19 クマさんの二つ名はブラッディベアー
いつもありがとうございます。
本日も宿で朝食を美味しく頂いている。
食事を作らないでいい生活って素晴らしい。
そんな引きこもりの夢を味わっていると、元気良くフィナが入ってくる。
「ユナお姉ちゃん、おはようございます」
「おはよう」
挨拶をして温かいスープを飲む。
温かくて美味しい。
「ちょっと待っててね。もう少しで食べ終わるから」
「はい、大丈夫です」
「エレナ、フィナに飲み物を持ってきて」
店の中を動いているエレナは返事をすると厨房に向かう。
「ユナお姉ちゃん?」
「いいから、座りなさい。今日の話もあるから」
わたしが言うと素直に目の前の椅子に座る。
すぐにエレナが飲み物を持ってきてくれる。
「それでフィナ。いろいろ解らないことがあるから教えてくれる?」
「はい」
「解体に必要な物ってある? ナイフぐらいしかわからないんだけど」
「基本的にはナイフだけで大丈夫です。切れ味が良ければ良いほど綺麗に剥ぎ取れます。切れ味が悪いとウルフなどの毛皮が綺麗に剥ぎ取れません。上位の魔物だと普通の鉄のナイフだと剥ぎ取れない場合があります」
「フィナのナイフは?」
「鉄のナイフですが、ゴルドさんが作ってくれたナイフだから良いやつです」
「他に必要な物はある?」
「あとは解体する場所かな。近くに水があると助かるけど」
「それだけ?」
「あとは細かいことがいろいろあるけど、砥石とか解体した素材を保管する場所とか。時間が経つと肉とか傷んじゃうから」
「とりあえず、砥石、解体する場所、保管する場所が必要ね。あとフィナに一つ聞きたいけど」
「うん」
「わたしが依頼をしているときどうする? 一緒に付いてくる? それとも待っている?」
「付いていきたいけど、足手まといになるから」
「付いてきたいって、どうして?」
「ユナお姉ちゃんに付いていけば、お母さんの薬草を取ってこれるかもしれないから」
「それじゃ、付いてくる?」
「いいの?」
「フィナ一人ぐらい守れるから大丈夫。それと、フィナって泊まりって大丈夫なの?」
「えーと、前もって母さんに言っておけば大丈夫です。長いと心配掛けますけど」
「それじゃ、今日は日帰りにしましょう。今度からお母さんに1泊2日になるかもと伝えておいてもらえる? それとも、一度わたし挨拶したほうがいいかな?」
「大丈夫です。ちゃんと伝えておきます」
朝食を食べ終え、散歩がてらゆっくりギルドに向かう。
途中の道具屋で砥石を補充しておく。
ギルドに入るとヘレンが受付で忙しそうに冒険者の対応に追われている。
わたしはわたしでのんびりとDランクの依頼のボードに向かう。
その後ろにフィナが付いてくる。
Dランクのボードの前には人があまりいない。
Eランクのボードの前が一番多い。
何人かわたしを見るが声をかけてくる者はいない。
まあ、忙しい朝の中、みんな仕事の取り合いでわたしに構っている暇なんてないんだろう。
ボードの前まで来て依頼を眺めるが面白い依頼がない。
・商人を王都まで護衛。
・オークの討伐、肉も含む。
・オニザルの討伐、作物を荒らされて困っている。
・剣、魔法の先生、Dランク以上求む。
・メルメル草の入手。
・ホエール山の魔物の異常発生の原因を調べてくれ。
・ホエール山より鉄鉱石を運んでくる。
・・・・・・・・・・・・・
「面白いのがないわね」
「ユナお姉ちゃん、そんな理由で選ぶの?」
「そうだけど、やるなら面白い方がいいじゃない」
次にCランクのボードへ向かう。
冒険者は4人しかいない。
でも、みんな同じパーティーの仲間っぽい。
話し合って仕事を選んでいる。
邪魔にならないように隙間からボードを眺める。
・ワイバーンの素材
・オークの群れの討伐
・サーモーグ砦の防衛
・ザモン盗賊団の殲滅
・オーガの素材
・・・・・・・・・・・
面白そうなのはあるが魔物の場所がわからないから入手が面倒なものばかりだ。
魔物の場所がわかればワイバーンなんか良かった。
「おい、変な格好をしたお嬢ちゃん。このボードはランクCのボードだぞ」
四人グループの20歳過ぎの一人の男が声を掛けてくる。
「わかっている。ランクCにはどんな依頼があるか見ているだけ」
「見てるだけって、まあ、どんな依頼があるのか調べるのも勉強になるからな」
「その子、噂のランクEのクマの女の子じゃない」
魔法使いの格好した女性がわたしを見る。
「昨日、ランクDになりました」
一応訂正を入れておく。
「おまえがランクDだと」
「一応、昨日なったばかりだけど」
「他のメンバーは。まさか、そのチビッコは年齢が達してないな」
フィナを見てパーティーメンバーと思ったが年齢が達していないことに気づいたのだろう。
「たしか、噂のブラッディベアーはソロじゃなかったっけ」
「なんだ。そのブラッディベアーって」
あ、それ、わたしも知りたい。
昨日、気になった。
「なんだ、トウヤ知らないのか」
パーティーのリーダーっぽい人が話に混じってくる。
「クマの格好をした少女に喧嘩を売った冒険者が血みどろになるまで殴られ続け、謝っても許さず。倒れても殴り続け。その場にいた冒険者全員も血みどろになるまで殴られ続けたそうだ」
なに、それ、怖い。
どこのクマよ。
「さらに、そのクマの格好をした少女は魔物を解体もせずに血みどろの状態で毎日、ギルドに持ってくるって最近話題になっている」
そりゃ、剣で斬ったり、魔法で倒せば血は流すでしょう。
しかも、すぐに仕舞うから、クマボックスから出したとき血が流れるんですよね。
「そんな見た目と行動でブラッディベアーと呼ばれている」
「知らなかった。そんなクマがいたなんて」
わたしも知らなかったよ。
そんなクマがいたなんて。
「まあ、基本俺たちが依頼を決めちゃうから、おまえはギルドに来ないからな」
「それじゃ、このくまの嬢ちゃん、有名なのか」
「まあ、ゴブリンの群れの討伐、ゴブリンキングの討伐、オークの討伐を一人でこなしているからギルドじゃ有名だぞ」
「そうね、格好もそうだけど。実力もあるから最近有名になっているわね」
「メルも知っているのか」
「情報収集は冒険者として当たり前よ」
「そうか、クマの嬢ちゃん済まなかったな、変な格好をした初心者かと思ってな」
悪い人ではないらしい。
わたしのことを何も知らない初心者と思って、依頼ボードが違うことを注意するためだったらしい。
「いえ、心配をしてくれたみたいだから」
「そうか、それじゃ、俺たちは行くから、まあ、何かあったら声でもかけてくれ」
話し合いで依頼を決めたのか4人は依頼書をもって受付に向かう。
わたしも日帰りでできそうな依頼をDランクから決める。
「ユナお姉ちゃん、決まったの」
「ええ。それじゃ、わたしたちも行きましょう」