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VRMMOの支援職人 ~トッププレイヤーの仕掛人~  作者: 二階堂風都
最善の一振りと最高の一枚を求めて
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アーテル遺跡

 状態異常と飛行敵に苦しみながらも、近接四人パーティは目的地に向かって前進。

 細道に入って若干複雑なルートを辿っていくと……。


「見えた! あれか、ハインド?」

「これは……何かの祭殿跡か?」


 立ち止まったユーミルとアルベルトが言及したのは、ひっそりと佇む老朽化が進んだ建物。

 このダンジョンに関しては、隠されるようにして建てられた理由がはっきりと分かる来歴がある。


「ですね。かつて高名な魔導士が、闇の力を増幅させる儀式を行った祭殿の跡……という由来があるそうです」

「やや不気味な感じが闇属性にぴったりでござるな。それだけ聞くと、魔導士なら何かスキルが手に入りそうでござるが。そういうのは――」

「ないぞ。攻略されていない深い階層までは分かんないけど……少なくとも、20階層までにはない」


 単にそういう背景設定がされているだけだと思う。

 この祭殿の話については、ここから北東にある村で現地人から聞けるらしい。

 それだけ判明しているのに、中のモンスターの種類すら分からないとは……掲示板の情報提供者も、中々に意地が悪い。

 外観の観察も程々に、俺たちはその祭殿へと足を踏み入れた。


「おおぅっ、入った瞬間に何かひやっと! 私の気のせいか?」

「この雰囲気が原因だろうか……? そういえば、闇属性だしアンデット系が出る可能性が高いんだが。この中に、お化けとか苦手な人は――」

「……?」

「……いないね」


 砂漠のダンジョンでもアンデット系は多目だったけれど、フィリアちゃんはその時から全く動じていなかった。

 アルベルトさんも一緒にいたし、トビは……。


「拙者、お化け屋敷はお化け本体よりも、仕掛けとかオブジェの造りのほうが気になるでござるなー」

「ダンジョンはお化け屋敷ではないんだけどな。俺はお化けそのものよりも、不意打ちとか大きな音が急に鳴ったりとか、そういうののほうが苦手なんだよな……周りが静かな空間だと特に」


 そして何に一番驚くかと言うと、大抵は一緒に入ることになるこいつの叫び声。

 ついついその主に視線を向けると、そいつは任せろと言わんばかりに胸を張った。


「うむ! あまり叫ばないように頑張る!」

「頼むぜ、本当に……」

「あ、ユーミル殿の後ろに黒い影が」

「ひゃあああっ!!」

「っ……!」

「――む? あははははっ! 何だ、本当にただの影ではないか! これは何かの獣か?」


 四足歩行の獣の姿をした黒い塊が、唸りを上げて襲いかかってくる。

 ユーミルがカウンター気味に無造作に長剣で振り払うと、獣は倒れて霧散した。

 まだ敵が弱いのは当然として……俺は跳ねる心臓を抑えながら、若干恨みの籠った視線をユーミルに向ける。


「お前ね……」

「あ、す、すまない! つい!」

「いや、いいよ……お前がオーバーリアクションなのは今に始まったことじゃないし。多分、俺が慣れたほうが早いんだろう」

「その分、戦闘では役に立つぞ! 私に任せろ!」

「そうかい。じゃあ、一番前で敵を警戒しながら進んでくれ。とりあえず10階層まで行ったら休憩だ」

「分かった!」


 もう仕方ないので、陣頭で警報装置のごとく騒いでもらうことにしよう。

 ユーミルが大声を出せば、敵が来たかどうか分かりやすいし。

 動き出したパーティに続いて自分も歩き始めると、フィリアちゃんがぐいぐいと袖を引いてくる。


「ハインド……呼吸を深くして、体の力を抜く……それを保てれば、大抵のことには驚かなくて済む……」

「あ、ありがとうフィリアちゃん。できるかどうかはともかく、やってみるよ」

「それが普段からできる人は、何らかの達人だと思うのでござるが……」

「まぁな。頭では分かっていても、難しいよなぁ……」


 そんな助言をしてくれたフィリアちゃんの方はというと……。

 これがまた程よく力の抜けた、良い立ち姿なんだよな。

 説得力抜群である。

 俺たちの声が聞こえたのか、新たに現れた『シャドウアニマル』という影のモンスターを片付けたユーミルが振り返った。


「ハインド、ハインド! 今更なんだが……重戦士の均等型バランスタイプというのは、攻撃型アタックタイプとはどう違うのだ?」

「どうしたよ? 唐突にそんなことを気にして」

「こうして折角一緒にパーティを組んでいるのだから、知っておいた方がいいと思ったのだ! 今後の連携のためにも!」

「そういうのは今じゃなくて、出発直後に訊いてくれたら一番だったんだけど……」

「むー!」

「むくれんな。ちゃんと説明するから」


 重戦士のタイプ別の性能か。

 基本的には、騎士のタイプ分けに似ている部分があるのだが……。


「アルベルトさん。ズバリ攻撃型アタックタイプの特徴は何でしょうか?」

「チャージスキルと防御を犠牲にした自己バフだな。加えて、対地の範囲攻撃が強力だ。単発ヒットが多く、職の名の通り一撃が重いタイプと言えるだろう」

「ありがとうございます。フィリアちゃん、均等型バランスタイプの特徴は?」

「……デメリットのない自己バフ……そこそこのヒット数のスキル……攻撃型アタックタイプより安定感のある、マイルド仕様……」

「ありがとう。フィリアちゃんのは騎士の均等型バランスタイプに近い、継戦能力が高いタイプだな。魔法攻撃こそないけれど、重戦士も騎士も二タイプの関係はほとんど同じだろう?」

「ふむふむ……なるほど。確かに!」


 どちらの均等型も、能力的に単体での完成度が高いのでソロプレイヤーに向いた職である。

 爆発力に関しては物足りないが、タイプ名の通り欠点の少ない優等生だ。

 話をしながらも、足を止めずに近接メンバーが交代でモンスターを瞬殺しながら進んで行く。

 ……序盤の戦闘では相変わらず俺のやることが何もないので、説明するのに丁度いいのかもしれない。


「折角だから、防御型ガードタイプについても……」

「聞く!」

防御型ガードタイプで拙者たちが会ったことがあるのは……ユキモリ殿くらいでござるなぁ」

「そうだな。まず、このタイプは基本の防御スキルに関しては一通り揃っている。それから大きな特徴として、自分のHPが減った状態で威力が上がる“起死回生”ってスキルが有名かな」

「何だそれは!? 思っていたよりも極端な……」

「だから、神官で支援型サポートタイプのキツネさんと重戦士で防御型ガードタイプのユキモリさんは相性がいいんだぞ。HPが減った状態をホーリーウォールでフォローしつつ、クイックで起死回生を二連発。このコンボは決まるとかなり強い」

「あ、それとHP1で生き残るスキルがあるでござるよな?」

「あるある。万死一生だろう? HPが減ってからが本番みたいな職業だから、防御型ガードタイプって名前の割には安定感に乏しいのが欠点か。あ、でもHPは全職で一番高いから、あくまでもこれは火力を出そうとした場合な」


 攻撃を欲張らなければ、ちゃんとタンクとして安定する。

 魔法攻撃に弱いのは変わらないので、相手を選ばないという意味では騎士の防御型ガードタイプに一歩譲るが。

 そういう意味でも『起死回生』は大事な差別化ポイントなので、これをしっかり使っていけるのが良い重戦士・防御型ガードタイプのプレイヤーということになる。

 それと軽戦士の回避型アヴォイドタイプに次いで漢字名のスキルが多い職業であり、ユキモリさんがこれを選択した理由の一つに挙げていた。

 到達した最初の階段を下りながら、話のまとめに入る。


「そんなタイプ分けだから、ユーミルが連携を意識するなら……」

「アルベルトのバーサーカーエッジ発動後のフォローだな? 単体攻撃はトビに向かうから……カウンター行動と、範囲攻撃を警戒!」

「そうなるな。逆に……」

「うむ。私が捨て身を使った時は助けてくれぇー! ということだな!?」

「大正解。よくできました」


 ユーミルらしからぬ的確な答えだ。

 正直、少し驚いた。

 こいつなりに、段々とゲームに関して理解を深めつつあるらしい。

 俺の返しに対して、ユーミルが満面の笑みを浮かべる。


「褒められた! で、あれば……折角だから、ついでに頭を撫でてくれてもいいのだぞ? ほらほら! もっと私を褒めるのだ! 褒め称えるのだ!」

「え? ……いや、え? あ、押すな! 危ない!」


 頭をぐいぐい押し付けてくるユーミルに追いかけられながら、俺は階段を速足で駆け下りた。

 後ろから響くトビの笑い声を聞きながら、ダンジョンの2階層へ。

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