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用務員さんは勇者じゃありませんので 作者:棚花尋平

第一章 雪山で、引きこもる。

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20-ハンター協会②

 
 人の目の色が変わる瞬間であった。
 蔵人は奥に通され、ついたての後ろで主要な精霊をそれぞれに封じた指輪を全てつけたうえで、魔力を流すようにいわれた。
 言われた通りに蔵人が魔力を流した結果、ハンター協会の職員の目は『白槍』の隊長が連れてきた得体のしれない新人を見るものから、落ちこぼれの新人を見る目に変わった。
 職員は侮りや憐れみの入り混じった感情を隠さないまま、ひどく簡略に蔵人に説明した。

 蔵人は闇の精霊に最も親和性があった。
 次いで氷、それから順に、土、水、風、雷と続き、火を挟んで、光が最も相性が悪かった。闇がぶっちぎりで親和性が高く、光がぶっちぎりで相性最悪らしい。

 一般に生活する上では親和性はさほど関わりがない。現に蔵人も問題なく火や光を扱っていた。
 では何が問題かといえば、例えば鍛冶や海運、火消し、農業、土木、兵士など精霊を活用する特定の業種では親和性が重要視される。鍛冶ならば火でより強い火力を扱え、海運ならば風又は水でより安全、より早く航行ができる。火消しでは水次いで火、農業は土または水、土木では土、兵士ならば殺傷力の高い火や雷、光といったようにそれぞれの分野で適性の高いものは重宝された。
 ではハンターはどうか。
 一見『闇』は隠密に秀でて良さそうなものだが、その力が最も発揮される夜にわざわざ狩りに行く者はいない。夜の狩りは闇を苦にしない魔獣や怪物(モンスター)が有利であり、単純に危険だからだ。
 そのうえ、攻撃能力も皆無であった。
 『氷』は、雪のない土地では精霊自体が少ない。獲物の保存などにはいいが、それではハンターではなく、ハンターや探索者に雇われることの多い運び屋(ポーター)である。

 それを当然知っている職員は目に見えて蔵人を侮っていたのだった。
 しかし蔵人はといえば、適性が知れてラッキー程度にしか思っていない。
 あくまでハンターで一流を目指すのは難しい、精霊魔法の親和性がハンター向きではないというだけである。現代日本で狭い範囲とはいえ自分の適性がはっきりわかることはまずない。若ければなおさらで、それがこんな早い段階からはっきりわかるというのは僥倖であるとすら考えていた。
 もしかすると、自分がわかっていないだけで、現代日本ではみな適性がわかっていたのかないなぁと、そっちのほうに凹んでいたりした。

「巨人種も精霊魔法の親和性が高いほうじゃねえからな。自律魔法、命精魔法、武器の扱いなんかもある、あまり気にすんな」
 適性なんて気にしていないという風のマクシームに職員は苦笑いを浮かべる。
 確かに巨人種の精霊魔法の親和性は狭いが、強靭な肉体をもつ上に、命精魔法の行使を得意としているのだから比べ物になるわけがない。
「マクシームさん、少し話を伺いたいのですが」
 苦笑を引っ込めた職員にマクシームがうなづく。
「おう。クランドは依頼書でも眺めながら待っててくれ。まあ、この時間じゃ塩漬けになったのしかねえだろうけどな」
 そういって職員と連れだって奥の部屋に身体をかがめて入って行った。

 害獣駆除・害虫駆除・魔獣の捕獲・特殊な薬草の採取・山脈調査の護衛などの依頼書が張られていた。 依頼書は受付カウンターの真横の掲示板に貼りつけられていた。
 貼り付けられている依頼書は期日が決められていないものがほとんどで、依頼開始日が半年前のもあった。こういうたぐいの依頼を『塩漬け』というのだな蔵人は一人で納得していた。

「『白槍』の隊長サマがどんな優秀なのを連れてきやがったかと思ったが、とんだハズレじゃねぇか」
「クックッ、ポーターでもやりゃいんだよ」
「ハンターになりにきて、ポーターとかもう人生終わってるな」
 禿げた筋肉ダルマとチンピラ二人が蔵人の背後から挑発的にいった。
 蔵人は答えることもなく、フイっと掲示板を離れる。
 その肩を筋肉ダルマが力任せに掴んでとめる。
「おいおい、ハンターなのに礼儀がなっちゃねえな」
「おい、こいつ三剣角鹿(アロメリ)の角なんてもってやがる」
「いつの時代のハンターだよ。売ったほうがよっぽどカネになるぜ」
「まだ、ハンターじゃねえだろ。なら武器所持許可もねえんだ、オレたちが預かっといてやるよ」
 蔵人の腰に渡した三本の角を奪おうとするチンピラ。
 当然そんなことを蔵人が許すわけもなく、反射的に身をかわす。チンピラの動きはそれほど速くないようではあった。
 しかし、かすかではあるが、蔵人の足が禿げた筋肉ダルマの足先を踏んだ。
「てめえっ」
 瞬間のことである。
 蔵人の腹部に禿げた筋肉ダルマの拳が迫った。それ自体は見えてるような気がしたが、蔵人はそれを無防備にもらってしまった。
 石の壁に叩きつけられる。
 蔵人は筋肉が委縮したように動かなかった。それでいて頭には血が上ったようになっていた。
「ああん、ホントにハズレかよ」
 横にいたチンピラはうずくまる蔵人から角を奪おうと腰を屈めた。
 上から、ポトっと蔵人の上に細い鎖のついたドッグタグが落ちた。
「これで問題ねえだろ。それでも奪うんなら、現行犯だぜ」
 背後から現れたマクシームに気づいた三人はそれぞれに舌打ちをして、去っていった。
「……立てよ。効いちゃいねえんだろ」
 蔵人はドッグタグを取り上げながらのそりと立ちあがる。
「思ったより、動かないもんだな」
「ああん?何言ってやがる。命精魔法で強化までしやがったくせに」
「対人戦は初めてなもんで」
 マクシームは一瞬ポカンとかしたが、すぐに理解する。
「まあ、いままで山ん中にいたわけだしな。まあ、ケンカは慣れだ」
「あんたは得意そうだな」

「得意も何も王国のハンターの喧嘩の半分くらいはこの人といっても過言ではないですよ」
 蔵人の登録をした職員がマクシームの後ろからいった。
「ともあれ、ハンター同士の私闘は厳禁です。支部内での抜剣、魔法行使も禁止してますので気をつけて下さい」
「……俺が被害者なんだか」
 職員は冷たい表情を変えないでいう。
「どのような理由があろうとも許可なく魔法を行使するのは禁止です」
「人に絡むのはいいのか?」
「アナタが許可なく武器を所持しているようにみえたからです」
「殴ってもいいのか?」
「アナタが抵抗したからです」
「殴られたんだが」
「魔法、武器以外の方法で対処してください。ハンターなんですから」
 にべもないとはこのことである。
「ドアから火弾が飛び込んできたときは真っ先にあんたに当たるように祈っておくよ」
「支部員は魔法の行使を認められておりますので」
 本当ににべもないことである。
 蔵人は日本もこの世界も変わらないなと顔をしかめた。
「まあ今回は初めてということで見逃しますが、次はありませんよ。そのタグですが、仮の十つ星(ルテレラ)とはいえハンター証です。身分証、武器所持許可、第三級魔法行使許可はそれ一枚で証明できますので肌身離さず持ち歩いてください。失くした場合、罰則がつきますのでご注意を」
 そう言って職員は受付カウンターに戻ってしまった。

「まあ、落ちつけ。アカリのこともあるからな、オレへの当てつけがお前にいってる部分もある。どこの支部もこうなわけじゃない。まあ、どこのルールもこことかわらないがな」
 蔵人はふーんと鼻をならしているが、どこか機嫌が悪そうであった。
 何を考えてるかわからない顔、という奴である。
「とりあえず、常時駆除の依頼でも受けておくか。オレは明日にでも村をでなきゃならなくなったしな」
「ずいぶんと急ぐんだな」
「上からの呼び出しでな」
 そんな風にいいながら受付に向かうと、例の職員が嫌そうな顔を向けてきた。
「まだなにか?」
「ちげえよ。トラボックの駆除依頼をな」
「ああ、それですか。それではこちらに署名を、とこちらで書きますね」
「名前だけか?」
「そうです」
「さっきの申請書を見せてくれ……なるほど、蔵人っていうのはこう書けばいいのか」
 そういいながら申請書の自分の名前を見ながら書き写す蔵人。
「マクシーム、これで合ってるか?」
「ん、おお、読める読める」
「……ハンター証を」
 蔵人がハンター証を渡すと職員はそれを受け取り、カウンターの向こうで作業したようだった。
「では、これでトラボックの駆除依頼を受注完了しました。トラボックの討伐証明部位は破損のない緑石ですのでご注意を」
 マクシームが立ち去ろうとするが、蔵人は動かない。
「――受注書の写しは?」


「クックックッ、それにしてもよく写しなんてしってたな。でかい街でもなけりゃ誰も知らねえぜ」
「普通に考えれば当たり前だろ?」
「そんなこまけえことハンターは考えねえよ」
 マクシームの泊まる宿に到着した二人は、アカリの部屋を引き払って、かわりに蔵人の部屋をとった。とりあえず三泊分、宿代はマクシーム持ちであった。
 アカリの荷物はすでにドルガンの官憲が押さえており、どうしようもなく、やはり蔵人の金稼ぎは必然であった。
「あれ、よく考えればマクシームが金出してもの買えばいいんじゃ」
「……オレが帰ってこれなかったらどうする」
 マクシームが真顔でいう。
「ああ、そうか」
 蔵人はもらったハンター証をくるくると見まわす。
「そういえば一枚しかないんだな、俺のは」
「ん、ああ、お前のはハンター協会だけしかないからな」
「それ以外にもあんのか?」
「ああ、オレは傭兵仲介業組合と探索者ギルドも入っていたからな。まあ、今は国の雇われだからな、傭兵のほうはほとんど失効してるんじゃねえか。ついでだ、ハンターについても説明しておく」

 マクシームはその後、かなりざっくりとしたものではあったが、蔵人に説明した。
 この辺がマメなあたり、さすが国所属のハンターである。


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