくありません」

「そこはしてくださいませ」


 うんうんとうなずくユノに、ユズリハが即座にツッコミを入れる。

 二人のその様子と、ライラの割り込み方から、これが日常的に行われているやりとりだと気づいたドリスは小さく吹き出した。


「メアお姉さまは本当に花導品(フィーロ)がお好きなのですね」

「ええ。大好きよ。愛してるわ。人間よりずっと素直で可愛いもの」


 それこそ恋する乙女のような表情で断言するユノに、ジブルは恐る恐る訊ねる。


「興味本位で聞くのは失礼だと思うが……ユーノストメア嬢は、その……婚約者などはおられないので?」

「いませんわ。興味もありません。

 それでもわたくしと花を結びたい方がいらっしゃるのであれば、まずはその全身を花導品(フィーロ)にしてから出直して頂きたいものです」


 横で「また無茶なコトを」と呟いては天を仰いでいるユズリハを見て、ドリスは微笑を浮かべた。


(きっとクスハは、お姉さまに随分と振り回されてきたのでしょうね)


 それでもこうして付き従っているのだから、その信頼関係は強いものだろうとも、ドリスは思う。


(人間嫌いを患っていると思われるお姉さまが、嫌な顔をせずに側に置いているのですものね)


 ドリスはそう想像するのだが、現実は――勝手に住み着いてる居候とそこの家主であり、ユズリハはようやくお店の共同経営者を名乗れるようになったばかりなのである。


「お兄さま。メアお姉さまの為にも、はやく聴取を終えてくださいませ」

「あ、ああ……ん? お姉さま?」

「親しみと憧れと敬意と畏怖を込めて、そう呼ぶコトにしたのです」

「……最後だけ不穏ではないか?」

「為政者たる者、親しみの中にも畏怖を与える何かがあるのは良いコトなのではありませんか?」

「そうか……。そうか……?」


 うなずきながらも釈然としなかったのか、ジブルは首を傾げる。

 だが、ユノの為にとっとと終わらせるという点には異論はないのか、必要な情報を手早く聴取すると、この場はお開きとなるのだった。





 その後は特に問題が起きないままパーティは終了を迎え、各々が帰路に着く。


 帰りの馬車の中で、今回の出来事をユズリハは必要最低限のレベルで、ネリネコリスに報告する。

 本当は、もっとちゃんと報告したかったのだが、仮面と自重を投げ捨てたユノがうるさかったので、後日ちゃんと報告することになったのだ。


 ちなみに滞在館に戻るなり、ユノは自室に閉じこもって何か始めた。

 その奇行に慣れてない滞在館の使用人達は戸惑っていたようだが、慣れている面々は気にしないように告げて、その日の夜は更けていくのだった。





 翌日――

 花修理職人(フルール・リペイア)のユノ・ルージュとその一行として、ネリネコリスに連れられてターモット王へ、挨拶に行く。


 もっとも建前が必要なのでこうやって挨拶に来ているのだが、ターモットには事前にユノの正体は知らせてある為、謁見でのやりとりはほとんど茶番である。


 ドリスとジブルは、ユノ、ユズリハ、ライラの組み合わせを思い切り訝しんでいたし、噂通りの聡明さを発揮できれば、即座にユーノストメアと結びつくことだろう。


(ま、ドリス姫にならバレても問題ないと思うけどね)


 そんなことをぼんやりと考えているうちに、挨拶と仕事内容の確認などのやりとりは終了した。


 基本的に事前の手紙のやりとりで交わしていた条件の再確認だけだ。


 ・まずは状況と原因の確認

 ・修理可能であれば、作業前にターモットへ報告

 ・修理して直らない可能性があるコトの理解してもらう

 ・修理が始まったら余計な横やりは入れてこないコト


 ――などなど。

 相手が王族で、保守対象が古代花導品(アルテ・フィーロ)であろうと、基本的には普段日常的に交わしているやりとりと同じものだ。


 ただ、この仕事を政治の道具にされたりするのも面白くないので釘は刺しておく。


「ああ、そうです陛下。手紙には書き忘れておりましたが、一点ご確認をさせて頂きたく」

「うむ。何かな、ユノ殿」

「依頼人は陛下であり、あたしが見るべき相手は清らに(サンクトゥ・)水湧く(フェントゥス・)花噴水(リリランジア)で相違ありませんね?」

「ああ。改めての言質が必要というのであれば、この会話がそれとなろう」

「恐れ入ります。

 ならば、作業中のあたしに対して、その意図に関わらず敵意や悪意でもって接触してきた者は、誰であろうと陛下に仇なす者として容赦も手心もなく微塵に砕くという方法でもって対処致しますがよろしいでしょうか?」

「できれば背後関係を吐かせるべく生け捕りが好ましいが――そうだな。君や君の協力者などへの危害は、余への叛逆の意と判断して構わぬ。

 ましてや君達が身の危険を感じたのであれば、相応の返礼も致し方あるまい」


 言いながら、ターモットがユノではなく謁見の間で周囲に控えている貴族達へと視線を巡らせるのだから、正しくこちらの意図を理解してくれたようである。


「ではそのように。

 改めての念押しとなりますが、我々はあくまでも花修理職人(フルール・リペイア)とその協力者。国の思惑・主義主張、政治的なあれやこれとは一切無関係。これはハニィロップもカイム・アウルーラも、その他国家に対しても同じです。

 貴方様は国王陛下ではございますが、あたしにとっては依頼人でありそれ以上でもそれ以下でもございません。

 王族・貴族を敬うコトと、職人としてするべきコトは別でございます。

 身分を笠とした命令であれ、職人としての職分を越えたコトをするつもりはございませんので、あらかじめご了承のほどを」


 暗に、ここまで言ってもちょっかい掛けてくる奴がいるなら、マジで容赦しねぇからな――と言っているユノである。


「うむ。君の職人としての誇り――汚さぬことを王として……いや、依頼人として守ることを、この場の契約に盛り込もう」


 もちろんターモットもそれを承知している。

 だからこそ、それにうなずいた上で、ここまで言って分からないバカはもうどうにもならないから好きにして――と、暗に言っているわけだ。


 世継ぎ問題に関して、ジブル派とドリス派に別れて派閥争いが始まっているのも、知っている上での二人のやりとり。

 見る者によっては、ユノに対して警戒を抱いても不思議ではないほどの、平民出の職人らしからぬ言動だ。


 これで名前を「忍名では?」と、疑ってくれれば、ちょっかいを掛けてくる者も減ってくれるとユノは思っているのだが、どこまで上手くいくかは分からない。


 ターモットとしては正体をバラしかねないギリギリのやり方に申し訳なく思っているが、当のユノはどうでも良いと思っている――というか、「あー……早く清らに(サンクトゥ・)水湧く(フェントゥス・)花噴水(リリランジア)が見たい」で、頭がいっぱいになっていてそれどころではない、とも言う。


 そうして、ターモット陛下より、清らに(サンクトゥ・)水湧く(フェントゥス・)花噴水(リリランジア)への作業許可証を正式に賜ったユノは、ネリネコリスとともに謁見の間を後にした。


 城を出るまでの道のりで、思わずハイテンションにスキップしたくなる衝動を必死に堪えながら――





 謁見が終われば、あとは自由だ。


「さぁ、やるわよーッ!」


 城の敷地から出るなり、気合い充分に天に拳を振り上げるくらいには、最高の気分となっている。

 ネリネコリスは滞在館で、この国の貴族達と会談をするらしいので、城を出た時点で別行動だ。


清らに(サンクトゥ・)水湧く(フェントゥス・)花噴水(リリランジア)を見学しに行きつつ、最初は綿毛人互助協会(フラウマーズギルド)でしょ?

 そういう作業をするってコト、一応報告しておこうよ」

「そうね。そうしないと自称、正義の味方に邪魔されそうだし」


 花噴水には、関係者以外が基本的に接触してはいけないことになっているらしい。なので、触ったりしていると、何も知らない奴が、わざわざ文句を言ってくる可能性があるのだ。

 そういう奴はだいたいこちらの話を聞く気がない。

 作業許可証を見せたところで、偽装を疑ってくる可能性がある。


 なので、事前に綿毛人互助協会(フラウマーズギルド)に作業内容を伝えておくことで、ある程度の周知できるようにするわけだ。


花導協会(フィーローズギルド)にも後ろ盾になってもらわなくていいの?」


 ライラの純粋な疑問に、ユノは本当に不思議そうな顔で、首を傾げる。


「ライラは何もしない癖に足だけは引っ張るのが得意な連中に、足を引っ張られるの好きなの?」

「よくわからないけど、そういう人たちなんだ」


 疑問が氷解するならそれで良かったらしく、ライラはふーん……といった様子で、納得をしてみせた。


「それじゃあまぁ街並みを見つつ、花噴水の横を通って、綿毛協会(ギルド)に行くとしましょうか」

「ユノお姉ちゃんなのに、噴水へ一直線みたいな暴走してない」


 機嫌良く歩き始めるユノの背中に、ライラが訝しむと、横でユズリハが苦笑する。


「花噴水を思う存分愛でるには、まずその邪魔をされる要因を可能な限り消してから――ってコトでしょ?」

「だけど街並みを見るって……」

「周囲を見て、ライラ」


 ユズリハに促されて、周囲を見る。

 言われてライラは周囲を見渡して、気がついた。

 色々あってちゃんと見てなかったが、この街の街並みは、カイム・アウルーラとはまったく違う顔をしているのだ。


 カイム・アウルーラは街路灯や建物の壁や、ちょっとした柵に至るまで霊花(エテルネルール)が組み込まれており、町中に溢れている。いわば花導品(フィーロ)で彩られていることで、花が溢れた街となっていた。


 だが、この街は、常花(ノーマル―ル)による花壇や街路樹などが華やかに配置され街を彩っており、カイム・アウルーラとはまた趣の違う街並みとなっている。


「ユノは花導品(フィーロ)が大好きだけど、花も好きなんだよ。

 だから、カイム・アウルーラとは別の形で花の溢れているこの街を歩くコトそのものが楽しいんだと思うよ」


 そのおかげで、花噴水へ突撃するようなことがないのは、一緒にいるユズリハとライラにとっては安心だ。


 ――と、思った矢先、ユノがふらっと路地裏へと入っていこうとしているのに気がつき、ユズリハが慌てて手を取った。


「ユノ。寄り道は無しッ!

 あと、カイム・アウルーラじゃないから、そういうとこ安全がまったくないからねッ!?」

「いやぁ……綺麗な花の配置に思わず誘われちゃったわ」

「精霊じゃないんだから……」


 やれやれとユズリハは嘆息してから、ライラに向き直る。


「ライラも気をつけてね。

 裏街(サレナ)みたいな場所が、ルールさえ守ってれば安全な場所――なんて街は、カイム・アウルーラくらいなんだから」

「はーい」


 元気良く返事をするライラを見、ユズリハは胸中でこっそりとうめく。


(観光先で、子供の面倒みてる気分になるなぁ……。

 世のお母様達は大変だよねぇ、いつもこういうコトしてるんだから……)


 その思考そのものが、ややオバサンじみてる気がして、ユズリハは自爆ダメージを受けるのであった。


 予告していた花噴水までいけませんでした。


 ユノ、ユズリハ、ライラのトリオの場合、見た目が一番上なのはユノ。但し実年齢も精神年齢も、ユズリハが一番上になります。

「え? 私の年齢? ひ・み・つ」


 次回は、ちゃんと水曜の夜に更新して、ちゃんと花噴水にいきます。

 花噴水の機能やら抱えている障害やらなにやらのお話はその時に。

 

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