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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
最善の一振りと最高の一枚を求めて
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シリウスのギルドホーム

 その異常な大きさのギルドホームは、元は大商人の屋敷だったそうだ。

 ヘルシャたちはまず仮住まいのホームを用意してギルドを結成。

 数回のイベント賞金と度重なる魔物討伐による資金稼ぎ、ヘルシャが発生させた特殊クエストを経て……。


「ちょっと待て。特殊クエストとは何だ? ドリル」

「この屋敷の所有権を保有していた奥様からのご依頼でしてよ。屋敷を引き払って、田舎へのお引越しをお望みでしたから……色々とお手伝いしましたわ。それはもう、色々と……」


 苦労を窺わせる疲れた表情をしたヘルシャに対し、どれだけ大変なクエストだったのかと俺たちは慄いた。

 普段からパワフルなヘルシャだけに、そのギャップが余計に怖い。

 深く訊かない方が良さそうだったので、気を取り直して質問を重ねてみる。


「ええと……もしかして、それで安く譲ってもらえたのか?」

「そんなに甘くはありませんわ。通常プレイでは不可能な、屋敷の買取の権利をいただきましたの」

「権利だけ!? 厳しいでござるな! だって、見た感じこのホームの値段って――」

「……」


 無言でヘルシャが微笑む。

 俺たちの使っている貴族屋敷の五倍以上の大きさがあるんだが……それでも現実のヘルシャの屋敷ほどではないが。

 結局怖くて正確な購入額は訊けなかったのだが、今のシリウスの資金は零細ギルド並とのこと。


「ほとんど全資金を投入って……じゃあ、ここって買ったばかりなのか?」

「ふふん! 自慢の新ホームですわ!」

「確かに、半端じゃなく凄いでござるが……」

「そうでしょう! ふふふふふふふ……」

「その笑い方は不気味だぞ、ドリル……」


 何せ、大規模戦闘系ギルドがほとんど全ての資金を投じて手に入れたギルドホームだ。

 同規模のホームが他に一切ないわけではないだろうが……数はそれなりに限られている。

 俺は笑うヘルシャの影で愛想笑いを浮かべるワルターを捕まえると、小声で会話を交わす。


「わ、わ! あの、師匠?」

「……なぁ、ワルター……俺たちが呼ばれたのって、ヘルシャがここを自慢したかったからって理由もあるんじゃ……」


 都合のいいことに、ヘルシャはユーミルとトビに向けて新ホームの素晴らしさを講釈し始めた。

 今の内に細かい事情を訊いてしまおう。


「すみません……あると思います……」

「やっぱり……」

「親交があって、このホームを知らなくて、忌憚のない意見をくださる師匠たちだからこそ、お嬢様はお見せしたかったのかと」

「前二つは分かるんだけど、忌憚のない意見ってのは何だ?」

「それはですね――」

「ハインド、ワルター! 早速ホーム内に行きますわよ!」


 時間切れか。

 ワルターは「ギルドホームの様子を見れば分かると思います」と言い残し、ヘルシャの後に続く。

 どういうことなのかと首を捻りながら馬鹿でかい入り口を通った俺の疑問は、即座に解消された。


「「「お帰りなさいませ、お嬢様! ワルターさん!」」」

「ただいま戻りましたわ」

「………………なるほど」


 入った瞬間は無秩序に散っていたギルドメンバーたち数人が、ヘルシャの姿を認めるや否や綺麗に整列して挨拶する。

 ヘルシャの家で「本物」を見たこともあって、比較すると所作に劣る部分はあるのだが……。

 それでもかなり訓練された動きと本気度の見えるロールプレイである。

 レイドイベントで見た時よりも、執事服とメイド服の集団は確実にお嬢様に対する忠誠心を向上させているようだった。

 ただ、ワルターが言ったようにこれでは上下関係だ。

 ヘルシャが望むような横の関係での素直な言葉など、出てきっこないな……到底。


「おおぅ、中々に異様な光景だな。ドリルよ、みんな本当に元は知らない者同士なのか?」

「ええ、もちろんですわよ」


 ユーミルの疑念ももっともだろう。

 とても方々から集まったプレイヤーたちとは思えない統制の良さだ。

 俺もヘルシャ――マリーの屋敷の使用人たちの顔を思い出しながら見てみたが、この中に憶えのある顔はなかった。

 だから、ヘルシャの言葉は真実なのだろう。


「ですが、そもそもわたくしは執事服とメイド服の着用を義務付けた憶えはないのですけれど……」

「えっ、これ自主的にやっているのでござるか!?」

「それが、本当に自主的なんですよね……加入希望者の方が最初からメイド服だったり執事服だったりするのが、ボクたちのギルドです……」

「何だそりゃあ」


 空恐ろしさすら感じる求心力とギルドカラーの認知度だな。

 俺たちがそんな会話をしていても、シリウスのギルドメンバーたちは微動だに――あ、今右端の人がちょっと笑った。

 そして隣の古参っぽいギルメンに窘められている。

 そういうのを見られてかえってホッとしたよ、俺は。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様」

「カーム、お客様をご案内して頂戴」

「かしこまりました」


 と思っていたら、本職の人が来た。

 並べてしまうと、所作の美しさに違いがあるが……しかし、どこか他のギルドメンバーと共通する部分がある。

 もしかしたら、この人がシリウスの面々に使用人としての教育を施しているのではないだろうか?

 彼女が現れた直後から、粗相がないようにこの場のギルドメンバーが露骨に緊張しているし。


「こちらへどうぞ」

「あ、はい。お久しぶりです、カームさん」

「お久しぶりです。お待ちしておりました、ユーミル様、ハインド様、トビ様」


 食事は既に用意してあるとのことで、俺たちはだだっ広いギルドホーム内をメイドさんに連れられてぞろぞろと移動した。


「おおお、何だこの……まるで美術館のように落ち着いた……」


 そんなことを言うユーミルは、逆に一気に落ち着かない様子になった。

 こいつはこういった厳かな雰囲気が苦手なのである。


「壁も照明もやたらと豪華でござるな。拙者たちの貴族屋敷跡とは別ベクトルなれど、それでも数段上のグレードだと分かってしまうような」

「単純に大きくて値段が高いだけじゃなくて、建物全体の雰囲気が上品だよな。ここを選んだヘルシャのセンスも、個人的には称えるべきだと思うぜ」

「うふふふふ……」


 俺たちの素直な賛辞に、ヘルシャが堪え切れないといった様子で笑顔になる。

 これが聞きたかったのだと言わんばかりの……こういう分かりやすい部分が、このお嬢様の魅力なんだと思う。

 ワルターも、冷たい表情が基本のカームさんですらヘルシャの様子に柔らかな笑みを浮かべている。


「ところでヘルシャ。この辺の調度品は元から備え付けなのか?」

「そうですわね。幸い元の持ち主の趣味は悪くなかったようですし、こうしてある程度は活かしつつ……より素晴らしい物が手に入った時には、徐々に入れ替えという形になりますわ」


 この風景画や壺なんかも、値段は高い設定なのだろうけれど上品に屋敷にマッチしている。

 今後自分たちの色を出していくのは、再び資金に余裕ができ次第とのこと。

 長い廊下を歩き終わった後に辿り着いたこれまた大きな扉の前で、カームさんが小さな机のよこに置かれた鈴を鳴らす。

 すると誰も触れていない扉に魔法陣が浮かび、大きな扉がひとりでに動き出した。


「むおっ!? なんなのだ、これは!? 勝手に!」

「魔導式の自動ドアですわ」

「そんな当たり前のように言われても……確かにダンジョンとかでは、勝手に開くドアもあるけれど」


 あとは城だったり、大きな神殿だったりに少数存在していること自体は知っている。

 けれど一般プレイヤー……更には一般現地人の住居にポンポン付いているものでないことは確かだ。

 しかし、衝撃を受けたものはそれだけではなかった。

 広い室内に置かれた長テーブルには燭台に火がともり、控えていた長く白い帽子を被ったプレイヤーが帽子を取って頭を下げる。


「シェフ!? シェフがいるでござるよ、ハインド殿!」

「相変わらずヘルシャたちのところは、俺たちと同じゲームをやっているとは思えんな……」

「……? 何かおかしなところがありますの? 彼はわたくしたちシリウスの優秀な調理係にして、戦闘メンバーの一員でもありますのよ」


 あのコック帽を被った男性が、戦闘をしているところは正直想像がつかないのだが……。

 自分の普段の生活スタイルをこれでもかと強引に押し通し、しかもここまで見事にゲーム内で再現してしまうヘルシャの行動力。

 それに対して、俺たちはただただ圧倒されるばかりだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] バトルコックってやつだね 武器は肉切り包丁を大剣にした感じかな? 効果に食材を多めに入手、部位切断(極)とか
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