101 クマさん、海の町にクマハウスを建てる
クマの通信機の名前、クマフォンに変更しました。
案を出してくれた方、ありがとうございます。
他のページも近いうちに修正します。
わたしは恥辱に耐えながら、くまゆるとくまきゅうの石像を作り終え、町に戻ることになった。
「アトラさん。土地の件どうなりました?」
「いくつか候補を見つけたから、好きな場所を選んでもらおうかと思っているけど」
「その件だけど。さっき、クリフが言っていたトンネルと町の間に家を作りたいと思うんだけどいい?」
「いいけど。自分で家を作るの? ユナ……あなただったらできるのかしら?」
クマの石像を見たアトラさんは半分納得した表情をする。
「こいつの非常識に真面目に付き合うと疲れるぞ。俺の街にも一日ほどでクマの家ができて、騒ぎになったぐらいだからな」
「クマの家?」
「こいつが作る家はみんなクマの家なんだよ。ちなみに王都にある家もクマだぞ」
「王都にまで、家があるの!? しかもクマ!?」
まあ、家は転移門のためにあるんだけどね。
「クリフ」
「なんだ」
「家を建てる場所だけど、どこでも大丈夫? なにか構想があれば聞くけど」
「とくに無い。さっきの例は一例だ。なにをどこに建てるかは決めていない。だから、好きな場所に建てていい」
クリフとアトラさんの許可を貰い、これでクマハウスを建てることができる。
わたしは馬車には乗らず、皆を見送る。
最後に『わたしが付き合った意味あったのかな』と呟いたら。
両方の陣営から必要だったと言われた。
お互いに性格もどのような人物かも分からない状況では、わたしの存在は双方に必要だったらしい。
クリフにしても、
「おまえがこの場にいるから相手も信用してくれるんだ」
と言われ。
お爺ちゃんズにも、
「嬢ちゃんが信用しているようだったから、わしらもクリフ様を信用しようと思った」
と言われた。
納得がいくようないかないような答えだった。
これからクリフはトンネルの件を話し合うため、お爺ちゃんズと一緒に冒険者ギルドに向かい。ミレーヌさんとジェレーモさんは商業ギルドの件で話し合うため商業ギルドに向かうらしい。
わたしは家を建てるために一人残り、目星を付けた場所を目指す。
わたしが、クマハウスを建てようと思った場所は砂浜が目の前にある立地だ。
眺めも良い。
バルコニーや屋上でパラソルを立てて、のんびりと昼寝をするにはいい場所だ。
星空もよく見えるだろうし。
まさか、目の前に海が見える場所に家が建てられるとは、日本に住んでいた頃には考えられないことだ。
そんな、クマハウスを建てるには整地をしなければならない。さらに、少し高台にしたい気持ちもある。そうなると魔力をどれだけ使うか分からない。なので、まず始めにやることは決まっている。簡易更衣室を土魔法で作り、白クマに着替える。大きな魔法を使う予定は無いが、魔法だけを使うのなら、白クマを着ていた方が、疲労感が少ないのは、トンネルを作るときに証明済みだ。
白クマに着替えたわたしは、目の前の木々を伐採して整地する作業を行う。
風魔法で木々を切り倒し、土魔法で根っこを取り除いていく。木材は枝を切り落としてクマボックスの中に仕舞っていく。
横幅百m、奥に同じく百mほどが整地される。
「ちょっと広かったかな?」
調子に乗って整地をしていたら学校の校庭ぐらいになってしまった。
まあ、気にしない。使わない所があっても問題にはならないはず。
整地した場所に少し、土を盛って高台を作る。丘の上にクマハウスが建つ感じにしたい。大きさはクリモニアにあるクマハウスよりも大きめに作る。
その理由としては夏に店で働いているモリンさん親子や子供たち。コケッコウの世話をしてる孤児院の子供たちや院長先生も連れてきたいと思っている。そう考えると宿泊は宿屋よりもクマハウスの方がいい。宿屋には他のお客様も居るだろうし、迷惑をかけることも無くなる。
そこで気が付く。
孤児院の子供の数って何人?
最近、増えている気がするんだよね。
確か初めは三十人ぐらいだっけ。ウルフの毛皮を三十枚出した記憶はあるけど正確な人数は覚えていない。それから、見知らぬ子供が徐々に増えて、現在の数はサッパリだ。
流石に倍にはなっていないよね。
こういうときこそ、クマフォンが役にたつ。
クマフォンを使ってフィナに通話する。
『ユナお姉ちゃん?』
「フィナ、ちょっと聴きたいんだけど、今大丈夫?」
『うん、大丈夫だよ』
「孤児院の子供の人数って何人?」
『子供の数? 確か六十人はいるかな』
なに! わたしが知らないうちに倍になっているんだけど。
まあ、面倒を見ているのは院長先生とリズだけど、二人で大丈夫なの?
ましてや、リズにはコケッコウの管理もお願いしてある。
う~ん、今度、話を聞いて人手を増やさないと駄目かな。二人が倒れたら孤児院が大変なことになるし。
「フィナ、ありがとう」
クマフォンを切る。
六十人か。予想よりも多かった。
二回に分けて来るにしても三十人。一瞬、海に連れてくるのは止めようかなと脳裏を横切るが、一生懸命に働いている子供たちを思い出すと、そんなわけにもいかない。
大きな家造りをするので、くまゆるとくまきゅうを召喚する。
土台になる場所を土魔法で造り、先ほど整地したときに手に入れた木材を風魔法で加工する。加工した木材はくまゆると、くまきゅうに運んでもらい、柱を立てる。固定方法は土魔法で行う。
流石に大工さんの技術までは持っていないからね。
わたしの家を造る方法は木材を風魔法で加工して、土魔法で固定している。木材はくまゆるたちに運んでもらう。
基礎が出来ればあとは土魔法で好きなイメージをして外観を造っている。
外観をクマにする理由は、強度が増すため。
そのような感じで、くまゆるとくまきゅうの手を借りて、各部屋を造り上げていく。
一階は大きな食堂、キッチン、休憩場の部屋を作る。二階は部屋を作る。六人用の部屋を六部屋作る。部屋を広く使うためベッドは三段ベッドにする。これで三十六人。半分に分ければ大丈夫なはず。
これ以上子供たちが増えなければ大丈夫だけど、院長先生の性格からして、孤児を見付ければ保護をするに決まっている。増えたら、そのときに考えることにしよう。
三階、わたしの部屋、及び、お客様用の部屋を作る。自分の部屋は広くしてバルコニーを作る。バルコニーから見える海は綺麗だ。最後には自分の部屋にクマの転移門の設置は忘れない。
四階、クマ風呂場を作る。海が見えるようにする。男性用と女性用に分けることも忘れない。ここまで作って気付いた。これって家じゃなくて旅館だよね。
今更である。
間取りが完成したので、次に魔石の設置作業をする。
魔力線を使用して光の魔石を天井に設置する。魔石の設置は手作業になるので時間がかかる。最後に風呂場に向かい、水の魔石と火の魔石を設置して、お湯の調整をする。
各部屋に魔石の設置が終わると、海に太陽が沈みかけている。まだ、完成はしていないが宿屋に戻ることにする。
町に帰ってくると、町の入り口にいる男性が不思議な物を見るような顔をしている。一応ギルドカードを見せて中に入る。
いつもの人じゃなかったから、わたしを見るのは初めてだったのかな?
宿屋に向かって歩いていると、住人たちが不思議そうな顔をしてわたしの方を見ている。声を掛けてくる者は誰もいない。
なんか町の様子がおかしい。
いつもなら、声をかけてくるはずなのに。
なにか、あったのかな?
少し、速めに宿屋に向かう。
宿屋に戻ってくると、クリフが食事をしているところだった。
「クリフ、町の様子が変なんだけど。なにかあった!?」
「ああ、あったな」
やっぱり、なにか、あったらしい。
「なにがあったの!」
「黒クマが白クマになった」
真面目な顔で言われた。
そこで自分の格好に気付く。
「おまえ、白いクマも持っているんだな」
わたしは二階の自分の部屋に駆け込んで、黒クマに着替えた。
色が違うだけなのに、どうしても恥ずかしくなる。
たぶん、人前で着慣れていないせいだと思うんだけど。なぜか、気恥ずかしい。
さらに、周りの目の反応も違うせいもある。町の住人も『わたし=黒クマ』になっている。それが白クマを着ると驚いたような目で見てきた。
わたしは何事も無かったように戻ってきて、クリフに尋ねる。
「クリフだけ? ミレーヌさんは?」
「まだ、戻ってきていない。家の方はどうだ」
「ぼちぼちかな。明日中には完成させるよ」
「言っておくが、家は一日や二日でできないからな」
と、突っ込みをもらう。そんな言葉は聞き流し、デーガさんに食事を頼む。
「それで、クリフの方はどうなの?」
「トンネルは明日に公表することになった。それと同時にあの辺りを平地にする作業員を募集する予定だ。その賃金などを決めていた。少ないと人は集まらないし、多いと財政を圧迫するからな」
その辺りのことは流石にわたしには分からない。そもそも相場が分からないから仕方ない。
「でも、クラーケンの素材を貰い受けることになったから、その辺は大丈夫になった」
「クラーケン?」
「おまえ、クラーケンの素材全て町に寄付をしたそうだな」
「いらないからね」
「お前な、あれだけの素材がいくらで取り引きされると思っているんだ」
呆れたように言うが、そんなこと、わたしが知る由もない。
「クラーケンの皮は防水に優れ、耐水効果があるから人気があり、牙も高く売れるんだぞ。あれだけで一財産になるぞ」
「町の復興に役に立ててくれればいいよ」
「おまえ、本当に変わっているな」
と溜め息を吐くが、クリフの顔は笑っていた。
デーガさんが作ってくれた食事を食べていると、ミレーヌさんが帰ってくる。
「あ~、ユナちゃん、もう食べてる。クリフは今から?」
「俺は食べ終わった」
「そうなの。わたしが最後なの?」
ミレーヌさんは、奥にいるデーガさんに、食事をお願いする。
「それで、おまえさんの方はどうなんだ?」
「元々人数の少ない商業ギルドだったのが、ギルマスを含めて四人も捕まったからね。人が足らないね。今後のことも考えると人材不足だね」
「それはこっちも同じだ。町長は決まっていないし、それを補佐をする者も集めないといけない」
「逃げ出した町長の部下とかいないの?」
「どうやら、身内で全て固めていたらしい」
ああ、よくある家族経営ってやつね。
一代目は優秀だけど、二代目、三代目になっていくと無能になっていく。
「それで、財産持って全員逃げたと」
「おまえのところはまだ、人が残っているからいいが、俺の方はじいさん三人に頼むしかない状況だからな」
「大変ね」
「個人的にはアトラが町長になってくれると助かるんだが、そうなると冒険者ギルドを纏める者がいなくてな。この辺はクリモニアの冒険者ギルドに相談だな」
「やっぱり、クリモニアから早急に何人か連れてくるしかないわね」
「それと同時に人材教育も必要だな」
二人とも大変だな。
他人事のようにわたしは二人の会話を聴きながら食事をしている。
「それで、クリフ。わたしなるべく早くクリモニアに戻りたいけど、クリフの方はいつ戻れそう?」
「俺の方は明日中に決めて、明後日には出発したいな」
「それじゃ、わたしの方もそれでいいよ。一度、クリモニアに戻らないと仕事が先に進まないからね」
「俺の方も同じようなものだ」
出発は明後日の朝になった。