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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~ 作者:二階堂風都

彼女が「勇者」と呼ばれるまで

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初日終了

 それから、俺達は出発地点である『アルトロワの村』の入り口へと戻って来た。
 ――おお、さっきよりも人が増えているな。
 せっかく始めたゲームだ。
 プレイ人口が少なくて、直ぐにサービス終了なんてことが無さそうで安心した。
 職業クラスに関しても特に不満が無かったので、俺達はそれぞれ騎士と神官で確定することにした。
 フィールドでレベル10になった直後の選択と同時に、初期装備は目の前から消えていった。
 さらば、木の枝、木の棒、ポーション、聖水……。

 広場に到着すると、ユーミルが大きく伸びをした。

「終わったー! しかしひたすら狩りも悪くないが、やはりボスとも戦いたいな! 刺激が足りん!」
「ホーマ平原は広いし、奥には何か居るんじゃないか? 南、西、東と行って北エリアは雑魚モンスターでも高レベルだったしな」
「そうか、それは楽しみだな!」

 平原で出たモンスターはゴブリンに加え、アルミラージという角の生えたウサギが主だった。
 アルミラージは素早さと攻撃力に極振りしたようなステータスで、油断するとその角で体力を一気に持っていかれる危険なモンスターだった。
 但し耐久力が貧弱な為、先制すれば苦も無く倒せることもあり経験値を稼ぐ上では大いに役立ってくれた。
 弱点は角の付け根。
 そしてゴブリンに関しては首元が弱点だったので、どうやら弱点部位は狙いにくく小さい範囲に設定している傾向のようだ。

「しっかし、本当に全部俺に資産を預けていいのか? ユーミル、お前、自分の回復アイテムとかはどうすんの?」

 人任せ、とも言えるし無欲とも言える。
 自分で店のアイテムやら何やらを物色したくはならないのだろうか?
 それに対するユーミルの答えは、どうやら自分の欠点を踏まえたもののようだった。

「基本的にはお前としかプレイしないから問題ない。それに、ほら……私が金を持っていたら持っていただけ使ってしまうのを、お前は知っているだろう?」
「まあな……章文あきふみおじさん、何故か俺にお前の小遣いを預けてくるし。普通は有り得ないだろ、そんなの聞いたこともねえ」

 幼馴染とはいえ、他人の家の子供だぞ?
 おじさんの中で、俺はどういう扱いになっているのだろう……聞いてみたいような、怖いような。
 VRギアの購入資金に関しては、未祐が章文おじさんに頼んで直接受け取ったのだと思う。
 コイツの家は割と裕福なので、未祐はバイト等をしていないが小遣いの金額そのものは多いのだ。

「そういう訳で、ゲーム内でも引き続き頼むぞ!」
「ゲームで金の管理を練習して、現実での浪費癖を治す気はないのか?」
「無い!」
「何でだよっ!」

 結局は押し切られ、拾った全てのアイテムとゴールドを預かる事となった。
 TBでのアイテム移動に関しては、双方の同意があれば特に問題なく行うことが出来るようになっているそうだ。
 ゲームによってはアイテムボックスのようなものを経由しないと不可能だったり、トレードの機能を使って無理矢理に移動させたりと手間のかかるものもある、とはユーミルの弁。
 しかし、色々と受け取ったせいでインベントリの中が一杯なんだが……。
 次にログインしたら、まずはアイテム整理だな。
 後は武器を用意――と、聞いておくことがあるんだった。

「そうそう、ユーミル。空いた時間で武器を作っておくから、何か要望があれば言ってくれ。まだどんなのが出来るか分からんから、取り敢えず暫定ざんていってことで」
「おお、やはりハインドは生産にも手を出すのか。そうだな……ドリル、とか?」
「……は?」

 ユーミルがいともたやすく俺の思考を置き去りにした。
 ……。
 ――!?

「いやいや! 剣と槍のどっちを使うか聞いてるんだろうが、騎士なんだから! 何だよ、ドリルって!」
「ロマンを感じるだろう? 考えようによっては、ドリルは槍の一種とも考えられ――」
「ないから! 既に騎士とかいうロマンを感じる職を選択しといて、何を言ってるんだお前は!? 却下だ、却下!」

 ユーミルが俺の言葉に不満そうな顔を見せる。
 意味が分からない。
 それはどちらかというと今の俺がするべき表情だろう?

「では……二挺拳銃!」
「中世! このゲーム、中世風ファンタジー!」
鉄扇てっせん!」
「お前、いい加減にしろよ!?」
鎖鎌くさりがま!」
「暗器だ! 二つとも! 騎士なら正々堂々と戦え!」
「スペ――」
「スペツナズ・ナイフって言ったら殴る」
「……」

 俺が拳を構えると、流石にそれを見たユーミルが黙る。
 ちなみにスペツナズ・ナイフというのは柄に強力なバネが仕込んであり、刀身を飛ばす事が出来る特殊なナイフのことだ。
 言うまでもないが、これも到底、騎士が使うような武器ではない。

「……ふ、普通の剣で良いです……」
「最初からそう言え! もう適当なのを作るから、細かい要望は二本目からな」
「うむ。実は、まだ余り明確なイメージが湧いてこないのだ。剣を使っている内に何か思い付くかもしれん」

 じゃあ、今の無駄な会話は何だったんだ……。
 ちなみに適性の無い武器は攻撃力にマイナス補正が掛かるので、もれなくただのゴミへと変わる。
 俺がユーミルの持っていた木の棒を装備したら攻撃力が1(元は10)になったので、これは間違いない情報だ。
 ステータス画面を見ると騎士は剣か槍、神官は杖かメイスに適正があると表示されている。

「で、今日はここまでにするんだろう? ハインド」
「そうだな。お前も夕飯、食べていくだろう?」
「馳走になる!」
「じゃあ五人分だな。ログアウトしようぜ」
「うむ! ……五人?」

 ステータス画面を呼び出し、ログアウトボタンを押して決定を押す。
 電脳世界ゲームでの体が、足元から分解されて消えていった。



 気が付くと、俺は現実世界で目を開けていた。
 ギアが覆いかぶさっていて何も見えないが……目の前に接続終了の文字が浮かぶ。
 もう外して大丈夫なのか……? あ、画面が消えた。
 VRギアを外すと、夕日が部屋に射し込んでいて思わず顔をしかめた。
 未祐も似た様な顔で、半身を起こして周りを見回している。

「むう……体が痛い……」
「休憩無しでぶっ続けだったからな……」

 脳の信号を遮断するというのは本当だったらしく、俺達はゲームを開始した位置から全く動いていない。
 ただし相応に体が硬くなるので、今後はこまめな休憩が必須かもしれない。
 今回は少し長くやり過ぎたような気がする。

「なあ、わたる。どうして五人分なんだ?」
「いや、章文おじさんも呼んでやれよ。どうせお前、昼飯を作り置きして来たりは――」
「していない!」
「威張んな。章文おじさんのおかげでVRギアもゲット出来たんだし、俺からのお礼みたいなもんだ。一旦帰って、嫌じゃなさそうなら連れて来てくれ」
「インスタント食品漬けの私達が、食事の誘いを断る訳がないだろう!?」
「だから威張るなって。お前が料理を覚えて作ってやれよ……」
「亘の料理が食べられなくなるから嫌だ! 覚えたら、絶対に自分でやれって言うだろう!?」

 そんなことは……あるかもな。
 俺の家は母子家庭だが、こいつの所は父子家庭だったりする。
 互いに家ぐるみの付き合いだったのだが、我が家は父が病死。
 そしてコイツの所は離婚と、どちらも中学生の頃に不幸が続いた形だ。
 それ以来、二人を家に招いて一緒に食事をすることが増えたのだが――

「とにかく、呼んでくればいいのだな! 行ってくる!」
「あ、待て! 急に立ったら――」
「ぬおっ!」
「!!」

 俺が注意した甲斐も無く、女らしからぬ悲鳴を上げた未祐はタオルケットに足を取られて転倒。
 運動神経の悪い俺は、咄嗟とっさに手を伸ばして未祐の体を受け止めたものの――踏ん張りがきかず、未祐を抱えたまま背中を床に強打した。
 しかも衝撃で肺の中の空気が押し出され、酸欠のような状態に。
 い、息が……。

「……」
「……わ、亘……?」
「……」
「し、死んでる……!」

 死んでねえよ! と叫びたいが声が出ない。
 体をよけた未祐が俺の脇腹を突いてくる。
 何処を触ってんだ! もっと他にすることがあるだろう、こういう時は!?
 俺は胸が詰まったせいで、無呼吸状態でたっぷり十秒は動けず――

「――かひゅっ! ぜぇ、ぜぇ……」
「亘! 無事か!? しっかりしろ!」
「な、何すんだこのボケェ!! 息が出来なくて、今まさに死ぬ所だったわ! 喉から変な音が出たぞ!?」
「す、すまない! わざとじゃないんだ!」
「当たり前だ! さっさとおじさんを呼びに行けー!」
「許してくれー!」

 謝罪の叫びを上げながら、未祐が部屋から慌てて走り去っていく。
 俺はそれを見送った後、静かになった部屋の中で再び膝をついた。

「うぐ……」

 酸欠状態で叫んだから、頭がクラクラする……。
 未祐の怪我が無さそうなのは良かったが、割と散々な気分だった。
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