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くま クマ 熊 ベアー 作者:くまなの

クマさん、エルフの里に行く

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213 クマさん、川を渡る

 朝、起きたら外は暗く、雨が降っていた。
 出かける予定が無ければ、ベッドに戻って二度寝をしたいところだ。
 クマ装備があるとはいえ、雨の中の移動が憂鬱なのは変わらない。
 今更ながら、日本の天気予報の有難(ありがた)みを認識する。
 当たり前のように見ていた天気予報のニュースがこの世界にはない。天気の予想が分かれば、洗濯の予定も出かける予定も立てやすい。
 今日、雨が降ると分かっていれば、昨日のうちに出掛けていた。
 降っている雨を見ると、『クマの天気予報』って言うスキルが欲しくなる。
 効果、周辺の天気予報が分かる、とか?
 そんなスキルがあれば、お出かけが便利になる。
 でも、そんなことが出来ると知られたら、クマ神様としてまつられそうだ。
 うん、却下だね。

「雨ね」

 わたしが外を見て、くだらないことを考えていると、後ろからサーニャさんが呟く。

「ユナちゃん、どうするの?」
「行きますよ」

 行かない訳にはいかない。
 それに、雨が降っていても、川を渡れないわけじゃない。
 多少、面倒かもしれないけど。

「ユナちゃん、わたしもついて行くことは出来る? ユナちゃんがどんな方法で街に行くか分からないけど。心配なの」

 サーニャさんが心配そうに尋ねてくる。
 わたしは水上歩行のことはサーニャさんには話していない。
 さすがのわたしでも川の上を歩くのが非常識だってことは理解は出来る。もしかすると、魔法やアイテムなどであるかもしれないけど、現状の知識の中にはない。

 でも、人が水の上を歩くのじゃなくて、召喚獣のくまゆるたちなら大丈夫かな?
 くまゆるたちも水上歩行のスキルは覚えているから、水の上を移動することは出来る。
 サーニャさんはくまゆるたちが召喚獣ってことは知っている訳だし、召喚獣の能力に水上歩行が加わっても問題はない……はず?

「雨に濡れますよ」
「ユナちゃんだって、そうでしょう」

 少し考えてみる。
 サーニャさんがいれば、街に着いたときに店への道案内があると助かる。絡まれたらサーニャさんのギルドマスターの権力でなんとかしてもらえる。デメリットは少ない。

「わ、わたしも連れて行ってください」
「あなたはここに残っていなさい」

 わたしたちの話を聞いていたルイミンも同行を申し出るが、サーニャさんが留守番するように言う。

「お姉ちゃん……」

 わたしとしてもサーニャさんを連れて行くメリットはあるけど、ルイミンを連れて行くメリットはない。
 それに、往復にするのに時間はかからない。すぐに戻ってくる。
 ルイミンがついて来る必要はない。
 時間が掛かるとしたら、店の場所ぐらいだけど、サーニャさんに任せるから大丈夫だ。

「ユナさん、気を付けて下さいね。もし、ユナさんとお姉ちゃんになにかあったら……」

 大げさのような気がするが、普通は心配するのかな?
 大雨の中、川の反対側に行くって言うんだから。

「心配しなくても大丈夫だよ。危険なことは全然無いから」
「本当ですか?」
「絵を受け取ったらすぐに戻ってくるよ」

 心配するルイミンと約束して部屋を出る。
 サーニャさんは雨対策のためレインコート的な物を羽織る。
 わたしはクマさん装備が雨を弾いてくれるから必要はない。

「ユナちゃん、雨は大丈夫なの?」
「ええ、この服は特別なので」

 わたしは証明するように宿屋から出る。
 雨が強く降っているが、クマの着ぐるみに染み込むことなく、水玉が弾く。

「なんの素材で出来ているのかしら。水を弾く素材はいろいろあるけど、ユナちゃんが着ている服みたいな素材はあったかしら?」

 神様が作ってくれた物だから知らない。
 そもそも、この世界に存在する素材で無い可能性もある。
 サーニャさんは不思議そうにわたしのクマさん装備を見てから、どうやって行くか尋ねてくる。もちろん、わたしはその質問に、こう答える。

「くまゆるたちに乗って川を渡りますよ」

 と真実を伝える。

「くまゆるちゃんたちで川を渡るの?」
「召喚獣だから、可能なんですよ」

 それっぽく言ってみる。
 それに対して、ユナちゃんの召喚獣なら出来るのかしら? と首を傾げたが、納得してくれたみたいだ。
 召喚獣って言葉は便利だ。召喚獣だから速い。召喚獣だから持久力がある。召喚獣だから川の上を渡れる。くまゆるたちに感謝だ。


 サーニャさんの話では川に行く方法は、街の中を通って船場のところに行くか、王都からやってきたときに入ってきた門から出て、外から行く方法になる。こっちは遠回りになり面倒になる。
 時間短縮するなら、このまま街の中を通り、船場があるところから渡るのが一番だ。
 ただ、人がいた場合、水上歩行は使えない。その場合は反対方向にある門まで戻らないといけなくなる。
 サーニャさんにくまゆるたちを召喚するから、人には見られたくないことを伝えると、この雨なら船場には誰もいないから大丈夫だと言う。その言葉を信じて、船場がある方に向かうことになった。

 船場に到着する。サーニャさんの言う通り周辺に人の姿は見えない。
 まあ、この大雨の中、仕事なんて無いだろうし、川に近付く物好きはいないだろう。
 川に近付くと大きな船が停留している。馬車も数台乗れるからかなり大きい。
 本当は乗ってみたかったけど、まだ今度になりそうだ。
 川の方を見ると、川は大きく、運河と言っても問題はない。
 反対側にある街は確認出来る距離にはある。

 わたしはくまゆるたちを召喚する前にクマの探知を使って周辺を確認する。
 目視だけじゃ分からないからね。人がどこかにいる可能性だってある。
 でも、それは杞憂だったみたいだ。川の周辺には人の反応はない。これならくまゆるたちを召喚しても大丈夫だ。
 わたしは雨の中、くまゆるとくまきゅうを召喚させる。

「ユナちゃん、本当に大丈夫なのよね」

 サーニャさんはくまゆるに乗り、川の側まで移動して濁流の川を見て不安そうにする。
 まあ、これからこの流れが激しい川を渡るって言えば不安になるだろう。
 わたしだって、初めてのときは、深いところでやる勇気は無かったので、浅瀬で練習した。
 だから、サーニャさんの気持ちは分からなくもない。

「怖かったら、残りますか?」

 道案内役が居なくなるのは困るが仕方ない。

「だ、だいじょうぶよ」

 とても大丈夫そうには見えないけどアドバイスはしておく。

「それじゃ、目を閉じてくまゆるにしっかり掴まっていてください。数分で着きますから」
「ユナちゃんを……くまゆるちゃんを信じるから大丈夫よ」
「それじゃ、行きますよ」

 わたしが合図を送ると、くまゆるとくまきゅうは川に向けて飛び込む。
 サーニャさんは叫んでいるが気にしない。
 くまゆるとくまきゅうは川の上に着地すると荒れる川の上を走り抜けて行く。
 流れる川を流されないように走るくまゆるたち。流木などが流れてくるがくまゆるたちは簡単に飛び越えて行く。

「ユナちゃん! 落ちたらどうなるの!」
「落ちたら、流されますね」

 なにを当たり前のことを言っているのかな?
 サーニャさんはわたしの言葉にくまゆるにしがみつく。そんなに強く抱きしめなくても、落ちないことはこの旅で知っているはずなのに、くまゆるを一生懸命に抱きしめている。
 くまゆるとくまきゅうは濁流の上を駆け抜けていく。
 気分的に障害物競争に出ている気分だ。(したことはないけど)
 波を越え、流木をかわし、流れに逆らい、反対側に向けて駆けていく。
 反対側の街の船場が見えてくる。
 わたしは探知魔法を使い、人がいるかを確認する
 もし、クマが川から来るところを見られでもしたら間違いなく大騒ぎになる。
 人がいた場合は少し川を下って、外から街に入る予定にしている。
 でも、対岸にはこっちと同様に人の反応はない。
 数分の川渡りも終わりを告げる。
 くまゆるたちが駆け抜ければこんなもんだ。
 サーニャさんはくまゆるから降りると、地面に腰を落とす。
 濡れるよ。と思ったりしたが、レインコート的な物を着ているから平気かな?
 わたしはくまゆるたちにお礼を言って送還させる。

「本当に川を渡ってしまったわ」

 サーニャさんは信じられないように、反対側の街を見ている。

「ユナちゃんの召喚獣のクマは凄いと思っていたけど。本当に凄いわね。水の上を歩くクマなんて聞いたことがないわ」

 わたしだってないよ。
 自分が見たり、読んできた作品の中に水の上を走るクマなんて見たことも聞いたこともない。

「サーニャさん、行きますよ」

 いつまでも雨の中、ここにいても仕方ない。
 サーニャさんにドグルードさんの支店への道案内をお願いする。過去に何度か来ているサーニャさんはある程度の場所は分かるみたいだ。
 ドグルードさんから話を聞いていたときも「ああ、あそこの辺ね」と言っていた。

 サーニャさんの案内でドグルードさんの支店に向かう。
 雨のため人通りは少なく、わたしを気にする者も少ない。
 その理由としてはサーニャさんみたいなレインコート的な物を頭から被っているため、気付かない者が多い。
 まあ、気付かれたとしても、いつも通り、何事も無かったようにすれ違うだけだ。


 朝、起きたときは雨にげんなりしたけど、今日は雨で良かったかもしれない。
 雨のおかげで人通りは少ないし、船場も人が居なかった。それに時間的に早いせいもあるかもしれない。 


 クマの格好で驚かれることもなく、ドグルードさんに教わったお店に迷うことも無く到着した。
 わたし1人だったら、こんなに簡単に辿りつけなかった。

「でも、店が閉まっている」

 雨のせいか、それとも時間が早かったのかもしれない。
 この手のお店が何時に開くか分からないけど、朝起きて、朝食を食べるとすぐに来てしまったから、時間的には早い。

「とりあえず、呼んでみましょう」

 わたしがノックしようとして自分の手を見る。
 クマさんパペットの顔がこちらを見る。ノックできないね。
 その様子を見たサーニャさんが、

「わたしがするわ。あと、相手が驚くかもしれないから、ユナちゃんは少し下がっていて」

 たしかに、ドアを開けたら目の前にクマの格好をしたわたしがいたら、驚かれるよね。
 クマさんパペットを外してノックするのも、少し面倒だったので、素直にサーニャさんにドアの前を譲る。
 サーニャさんはわたしの代わりにドアをノックして、声をかけてみる。
 反応が無いと思っていると、中から物音が聞えて、声が聞こえて来た。

「どちらさまですか?」
「ドグルードさんの遣いで来た冒険者です」

 中に向けて返答すると、鍵が外れる音がして、ドアがゆっくりと開く。
 ドアの隙間から20代半ばの女性の顔が見えた。

「旦那様の使いですか?」
「朝早くからごめんなさい」
「いえ、こんな雨ですので、中にお入りください」

 ドアが大きく開き、わたしたちを中に迎えてくれる。
 そのときに、わたしの存在に気付く。

「クマ!?」
「気にしないでって言うのは無理かもしれないけど、彼女もわたし同様にドグルードさんの遣いの者だから」

 女性はサーニャさんの言葉に驚きの顔でわたしを見るが、お店の中に入れてくれる。
 サーニャさんがいてくれて助かったかな?
 サーニャさんのおかげでお店の場所にもすぐに到着出来たし、お店の人に怪しまれず? に中に入れた。もし、わたし1人だったら、お店の人に信じてもらえなかった可能性もある。

 女性は部屋に案内してくれると、温かいお茶を出してくれる。

「それで、旦那様から遣いとはなんでしょうか?」

 わたしはクマボックスから手紙を出して渡す。

「それはアイテム袋なんですか?」

 クマさんパペットの口から手紙が出て来たことに驚く。
 商人はそんなところに目が行くのかな?
 手紙を受け取った女性は内容を読むと何度か頷きながら、わたしの方を見て笑みを浮かぶ。
 なぜに?

「お話は分かりました。でも、信じられません。この手紙は昨日書かれています。でも、この雨の中、あなたたちが来ています」
「もしかして、疑っている?」
「いえ、この旦那様の手紙があるので、そのことに関しては信じています。旦那様の手紙にも、もし手紙を受け取ったら、絵をお渡しするように書かれています」

 その言葉に安堵する。ここまで来て渡せません、とか言われないでよかった。それはサーニャさんも同様のようで、ホッとしている表情がある。

「ただ、この雨の中、どうやって来たのかが不思議でならなかったのです」
「それは内緒よ」

 わたしでなく、サーニャさんが代わりに答える。

「それでは、本人確認のため、ギルドカードをよろしいでしょうか?」

 サーニャさんとわたしはギルドカードを出す。
 女性はギルドカードを確認すると、また小さく微笑む。

「すみません。本当に職業がクマなんですね。旦那様の手紙に王都の冒険者ギルドのギルドマスターのサーニャ様、職業がクマのユナ様のお名前が書かれていましたので」

 わたしの姿を見ながら笑みを浮かべている。
 そこは職業クマって書かないで、普通に冒険者ランクとかと名前だけでいいじゃない?
 商人になら、そこの辺りの気遣いが欲しいところだ。

「それと、クマの格好をしていることも書かれています」

 その話を聞いたサーニャさんも笑っている。あっているけど、なんか納得がいかない。
 ギルドカードを返してもらったわたしはお茶を飲む。
 温かくて美味しい。

「それでは、用意をしますのでお待ちください」

 まあ、無事に絵を受け取ることになって良かった。
 お茶を飲みながら待っていると、女性が大きめの木箱を重たそうに持って来る。
 それに気付いたサーニャさんが、手伝ってあげる。

「すみません。ありがとうございます」

 2人でテーブルの上に木箱を置く。
 箱の蓋をあけると、風景が描かれた絵が入っていた。
 これが価値がある絵なのかな?
 素人のわたしにはこの絵が価値があるかどうかはわからない。

「これで戻れば大丈夫ね」

 わたしはクマボックスに絵が入った木箱を仕舞う。

「もう、お戻りになるのですか?」
「ドグルードさんが待っているからね」
「どうやってお戻りになるかわかりませんが、もう少し休まれてから、出発されてはいかがですか?」

 女性は提案するが、別にくまゆるたちなら問題はない。
 女性はわたしたちが休むと思っているのか、お茶とお菓子を出してくれる。
 出された物を断るのもあれなので、軽く頂いてから出発することにした。
腕輪編が終わるって、嘘だった。
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