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用務員さんは勇者じゃありませんので 作者:棚花尋平

第一章 雪山で、引きこもる。

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19-ハンター協会①

 
 蔵人がなにかを言おうとする前にマクシームは続けた。
「そんなに長くはかからねえ。本国いってから神殿にいって、そしたら迎えにくる」
「神殿?」
 蔵人の問いにアカリが引き継ぐ。
「事実の審判っていうのがあって、その人の潔白を証明してくれます。ちょ、そんな顔しないでください、胡散臭いって顔に書いてありますよ」
 蔵人はまさしく胡散臭そうな顔をしていた。
「だって、なぁ」
「確かに、つい最近までは嘘発見機のような魔法はありませんでした。だけど、いわゆる『勇者』といわれる存在がそれを変えました」
「……なるほど」
「ええ、『精霊の贈り物』(ドゥフバダラ)『神の加護』(プロヴィデンス)と呼ばれる勇者の力です。彼女の力は『事実の大鎌』(ファクトサイス)といって『彼女』の問いに対し、嘘をつけば最悪死に至るというものです。もちろん、それが事実なら傷一つありません」
「それはまた面倒なことになりそうな力だな」
 アカリは苦笑する。
「ええ、その通りです。ですから彼女は自分の力の行使に当たり、自分が求める条件をのめる国又は組織に属する、と宣言しました」

(一つ、事実の審判として、自身の求める条件を含む新しい制度と場所をつくる)
(一つ、制度、審判はありとあらゆる権威権力からの干渉は認めない)
(一つ、この裁判を受けられるのは本人の請願のみで、どのような他者からも強要されてはならない)
(一つ、質問内容は本人に提出されるものとするが、それは厳密なものでなければならない)
(一つ、この儀式は本人の申し立てる事実のみを証明する。他の証明にはならない)
(一つ、この儀式の最上級審判は各国に通達される。それ以外は当事国にのみとどまる)
(一つ、通常審判とは傷の有無でその事実を証明する。最上級審判とはその命を賭けて潔白を証明する)

「へえ、随分考えてんだな」
「当時、三年生だったんですが、凛々しい人ですよ。警察官か弁護士になりたかったらしいです」
「まあ、上手くいけば、だが」
「……ちょくちょく余計なこといいますよね」
「くせみたいなもんだ。で、それを神殿とやらがのんだと。ずいぶん力のあるところみたいだな」
 事実を担保する力がなければ意味がないとはいえ、ずいぶんと世知辛いもんだと蔵人は雪山にきたのも捨てたもんじゃないと二つ目の肉塊にかぶりつく雪白の背をなでた。
「……はい。エリプスの主要宗教の一つ、サンドラ教が彼女を受け入れ、総本山であるプロヴン西方市国に神殿を作り、事実の審判を始めました。……いまだその制度が用いられたことはありませんけども」
「で、その審判を受けるために神殿にわたりをつける、と」
 アカリの横でマクシームが頷いた。
「マクシームさんにはご面倒をおかけしてしまいますが、それしかありません」
「なんていうか、面倒な事になってるな」
 それをきいてアカリは盛大に溜息をはく。
「マクシームさんに話を聞いて、私もがっくりきましたよ。ほんと、面倒です」
「もう出家でもしちまえばいいんだよ」
 蔵人はからかうよういった。
「そんなわけにはいきませんよ、信心なんてないですし」
「だろうな、現代っ子の許容できる宗教なんて、そんな都合のいいもんねぇだろうし」
「というわけでだ、ジョンにはそれまでアカリを預かって――」
「「――ジョン?」」
 アカリはハテナマークを受かべ、偽名に気づいた蔵人はクックッと笑いだした。
 ピキッとマクシームのこめかみに青筋がたつ。
「すまんすまん、忘れてた。蔵人だ」
 マクシームは自らを落ち着かせるように大きく息を吐いた。
「クランドか。なるほどな、どこから来たか気になるところだが」
「とっぷしーくれっとです」
「……まあいい、そういうことだ。構わねぇか?」
 マクシームとアカリの視線が蔵人に集まった。


 翌朝。
 薄暗い洞窟内に朝日が差し込み、山の澄んだ空気が流れ込んだ。
「いいんですか?」
 外に出て伸びをしていた蔵人と雪白の背後からアカリが声をかけた。
「マクシームは?」
「まだ大イビキで寝てますよ」
「あれは公害だな」
「慣れですよ。で、本当にいいんですか?」
「アカリを生死不明扱いのまま匿えばいいんだろ。それくらいなら問題ない」
「でも万が一、知られたら」
「アカリのときみたいになるかもしれないだろ」
「……もし違ったら」
 さあな、と言って蔵人は踵を返し、洞窟に戻っていった。
 そのすれ違い様の横顔がアカリには妙に気になった。

「クランド、お前も山をおりろ」
 蔵人は何言ってんだコイツという顔をする。
「今回、アカリの荷物はもってきてねえ。下手に動かすと色々勘繰られるしな」
「だからなんだよ」
「オレやお前なら着たっきりでいいが、アカリはそうはいかねえ」
「……ああ、なるほど」
 蔵人はひどく嫌そうな顔をした。
「だからお前をハンター協会に推薦する」
 蔵人はさらに嫌そうな顔をした。
「そう嫌そうな顔すんじゃねえよ。アカリのことがあって信用できねえかもしれねえが、ハンター証は身分証にもなる。お前にも損はねえ」
「そんな無理しないでも」
 アカリは控えめにそういうが、年下の女生徒にかばわれては蔵人とていい気分はしない。
「わかったよ」
 蔵人はため息交じりにそれだけいった。


 アカリに見送られて、蔵人はマクシームとともに山を降りた。
 雪白には途中の大棘地蜘蛛(アトラバシク)を引きつけてもらい、そのまま洞窟のアカリを頼んだ。さすがに村へ連れていくわけにもいかなかった。雪白は少々不満げであったが。

「――イルニークに養ってもらってるだけじゃねえんだな」
 山をひょいひょいとくだる蔵人をみてマクシームは感心していった。
「じゃなきゃ生きていけないからな」
 マクシームのように体力任せに爆走するのではなく、蔵人は山猫かなにかのようにスルリと下りていた。それこそ雪白の薫陶の賜物であろう。

 日の落ち切る前に、二人は村の門をくぐることができた。
 入り口ではひと悶着あったが、マクシームの肩書一つで強引に入ることができた。
「意外に権力者だったんだな」
「フン、この程度、権力でもなんでもねえよ」
 夕暮れに染まる村を二人は歩く。
 門から村を縦断する一本道に密集して立ち並ぶ、煙突のついた石造りの小さな家からは炊飯の煙が上がっていた。
 道に面した商店などは飲食店をのぞいて、もう閉まっているようだった。
 閉まった商店のドアを叩いて何か交渉している村人をみると、まったく融通がきかないというわけでもないようであった。小さな村である、助け合いという奴であろう。

 二人が一本道を歩いていると周囲からはひそひそと声と視線が集まっていた。
 門番とのひと悶着と同じ原因であるのは蔵人にもなんとなくわかった。
「山に捨てられた子どもがなんとか生活して生きていたことにする」
 マクシームが小声でいった。
 蔵人は頷いた。

 門から入り、一本道をほどなく行ったところにあるハンター協会サレハド支部は、まさしくファンタジーの酒場のような建物だった。
 古ぼけた木製のスイングドアを押して入ると、右手に禿げたバーテンダーのいるカウンターがあって、左手には上階にいく木製の階段があった。
 カウンターでは数人の男が酒を飲んでいた。チンピラのようなものや頭上に犬のような耳をはやしたもの、小柄なドワーフのようなものや、まさしくハンターといった体のもいた。
 彼らのうちにはマクシームが支部に入った瞬間からそれとなく様子を探っているのもいた。
 蔵人はどこか感動したような目でキョロキョロと建物を見回していた。
 マクシームは無言で正面の受付カウンターに向かう。
 蔵人は急ぐことなく、興味深げに周囲を見ながらマクシームの後をおった。

「おう、ハンターに一人、推薦するぜ」
 カウンターにつくなりそういうマクシームを呆れたようにみるカウンターの職員。マクシームが首から外したドッグタグのようなものを受け取りながら、
「一言もなく飛び出したかと思えば、いきなりですか」
「おう、頼むぜ」
「……彼女、いたんですか?」
 職員はさぐるようにマクシームをみる。
「いたように見えるか?」
 マクシームは顔をしかめていった。
「……。で、推薦というのはうしろの青年ですか……見たことのない人種(ひとしゅ)ですね」
「腕は保障するが、仮申請の一番下っ端からでいい」
「連合王国専属狩猟隊『白槍』の隊長推薦ですからね。身元の確認や試験、説明は省きますが、最初の一度は又は数回は指導員をつけますが、よろしいですか」
 アカリのことについて疑義はあるが、マクシームが何かをしているわけではない以上、権限の行使を阻むわけにもいかない。
 職員は淡々と進める。
「おう、かまわねえよ」
「そうですか、ではそちらの方、こちらへ」
 蔵人はカウンターの前に寄った。
「こちらへ名前と出身地を」
「字がかけない」
 職員はぶっきらぼうにいう蔵人の顔を一度見てから、差し出した紙を引っ込める。
「では口頭で」
「クランド。出身は……アレルドゥリア山脈」
 職員はまた、蔵人の顔をみて、そして今度はマクシームを見る。
「アカリを探してるときに拾ったんだよ。ちいせえ頃に親に捨てられたらしくてな、なんとか生き延びていたらしい」
「……わかりました。マクシームさん、確認をお願いします」
「そのままやってくれ」
「わかりました。協会ルールはマクシームさんがきっちりと教えてください。それと、適性判定はされますか?」
「おう、やってくれ」
「そうですか、ここで判定するのも十年ぶりくらいですか」
「普通は学校なんかで終わらせるが、こいつは山ん中にいたしな」
 蔵人の了承も得ずに次から次に物事が決まっていく。
 ぶすっとした蔵人に気づいたマクシームが説明する。

「各精霊との先天的親和性を計る、とかなんとかだったような」

 
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