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くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、ミスリルナイフを作る
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127 クマさん、孤児院に絵本を届ける

 目が覚めて左右を見ると、ベッドの上に饅頭のように丸くなって寝ている、くまゆるとくまきゅうがいる。二匹を撫でてから手袋に戻してあげる。

 黒クマに着替えると、朝食を食べるために『くまさんの憩いの店』に向かう。

 引っ越したから近くになって便利だ。

 裏口から店の中に入ると、焼きたてのパンの香りが漂ってくる。

 部屋の中ではモリンさんがパンを焼いている。その周りではお手伝いをしている子供たちもいる。子供たちは一生懸命に、パンを捏ねたり、プリンを作ったりしている。


「ユナちゃん、帰ってきていたのかい?」

「昨日の夜にね」


 裏口から入ってきたわたしに気付いたモリンさんが、パンを焼きながら声をかけてくる。

 その声で子供たちもわたしの方を見る。駆け寄ってこようとした子供たちにモリンさんが注意する。


「ユナちゃんが来て嬉しいのは分かるけど、開店準備もあるんだから、手は休めない!」

「みんな、モリンさんの言うことを聞いて、ちゃんと仕事するんだよ」


 モリンさんに注意され、わたしが声をかけると寂しそうに仕事に戻っていく子供たち。

 モリンさんは仕方ないねって的な顔で子供たちを見ている。


「モリンさん、朝食貰える?」


 焼きたてのパンが食べられるのも、自分のお店の特権だね。

 あとでクマボックスに補充する焼きたてのパンも頼まないといけないかな。先日の実習訓練のせいでかなり減ってしまった。


「あいよ。好きなパンを適当に持っていっていいよ」


 モリンさんの厚意に甘え、出来上がっているパンを貰うことにする。

 どれも美味しそうだ。

 わたしがどれにしようか悩んでいると、子供たちがわたしがどのパンを選ぶか見ている。

 もしかして、子供たちが作ったパンがあるのかな?

 わたしがいくつかのパンを選ぶと、嬉しそうにしている子と、残念そうにしている子の、2つの顔に見事に分かれた。

 さすがに全員が作った分は食べることはできないので、選ばなかったパンを作った子供には心の中で謝っておく。


 冷蔵庫に入っている果汁を取りに行こうとしたら、わたしの様子を見ていたカリンさんが笑みを浮かべながら、冷蔵庫から果汁を持ってきてくれる。


「カリンさん、ありがとう」


 冷えた果汁を受け取る。


「子供たちに大人気だね」

 

 大人気と言うよりもひな鳥に餌をあげたら、懐いた感じなんだけど。

 パンを食べながら子供たちを眺める。


「カリンさん、最近はお店の方はどう?」

「ユナちゃんが知っての通り、毎日大忙しよ」

「人手は足りてる?」

「それは大丈夫。子供たちがしっかり働いてくれるからね」


 その言葉に子供を働かせているわたしは、少し後ろめたさを感じる。

 でも、この世界では子供が働くのは普通のことだ。

 農家の子なら、農業の手伝いをするし、商人の子なら、商売の手伝いをする。多くの子供たちは小さいときから親の仕事を手伝っていることが多い。だから、子供が働くことは普通のことだ。

 それは目の前にいるカリンさんだってそうだ。


「あまりにも一生懸命に働くから、わたしの子供の頃を思い出すと恥ずかしくなってくるよ」


 過去の自分と店で一生懸命に働いている子供たちと比べて、苦笑いを浮かべるカリンさん。


「手伝わなかったの?」

「そうさ、この子はいつも遊んでばかりいたからね」


 カリンさんに尋ねたが、返答は別のところからやってきた。


「お母さん!」


 わたしたちの話を聞いていたモリンさんが口を挟んでくる。


「この子はね。いくら手伝うように言っても、手伝わなかった困った子だったよ」

「お母さん、そんな昔のこと」

「昔のことって、ほんの数年前のことでしょう」

「カリンお姉ちゃん、お手伝いしなかったの?」


 子供たちが純粋な目でカリンさんを見る。


「そんなことないよ。ほんの少しサボっただけだよ」


 カリンさんは一生懸命に子供たちに言い訳をする。


「あれを少しと言うのかね?」


 モリンさんが子供の頃のカリンを思い出したのか笑っている。


「お母さん!」

「ふふ、冗談だよ。今は一生懸命に手伝ってくれるから嬉しいよ」

「わたしだっていつまでも子供じゃないよ」

「そうね。しっかり、お父さんが作り上げたパンの技術を学んでおくれよ」

「お母さん……」


 モリンさん親子がしんみりしていると、子供たちが乱入してくる。


「わ、わたしもしっかり、勉強するよ」

「僕も…」

「わたしだって」


 子供たちが自分たちのことを主張しはじめる。


「おやおや、弟子がいっぱいいて嬉しいね。カリン、うかうかしていると、この子たちに抜かれるよ」

「抜かせないわよ」


 カリンさんはそう言うと仕事に戻っていく。

 その後ろを子供たちも追いかける。

 さらに、その後ろ姿を嬉しそうに見ているモリンさん。




 朝食を食べ終えたわたしは絵本を渡すために孤児院に向かう。

 孤児院の中に入るけど、近くの部屋には誰もいない。

 この時間なら、お店組は店で働いているし、コケッコウ組は鳥小屋で仕事をしている。いるとしたら幼年組。

 幼年組は赤ちゃんから5、6歳ぐらいの子供のこと。この孤児院では5、6歳の子供が自分よりも年下の子たちの面倒を院長先生と一緒にみている。

 その幼年組がいるのは一番奥の部屋だ。

 幼年組の部屋に向かうと院長先生と、幼い子供たちがいる。


「院長先生、おはようございます」

「ユナさん、来ていたんですか」

「今、来たところ」


 幼年組の子供たちが小さい足でわたしのところに駆け寄ってくる。

 頭を撫でて、院長先生のところにいく。


「今日はどうしたのですか?」

「子供たちの様子を見にきたのと、お土産を」

「おみやげってなに?」


 わたしのクマの手を握っている子供が尋ねてくる。


「食べ物?」

「おいしい物?」

「ごめんね。食べ物じゃないんだ」

「そうなの?」


 残念そうにする子供たち。


「これ、わがままを言っちゃいけません。ユナさんのおかげで、美味しい食事が毎日食べられるんですよ」


 院長先生が子供たちに注意する。

 別にわたしのおかげじゃない。

 孤児院の年長組がお店で働いたり、コケッコウのお世話をしているおかげだ。

 わたしがしたのは基礎部分を作っただけだ。あとはみんなが一生懸命に働いている。


「はい、ごめんなしゃい」


 素直に謝る子供。


「今度、おいしい物持ってくるからね。今日のお土産は絵本だよ」

「えほん?」


 クマボックスから、絵本を取り出す。


「えほんだ~」


 1人の子供がわたしの手から絵本を取る。


「ああ、ずるい。わたしもみる~」

「僕もみたい……」

「ユナさん、ありがとうございます」

「とりあえず、同じ物だけど、2冊置いておきますから、読んであげてください」


 院長先生に残りの1巻を1冊、2巻を2冊渡す。


「あら、可愛らしい絵ですね」

「もし、他の絵本も欲しいようでしたら、ティルミナさんに言ってくださいね」

「大丈夫ですよ。あの子たちは我侭は言いませんから」

「絵本は文字の勉強になりますから、我侭じゃありませんよ」

「ありがとうございます。ほら、みんなユナさんにお礼を言いなさい」


 追いかけっこしていた子供たちが戻って来て御礼を言う。


「みんな、しっかり勉強して、院長先生に迷惑をかけちゃ駄目だよ」


 子供たちは元気よく返事をする。




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