060:仮面の葉術使い
「紅走牙ッ!」
何とも言えない微妙な空気をぶち壊すように、ユノの声が響く。
オドを纏った手を振り上げながら放ち、衝撃波となった赤いオドが絨毯を引き裂きながら地面を走る。
「不意打ちかよッ!」
仮面の男が舌打ち混じりに毒づく。
それに、すかさずユノがツッコミを入れた。
「そもそもオドを纏った剣を投げ込んできた奴が言う言葉ではありませんわね」
「違がいない」
男は肩を竦める代わりに自分の剣を振り下ろして、ユノの放った衝撃波をかき消す。
「悪くはないが、オレ相手に通用するほどじゃないな」
驕ることもなく、誇るようでもなく。
ただ、事実だけを軽い調子で口にしてくる。
だが――
「そんなコト百も承知です」
ユノもまた動揺する様子もなく、不遜になることもなく。
ただ、結果の分かっている実験をしただけだと言うかのように返事をした。
その直後――
「……ッ!」
彼は剣を構えながら、背後へと振り返る。
いつの間にそこにいたのか。
片刃のナイフを左右それぞれの手で逆手に握り、今まさに男へと躍り掛かったユズリハがいた。
ユズリハの攻撃を、男は自身の刃で受け止めると、金属同士が激しく擦れ合う嫌な音が響く。
「あっぶねぇ……オレとしたコトが直前まで気づかなかった」
「本来は直後まで気づかない技なのですが」
「おっかねぇ、嬢ちゃんだ……」
口を尖らせるユズリハに対して、言葉のわりには、どこか楽しそうな色を混ぜて男が嘯いた。
鍔迫り合いをする二人を見据えながら、ユノは右手を掲げて、身につけているコサージュと、服や装飾品に仕込まれた花術紋にマナを巡らせていく。
「始まりは咲き誇る焔歌。続章は稲穂を束ねる蛇」
男はこちらの詠唱に気づき、舌打ちをしてユズリハから離れようとするが、それを彼女が許すわけがない。
「嬢ちゃんも巻き込まれるぜ?」
「お嬢様は私を巻き込むことなく貴方だけを飲み込みますので」
「クソッ、そういう信頼……やられる方は堪らないなッ!」
男は鍔迫り合いから、剣を引き――ユズリハが体制を崩した一瞬を利用して、剣を振り上げることで、彼女の持つナイフの片方を強引に跳ね退けた。
そして即座に一歩引くと、ユズリハですら一瞬見惚れてしまうくらい、丁寧かつ迅速な、完璧すぎるオドの操作してのける。
「曇纏――晴間無ッ!」
「重ねて二つ――ッ! 其は束なりて咲き狂う華焔の花ッ!」
男の葉銘と、ユノの花銘が、同じタイミングで響き渡った。
曇り空を思わせる灰色のオドを身に纏う男。
その男の足下へ、ユノは放った熱衝撃波が突き進む。本来は広がるように放たれる熱衝撃波を圧縮するように束ね熱線と化したそれは、高速で伸びる紅い糸のようだった。
男が完全にオドを纏いきるのと、ほぼ同じくらいのタイミングで、熱線が着弾する。
刹那――束ねていた留め糸が千切れたかのように、そこから熱衝撃波が勢いよく広がっていった。
ユズリハはすでに飛び退いており、膨張するように広がる衝撃波に飲み込まれたのは男だけだ。
だが、その爆音と爆炎が混じる中、何かが動く気配がある。
ユノは思わず舌打ちしながら、横へ飛ぶ。
直後、一瞬前までユノがいた場所に、曇天色の斬撃が走った。
「術の精度も威力も申し分なければ、油断しないし判断と反応も良いときた。面白い主従だな、おい」
煙を切り裂くように、男が中から無傷で姿を見せる。
ユノを見据えながらも、彼は近くのユズリハに油断なく意識を向けている。
二人しか意識していないのだとしたら、それはそれで油断と言えよう。
「まずはひとかけ真っ赤なリンゴッ、続くひとかけ真っ赤なリンゴッ! 重ねて二つッ、その身を焦がすはアップルパイッ!」
何度も練習し、使い慣れた火炎の花術をライラが解き放つ。
制御も精度も威力も、いっぱしと呼んでも良いぐらいに使いこなしている。
「……そっちの嬢ちゃんもかよッ!」
彼は地面を蹴って、自分に向かってくる火球へ駆ける。
「疾ッ!」
気合いとともに、曇天色の刃を振り下ろし花術の火を無理矢理かき消してみせた。
「葉術で強引に花術を斬り消すなんて、器用ですねッ!」
オドを纏わせ紫色に光る投げナイフを投擲しながら、ユズリハが賞賛すると、男は面白くなさげに、振り返る。
「その練度の武具纏化に、投擲技術を見せながら言われてもなッ!」
男が飛んでくる二つのナイフを切り払う。直後に一拍遅れて踏み込んでくるユズリハの二連斬撃の一撃目は一歩引いて躱し、二撃目は受け止めた。
「まるで遣り手の殺し屋だな、嬢ちゃんッ!」
「嬉しくない褒め言葉をありがとうございます」
ユズリハは淡々と返事をしながら、受けられた右のナイフはそのまま、添えていた左手の手首を器用にスナップさせる。
すると、袖の下から突然、大人の親指の先から手首くらいまでの長さの極細の金属針が放たれた。
「暗器使いかよ」
毒づくように男はうめくと、目を狙って飛んでくる投針を躱す。
その針を躱すという動作の隙に、ユズリハの左手のナイフが閃いた。
「油断も隙もありゃしねぇ!」
叫びながら、男は思いきり後ろへと飛び退く。
だが、それに合わせるように、ライラの声が響く。
「蒼刃キュウカンバーッ!」
「葉術……ッ!? 三人とも使えるのかッ!?」
ライラの放った――キュウリに見えなくもない――黄緑色をした三日月型の斬撃波が男を襲う。
ユノやユズリハだけでなく、ギャラリーに徹している騎士達すらも、完全に直撃コースだと思うくらいの完璧なタイミング。
「うらぁッ!」
――だというのに、男は裂帛の気合いとともに、その背中の真ん中からオドを解き放つと、ライラの技にぶつけて相殺してのけた。
「あぶねぇあぶねぇ……流石に、ちょっと肝を冷やした」
言葉とは裏腹に、それはもう楽しそうに、男はそう口にする。
「これは……タツジン級の葉術使いね……」
「東方スタイルの嬢ちゃんだって、そうだろう?」
仮面から覗く死んだ魚のようだった瞳に生気が灯らせ、男はユズリハを真っ直ぐ見据える。
「曇纏――雨降始」
そして、纏うオドの密度を高めた。
それに対して、ユズリハは小さく息を吐くと、相手を見据えながら、口にする。
「青纏」
言葉とともに、ユズリハは青く輝くオドを身に纏う。
その姿に、仮面の男は喜色満面の声をあげる。
「そうだよなッ! そうこないとなッ!」
両手を広げ大袈裟な仕草で嬉しそうにしている男を見ながら、ドリスが護衛の騎士達に訊ねる。
「メアお姉さま達への援護はしないのですか?」
「しない――ではありません。できないのです。
マナとオドが入り交じる戦場――戦いにあまり慣れてはいないようなリラ殿ですら、状況に合わせてマナとオドを使い分けております。
片方しか使えないなら、せめてタツジン級でなければ近寄れません」
実際は割って入ったり援護したりできないワケではないだろう。
だが、メアを中心に連携を取っている中へ、中途半端に混ざって支援をすると、逆に連携を崩して相手の付け入る隙を与えかねない。
「タツジンと言うのは?」
「葉術の使い手の中でも、最上位の使い手への呼称ですね。
高位花術師などと同じようなものです」
「あの仮面の男は、それほどの……?」
「はい。そして、クスハ殿もその域の使い手のようです」
話を聞きながら、ドリスはゾッとする。
高位花術師は、術の練度だけ高くてもそう呼ばれない。一定以上の練度というのは最低条件だ。
知識や術の使い手としての腕だけでなく、戦闘において使いこなせる戦闘系花術師の中で、特に優れた使い手を呼ぶときの呼称である。
そういう意味では、メアは間違いなく高位花術師といえよう。
あれだけの使い手を宮廷花術師として召し抱えていれば、他国に自慢できるというもの。
それだけの戦闘者達が、この小さなサロンで戦っているのだ。
最初にテーブルを破壊した一撃。
窓の外からの不意打ちに対して、いち早く反応していたのはクスハとリラだった。
(警告に対して、護衛騎士達もすぐ動いてくれたから、大事はなかったのですけれど……)
あの警告と騎士達の働きがなければ、自分は今頃どうなっていたのだろうか――そう思うと、本当に恐ろしい。
お茶の相手が、メアだったからこそ助かったのだ。
(ですが、まだ戦闘は終わっていません……この状況で私ができるコトはなにがあるのでしょう?)
中途半端な助けを呼んで飛び込んで来たものが判断を誤れば、逆にメア達を危機に晒す可能性がある。
(念話……念話ですね。お兄さまと交信を……)
そう考えた瞬間――
ゾクリと、背筋が震えた。
「……ッ!」
肌が泡立ち、急激に心の中に恐怖がわき上がってくる。
「お姫様――アンタからなんか妙なマナの動きを感じたからな。
せっかく楽しそうな相手を見つけたんだ。邪魔するようなコトはしないでくれ」
「…………ッ」
思わず自分の身体を抱きしめながら、男を見る。
仮面の穴かから覗く双眸と目が合った瞬間、これまで感じていた恐怖心が爆発するように、つま先から頭のてっぺんまで駆け抜けた。
「姫様ッ!?」
明らかに様子がおかしいドリスに、騎士がかけよってくる。
騎士はこの恐怖感を感じていないらしい。
自分にだけ、あの仮面の男は何かを仕掛けてきたのだろう。
怖いのに目が離せない。
歯の根が合わない。
逃げ出したい。
プライドも立場も、そのすべてを投げ捨ててでもこの場から立ち去りたい。
いっそ、命核すら投げ出してでも逃げてしまいたい。
なのに、身体が動かない。
忘我の中で、無意識のうちに涙が溢れ出てくるのに、それを拭おうという発想すら、恐怖で塗りつぶされていく。
「リラッ! 姫の淀みをッ!」
「はいッ!」
メアの指示で、リラが駆け寄ってくる。
「ドリス様、失礼いたします」
その手でドリスの視界を遮り、もう片方の手が背中を優しく撫でる。
柔らかな温もりが背中を中心に全身へと広がり、全身を犯す恐怖心がゆっくりと消えていく。
「そのまま、ゆっくり深呼吸を」
リラに言われるがまま、呼吸を繰り返していると、身体の強ばりが落ち着いていく。
その心地良さに安堵した瞬間、身体から力が抜けてくたりと、リラへともたれ掛かるように、身体が傾いた。
「あ、あら……?」
「ドリス様がよければ、少しそのままで。
あの男の瞳を通じて、威圧と一緒にオドを身体の中へとたたき込まれ、無理矢理オドやマナの流れを乱されたのです」
ドリスを受け止めながらリラが微笑む。
自分と同じか、もう少し下くらいの年齢で、しかもまだ見習いだろう侍女の微笑みが、今は医者か騎士のように頼もしい。
「……それは、先ほどメアお姉さまの時の……」
「はい。そちらの従者の方が陥っていたものと似たようなものです。
ですが、ドリス様の受けたものは、もっと酷い状態です。あの時は、ある意味でとばっちりのようなものでしたが、ドリス様の場合は直接そういう悪意でもって乱されておりますので」
「そう……」
こちらの目を隠す為に触れる手が、こちらを落ち着かせるように背中を撫でる手が――優しくて柔らかくて暖かくて、全身を凍てつかせた恐怖心が解けていくのが気持ちよくて。
王族としてはあまりよろしくはない――そう思いながらも、ドリスは自分を抱きしめ、体内のマナとオドの循環を整えてくれているリラへと体重を預け、その心地よさに身を委ねるように目を閉じた。
「破ッ!」
「甘ぇッ!」
閃く青く短い剣閃二つ。
それを受けるように、応えるように、曇天色の刃が煌めく。
「これだッ、これだッ、これだッ!!」
片刃ナイフの二刀でもって連撃繰り返すユズリハ。
それを受け止め、受け流し、時には躱し、一瞬の隙に強力な斬撃を放つ仮面の男。
「最ッ高ッにッ! 生きてるって感じがするッ!」
「戦闘中毒なのでしたら、こんな場所に来ないで欲しいのですけれどッ!」
思わずユズリハがうめく。
示し合わせたように一進一退を繰り返すその動きは、激しい剣戟を音楽に流麗なダンスでも踊っているかのようだ。
その両者の動きのせいで、援護しようにも割って入るタイミングがとれずユノはいつでも花術を使えるように構えるしかできない。
「お前ももっと楽しそうにしてくれよッ! オレを楽しませることができる女ァ――ッ!!」
「その呼び方、甚だ不本意です」
水を得た魚のようにどんどん昂ぶっていく男とは裏腹に、ユズリハはどんどん冷淡になっていく。
(でも、ユズリハに余裕がなくなってきてる……)
このままでは押し切られかねない――ユノがどうしたものかと悩んでいると、壊れた窓の外から、女性の聞こえてきた。
「クラウド……貴方は何をしているの?」
「止めるなよサニィッ! こんな楽しいコト、止まれるワケねぇだろッ!」
男が大きく剣を払う。それをユズリハは交差させたナイフで受け止めた。だが、耐えきれずに、絨毯の上を滑っていく。
間合いが開いたところで、続けて女の声が響く。
その声は、どこかで聞いた覚えのある声に似ていてで、ユノだけでなく、ユズリハとライラも訝しむ。
「指輪はどうしたのかしら?」
「今はッ、任務よりもッ、オレを楽しませることができる女がッ、優先に決まってるッ!」
「…………」
姿は見えないが、窓の外にいるらしいサニィと呼ばれた女性の表情が漠然と想像できる。
恐らくはいつまでも帰ってこない仮面の男――クラウドと呼ばれていたか――の様子を見に来たのだろう。
まさか与えられた任務を放棄して、気に入った女相手に剣戟をしていたとは、サニィも思うまい。
「貴方自身の思惑は理解しているつもりですが、それと任務は別でしょう。それとも貴方は、恩人であるジャックに背くと?」
「……ジャックの名前を出すのは反則だ」
急速に、クラウドのやる気が萎えていく。瞳からは活力が抜け落ち、再び死んだ魚のような目へと変わっていく。
そして、最初に自身が入ってきた窓際へと移動した。
その横に、ドレスを纏った女性――いや少女が姿を見せる。
「ごきげんよう、皆様」
その少女は優雅にカーテシー ――スカートの裾をつまみ、片足を足を下げてお辞儀――をしてみせた。
随分と慣れており、様になっていることから、普段はそれなりの身分にいる者なのかもしれない。
「お初にお目にかかります。サニィと申します」
彼女もまた、クラウドと同じく仮面を付けている。
サニィがつけているものは、クラウドのように顔全面を覆うようなものではなく、鼻より上を覆うものだ。
光沢のある材質を使っているらしいそれは、白地な上にシンプルなデザインだが、ところどこの装飾や模様が女性らしい華やかさを生み出している。なんとも貴族が好きそうな仮面である。
彼女の身長はあまり高くない。ユノと同じくらいだろうか。
肩よりは長く伸ばされた栗色の髪が風にたなびき、気の強そうな赤い双眸が、仮面の奥で輝いている。
「本来、指輪さえ回収できれば穏便にすますつもりだったのですが――脳筋な同僚が大変な失礼を」
「この場に合わせた気取った態度とか取らなくて良いだろ、サニィ。いつもどおりでさぁ」
横でぼやいているクラウドを無視して、サニィはサロン全体を見渡す。
(一瞬目があった……? 偶然……?)
ユノが訝しんでいると、サニィは、ライラにもたれ掛かっているドリスを見た。
「ドリス様。大変不躾なお願いで申し訳ございませんが、貴女様の持つ指輪を頂きたいのです。
それさえ頂ければ、我々はこれ以上ハニィロップに手を出すつもりはございません」
「指輪……?」
オドの循環は元に戻ったようだが、体調は元に戻っていないのか、青白い顔で眉を顰める。
「割り込んで悪いのですが、そちらの仮面の殿方。
元々指輪を目的としての侵入なのに、いきなり剣をサロンの中へ投げ入れてきたのですか?
あのようなやり方では、交渉もなにもないでしょう?
そのつもりがあるのでしたら、もう少し穏便な侵入方法もあったでしょうに」
ユノがそう口にすると、サニィがクラウドへ視線を向けた。
彼はそれを誤魔化すように顔をそっぽに向ける。
サニィはこめかみを親指でグリグリとやってから、小さく嘆息した。
「戦闘が発生していた理由は理解しました。
弁明するつもりもございませんわ」
ちなみに、ユノが先手必勝で花術をブッパしたのは、この際、些末事である。口にしなければ誰も気にしないだろう。
そんな会話をしていると、ドリスは何かを思い出したのか、サニィに訊ねた。
「もしかして、王位継承権を示す、指輪のコトですか?」
「ええ。それです。我々は故あって、青い宝石の付いた指輪を求めているのです」
(あれ……? なんかどっかで見たコトあるような……)
サニィの言葉に、ユノの中に何か引っかかりが生まれる。
「……それでしたら、ありません」
「そのような嘘を付かず、素直に――」
「はい。本来であれば嘘としか思えない話であるのは重々承知なのですが、事実です」
「そんなコトが……」
確かに普通は継承権を示す指輪を紛失するなどということは想定していないだろう。
「とはいえ、それではあなた方は納得しませんでしょう?
ですので――どこにあるかまでは存じませんが、知っている範囲でお答えいたしましょう」
ユノがちらりとドリスを見ると、青い顔ながらも任せろという表情で目配せをしてくる。
それを信用し、ユノは小さくうなずいた。
「以前買っていたペット――岩喰いトカゲが、餌と間違えて食べてしまったのです」
「……そのトカゲはどこに?」
「私を王にしたくない敵対派閥の方々の采配によって、ソルティス岩野へと放たれ、野生に帰ってしまいました」
(……どっかで聞いたことある話ね……)
嫌な予感をヒシヒシと感じる。
サニィは値踏みするようにドリスを見ていたが、そこに嘘はないと感じたのか、やれやれと嘆息した。
「無駄足だったのですね――ですが、その情報が得られただけ、よしといたしましょう」
「いつまで気取ってんだよサニィ。こういう時のお前はもっとこう乱暴だろう? 声もなんか低いしさ」
「ああッ、もうッ! クラウドうっさいッ! アンタの仕事の尻拭いしてるんだから黙ってなさいってのッ!」
そう叫んでクラウドを蹴り飛ばした時の仕草と、その声は間違いなく――
「そんな驚かないでよ、ユーノストメア。こっちだって驚いてるんだから」
告げて、彼女は仮面を外した。
「既に捨てた名前ではあるけれど、せっかくですので敢えて名乗らせて頂きますわ。
ユーノストメア・ルージュレッドと申します。本来は三節名なのですけれど、母親ともども父には捨てられてしまいましたので、二節となっておりました。
今は、サニィと名乗っておりますので、そちらでお呼び下さいませ」
ユノと同じ名前のユノと同じ顔をした少女は、けれどもユノが浮かべることのない、底の見えない昏い笑顔を浮かべて、完璧なカーテシーをしてみせた。
ユズリハ先生の授業以降、こっそり葉術を練習し、名前も色々考えていたユノとライラ。
ユズリハはクラウドに気に入られてしまい大変迷惑な気分。
ちなみに、ユノとライラはちょいちょい素に戻り喋り方が乱れますが、慣れてるユズリハはこんな状態でも従者としての喋り方が乱れません。
この辺は経験と年期の差。
「年期とかいわないで。まだそんな年じゃ無いもん!」
そんな感じで次回に続きます。
次回は、国宝に会いに行ければ良いなーと思ってます。
……が、ここ最近ちょっと体調を崩してまして、これが長引いたりした場合もしかしたら来週の更新はないかもしれません。
ここのところ暑くなってきておりますし、皆さんも体調にはお気を付け下さいませ。