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女勇者セレス――迷走する世界の中で  作者: 松宮星
過ぎ去りし日々と未来
18/25

仲間 2話

 すごいです、さすがカルヴェル様!



 どのような魔が来ようとも、カルヴェル様の攻撃に変化はない。

 四方と上空に、炎水風土氷雷の攻撃魔法を同時に放たれ続けるばかりだ。

 相性をみて、魔法を切り替えたりもなさらない。

 不利とされる相手……たとえば、炎攻撃中の正面から水棲の憑依体に宿った魔が来ても、同じ魔法を使い続ける。そして、周囲の敵もろとも消し去ってしまうのだ。圧倒的な力があれば、相性の悪さなど関係なく敵を倒せるものなのか。

 一体、どれぐらいの数の敵を倒されたのだろう?

 千はいっているのではないかと思う。

 オレ達に近寄ろうとする敵は、どんどん倒されてゆく。

 一匹とりともカルヴェル様の攻撃の嵐をかいくぐれない。一度に何十匹の敵を葬る事すらある。



 セレス様も微笑んで、カルヴェル様をご覧になっていらっしゃる。

 カルヴェル様が共に戦ってくださる事を、心から喜んでいらっしゃるのだ。

 カルヴェル様がすごい事はオレも知っていたのだけれども……こうして戦われる姿を実際に目にして、本当に偉大な方だって、よくわかった。

 カルヴェル様と一緒なら、絶対、セレス様を大魔王からお守りできる。

 そう確信が持てた。



 魔の瘴気に満ちた空間をカルヴェル様と共に進み、やがて他と違う場所にやってきた。

 異次元通路がある。

 それも複数。

 一箇所に何百という扉が重なっている……そんな感じで、空間にズレができている。

 闇に浮かぶ扉の先には何百という空間が続いている。その全ての気配が漏れてきているのか、すごい落ち着かない。

 うまく言えないけれども、狂っている……

 そう感じだ。



「次元通路じゃな……したが、これは」

 カルヴェル様が難しい顔をなさる。

「入口も出口も複数、重なっておる。行先が安定しておらぬようじゃ」

「だが、道はここしかない」

 アジャンさんが絶対の自信を持って断言する。

 オレとアジャンさんとカルヴェル様が、何重にも重なった次元通路の入口を見つめる。


「それが上階への通路ならば、上へ行く方法があるはずです。一定時間ごとに次元通路の行き先が変化している可能性もありますし、外部より『鍵』となる刺激を与えれば上階への道が開くのかもしれません」

 と、ナーダ様。頭を丸められ、久々に僧衣をまとわれている。ナーダ様の目は次元通路を捉えられないので、少しズレた空間をご覧になっている。

「過去見で確認中じゃが……ここを利用するモノは無造作に入っているようにしか見えん。法則性が発見できん」

 そうおっしゃって、カルヴェル様が白い顎髭を撫でられ、魔法使いの杖の杖底で足元をコツコツと叩かれる。


「魔の気では見極められませぬか?」

 と、ジライさん。何時もと同じ覆面に忍者装束姿だ。背には忍者刀、腰にあるのが『ムラクモ』だ。

「瘴気の最も濃い行き先が、大魔王の元へ通じている可能性が高いのでは?」

「まあ、そうやもしれぬが……逆に、こちらがそう考えると見越しての罠かもしれん。飛んで行った先は今世ではなく、瘴気の充満した魔界……なんてこともありうる」

「む」


「でも、ここが通路なんでしょ?」

 そうおっしゃってセレス様が、アジャンさんをご覧になる。

 白銀の鎧姿の凛々しいお姿。背には『勇者の剣』を背負われている。

「ここ以外に、他の場所に通じる道はない」

 アジャンさんの背には、『勇者の剣』よりも大きな両手剣『極光の剣』がある。その逞しい体も、何者にも負けない強い意志に満ちた顔も、本当に頼りがいがある。

「じゃあ、進むしかないわ。私達は大魔王を倒す為にここへ来たのだもの。足を止めてなんかいられない」と、セレス様。


「魔界行きの道かもしれないんだぜ」

 アジャンさんが皮肉めいて言うと、セレス様はにっこりと微笑まれた。

「大丈夫よ」

 そして、きっぱりとおっしゃる。

「あなたの目が最悪の道を選ぶはずがない。その点においてだけは、私、全面的にあなたを信頼しているもの。どのタイミングで何処へ飛び込んだらいいか指示してちょうだい、アジャン」

「ケッ! 偉そうな事言って、人任せかよ」

 アジャンさんがムスッとした顔をなさる。

「うむ、まあ、進むしかないなあ」

 と、カルヴェル様もニコニコ笑われる。

「皆、武器を抜いておけ。次元通路が安定しておらぬということは、同じ場所に出られるとは限らぬという事じゃ。皆、バラバラの空間に放り出されるやもしれん」


 つづいてナーダ様が真面目な顔でおっしゃる。

「各自、結界の護符の準備を。それと、カルヴェル様に目印の魔法道具(マジック・アイテム)を、皆、いったん預けてください。魔法道具の波動を覚えていただきましょう」

「それは必要ない。直接、手にせんでも覚えられる。おぬしらの荷物の中の魔法道具の波動はもう覚えたわい。それに、勇者一行全員の魂は既に知っておる。異界でバラバラとなっても、わしが探してやるゆえ下手に動き回るでないぞ。次から次へと次元通路にはまられては、いかなわしとて追い切れぬ」

「了解しました。はぐれた場合はその場を動かずに、ですね」と、セレス様。

「幼児の迷子かよ」と、面白くなさそうに、アジャンさん。

「カルヴェル様がいらっしゃると、本当、心強いですよね」と、何故か溜息まじりにナーダ様。

 ジライさんは無言で荷物の点検を始めた。


 オレは胸元の結界の護符のある位置を意識した。

『龍の爪』を装備して両手がふさがっているオレの為に、ナーダ様は結界の護符を簡単に発動できるよう護符の術の書き換えをしてくださっている。右足の爪先で呪言葉を描くだけで護符は、発動する。

 行先は息のできない水中かもしれない。灼熱の炎の中かもしれない。

 異常を感じたら、すぐに護符を発動させなければ命にかかわる。



 アジャンさんに接触している方がはぐれないとカルヴェル様がおっしゃったので、カルヴェル様は杖頭をアジャンさんの左肩に置き、右腕にはセレス様が、左腕にナーダ様とジライさんが触れられる。オレは『龍の爪』があるので、アジャンさんの背に上半身を預ける形で接触した。『極光の剣』の鞘にくっつくような形だ。

 気色悪いと文句を言いつつ、しばらく睨むように異次元通路を見つめていたアジャンさん。

「今だ」

 アジャンさんの合図でオレ達は前進した。


 

 次元通路から次元通路へ。



 さまざまな空間を、カルヴェル様の結界に守られながら移動する。

 


 遠くに光が点滅している闇の世界。

 紫と赤の靄が漂っている空間。

 全てが凍りついた大地。

 魔が蠢く瘴気だけの場所。

 厳しい日差しが照りつける砂漠。

 生き物のようにさざめく緑の海。



 いろんな世界に出現しては次の世界へと、オレ達はアジャンさんの先導で進む。



 幾つかの世界を通り過ぎた時、それまでとは明らかに違う感覚を覚えた。

 何か変だと、気づいた時には手遅れだった。

 足元に違和感を感じた時には、アジャンさんの背は消えていた。



 気がつけば、オレは一人だった。

 右足で呪言葉を急ぎ描き、結界を張った。

 周囲は闇だ。

 誰の気配もない。



 皆から、はぐれてしまったようだ。

『はぐれた場合はその場を動かず』待つ。

 オレは何も見えぬ闇の世界を見渡した。味方であれ敵であれ、誰かが姿を現わすのを待って。



「シャオロン」

 声と共に、闇を白い光が照らす。

 闇に慣れた目には最初、それは痛いだけだった。が、やがてその眩しさにも慣れ、光の中に居る者達を目が捉える。



 正直……

 又か、と怒りを感じた。



 どうして、こんなくだらぬ罠を仕掛けてくるのか……



 光の中には、オレの家族がいた。

 二年前の夏に死んだはずの家族が、だ。

 母さんも兄さん達も、皆、にこやかな顔で 父さんでさえ穏やかな笑みを口元に浮かべていた。

 手を広げ、さあ、おいでと偽の家族がオレを呼ぶ。


 こんな偽物を見せて、どうするつもりなのだ?


 オレが誘惑され偽の家族の元へふらふら歩いて行くとでも?


 それとも……

 又、殺せと……


 オレに家族を殺させたいのか……?



 目の前の家族は、偽物だ。

 魔族が扮しているのか、幻なのかは知らないが……オレの家族は、皆、死んでいるのだ。本物ではない。



 オレは『龍の爪』を構えた。

 腰をややかがめ、右手の爪を家族に向けて構え、左手の爪は爪先を下に向けて垂らした。



 偽の家族を見せつけられるのは不快だった。が、怒りのままに行動しては愚かだ。

 オレはここを動いてはいけない。

 目の前の者達が牙をむいて襲い来るのなら、この場で迎え撃ち戦う。

 そうでなければ……何もしない。救援を静かに待つだけだ。



「シャオロン、何してるんだよ、早く来いよ」

 笑いながら、タオ兄さんが近づいて来る。

 兄さんが小さく見える。変だなと思ってから、じきに気づく。オレのすぐ上だったタオ兄さん。オレは、今、兄さんが亡くなった時と同い年になっているのだ。背はほぼ一緒になっているのだ。

 


 カーッ! と、頭に血が上がった。

 不愉快だった。

 思い出を汚され、家族の死を冒涜されたのだ。

 だが、動いてはいけない。

 オレは近づいて来る、タオ兄さんを睨みつけた。

「何、怒ってるんだよ、シャオロン」

 兄さんの顔をした者が、兄さんのように笑い、そして……

 オレへと右手を伸ばしてきたのだ。

 結界などおかまいなしだ。

 タオ兄さんそっくりのものは、いともたやすく結界を突き破って、オレの右手に触れる。

 

 え?


 偽の兄さんがオレと手をつなぐ。

 兄さんの右手が、オレの右手を握ったのだ。

 オレの右手には、そこにあるはずの『龍の爪』が無い。


 幻術だ……騙されるな、オレの右手には『龍の爪』がある。


 兄さんが笑いながら、オレをひっぱる。

 ひっぱられてよろけながら、オレは進む。

 兄さんが大きい……いや、小さい。

 背はオレよりも大きくなった。でも、子供に戻っている。どう見ても五〜六才だ。

 そして、二つ年下のオレはもっと小さくなっている。

 周囲は緑の野原。家族全員で行楽に来たというような感じだ。父さん達も皆、若返っている。


 幻術だ。オレはセレス様の従者だ。十四歳だ。『龍の爪』の振るい手なんだ……


「どうした、末っ子。この甘えん坊め」

 ヤン兄さんがあたたかく笑って、オレをひょいとかかえあげ……

 そして……

 肩車をしてくれたのだ。

 

 涙が出そうだ……


 やめてくれと叫びたいが声が出ない……


 武術一辺倒で子供達を顧みない父さんに代わって、一番上のヤン兄さんはオレやタオ兄さんをかわいがってくれた。

 オレは兄さんに肩車されるのが大好きだった……



 母さんが口元に手をあてて笑い、オレとヤン兄さんを見ている。

 ヤン兄さんの足元でオレもオレもとせがむタオ兄さんを、ティエンレン兄さんがよいしょと胸に抱える。でも、ティエンレン兄さんもオレより五つ上なだけだ。低すぎると、タオ兄さんが文句を言う。

 二男のフェイホン兄さんがやれやれと肩をすくめ、タオ兄さんを肩車する。タオ兄さんは、まだ低いと文句を言って、足をジタバタさせる。

 そんなオレ達を見て、父さんが静かに微笑んでいる。

 オレ達を慈しむように見つめている。


 何故、こんな……


 こんな幻をオレに見せる……


 オレは泣きたい気持ちで、ヤン兄さんの頭にのせていた両手を左右に引いた。

 目には映らなくとも、そこには『龍の爪』があるはず。

 魔のつくった汚らわしいものならば、これで祓えるはずだ。


 けれども……


「よせよ、シャオロン、爪をたてるな、痛いじゃないか」

 ヤン兄さんが快活に笑い、降参、降参とおどけてみせる。

 オレを見てタオ兄さんが真似をしてフェイホン兄さんの髪をくしゃくしゃに掻き回し、『クソガキ! 落すぞ!』と、兄さんに脅されていた。

 ティエンレン兄さんが、腹をかかえて笑う。 


 やめてくれ……


 皆、死んだんだ……

 何で、こんな幻をオレに見せるんだ…… 

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