挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
用務員さんは勇者じゃありませんので 作者:棚花尋平

第一章 雪山で、引きこもる。

21/141

21-ハンター協会③

 
 蔵人は久しぶりのベッド睡眠を堪能した。
 たとえ、木製の骨組にうすっぺらな何かが敷かれた安ベッドだとしても、地べたに直接寝るよりは遥かに寝心地はいい。
 ベッドか布団か、せめて毛布かと、しばらく自然児生活していた蔵人に快適な生活というものを意識させた。

 昨夜マクシームは蔵人にハンターについて説明した。
 蔵人がそれほどハンターというものに興味を抱いていないことをマクシームは惜しんだ。

 国家、街、村、個人から依頼を受けて、魔獣や動植物を狩猟する者をハンターという。
 そしてそれらを統括するのがハンター協会の役割である。
 かつては冒険者ギルドといって国境をもたない大組織であったが、現在はハンター協会、探索者ギルド、傭兵仲介業組合へと分離し、それぞれがそれぞれの国と密接な関係となっていた。
 ハンターは国や協会に雇用された公的なハンターを除き、雇用形態は請負契約となる。つまりは仕事を受け、仕事の完了でもって、報酬をもらう。その方法については法を順守する限り問わないが、全て自己責任となるのである。
 が、それでは契約者間でトラブルが頻発するので、ハンター協会が間に入って摩擦を減らしている。
 そうなるとハンター協会に大きな戦力が集まるため、ハンター協会の前進であった冒険者ギルドは大きな王国に匹敵する不可侵の戦力を保持していたが、それを危惧した各国家は精霊魔法の台頭による近代国家の成立とともに冒険者ギルドを分離し、それぞれを各国家に吸収した。
 今でもハンター協会同士の横のつながりや傭兵仲介業組合、探索者ギルドとのパイプはあるものの、協会の方針は各国の意向に左右される。
 それゆえ、今回のような騒動が起こってしまったともいえた。

 ハンター証には星と呼ばれる能力に応じた階級があり、それは十つ星(ルテレラ)から始まり、一つ星(リグセルプ)でハンターの頂点となる。
 その他に採取や海、空といった特別な技能や特殊な狩りに対応できる能力をもったハンターには通常の星の他に、十段階評価で色違いの星が与えられることである。
 ハンター協会から紹介される依頼に色の指定の場合は色がなければ受けられなかったり、依頼に色が併記されいる場合は一番高い星を基準にして依頼を受けることができた。

 当然ながら蔵人の星は無色の十つ星(ルテレラ)で、マクシームの星は王国専属ハンターとして当然ながら一つ星(リグセルプ)であった。
 無色ではあったが。

 その他に、大暴走(スタンピード)怪物(モンスター)の襲撃、その他のハンター協会が緊急時と判断した場合は周辺にいるハンターに強制依頼制度、特定のハンターを指名して依頼をする指名依頼制度などをマクシームが説明したころには、夜は随分と深まっていた。

 早朝、五時三〇分。
 この世界も二十四時間で一日と計算されるようだと、朝日がわずかに差し込んだ宿の食堂に備え付けられた時計をみた。
 蔵人の安腕時計はすでに電池切れで洞窟においてあった。
「はええな」
 ギィと木製のドアを開いてマクシームが顔をだした。
 椅子とテーブル、ドアなどは使い古された木製、床と壁は石を積んでつくられていた。
 そこから顔をだす西洋彫刻のような神話の赤毛赤髭の巨人。
 完全にファンタジーだなと、蔵人はひとり感動していた。
「山だとこれより前に起きるしな。習慣だ」
「ハンターとしてやっていくならいい習慣だぜ。このぐらいの時間から協会も混みだすしな」
 蔵人はへーといいながら立ちあがった。
「おし、いくか」
 二人は朝食もとらずに、宿をでた。


 マクシームは今日の内にローラナ本国に戻るといった。
 ハンター登録や依頼受注を急いだのはそういうわけであった。
「トラボックは……みたほうが早いか、おう、あそこに転がってるな」
 なぜか上半身裸のマクシームは荒野の先を指差した。

 あのあと、マクシームと蔵人の二人はすぐに村の門をでた。
 村の背後にあるのがアレルドゥリア山脈、土が踏み固められた正面の道をいけばローラナ、その正面の道の周囲に広がるのが、二人が現在いる荒野である。
 乾いた土と石、そこに点在する葉の少ない低木と雑草のみが延々と広がっていた。

 マクシームが指差した先、そこにはコロコロと軽快に転がる草の玉があった。
 蔵人はつまらなそうな顔をする。
「そんな顔するんじゃねえよ。ハンターになった奴はどんな奴でもまずコイツを狩るのさ」
「狩るというか、刈るだよな」
「魔草だな。まあ魔法なんて使ってこないどころか、ただの草だからな」
「どこがキケンなんだ」
「基本的には無害だな。そのへんの草や木を絡め取っちまうこと以外は」
「……うわぁ、地味に嫌な魔草だな」
「年に何度かはこの辺でも大規模駆除されるんだが、それでもちと足りねえからハンターに常時依頼がある。そうじゃねえとこのへん一帯砂漠になっちまうからな」
 そういってマクシームは手近に転がってきたトラボックをつかみあげて、腰のナイフで枯れ草と生草の混じった玉を真っ二つにした。
 真っ二つにされたトラボックの中心には親指の爪ほどの緑石があった。
「今は説明すんのに二つに割ったが、この緑石が討伐証明部位になるから傷つけんなよ。緑石に傷つけたら買い取ってくんねえから。このトラボックの駆除だけは完全な緑石を協会に出さないと報酬がねえんだ……まあ、小遣いにもなんねえかもしれないがこれもハンターの仕事のうちだ」
「一個でいくらくらいに?」
「一個つうか、今なら、二十五個で一ロド、まあパン一個くらいか。そういえば金の単位知ってんのか?」
「それはまた安いな。……単位?知らないよ」
「……本当にお前に頼んでいいのかわからなくなってきたぜ」
「俺もそう思う」
 二人の間にぴゅーと乾いた風が吹き去った。

 一ロドでパン一個。一ロドは紙幣、(百円相当)。
 一ロドは一〇〇シルマ。一シルマは硬貨、(一円相当)。
 他に一〇ロド紙幣、一〇〇ロド紙幣があるとのこと。
 荒野の真ん中で、紙幣と硬貨を取り出して、巨人種と人種が勉強中であった。

 ざっくりと通貨を教えたマクシームは数えていた紙幣と他に取り出した紙幣の束を入れた皮の袋を蔵人にポンと渡す。
「ああはいったが、無一文でアカリを預けるわけにもいかねえし、まあ依頼料のかわりでもある。山が吹雪く前にはなんとかしてみせる。それまで、頼んだぜ」
 オレとしたことが報酬のこと忘れてたぜ、ガハハハハと笑いながら、そういって大きな手を蔵人の肩においた。
「気はのらないんだが、まあ約束したしな」
「おまえって奴は、つくづくよくわからねえな……昔のアカリみてえだ」
 その言葉に飄々とした蔵人の纏う空気がかすかに変わる。
「まあ、オレにとっちゃどうでもいいことだ。約束は守る」
 マクシームは満足そうに笑うと荒野に伸びる踏み固められた道を猛然と走り去った。
「走るのかよ、ていうかだから半裸だったのか」
 残された蔵人は荒野のただ中でポツリとそうこぼした。

「さて、刈るか」
 完全に庭の草むしり感覚であった。
 蔵人は腰から片手剣ほどの三剣角鹿(アロメリ)の角を一本抜く。
 三剣とはいっても角はまっすぐではなく個体によって曲がりくねっている。蔵人のもつものは先が太くなったククリ刀のようなものと、L字型のものが二本の合計三本であった。
 これらは蔵人が最初に解凍して皮をダメにした三剣角鹿(アロメリ)のものであり、最初から刃の部分がついていた。その後、蔵人が生きている三剣角鹿(アロメリ)を遠くから見た限りでは、三剣角鹿(アロメリ)はその角に切断系の固有魔術を作用させて、外敵から身を守り、ナワバリ争いをするようであった。
 もちろん、この角にはすでに魔術はかけられていないが、それでも蔵人に鉄器がない以上、十分に鉈や片手剣として機能していた。
 現に腰から抜いた角を蔵人はククリ刀と呼んでいた。
 蔵人は荒野をゆるゆると歩く。
 なんせ相手は逃げもしなければ隠れもしない。
 ましてや、自ら近づいてくるのだ。
 蔵人は風に吹かれて転がってきたトラボックをひょいとククリ刀でひっかける。
 それをククリ刀の根元で削ぐようにして草木を落とし、緑石を抜く。
 それを繰り返すだけである。
 しかしである。
 抜いた緑石をどうしようか、と蔵人は今更ながら考える。
 擦り切れた作業着、腰に斜めに背負った三本の角、ベルトに差しこまれた大振りのナイフ、紙幣の入った皮袋。これが蔵人のもつ全てである。
 考えた末、蔵人は紙幣の入った皮袋に緑石をいれ、口紐を縛って、腰にぶら下げた。

 太陽が真上にきたころだろうか。
 蔵人の腹がぐーとなった。
 そういえば昨日の夜から食べてないな、と蔵人はトラボックを毟りながら思う。
 緑石を抜いたトラボックはポイと捨てる。緑石の抜かれたトラボックを他のトラボックが吸収することはないらしい。
 一〇〇個ほど貯まったところで蔵人は村に戻ることにした。

 蔵人は荒野のただ中で反射的に身をかがめた。
 すんでのところを人ほどもある大きな鳥が飛んでいった。

 こんな村近くで襲われるとはこの世界もなかなか難儀だなと蔵人の頭上を飛ぶ大きな鳥を見上げる。
 見たことはない。全身は青く、嘴は大きく鋭い。
 蔵人は臆した様子もなく、油断なく、勝手に青大鷲と名づけた鳥を観察する。
 人ではない、獣である。
 蔵人にとってはなれたものである。
 狩るか、狩られるかはさておくとして。

 ククリ刀を地面に突き刺して、腰に斜めに差したL字型の角を取る。
 強化はできるだけゆるやかに、静かに。
 魔獣は魔法の行使を敏感に察知する。それでいつも獲物に逃げられては雪白先生の尻尾の一撃をもらうのである。
 そういえば今日は一人だなと蔵人が呟いたとき、青大鷲が背後上から急降下する。
 急降下にあわせて一撃を振るう蔵人。
 そんなものくらうかといわんばかり青大鷲は空中で身を捻る。
 青大鷲が身体を捻って蔵人が逃れるように低空をいき、再度高空に浮上するその瞬間。
 蔵人のL字型の角、蔵人がブーメランと呼ぶそれが青大鷲に迫った。
 羽を一枚。
 からくも避けた青大鷲の横っ面に突風が吹きつけ、青大鷲はぐらりと身体を揺らす。
 そこに――。
 ――青大鷲の翼の根元に、もう一枚のブーメランが突き刺さった。
 バサッバサッとなんとか空中をもがく青大鷲だったが、ついには地面に墜落した。

 地面に伏したとはいえ、人ほどもある鳥である。
 蔵人は地面に差したククリ刀を抜いて、慎重に青大鷲に近づいた。
【ギーッ】
 青大鷲は大きな翼をだらりとしたまま立ちあがって蔵人に嘴を向けて突進した。
 しかし、空ほど速さのない突撃を蔵人はひょいと切れた翼のほうによけて、首を切りつけた。
 そしてそのまま距離を取る蔵人。
 わざわざトドメを刺す必要もない。
 翼の根元、そして首の傷は致命傷である。

 待っていれば、死ぬ。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ